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ヤヌスの鏡:18話(最終回)
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18話「輝ける合体」(最終回)

<出演>
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小沢裕美:杉浦幸

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小沢初江:初井言榮

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小沢一樹:前田吟、小沢みどり:小林哲子

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森村誠路:中条静夫

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河本達之:高橋悦史、河本美穂子:吉行和子

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小沢由紀子:杉浦幸(二役)

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大沼ユミ:杉浦幸

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長田直美:長山洋子、秋野理江:百瀬まなみ、戸塚京子:荒井玉青、後藤亮子:橋本薫子、竹中明夫:竹内力

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進東哲也:宮川一朗太、進東修一:蟹江敬三

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東涼子:大沢逸美、河本達郎:風見慎吾

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遠藤浩一:石橋正次、中山充郎:大石吾朗、磯村治美:小出綾女、須長義男:長谷川恒之

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阿部純子:河合その子

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杏子ママ:中村晃子

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栗田圭子:賀来千香子

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堤邦彦:山下真司

<ストーリー>
『裕美の祖母・小沢初江が急病で倒れ病院に運ばれるという事態が発生した。
邦彦の保護監督下に置かれ大自然の中で生気を取り戻した裕美は、
同時にユミとしての魔性も蘇らせていた。
山の別荘から姿をくらましたユミは初江の入院する病院に忽然と姿を現していたのである』

深夜、裕美のもう1つの人格・大沼ユミ(杉浦幸)は、
看護婦に変装して裕美の祖母・小沢初江(初井言榮)の入院する病室に忍び込んだ。
病床の初江は、こんこんと眠り続けていた。
ユミはナイフを突き付けて初江を揺り起こした。
初江が目を覚ますと、ユミは初江を脅迫した。
「あたしはユミだ。ユミがお前に用があってやって来たんだ。
あたしは外国に飛ぶつもりさ。
お前にその費用を出して貰おうと思ってね。
嫌だとは言わせないよ。
あたしはお前の弱みを握ってるんだ。
裕美はドジな女だから気付いちゃいないが、あたしは知ってるんだ。
裕美の母親を殺したのはお前だろう?」
初江がギョッと驚くと、突然病室のライトが点灯した。
裕美の担任教師・堤邦彦(山下真司)が立っていた。
裕美が山荘から抜け出したのに気付いて追い掛けて来たのだ。
ユミは捨て台詞を残して病室から逃げ出した。
「ババア、あたしはもう一度必ず戻って来る。金を用意して待っているんだ。
そうしないと、あたしはお前の秘密を裕美にバラしてしまうからね」

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ユミが病棟の外に駈け出してくると、
バイクに乗った野獣会会長・東涼子(大沢逸美)がその前に乗り付けた。
「ユミ、乗りな」
それを受けてユミが飛び乗ると、
涼子は夜の闇へとバイクを疾走させた。
そして、暫く走ったところでバイクを停車させ、改めて後部座席を確認した。
そこに居たのは、ユミとは似て非なる別人だった。
「お前は裕美?!」
ユミは、いつの間にか女子高生・小沢裕美(杉浦幸)に戻っていた。
ユミとケリをつけるためにここ迄連れ出したはいいものの、
これではどうにもならない。
涼子は仕方なく、裕美がまたユミになるまで待つことにした。
裕美は山荘に帰りたがったが、涼子はそれを許さなかった。

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涼子は裕美を連れて、ショッピングモールの踊り場にやって来た。
そこからは夜景がよく見える。
涼子は夜景を眺めながら裕美に語り掛けた。
「裕美、あたしとお前は生まれてすぐに捨てられた赤ん坊だったね。
あたしは東京駅のコインロッカーの中に捨てられていたんだ。
親を知る手がかりなんて何も残ってなかった。
あたしの親はこの街さ。
このネオンの海があたしの生まれ故郷なんだ。
あたしは祝福されることもなく産まれた赤ん坊、
憎しみの中から産まれた赤ん坊なんだ。
そのあたしがたった一度ファミリーを感じたのがユミだった。
それなのにユミはあたしを裏切った。
これが許せると思うかい?」
涼子は、どうしてもユミを打ちのめすと言って聞かなかった。
裕美は涼子に申し出た。
「涼子さん、お願いがあります。
私、お婆ちゃまに会って尋ねなければならないことがあるのです。
私がユミになる前にその時間を頂けませんか?
お婆ちゃまと会って話をしたら、必ずあなたのところに戻って来ます」
裕美の目は真剣だ。
嘘を付いている目ではなかった。
涼子は、その場に立ち会うことを条件に裕美の申し出を受け入れた。

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その頃、杏子ママ(中村晃子)のバーでは、
裕美の弟・河本達郎(風見慎吾)と裕美の同級生・進東哲也(宮川一朗太)が酒を飲んで踊り狂っていた。
二人は妙に意気投合していた。
達郎はユミに失恋し、進東は裕美に失恋していた。
同じ傷心を抱えた二人なので、話しているうちに妙に馬があったのだ。
二人の意を汲んで、杏子ママは何も言わずに酒を用意するのだった。

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こうして波乱の一夜が明けた。
翌早朝、小沢邸に裕美の関係者一同が集められた。
祖母・初江、養父・一樹(前田吟)、養母・みどり(小林哲子)、
裕美の弟・達郎(風見慎吾)、その父・河本達之(高橋悦史)、母・美穂子(吉行和子)、
それに堤と森村校長(中条静夫)の面々だった。
一同は、裕美によってこの邸に呼付けられたのだ。
入院中だった初江は見るからに衰弱した様子で、
息子夫婦に抱えられて漸く歩ける状態だった。
一同によって仏間に寝床が設けられ、初江はそこに寝かし付けられた。
準備が整うと、涼子に付き添われた裕美が仏間に入って来た。
「御心配をお掛けしました」
裕美はそう言って一同に頭を下げると、身を起こした初江に向き直った。
裕美は、初江にこれ迄の経緯を説明した。
自分が自分から消えていくという経験を何度も繰り返したこと。
意識が飛んでいる間に、自分が大沼ユミという別人になっていたこと。
ユミになった自分が数々の犯罪に手を染めてきたこと。
ユミがどうしてそんなに暴れ回るのかその理由が知りたいこと。
裕美は続けた。
「私考えました。
まず真っ先に浮かぶのは、私がお婆ちゃまに受けた折檻でした。
折檻の中でも特に辛かったのは、
私の産みの母に対する憎しみの言葉を浴びせられた時でした。
母を罵られると、私の体は痺れて感覚がなくなっていました。
母の淫らな血が私にも流れていると思うと、
それだけで私は生きていく勇気を失いました。
人を愛することも、愛されることも出来ないんだと思って、
何度泣き明かしたか判りません。
私の母の姿を、ありのまま話して下さい」
孫娘の訴えを受けて、初江は枯れた声を懸命に絞り出して話を始めた。

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初江は、裕美の産みの母・由紀子(杉浦幸・二役)をとても大切にしていた。
世界に誇る一流の女性にしたいと、幼少期から英才教育を施してきた。
そんな中、未だ女子高生だった由紀子の妊娠が発覚した。
親心を踏み躙られたと感じた初江は、由紀子を叱り飛ばした。
「この子は、この子は。
何処の馬の骨とも判らぬ不良の子など身籠りおって。
恥を知りなさい、恥を。
いいですか、由紀子。
お母様は決してその子を産むことは許しません。
許すものですか」
初江がどんなに反対しても、由紀子の決意は崩れなかった。
愛する人の子を産みたい。
どうしても産みたい。
その一心だった。
由紀子は家を飛び出し、一人赤子を産み落とした。
それが裕美だった。
何とか出産には漕ぎ着けたが、だからと言って頼れる人がいる訳でもない。
親には勘当され、恋人にも逃げられてしまった。
由紀子は、緑児を抱いて夜の街を彷徨うしかなかった。
この噂を耳にした初江は、手をつくして由紀子を探し出した。
初江が対面に行くと、由紀子は赤子を見せて母に訴えた。
「お母様、女の子が産まれました。
この子を見れば、きっとあの人は戻ってくれる筈です。
だって…だって、こんなに可愛い赤ちゃんなんですもの」
この期に及んで、由紀子は未だ河本に夢を見ていた。
呆れ果てた初江は、由紀子を詰った。
「ああ、汚らわしい。
その子は罪の子です。
そんな子を小沢家の孫と認められるものか。
死になさい。
その子と一緒に死になさい、この面汚し。
罪の子を産んだお前に生きる資格などあるものか。
死になさい。
その子と共に死んでおしまい!」
由紀子はショックだった。
我が子を宝だと思っていた。
なのに、母にここまで強い嫌悪感を露わにされるとは思ってもみなかった。
全てを否定された由紀子に、もはや生きる気力は湧いて来なかった。
由紀子は、書置を残して入水自殺した。
「お母様、赤ちゃんだけは助けてください」

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由紀子の死の真相を告白した初江は、裕美の手を取った。
「裕美、あなたのお母様の由紀子は人を愛することに直向な純真な女でした。
このお婆ちゃまが小沢家の名誉や体面に拘り、あなたのお母様の由紀子を殺してしまったのです。
許しておくれ、裕美。
お婆ちゃまは由紀子への憎しみをあなたにぶつけていたのですね。
もう少しでお婆ちゃまは、あなたを由紀子と同じ運命に追い込むところでした。
許して下さい」
ここまで話したところで、初江は発作を起こして苦しみだした。
「死にたくない…生きたい…生きていたい」
断末魔の悲鳴を上げ、藻掻き苦しんだ末に初江はガクリと事切れてしまった。
祖母の死を目の当たりにした裕美は、泣きながら部屋を飛び出して行った。

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涼子と堤は、裕美を追い掛けて行った。
暫く走ったところで、裕美が立ち止まって後ろを振り向いた。
またしても、裕美はユミになっていた。
「涼子、お望み通り決着を付けてやろうじゃないか。来な」
ユミがそう言い放つと、涼子も受けて立とうとナイフを抜いた。
「裏切り者は許さない」
涼子はユミに斬り掛かった。
まだまだ動きの鈍いユミは、切っ先を交わし損ねて腕に傷を負った。
その瞬間、激痛が走った。
痛みを感じない筈のユミの体に、異変が起きていた。
涼子が再度斬り掛かると、ユミは今度は交わして涼子からナイフをもぎ取った。

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続いて、ユミは成り行きを見守っていた堤に向き直った。
「堤、あたしが生きることを邪魔する奴はぶち殺す」
ユミはナイフを構えて堤に突進した。
あわやというところで、ユミの切っ先が突然停止した。
「ユミ、どうしたんだ?ナイフを突き出さないのか?」
堤が問掛けると、ユミは泣きながら答えた。
「突いたら先公が死んじまうじゃないか。
死んじまったら先公に会えなくなっちまうじゃないか。
先公の説教が聞けなくなっちまうよ」
ユミの手からナイフが落ちた。
表情が次第に崩れていった。
射るような視線が消え失せ、顔つきが裕美に戻っていった。
そんな裕美を、堤は力一杯抱き締めた。
「小沢、お前は自分の意思でユミであることを止めることが出来たんだ」

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堤と裕美の抱擁を見届けた涼子は、何か吹っ切れた様子で呟いた。
「ユミは永遠に消えちまったようだね。あたしの敵が消えたんだ。今度はあたしがこの街から姿を消す番さ」
立ち去ろうとした涼子に、駆け付けた達郎が声を掛けた。
「会長さん、何処へ?」
涼子は、達郎に晴れやかな笑顔を残して去っていった。
「北風に聞いて欲しいね」

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こうして大沼ユミは永遠に姿を消した。
裕美は元の平凡な女子高生に戻った。
学校に登校すれば、笑顔の級友たちが迎えてくれる。
堤の復職も間近に違いない。
裕美はそう期待していた。
復職の時期がいつになるのか、裕美は校長・森村誠路(中条静夫)に尋ねた。
森村校長は、堤は九州の高校に赴任することになったと言って手紙を差し出した。
堤が裕美に宛てた手紙だった。

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「君がこの手紙に目を通す頃、私は九州に向う列車の中にいるだろう。
君と別れることは身を切られるように辛いことだ。
だが、先生は敢えて君と別れることを選んだ。
それはな、小沢。
先生は小沢に17歳の青春を丸ごと返してあげたいと思っているからだ。
17歳の君には、17歳の出会いが必要だ。
その出会いが青く未熟でそれ故にこそ傷付くことが多いとしても、
それもまた君が引き受けなければならない17歳の世界ではないだろうか。
君は昼と夜との二つの世界の中で、様々な出会いと別れを知った筈だ。
その出会いと別れも、また深く心に刻みつけて欲しい。
彼たちも、彼女たちもまた、君と同じようにたくさんの自由を求め、
魂を熱く熱く焦がすことを求め、それが故に深く深く傷付いた戦士たちなんだ。
人間に絶望するよりも信頼することだ。
絶望は何も生み出さないが、信頼は君自身の生きる勇気になるだろう。
自由の戦士の苦悩と喜びを知ったことこそ、君にとって何よりも代えがたい貴重な経験になるだろう。
君はそれら全てを君の想像力の翼として、新しい出会いを求めて欲しい。
いつか、君に相応しい出会いが得られるまで賢い目と優しい心を持って多くの人間と出会って欲しい。
君は今、裕美の心とユミの心を重ね合せて新しく生まれ変わった。
先生は、生まれ変わった君の人間としての力を信じている。
人間としての力とは、この世の悲しみを全て引き受けて尚且つ健やかな笑顔と共に生き続けていくことだ。
小沢、さようなら。
先生は小沢に会えたことを感謝している。
さようなら」

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『1986年4月16日、小沢裕美17才、君の人生はまだ始まったばかりだ』

ドラマ ヤヌスの鏡(第18話) [サンテレビ] 2013年11月20日 15時00時00秒(水曜日)

<主題歌:椎名恵>

テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

ヤヌスの鏡:17話
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17話「私の敵は祖母」

<出演>
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小沢裕美:杉浦幸

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堤邦彦:山下真司

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小沢初江:初井言榮

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小沢みどり:小林哲子、小沢一樹:前田吟

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水野医師:中島久之

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森村誠路:中条静夫

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進東修一:蟹江敬三

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杏子ママ:中村晃子

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幼少期の裕美:近藤花恵

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栗田圭子:賀来千香子

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河本達郎:風見慎吾

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東涼子:大沢逸美

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河本達之:高橋悦史(詰襟)

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小沢由紀子:杉浦幸(二役)

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進東哲也:宮川一朗太

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大沼ユミ:杉浦幸

<ストーリー>
『警察病院の係官から裕美の精神が極めて危険な状態にあると報せを受けた邦彦と達郎は、
不安に胸を痛めつつ病院に駆け付けた。
専門の精神科医の治療を受け、心の謎に取り組んでいると思われる裕美の身に一体何が起こったのであろうか?』

入院中の女子高生・小沢裕美(杉浦幸)の急を聞いて、
担任教師・堤邦彦(山下真司)、弟・河本達郎(風見慎吾)を始め、
祖母・初江(初井言榮)、養父・一樹(前田吟)、養母・みどり(小林哲子)ら親族が病院に駆け付けた。
裕美の主治医・水野(中島久之)は、一同を前に説明を始めた。
入院後の裕美は、進んで治療を受けていた。
面接を重ねて、経過は良好のように思われた。
しかし、水野医師が実母・由紀子(杉浦幸)のことを尋ねると、
突如として裕美は心を閉ざした。
その後は何を聞いても裕美は受け付けず、
今では日常会話もままならない放心状態に陥っているという。
水野医師は、一同を裕美の病室に案内した。
裕美は虚ろな表情で何事か呟きながらベッドに座り込んでいた。
耳を澄ますと、何を言っているかが聞き取れた。
「堤先生…堤…」
病室の壁には、食器用具で「堤邦彦」と文字が刻んであった。
裕美は堤のことで頭を一杯にしてるのだ。
そうして、今にも壊れそうな自分の心を何とか繋ぎ留めているのだ。
食事ですらまともに摂らないので、肉体的にも衰弱状態に陥っていた。
こうなると、水野医師にも治療の施しようがなかった。
一同で話し合った結果、裕美の身柄は当分堤が預かることになった。
裕美が唯一心を開く堤の元に置けば、事態は打開できるかもしれない。

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『数日後、家庭裁判所の決断によって小沢裕美は堤邦彦の保護監督下に置かれることになり、
爛漫の春に背を向けるようにして何処へともなく立って行ったのである』

堤は知合いから山荘を借り受け、裕美を連れて行った。
周囲に文明の影はない。
あるのは森林と、渓流と、山道だけだ。
夜になれば街灯も何もないので真っ暗になる。
見上げれば、満天の星空が視界を覆う。
聞こえるのは、鳥の音、虫の音、せせらぎの音だけだ。
裕美と堤は、当分ここで二人暮しをすることになる。

『人口の音と光が一切途絶えた大自然の中、
暗闇の中での熟睡と土の上を裸足で歩くという極めて原始的な運動が、
裕美の肉体を驚嘆すべきスピードで回復させていた』

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山荘暮らしによって、裕美は次第に平静を取り戻していった。
堤は静かに見守り続けた。
日常会話が復活し、体力もみるみる回復している。
頃合いを見計らって、堤は裕美に本題を切り出した。
この話合いの目的は一つ。
裕美が何故大沼ユミになってしまうのか、その謎を解き明かすことにあった。
まず、大沼ユミのことをどう思っているのか堤は裕美に尋ねてみた。
裕美は「大嫌いです」と答えた。
「それだけか?」と堤は重ねて尋ねた。
裕美は自分の胸に訊いてみた。
ただ嫌いな訳じゃない。
本音は、ちょっぴり羨ましい。
いや、本当は自由奔放なユミが凄く羨ましい。
裕美はずっと何かに抑圧されて来た。
自由になりたい。
大暴れしたい。
思ったことを口に出したい。
いつも心の何処かで募らせて来た。

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裕美が自分の心に向き合っていると、
堤はその原因が何処にあるのか考えて見るよう裕美に促した。
裕美は自分でも判っていた。
原因は、幼少期にある。
物心付いた頃から、祖母によって厳しく躾けられて来た。
間違ったり怠けたりすると、容赦無い叱責と折檻が待っていた。
いつでも何処でも祖母の目が光っている。
息苦しい重圧を感じながら、裕美はずっといい子を演じてきた。
逃げ出したい気持ちで一杯だった。

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そんな中、裕美は自分の体に異変が起きていることに気が付いた。
時々意識が飛んでいる。
いつの間にか、自分が知らない場所にいる。
何をしていたのか全然覚えていない。
そんなことが頻繁に起きるようになっていた。
意識が飛ぶ切掛は3つある。
打たれること、鼻を突くニオイ、硝子や陶器が割れる音、
どれも祖母の折檻を連想させるものだ。
裕美は幼少期から祖母に警策で打たれ、
お香の立ち込める仏間で説教を受け、
何かの拍子で器を割ると厳しく叱責されて来た。
折檻の時、祖母は決まって母親を引き合いに出した。
「裕美、お前には母親の淫らな血が流れているのです。
お婆ちゃまの諫めにも耳を貸さず、平気で街の不良共と交際し、
挙句の果てにはその不良の子を宿すような淫らな血が流れているのです。
お前は母親を真似て淫らな女になりたいのか?」
祖母の声が今でも頭の中にこだまする。

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堤が母親の事を話すよう促すと、裕美は激しく抵抗した。
「私、母のことを話すのは嫌です。
それだけは許してください。
先生が…先生が私を嫌いになります。
嫌いになるから嫌なんです。
だって…だって先生に嫌われたら、私もう生きていけません」
裕美の心理的負担がピークに達していた。
これ以上は無理と見た堤は、そこで質問を打ち切った。

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後日、山荘に裕美の弟・河本達郎(風見慎吾)とその父・河本達之(高橋悦史)が訪ねて来た。
裕美が心配になって様子を見に来たのだ。
応対に出た堤は、裕美の経過は順調であることを報告した。
裕美は毎日20キロの速歩を続けて体を鍛えているという。
丁度今も出掛けていると聞かされた達郎は、
早く裕美に会いたいと山荘を飛び出して行った。

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達郎が暫く山道を探していると、渓流から裕美の悲鳴が聞こえてきた。
慌てて悲鳴の場所へ走ってゆくと、
裕美が野獣会会長・東涼子(大沢逸美)に鎖で締め上げられているのが目に入った。
涼子は自分を裏切ったユミに復讐するために、こんな山の中まで追い掛けて来たのだ。
涼子の絶叫がこだまする。
「今日という今日は逃さないよ。早くユミになってあたしと勝負しな。
ユミになれ。ユミになってあたしと闘え」
裕美は抵抗した。
「嫌です。私はもうユミにはなりません。絶対ユミにはなりません」
達郎が助けに行くと、裕美は鎖を振り解いて逃げ出した。

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命辛がら山荘に辿り着いた時、裕美はまたしても大沼ユミ(杉浦幸)になっていた。
ユミは堤に皿を投げ付けると、大暴れを始めた。
「あたしを閉じ込めるな。先公、お前はあたしを窒息させる。死ね」
ユミは堤を投げ飛ばした。
堤は受け身を取って立ち上がり、ユミの前に立ち塞がった。
ユミがまた投げ飛ばしても、堤は何度でも受け身を取って立ち上がった。
「ユミ、息が上がってるぞ。そんなことで私を倒せるのか?」
療養生活で回復したとはいえ、ユミの体力は万全ではない。
堤が乱取りを仕掛けると、ユミは完全に息切れしてしまった。
堤はユミの関節を極めて問い詰めた。
「ユミ、皿を割った気分はどうだ?
この世のもので不滅のものは何一つないんだ。
生き物も物も必ず滅びる時が来る。
人間の命も同じだ。
命には限りがあるぞ。
一度滅びたものは、もう二度と元に戻ることはないんだ。
命に限りがあるから、大切に守らなければならないんだ。
人間の命も、物も同じだ」
ユミは抵抗を止めない。。
「畜生!放せ!あたしを放せ!」
その瞬間、ユミの関節が更に締め上げられた。
悲鳴を上げるユミに、堤が怒鳴り付けた。
「未だ分からんのか!この痛みはお前に割られた皿の痛みだ!」
とうとうユミは絞め落とされてしまった。

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暫くして、ユミは裕美になって目を覚ました。
裕美の父・河本は傍らからずっとこの様子を見守っていた。
裕美は懸命に足掻いている。
自分のもう1つの人格と闘っている。
心打たれた河本は、裕美を前にとうとう認めた。
「裕美は、私の娘だ」
裕美の頬を涙が伝った。
「お父さん…ありがとう。
でも、一つだけ教えて。
あなたは、お母さんをどうして捨てたりしたの?」
裕美に問掛けられた河本は、裕美の母・由紀子(杉浦幸・二役)との馴れ初めについて打ち明けた。
学生時代、河本は由紀子と真剣に愛し合っていた。
決していい加減な気持ちで付き合っていた訳ではない。
本気で結婚を決断した河本は、両親を伴って由紀子の実家へ挨拶に行った。
応対に出た由紀子の母・初江は、河本を悪し様に罵った。
「由紀子を嫁に欲しいですと?
財産目当ての野良犬に、小沢家の大切な一人娘を嫁にやって溜まるものですか。
厚かましいにも程がある」
未だ若く自尊心の高かった河本は、これを受け流すことなど出来なかった。
「財産目当ての野良犬?ふざけるな!」
啖呵を切って小沢家を飛び出し、金輪際由紀子になど会うものかと心に決めた。
その後由紀子が自殺したと聞いても、娘の存在を認めることが出来なかった。
意地を張り続けて、年月だけが経っていたのだった。
「許して欲しい。今の私にはこれしか言えない」

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その夜、裕美は祖母の夢を見た。
夢の中の祖母は、いつものように裕美を叱り飛ばした。
「裕美、お前には由紀子の淫らな血が流れているのです。淫らな血が!」
このショックで再び裕美の中のユミが目覚めた。
ユミになった裕美は、堤を出し抜いて山荘を飛び出した。

山荘を出たユミが最初に向ったのは、
生徒会長・進東哲也(宮川一朗太)の家だった。
ユミは進東の部屋に上がり込むと、
飾られていた絵に火を付けて次々庭に放り出した。
どれも裕美を描いた絵だ。
進東が唖然と見守る中、ユミは進東に言い放った。
「哲也、昔のものなどみんなみんな燃やしてしまうんだ。
胸の中に閉じ込めた青春の恨み、みんな炎と燃やせばいい」
こう言い捨てて、ユミは夜の闇に消えて行った。
ユミは裕美が生んだもう1つの人格だ。
抑圧を嫌い、自由を求めている。
進東もまた、父子家庭で抑圧されながら育ち、自由への捌け口を求めて来た。
自分の思いをどうしていいか判らぬ進東は、
人形のように裕美を愛していると思い込むことで自分を誤魔化してきた。
裕美の絵は、その象徴なのだ。
庭で燃え盛る絵の数々を見つめていると、進東は不思議な開放感を覚えるのだった。

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続いてユミが向ったのは、小沢邸であった。
中は蛻の殻だった。
ここ暫くの心労が祟ったのか、初江が倒れて救急車で病院に担ぎ込まれていたのだ。
ユミは誰も居ない仏間に忍び込むと、香壺を叩き割った。

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深夜、初江が入院した病棟に看護婦に変装したユミが現れた。
初江の病室を見付けると、ユミは静かに扉を開けた。

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『邦彦の祈りも虚しく、ユミは前よりも一層激しく救いようのない孤独と残酷さを併せ持つ恐るべき魔少女として復活した。
果たしてユミと裕美の明日に待つものは破滅か救済か』

ドラマ ヤヌスの鏡(第17話) [サンテレビ] 2013年11月19日 15時00時00秒(火曜日)

<蟹江敬三:関連作品>

テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

ヤヌスの鏡:16話
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16話「私が勝ったと叫ぶ魔少女」

<出演>
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小沢裕美:杉浦幸

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河本達郎:風見慎吾

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河本達之:高橋悦史

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河本美穂子:吉行和子

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殺し屋:

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大沼ユミ:杉浦幸

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杏子ママ:中村晃子

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進東修一:蟹江敬三、進東哲也:宮川一朗太

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戸塚京子:荒井玉青、長田直美:長山洋子、竹中明夫:竹内力、秋野理江:百瀬まなみ

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後藤亮子:橋本薫子、阿部純子:河合その子

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婦警:南陽子

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幼少期の裕美:近藤花恵

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堤邦彦:山下真司

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東涼子:大沢逸美

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小沢初江:初井言榮

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小沢一樹:前田吟

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小沢みどり:小林哲子

<ストーリー>
『宝石強盗の主犯として手配された裕美は、河本によって海辺のマンションに連れて来られたが、
悲しいかな河本のその行為は娘を思う父親の心情からなされたものではなく、
大人の醜い打算であったのである』

宝石店社長・河本達之(高橋悦史)は、
マンションの一室に女子高生・小沢裕美(杉浦幸)を監禁しようとしていた。
逃げ出そうとする裕美を河本が無理に押さえ付けていると、
突然隣りの部屋から河本の息子・達郎(風見慎吾)が入って来た。
驚いた河本が、達郎に尋ねた。
「達郎、お前何故ここに?」
このマンションは河本の隠れ家であると同時に、
達郎にとっても家出をした時のための避難所であった。
達郎は裕美を堤に引き渡した後、ここで休息を取っていたのだ。
「親父、俺の方が尋ねたいね。
何故姉さんをここに連れて来た?
姉さんをどうするつもりなんだよ?」
こう問われた河本が口籠るのを見て、達郎は察した。
「そうか、あんた姉さんが警察に逮捕されてあんたとの関係を話すのを恐れて、それでここに…」
図星を言い当てられて河本は俯いた。
達郎が裕美を連れて部屋から出て行こうとすると、
今度は河本の妻・美穂子(吉行和子)が、強面の男たちを従えて部屋に乗り込んで来た。
美穂子も河本がここを隠れ家にしているのを知っていたのだ。
「やっぱりあたしの思った通りね。
達郎とグルになって、小沢裕美を何処かへ逃すつもりだったのね?
そんな勝手な真似はさせるもんですか」
裕美を見ると、美穂子はハンドバッグで殴り付けた。
「この子はあたしの家族をメチャメチャにした。
それだけでも許せないのに、あたしの顔に傷を付けた。
許せるもんですか!許せるもんですか!」
達郎と河本が止めに入ると、男たちが二人を羽交い締めにした。
達郎は美穂子と河本に叫んだ。
「その人は俺の姉さんなんだよ。親父の娘なんだよ。
親父、いい機会だ。本当のことをお袋に喋ってくれよ。
小沢裕美は親父の娘だと喋ったらどうだ」
息子の懸命の訴えにも、河本は耳を貸そうとしなかった。
「馬鹿げたデマだ」
河本はこの期に及んでも裕美が娘だと認めようとしない。
達郎がなおも噛み付こうとすると、美穂子が怒鳴り付けた。
「達郎さん、生意気なことを言うもんじゃありません。
お父様が小沢さんは自分の娘ではないと否定しているのです。
それでいいではありませんか」
美穂子は急に冷静になると、河本を睨み付けて微笑んだ。
「それでいいですわね、あなた」
美穂子と河本の間で密約が交わされた瞬間だった。
隠し子の存在を隠蔽して事態を収集する。
これで手打ちなのだ。
河本が裕美の処分について尋ねると、美穂子はあっけらかんと言い放った。
「当分ここに閉じ込めておきましょう」
美穂子は河本に退室を促し、男たちには裕美の監視を命じた。
達郎は、俺はここに残ると言って美穂子と河本に背を向けた。
こんな状況で、裕美を見捨てられる訳がない。
河本の去り際、裕美は涙ぐんで呟いた。
「お父さん、18年前あなたはこんな風にして私の母を捨てたんですね」

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裕美と達郎は、男たちの監視する中マンション一室に取り残された。
河本と美穂子が立ち去ると、男たちは裕美に詰め寄った。
「クイズの時間だ。
お嬢さん、あんたの運命に関わる大事なクイズだ。
よく聞いてくれ。問題は3択だ。
1、海の底に眠る。
2、外国に売られる。
3、過去の記憶が無くなる程殴られる。
お嬢さん、この3つのうちからあんた好きなの選んでくれ」
達郎が割って入った。
「ふざけんなよ、そんなクイズがあるかよ」
途端に男の蹴りが腹に入って、達郎は蹲った。
「問題の作成者はあんたのお袋さんだ。
達郎君、君に答える権利はないんだよ。
黙って見ていてくれたまえ」
男たちは、代わり番こに裕美を突き飛ばして面白がった。
「さあ、お嬢さん。答えるんだ」
裕美の頬に張り手が飛んだ。
嬲り殺しにされる。
恐怖で頭が一杯になった瞬間、裕美のもう1つの人格・大沼ユミ(杉浦幸)が目覚めた。
ユミになった裕美は、突如としてバック転を切って身を翻すと男たちの前に立ち塞がった。
「タッチン、腕の折れる音を聞かせてあげるよ。
目を覚ましな」
言うが早いか、ユミは男たちに次々飛び掛って投げ飛ばしていった。
そして、約束通り最後の男を捻じ伏せて腕をへし折ってしまうのだった。

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こうして、ユミと達郎はマンション脱出に成功した。
クルーザーに飛び乗ると、二人は一路東京を目指した。
「このまま東京湾に殴り込みだ」
ユミと達郎は、常連にしている杏子ママ(中村晃子)のバーに辿り着き、
ウサを晴らそうと踊り狂った。
二人が踊り明かしている間に、杏子ママは裕美の担任教師・堤邦彦(山下真司)に連絡を取った。
通報を受けた堤は、慌ててバーに駆け付けた。
バーの店内には、既に刑事が張り込んでいる。
ユミが捕まるのは時間の問題だ。
堤はユミに歩み寄って説得を始めた。
「ユミ、僕と自首してくれ」
達郎も堤に同意した。
「ユミさん、お願いだ。裕美姉さんのためにも自首してくれ」
それを聞くと、ユミは「この裏切り者」と言って達郎を張り飛ばした。
「タッチン、あたし達は誰かのために何かをするなんてかったるいことは嫌いだった筈だよ。
誰かのために体を縛って溜まるかよ。自分を犠牲にして溜まるかよ」
ユミの周囲を、いつの間にか刑事が取り囲んでいた。
「大沼ユミこと小沢裕美、このビルは包囲されている。抵抗は止めて逮捕されたまえ」
ユミは刑事を睨み付けて啖呵を切った。
「やかましい!刑事の命令通り生きていたら魂が枯れちまうよ。
逮捕される位なら死んだほうがマシだ」
取り押さえようとする刑事たちを次々投げ飛ばすと、
ユミは非常階段を駆け下りていった。
「あたし1人に大の男が何人掛る気だ。汚えぞ手前ら」
道路に出ても、周り中から刑事が飛び出してくる。
「捕まって溜まるか。手錠なんて掛けられて溜まるか」
ユミは暴れに暴れて刑事たちに抵抗した。
そんなユミを、堤が抱き着いて取り押さえた。
ユミの動きが止まると、刑事たちはすぐさま手錠を掛けて連行していった。

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大捕り物の一夜が明けた。
ユミは裕美となっていた。
大人しくなった裕美に、進東警部(蟹江敬三)は厳しく取調を始めた。
裕美は正直に話した。
記憶を失っている間に何をしていたのか覚えていないことを。
それで進東警部が納得する筈もなかった。
「猫を被るのもいい加減にしろ」
進東警部は、裕美に防犯カメラの映像を突き付けた。
「お前が街の中でどんな事をしたか、忘れたとは言わさんぞ」
モニターの中では、ユミになった裕美が警官や不良を相手に大立ち回りを演じている。
裕美が思わず顔を背けると、進東警部は顔を抑えて怒鳴り付けた。
「お前が大沼ユミとしてどんな残酷な暴力を振るったか、よく見るんだ!」
裕美の前に、ユミのやらかした犯罪の数々が並べられた。
河本を階段から転落させ、宝石店を襲った世紀の犯罪。
進東警部は裕美を追求した。
「小沢、河本氏を恨む動機は何だ?
お前は何故河本氏を憎み、復讐しようとしているんだ?」
この質問の答えは既に調べが付いている。
裕美は自分を捨てた父である河本への復讐を企んだに違いない。
にも関わらず、裕美は河本への復讐を頑として否定した。
「私と河本さんは何の関係もありません」
進東警部は、裕美の両肩を揺すって怒鳴り続けた。
「何故庇う?お前を捨てた非情な父を何故庇う必要があるんだ?
河本はお前を捨てた男なんだぞ!
お前の母を捨てた男なんだぞ!」

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激しく揺さぶられた裕美の脳裏に、過去の記憶が蘇った。
幼少期、祖母・初江(初井言榮)に言って聞かされた父の実像。
初江の声が、裕美の中で木霊した。
「お前の父は、お前の母を殺した冷酷な男だ。
恨んで、恨んで、恨み殺せ。
お前の父は、お前を捨てた薄情な男だ。
憎みなさい。
憎んで、憎んで、憎み殺せ」

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取調を遂えた裕美は、婦警に連れられて留置所に戻されようとしていた。
二人きりになった瞬間、裕美の中のユミが目覚めた。
ユミは突如として婦警に襲い掛かると、首を締め上げて気絶させた。
婦警をトイレの中に押し込め、ユミは制服を奪って身に付けた。
着替えてしまえばこっちのものだ。
廊下を歩いても誰も怪しまない。
ユミは擦れ違う警官に敬礼してやり過ごすと、大胆不敵にも正面玄関から外へ出て行った。
路地に入ったところで、ユミの前に車が停車した。
野獣会会長・東涼子(大沢逸美)の車だ。
「ユミ、ここはあたしが助けてやる。乗りな」
ユミが車に乗り込もうとすると、傍らから駆け寄って来た堤がユミの腕を引いた。
「ユミ、逃亡はさせない。署に戻るんだ」
腕を振り解こうとしても、堤はすぐに返し技でユミの関節を極めてしまう。
ユミは堤に毒づいた。
「先公、邪魔すんな。あたしの自由を縛る奴はぶち殺す」
抑え付けられたユミを見た涼子が加勢に入った。
堤は、涼子をあっさり投げ飛ばしてしまった。
怒ったユミが飛び掛るが、ユミも続けて投げ飛ばされてしまった。
全然敵わない。
ユミは悔しさ一杯に叫んだ。
「畜生!畜生!畜生!畜生!」
堤は暴れるユミを担ぎあげて警察署に連れ戻した。
騒ぎを知って駆け付けた進東警部は、取調とは別人と化したユミの姿に驚愕していた。

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『裕美の誓いも虚しく大沼ユミは火花が飛び散るように裕美から分離して勝手気侭に行動していた。
裕美からユミ、ユミから裕美に移行する度合いが頻繁になり、
当局は遂に大沼ユミこと小沢裕美を緊急に専門家の精神鑑定を受ける必要ありと判断し、
警察病院の精神科に入院させたのである』

数日後、堤の元に病院から電話が掛って来た。
至急来て欲しいという。
堤は、裕美を心配する達郎と共に病院に急行した。

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『精神鑑定を受けるために警察病院に入院した裕美に一体何が起こったのであろうか。
実は、裕美の人格は崩壊寸前の状況にあったのである
果たして邦彦は、裕美の心に生気を蘇らせることが出来るのであろうか』

ドラマ ヤヌスの鏡(第16話) [サンテレビ] 2013年11月18日 15時00時00秒(月曜日)

<長山洋子:関連作品>

テーマ:もう一度見たいドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

ヤヌスの鏡:15話
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15話「悪魔の棲む館」

<出演>
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大沼ユミ:杉浦幸

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小沢初江:初井言榮

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小沢みどり:小林哲子,小沢一樹:前田吟

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秋野理江:百瀬まなみ、戸塚京子:荒井玉青、長田直美:長山洋子、後藤亮子:橋本薫子、阿部純子:河合その子

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小沢裕美:杉浦幸

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東涼子:大沢逸美

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石原ヨシエ:石崎文也

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渡辺美樹:井上香(左)

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堤邦彦:山下真司

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栗田圭子:賀来千香子

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河本美穂子:吉行和子

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杏子ママ:中村晃子

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河本達之:高橋悦史

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河本達郎:風見慎吾

<ストーリー>
『夜の闇を走る魔少女・大沼ユミは、警察の包囲網を掻い潜り忽然として裕美の部屋に戻っていた。
その時から、小沢家は正に悪魔の棲む館となったのである』

孫娘が別人となって戻って来たのを目にして、
祖母・小沢初江(初井言榮)は泣き崩れた。
「お終いです。もう小沢家はお終いです。何てことを。御先祖様に申し訳がない」
嘆く初江を見て、大沼ユミ(杉浦幸)は冷たく言い放った。
「泣くのは止めな。ババアが泣けば足元から蛆が湧くって言うじゃないか。
どいつもこいつも辛気臭い面しちゃってさ。見ているだけで苛苛するよ」
この乱暴な口を聞いて、初江はユミを叱責した。
「お黙りなさい。お婆ちゃまに何ということを、無礼な。
許しません。お婆ちゃまが懲らしめてやる」
初江はユミの腕を取って捻り上げた。
すると、ユミは難なく技を解いて逆に初江の関節を極めてしまった。
「あたしにそんな技は通じないよ。
今夜からあたしがここの女王だ。
あんた達にはあたしの命令通り動いて貰うよ。
命令に従わない奴は、死ぬ程ぶちのめすからね。
お腹が空いたわ。夕食の用意をして頂戴。
肉が食べたいわ。ステーキ300g。何をぼさっとしてるのさ。さっさと支度しな!」

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命令通りステーキが用意されると、ユミはムシャムシャと齧り付いた。
食べ終ると、ユミは態と皿を床に落として初江に片付けるよう命じた。
初江は言われた通り割れた皿を片付けながら、ユミの隙を伺っていた。
必ず眠る時が来る。
眠り込んだら、縛り上げてワイン蔵に閉じ込めてやる。

『初江の企みを勘付いたユミは、決して眠るまいと覚悟をしていた。
それは、眠ることによって裕美に戻ることを恐れるユミの防衛本能であった』

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そんな中、野獣会会長・東涼子(大沢逸美)が鑑別所からの脱走に成功していた。
涼子の目的は一つ。
自分を裏切ったユミへの復讐だ。
手下と合流した涼子は、小沢家に密偵(石崎文也、井上香)を放ってその内情を探らせていた。

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一方、裕美の担任教師・堤邦彦(山下真司)は、
禄に睡眠も取らずに裕美の行方を捜し回っていた。
探しても探しても裕美は見付からない。
流石に体力の限界を迎えた堤は、とうとう疲れ切って倒れてしまった。
急を聞いて堤の自宅アパートに同僚教師・栗田圭子(賀来千香子)が駆け付け、
熱を出して魘される堤を看病した。

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こうして、小沢家にユミが籠城するようになって3日目が過ぎた。
ユミは丸3日眠らずに通した。
しかし、どんなに気を張っても人間である以上そこ迄が限界だった。
この日、食事を採った直後にユミは眠りこけてしまった。
ユミが眠ったのを確かめると、初江とみどりはユミを縛り上げてワイン貯蔵庫に放り込んだ。

『ユミが恐れたように、眠りから覚めればユミは裕美になっていた。
裕美は自分が大沼ユミとして逮捕されたことまでは覚えていた。
だが、その後自分がどうなり何処にいるのかも少しも覚えていないのであった』

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女子高生・小沢裕美(杉浦幸)は、ワイン蔵の中で意識を取り戻した。
状況が飲み込めずに戸惑う裕美の前に、
玉串と燭台を手にした初江とみどりが現れた。
初江は裕美に問掛けた。
「気が付いたようだね、裕美。少しも覚えていないのか?」
裕美が覚えていないと答えると、初江は続けた。
「あなたは大沼ユミとしてお婆ちゃまたちに暴力の限りを尽くしたのですよ。
悪霊の仕業です。
あなたの母親の由紀子の悪霊があなたに取り憑いて悪行を唆しているのです。
これから悪霊祓いを行います。
少々苦しくても辛抱するのですよ」
初江は裕美を正座させると、お祓いの儀式を始めた。
困った裕美が初江に訴えた。
「お婆ちゃま、止めて下さい。悪霊なんて関係ないんです。
私は大沼ユミとして罪を犯してしまいました。
私を自首させて下さい」
初江は聞く耳を持たずにお祓いの儀式を続けた。
「悪霊退散、悪霊退散、悪霊退散…」
裕美は玉串で何度も体を叩かれ、痛さの余りワイン棚にしがみついた。
その拍子で、ワインボトルが落下して床に砕け散った。
また始まる。
私がユミになる。
裕美は、何とか気を鎮めてユミの目覚めを阻止していた。

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その夜、涼子が小沢家に侵入した。
小沢家の周囲には刑事が張り込んでいる。
涼子は予め手下を使って刑事の気を引き、
その隙を突いて包囲網を掻い潜ったのだった。
涼子がユミを探してワイン蔵の扉を開けて中に入ると、
物陰に潜んでいた誰かが涼子を突き飛ばした。
裕美だ。
裕美は涼子をワイン蔵に閉じ込めると、小沢邸から逃げ出して行った。
騒ぎを聞いて、初江とみどりが駆け付けて来た。
二人がワイン蔵の扉を開けると、今度は涼子が二人を突き飛ばして中に閉じ込めた。
「婆さん、余った人生はワインを飲んで過ごすんだね」

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小沢邸を抜け出した裕美は、堤のアパートの前に来た。
窓から中を伺ってみると、圭子が堤を介抱しているところだった。
裕美は心の中で呟いた。
「先生、栗田先生と幸せになって下さい。
裕美は1人で自首します。
先生に約束します。
私はもう決して大沼ユミにはなりません」
裕美が部屋に御辞儀して立ち去ろうとすると、その前に涼子が立ち塞がった。
「ユミ、見つけたよ」
裕美が逃げ出すと、涼子は追い掛けて来た。
「ユミ、逃げても無駄だ。あたしと闘いな」
ナイフを抜いた涼子が裕美に襲い掛かると、誰かが割って入って涼子を殴り飛ばした。
河本達之(高橋悦史)だった。
騒ぎを知った堤もその場に駆けつけ、また襲い掛かろうとする涼子を羽交い締めにした。
河本はその隙に裕美を車に押し込んで、走り去ってしまった。

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裕美は、河本によって海辺のマンションに連れ込まれた。
河本は裕美に言い含めた。
「ここはね、私の秘密の部屋なんだ。
私がいいと言うまで、君は当分この部屋に身を隠した方がいい」
裕美は河本に尋ねた。
「河本さん、それはどういうことなんですか?
あなたは私を娘と認めてくれたんですか?
娘と認めたから助けてくれたんでしょ?」
河本は即座に否定した。
「馬鹿なことを言うんじゃないよ。私はそんなことは認めてない。
君をどう処分するか、決めるまでこの部屋に閉じ込めておくつもりだ」

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それを聞いた裕美が逃げ出そうとすると、河本は追い掛けて引き戻した。
裕美は抵抗して暴れた。
「出して。私をここから出して」
二人が揉み合っていると、隣の部屋から別の男が入って来た。
河本の息子・河本達郎(風見慎吾)だった。
「親父…」

ドラマ ヤヌスの鏡(第15話) [サンテレビ] 2013年11月14日 15時00時00秒(木曜日)

<賀来千香子:関連作品>

テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

ヤヌスの鏡:14話
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14話「変身はパトカーの中で」

<出演>
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小沢裕美:杉浦幸

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河本達郎:風見慎吾

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堤邦彦:山下真司

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杏子ママ:中村晃子

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進東修一:蟹江敬三、水沼晋三:春日淳郎

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阿部純子:河合その子

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長田直美:長山洋子、後藤亮子:橋本薫子、秋野理江:百瀬まなみ

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戸塚京子:荒井玉青

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進東哲也:宮川一朗太、森村誠路:中条静夫、竹中明夫:竹内力

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中山充郎:大石吾朗、遠藤浩一:石橋正次

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磯村治美:小出綾女、栗田圭子:賀来千香子

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東涼子:大沢逸美

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南田アオイ:柴田時江、西川ルイ:河上幸恵

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大沼ユミ:杉浦幸

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河本達之:高橋悦史

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河本美穂子:吉行和子

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殺し屋:

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小沢一樹:前田吟、小沢みどり:小林哲子

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小沢初江:初井言榮

<ストーリー>
『裕美は遂に、もう1人の自分がネオンの海を疾走する大沼ユミであることを知った。
それは裕美にとって悲しみというより、
五体を引き裂き魂を打ち砕く凄まじいばかりの恐怖であったのであろう』

女子高生・小沢裕美(杉浦幸)は、全ての真相を知って泣き崩れた。
そんな時、突然ドアを荒々しくノックする音が店内に響いた。
「ママさん、居るんでしょ。話があるんですよ。ドアを開けて下さい」
進東警部(蟹江敬三)の声だ。
こんな場所まで警察に嗅ぎ付けられている。
裕美の担任教師・堤(山下真司)は、裕美に自首するよう促した。
「小沢、先生を信じるな?先生と一緒に警察に行こう。警察に行って訳を話そう」
裕美は覚悟を決めて「はい」と頷いた。
すると、堤は誰かに突き飛ばされて裕美を掻っ攫われた。
ユミの恋人・河本達郎(風見慎吾)だ。
警察に渡してなるものかと、達郎は裕美の手を引いて裏口に走った。
そして、駐車しておいたバイクに裕美を乗せて有無を言わさず急発進した。
止めようとする捜査官たちを蹴散らし、
達郎と裕美のバイクは夜の闇に消えて行った。
「ユミさん、ユミさんよ、俺達は今蜃気楼の国に向って走ってるんだ」

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一夜が明けた。
達郎と裕美は、人気のない砂浜に辿り着いていた。
二人は、流木に腰を下ろすと今後のことを話し合った。
裕美は、自殺する覚悟を固めているという。
記憶のない間に大犯罪に手を染め、大勢の人々を傷付けてきた。
死んでお詫びするしかない。
裕美はそこ迄思い詰めていた。
何より、堤をこれ以上事件に巻き込むのだけはどうしても嫌だった。
「堤先生は教え子に奥様を殺されて、とっても辛い目に遭っている人なの。
私に関わったら、また不幸になるわ。
私のために、先生を不幸になんて出来ないもの。
それ位なら死んだ方がいいわ」
悲壮な覚悟を固めて、裕美は海へ歩き始めた。
そんな裕美を達郎が呼び止めた。
「待てよ、俺も付き合うよ。
もう生きるのが面倒くさくなっちまったよ。
俺が命を賭けた初恋の人がこの世に存在しない幻の人でさ。
親父もお袋もみんな信じられなくなっちまった。
姉さん1人で死ぬなんて寂しすぎるじゃねえの。
俺たち姉弟なのに、姉弟らしいことは何一つして来なかった。
最期まで付き合ってやるよ」
二人は、手を繋いで海へと歩き始めた。
海に入ると、身も凍る冬の荒波が二人を襲った。
それでも二人の決心は崩れなかった。
沖へ沖へと歩みを進め、波に飲まれて体が痺れてゆく。
そんな二人の体を、誰かが抱えて砂浜へと引き摺り戻した。
堤だった。
堤は入水心中を図った二人を発見して、既の所で食い止めたのだった。

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「馬鹿野郎、死んで何が解決するって言うんだ」
そう怒鳴り付けて、堤は二人を張り飛ばした。
「先生はな、命を粗末にする奴は許せないんだ。
他人の命を傷付けるやつ、自分の命を傷付ける奴、そんな奴は絶対に許さん。
もういいという程十分に生きたのか?
この世の全ての喜びを、全ての悲しみを知ったっていうのか?
この世の全ての真実を知ったっていうのか?
死ぬのを格好いいとでも思っているのか?
死ねばみんなが涙を流してくれるとでも思っているのか?
甘ったれるな。
いいか、死ねば確かに辛いことは無くなるだろう。
だけどな、その辛いことと一緒に君たちが胸の奥底で必死に温めてきた夢も一緒に死んでしまうんだ。
悔しくないのか?
その夢を暗い海の中に閉じ込めて、君たちは悔しくないのか?」
裕美と達郎は、言葉を失った。
堤は裕美に向き直って諭した。
「小沢、君は1人の人間としてやらなければならないことがある筈だ。
君は君自身、少しも気付かなかった心を明らかにしてみんなに伝えなければならない。
それは辛いことだ。
だけど、やらなければならないんだ。
君の悲しみは、君一人のものではないからだ。
君は特別な人間じゃないんだ。
大勢の人たちが君と同じように、悲しみを秘めながら生きているんだ。
君がどうしてそうなったのか、その大勢の人達のためにも心を明らかにして伝えなければならないんだ。
出来るな?」
堤の問掛けに、裕美は「はい」と頷いた。
それを見てもう大丈夫と感じた達郎は、立ち上がって傍らのバイクにまたがった。
「姉さんは先公に任せるよ。ここで別れようぜ」
達郎のバイクは、裕美と堤を残して砂浜を走り去っていった。

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堤もまた、裕美を乗せてバイクを走らせた。
警察署へ出頭するためだった。
暫く走ったところで、覆面パトカーがサイレンを鳴らして二人のバイクを停止させた。
パトカーから降り立った刑事が、二人に逮捕令状を突き付けた。
「小沢裕美だな。宝石強盗容疑者として逮捕する」
裕美は手錠を掛けられ、パトカー後部座席に押し込められた。
堤が刑事に事情を説明しようとするが、取り合っては貰えない。
パトカーは、堤を残して走り去ってしまった。

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警察署へ向う覆面パトカーの車中で、刑事の一人がタバコに火を付けた。
漸く主犯を捕まえた。
その安堵感から来た自然な行為だった。
ところが、このタバコの煙は思わぬ大失態の引金になろうとしていた。
煙にむせた裕美の心に、もう1つの人格・大沼ユミ(杉浦幸)が蘇ろうとしていたのだ。
目を覚ましたユミは、突如として刑事たちに襲い掛かった。
あっという間に刑事たちを締め上げて気絶させると、
ユミは手錠を外して覆面パトカーから姿を眩ましてしまうのだった。

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その夜、河本の妻・美穂子(吉行和子)は、
妙な物音を耳にして屋敷内を確かめて歩いていた。
「誰?出てらっしゃい」
誰かが屋敷に忍び込んでいる。
居間を確かめた美穂子は、ユミがソファにふんぞり返っているのを見て目を白黒させた。
「あなた、逮捕されたんじゃなかったの?」
ユミは、悠然と煙草を燻らせながら美穂子に答えた。
「逮捕されたのは小沢裕美。あたしは関係ないね」
ユミは美穂子に詰め寄ると、その指から強引に指輪を奪い取った。
「おばさん、ダイヤの夢あげるよ」
次の瞬間、美穂子の頬に激痛が走った。

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その少し後、ナイトクラブで酒を煽っていた河本達之(高橋悦史)の前に大沼ユミが現れた。
ユミは宝石強盗を働いておきながら、悪びれることなく河本に弁解した。
「野獣会に脅されて、どうすることも出来なかったのよ。
おじ様御免なさい。おじ様許して。
許して下さらないなら、ユミここで喉を突いて死ぬわ」
ユミはそう言って、自分の喉にナイフを突き付けた。
河本が慌てて制止すると、ユミはあっけらかんと言い放った。
「踊りましょ、おじ様。レッツダンス」
クラブの中にはバイオリンの音が流れており、
数組のカップルがワルツを踊っていた。
ユミと河本のカップルもそれに加わった。
ユミは踊りながら河本に囁いた。
「おじ様、おば様と別れてあたしと結婚しない?
あたしの方が若くて魅力的な筈よ」
また誘惑しようとしている。
流石に不信感に駆られた河本は、踊りを中断した。
「ユミ君、今夜はここで別れよう。ちょっと約束がね」
下手な言い訳で何とか誤魔化そうとした河本は、
思い詰めた形相の女がクラブ内に駆け込んで来たことに気付いた。
河本の妻・美穂子であった。
何故か、頬に大きなガーゼを当てていた。
美穂子を一瞥すると、ユミは拍子抜けした口振りで呟いた。
「何だおじ様、約束の相手というのはおば様のことだったの」
ユミは、さっさとクラブを飛び出していった。
追い掛けようとした河本は、歩み寄ってきた美穂子に引き止められた。
「どうしたんだ、その顔は?」
河本が尋ねると、美穂子はガーゼを捲って見せた。
頬に無惨な切り傷が刻まれていた。
美穂子は、鬼の形相で呟いた。
「許さない。あの子だけは許さないわ」

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ユミはクラブを出ると、口笛を吹いて夜の街をぶらついた。
背後に誰かいる。
ユミが気配を感じて振り返ると、数人の男たちが尾行していた。
殺し屋だ。
直感したユミは、廃ビルの中に逃げ込んだ。
男たちは、かなり心得のある連中らしい。
ユミを逃げ道のない一室に追い詰めると、取り囲んで襲い掛かって来た。
さすがのユミもこれには苦戦した。
男たちは、抵抗するユミの首に投げ縄を掛けて締め上げた。
苦悶の表情を浮かべながら、ユミは男たちに啖呵を切った。
「殺せ、お前たちみたいな野良犬に命乞いなんてするもんか」
そんな時、突如として堤が駆け付けて来た。
「許さん。命を粗末にする奴は絶対に許さん」
堤は男たちに飛び掛ると、次々叩きのめしていった。
縄を解かれたユミは、その隙に廃ビルから逃げ出した。
堤が追い掛けて呼び止めると、ユミは振り返って堤に叫んだ。
「先公、あたしはポリになんて捕まらないよ。
あたしの自由を縛る奴はみんな敵さ。
あたしの前に立ちはだかるな」
捨て台詞を吐いて、ユミは走り去っていった。

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深夜、小沢家では祖母・初江(初井言榮)が仏壇に向って一心不乱に念仏を唱えていた。
「由紀子の祟りが裕美に取り憑いたのです。
祈って悪霊を退散させるのです。
悪霊退散、悪霊退散、悪霊退散…」
祈り続ける初江に、養父・一樹(前田吟)と養母・みどり(小林哲子)が声を掛けた。
「お母さん」
一樹は天井を指さしていた。
耳を澄ますと、天井裏からきしむ音が聞こえる。
裕美が帰って来た。
そう考えた3人は、慌てて裕美の部屋がある2階に駆け上がっていった。

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初江がノックして扉を開けると、そこに居たのは裕美とは似て非なる別人・ユミであった。
「お前は?!」
驚愕する3人を前に、ユミは言い放った。
「あたしの名は大沼ユミ。ここはあたしの家。
あんた達こそ誰なんだい?」

『ユミは大胆不敵にも、警察の包囲網を破って裕美の部屋に帰っていたのである。
今やユミは、救いようのない悪の道を進んでゆくのであろうか』

ドラマ ヤヌスの鏡(第14話) [サンテレビ] 2013年11月13日 15時00時00秒(水曜日)

<吉行和子:関連作品>

テーマ:もう一度見たいドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ



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