色々鑑賞録
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海を飛ぶ夢3(最終)
<その1>
<その2>

※ネタバレ注意。

<その3>
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翌日、ラモンは安定剤から目を覚ました。
眠っている間に、ロサから繰り返し電話が掛かって来たという。
ラモンは、ロサを部屋に呼んで用件を尋ねた。
すると、ロサは何時に無く神妙な表情で一大決心を打ち明けた。

「私は判ったのよ。やっと理解したの。
あなたが言ったこと。
"本当に愛するのは、死なせてくれる人"
私の心は決まったわ。
愛してる。
手を貸して欲しい?私は本気よ。
手を貸して欲しい?」

フリアとの連絡が絶たれたラモンにとって、
それは意外な申し出であった。

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ラモンは、兄夫婦に"旅立ち"を告げた。
予てから尊厳死に反対だったラモンの兄・ホセ(セルソ・ブハッロ)は、
ホセの部屋へ来て激しく詰った。
「そうはさせん!」
勿論、それで引くラモンではない。
理屈に強いラモンは、ホセに反論した。
「どうするつもりだ?
ベッドに縛り付けるか?
病院みたいに、睡眠薬を山盛りか?
兄貴には止めさせない。
無知とエセ宗教心で、僕を奴隷にするな」
いつもの調子で抗弁するラモンに、
ホセは声を震わせて激昂した。
「俺はお前の奴隷じゃないのか?
お前のために海を捨て、こんな農場をやる俺の気持ちは?
お前の世話だけをする為に!
俺も女房も息子も、皆お前の奴隷だ!」
言うだけ言うと、ホセは泣きながら部屋を出て行った。
止めても、止められない。
口で否定しつつも、ホセはそんなことは分っていたのだ。

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一方、兄嫁・マヌエラは何も言わなかった。
ホセの気持ちも、ラモンの気持ちも、どちらも良く分かる。
だからこそ、何も言わずに通した。

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昼過ぎ、兄夫婦の息子・ハビエル(タマル・ノヴァス)が帰宅した。
ラモンから見れば、甥っ子にあたる。
ラモンはハビエルを部屋に呼んで、先日届いた著書の一節を読み上げるよう頼んだ。
ハビエルは、ピンと来ない様子でその文面を読み上げた。

「息子よ、生まれて来ぬことを謝ろう。
でも、それは私の過ちではなく、恐れおののくバラのせいだ。
共に遊べぬことを謝ろう。
もし私が去った後で生まれたら、私の愛を忘れないで。
お前の母に口づけを。
私を恨まずに。憎しみは醜い」
「意味は?」
「生まれなかった叔父さんの息子への詩で、その子に語りかけている。
"許してくれ"と」
「そうだ。その下に何て書いてある?」
「ハビエルに」
「どうだ?」
「何が?」
「何も感じないか?」
「息子じゃない」
「勿論だ。でも、理由があるからお前に詩を捧げた」
「息子じゃないよ」
「学校で何を習ってる?もういい、行け」

ラモンは、ムッとした様子でハビエルを部屋から追い出した。
字面は理解出来ても、
詩に込められた思いは伝わらなかったらしい。
この時、ハビエルは未だラモンの旅立ちを聞かされていなかったのだ。

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その夜、「尊厳死の会」代表・ジェネの携帯が鳴った。
ラモンからだ。

「明日、旅立つことにした。
君はこの事から完全に手を引いてくれ。
これでお別れだ。もう連絡はしない。
君の安全のためだ」

「そう、分かったわ。
でも、一つだけ言わせて。
ラモン、もう一度よく考えて。
無理にやらないで。
自分の言葉を実行するためや、
世の中や私たちの組織のために、自分を追い込んだりしないで。
聞いてる、ラモン?」

ジェネが縋り付くよう訴えると、ラモンは突き放したように答えた。

「君も皆と同じだね、ジェネ」
「ごめんなさい、ラモン」
「さよなら、ジェネ」
「いい旅路を祈るわ、心の友……」

ジェネは、涙ぐみながら携帯を切った。
もう誰に求められない。

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旅立ちの朝が来た。
ラモンは、家族に見守られながら車に載せられた。
兄夫婦のホセとマヌエラ、それに甥っ子のハビエルだ。
ハビエルは、「詩を理解したよ」とラモンを抱き締めた。
やがて、車が出た。
ハビエルは、追い切れなくなるまで車を追いかけ続けた。

ラモンは、ハビエルに教えることは教えたつもりだ。
年老いた祖父を大事にすること。
ハビエルを息子同然に愛し、思いを託していたこと。
いつか、分かってくれるだろう。

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ラモンを載せた車は、ロサの待つホテルに到着した。
そのホテルからは、海がとてもよく見える。
ラモンとロサは部屋を取り、夕日を眺めながら語り合った。

「ラモン、死後の人生があるなら、私に"しるし"を送って」
「しるし?」
「何でもいいの。幽霊は平気よ。いつでも、どこでも、待ってるから」
「分かった、約束する。
でも、君だからハッキリ言うけど、死んだ後には何も無いよ。
生まれる前のように、無の世界だ。
確信は無いけど、予感がするんだ。
忘れないで。僕は君の夢の中に居る。
夜は君のベッドに横たわり、愛し合おう。
今から約束しておくよ。
ありがとう、ロサ。心から感謝している」

ロサは、ラモンに唇を寄せたところで思い留まり、
額にキスをした。

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ラモンは、ビデオカメラに向かって語り始めた。
部屋に1人だ。
他に誰も居ない。
顔の横には、ストローを差したコップが置かれていた。
カメラもコップも、誰が設置したのかは分からない。

「ご覧のように水の入ったグラスがあり、適量の青酸カリが含まれています。
それを飲めば、命が絶たれます。
私は貴重なる肉体を放棄します。
生きることは"権利"の筈ですが、私には"義務"でした。
この辛い状況に耐え続けました。
28年4ヶ月と数日もの間です。
思い起こしても、私の人生に楽しいことなど有りませんでした。
意志に反し、ただ時が流れただけです。
ほぼ全生涯です。
でも、状況は変わります。
いつの日か、時と人々の良心によって判断が下るでしょう。
私の死の願いが、正当なものか間違っているか」

ラモンは、首を伸ばしてコップの水をストローで飲み干した。
間もなく、ラモンの意識は混濁を始めた。

「体が熱い。もうすぐだ」

薄れゆく意識の中で、ラモンは海に飛び込んだあの日の夢を見た。

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ラモンが亡くなって暫くが経過した。
「尊厳死の会」代表・ジェネは、療養中のフリアを尋ねた。
フリアは海の見える別荘で、夫と静かに暮らしていた。
病状は進行し、今では話が通じないこともある。
ジェネは、夫の許可を取ってフリアと2人になった。
挨拶すると、フリアは穏やかな笑顔で答えた。
ジェネのことが理解出来ているらしい。
ジェネは少し安心して、ラモンからの手紙を手渡した。
すると、フリアはキョトンとした表情でジェネに尋ねた。

「ラモンって?」
「ラモンよ。あなたのお友達。私が紹介したの。覚えてる?」
「あなたが?」
「そうよ」

フリアは、ラモンを覚えていなかった。
手紙の内容を理解することは、もはや不可能であろう。
そんなフリアに、ラモンはどんな手紙を残したのだろうか。

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『裡なる海へ、裡なる海へ、無重力の奥底へ、
夢が眠る場所で、
2つの魂は、1つの願いを叶える。
2人の眼差しが、静かに幾重にも重なる。
深く、もっと奥深く。
肉体を超えて遥か彼方へ。
でも私は目覚め、ひたすら死を願い、
私の唇は永遠にあなたの髪を彷徨う』

ハビエル・バルデム:「海を飛ぶ夢」 [ABCテレビ] 2011年03月05日 25時30時00秒(土曜日)


テーマ:洋画 - ジャンル:映画

海を飛ぶ夢2
<その1>

<その2>
フリアは病院に担ぎ込まれ、意識を取り戻した。
フリアの持病は「脳血管性痴呆」という。
宣告は2年前だ。
日に日に体が衰え、知能を失ってゆく難病である。
完治する見込みは無い。
フリアは、病床に「尊厳死の会」代表・ジェネを呼んで伝えた。
自分も「尊厳死の会」に入りたいと。
ジェネはよく考えるよう諭して、ラモンからの手紙を手渡した。
フリアには夫が居る。
しかし、死を望む気持ちを判ってくれと言っても理解はしてくれないだろう。
一体、誰ならこの気持ちを判ってくれるだろう。
フリアは、複雑な心境でラモンの手紙に目を通した。

『親愛なるフリア、
"僕の裁判に興味を持つ弁護士"と聞き、僕はすぐに判った。
"この弁護士も病に苦しんでいる"と。
同じ状況にある者だけが、僕の"地獄"を理解してくれる』

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フリアとラモンは、文通で互いの近況を報告した。

ラモンの部屋には、様々な人がやって来る。
寝たきり前から付き合いのある友人も多い。
最近は、工場勤めのロサがよくやって来る。
苦しい胸の内を誰かに聞いて欲しいのだろう。
ラモンの世話をしたいとお節介を焼くので、時に兄嫁マヌエラと小競り合いになる。

一方のフリアは、夫に支えられてリハビリの毎日だ。
足が弱って中々歩けない。
弁護士活動は、もう無理だろう。
だが、ラモンとの交流はこれからも続けるつもりだ。
いつか、ラモンの本を出版したい。
フリアは、ラモンにそんな返事を出した。

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フリア不在の中、「尊厳死の会」の尽力で裁判の手続きが始まった。
ラモンの訴えは、多くの議論を生んだ。
中には、痛烈な批判者もいた。
その急先鋒が、同じ四肢麻痺のフランシスコ神父(ホセ・マリア・ポウ)だ。
フランシスコ神父は、テレビを通じてこう批判した。

「ラモンは死を願っている。
だが、これはラモンの叫びではないのか。
自分に注目してくれと、世の中に訴えているのだ。
彼の家族や周りの人間に、愛情が足りないのだろう。
ラモンが求めているのは、愛情だ。
是非彼に会い、人生は生きるに値するということを判らせたい」

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その夜、ロサが泣きながらラモンの家にやって来た。
勤めていた工場が閉鎖されて、この先どうやって食べていけばいいか分からないという。
ラモンは、途方に暮れるロサを慰めた。
「今の君は、勇敢で強い女だ。
おまけに、寛大で美人。
惚れない男は馬鹿だ」
励まされたロサは、ラモンのためなら何でもしたいと手を握った。
何でも。
そう来ると、ラモンの頼み事は一つだ。
「怖がるな。
計画したのは2年前。誰も罪に問われない。
協力してくれる友人はいるが、もう1人勇敢な人間が必要だ」
何の話か気付いたロサは、慌てて協力を拒否した。
「いいえ、違うわ。看病したいの。
死ぬ手伝いじゃない」

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後日、ラモンの家にフランシスコ神父がやって来た。
テレビで言っていた通り、ラモンを説得するためだ。
フランシスコ神父が教義に照らした命の大切さを説くと、
ラモンは徹底的に反論した。
寝たきりで26年、尊厳死について考えに考えた。
理屈では負けない。
さすがのフランシスコ神父も、ラモンの抗弁には打つ手無しだ。
処置無しと見たフランシスコ神父は、
せめて家族だけでもと説得を始めた。
「彼を生きる気にさせ、教えてやるのだ。
人生は手足を動かし、走り回ったりボールを蹴るだけではない。
人生はもっと深い。
遥かに意味がある。私を信じ給え」
すると、今度は兄嫁マヌエラが反論した。

「あなたがテレビで言ったことは、一生忘れません。
"ラモンの家族に愛情が足りない"だなんて。
義弟は愛情に包まれて暮らしています。
私は長いこと世話をして、息子のように愛してます。
誰が正しいのか判りません。
命は私達のものではなく、神に帰属するのかどうか。
でも、1つだけ判ります。
あなたは、やかましいわ」

結局、フランシスコ神父は誰も説得出来ずに帰っていくのだった。

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数カ月後、弁護士・フリアが退院した。
足に後遺症が残って車椅子状態だが、体調そのものは回復した。
フリアは再びラモンの家に泊り込み、詩の清書を手伝った。
2人は、互いに共感していた。
同じ尊厳死を望む者同士、絆以上の何かがあった。
詩の清書を遂えた夜、フリアはラモンにそっと口付けをした。

「一緒に旅立ちましょう」
「いつ?」
「本の準備は済んだわ。
私はバルセロナへ行き、出版社を見つける。
本を出すのよ。
見本を持って戻ってくるから、その日にしましょう」

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裁判の日が来た。
ラモンは、法廷に出廷した。
寝たきりになって以来家から出ていないラモンにとって、
これは28年振りの外出だった。
傍聴席には、ロサが駆け付けていた。
裁判は粛々と進められ、忽ちに結審した。
最後まで、ラモンに発言の機会は認められなかった。

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閉廷後、ラモンはロサと話し合った。
ロサは度々ラモンの家へやって来て、身の回りの世話を買って出る。
どうしてかと尋ねると、ラモンを愛しているからと言う。
ラモンは、そんなロサに困惑していた。

「どこが愛なんだ?僕の意に反しているのに。
いいか。
僕を本当に愛するのは、死なせてくれる人だ。
それが愛だよ、ロサ。それが愛だ」

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裁判の結果は、ラモンの予想通りだった。
ラモンの心情は察するが、
自殺を幇助した人間は罪に問われるという。
尊厳死は認められなかった。

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暫くして、ラモンの家に著書が届いた。
フリアが持って来る筈が、何故か郵便だ。
著書には、フリアからの手紙が添えられていた。
一緒に死のう。
そう約束をした筈が、フリアはギリギリになって翻意したのだ。

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その日の深夜、兄嫁マヌエラはラモンの嗚咽を聞いて飛び起きた。
ラモンが何かを訴えている。
マヌエラが部屋に駆け付けると、ラモンは泣きながら叫んだ。

「何故、何故だ。
何故皆のように自分の人生に満足出来ない?
何故僕は死にたい?
何故なんだ?
何故……何故僕は死を望む?」

マヌエラは、ラモンを宥めて安定剤を飲ませた。
混濁する意識の中で、ラモンは何度も見た例の夢を見た。
海を飛ぶ夢を。

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<その3に続く>




















テーマ:洋画 - ジャンル:映画

海を飛ぶ夢1
26年間寝たきりの男が、尊厳死を求めて裁判を起こした。
男は手足が動かせず、人を頼らないと生きることも死ぬことも出来ない。
果たして、男は一体誰を頼って生きるのか、あるいは死ぬのか……というお話。



allcinema
MovieWalker
Wikipedia

<作品データ>
脚本:アレハンドロ・アメナバル、マテオ・ヒル
監督:アレハンドロ・アメナバル
公開:2004年
配給:東宝東和

<出演>
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ラモン:ハビエル・バルデム

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フリア:ベレン・ルエダ(弁護士)

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ジェネ:クララ・セグラ(「尊厳死の会」代表)

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ロサ:ロラ・ドゥエニャス(ラジオDJ)

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マヌエラ:マベル・リヴェラ(兄嫁)

<ストーリー>
弁護士フリア(ベレン・ルエダ)の元に、「尊厳死の会」代表・ジェネ(クララ・セグラ)を通して連絡が入った。
尊厳死を求めている男がいるので、会って話を聞いて欲しい。
そういう内容だ。
フリアは、「まずは本人に会って詳しい事情を知りたい」と
依頼者の住む農場へ向った。
そこには、四肢麻痺で寝たきりの男・ラモン(ハビエル・バルデム)が住んでいた。
ラモンと面会したフリアは、一つ一つ問い質した。
何故尊厳死を求めるのか?
どうして生きていたくないのか?
ラモンは、フリアを前に淡々と答えた。
「今のような状態で生きることは、尊厳がないから」

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ラモンは、現在兄夫婦の農場に身を寄せている。
生活の面倒は、全て兄嫁・マヌエラ(マベル・リヴェラ)が看ている。
食事、排泄、着替え、何から何まで。
ラモンは手足が動かせない。
動かせるのは首から上だけだ。

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「死なせて欲しい」というラモンの願いは、実に困難だった。
ラモンは、自力では生きることと同じく死ぬことも出来ない。
「尊厳死の会」を頼って相談しても、出来るのは精神的援助と法的助言だけだと突き放された。
自殺を幇助すれば、その人も罪に問われる。
尊厳死を実現するには、法律の後ろ盾がいる。
ラモンは、テレビ取材を通じて世論に訴えた。
尊厳死を認めて欲しいと。
ラモンは、敢えてカメラの前に体を晒した。
「恐らく、この姿を見れば、
裁判官や法律の専門家や、政治家など権力を持つ人達が、
少しは理解する筈だ。
私の精神的苦痛を分かろうとしない人々も、
こんな人生は酷いと思うだろう」
深刻な訴えだ。
にも関わらず、ラモンはいつも笑顔だ。
どうして笑顔なのか?
テレビクルーが尋ねると、ラモンは寂しそうに答えた。
「他人の助けに頼るしか生きる方法がないと、自然に覚えるんだ。
涙を隠す方法を」

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後日、ラモンの家にロサ(ロラ・ドゥエニャス)という女が訪ねて来た。
テレビを見て、ラモンに会いたくなったという。
ロサは、2人の子供を抱えるシングルマザーだ。
工場で働く傍ら、地方局のラジオDJをしている。
身の上話をした後、ロサはラモンに諭した。
「何故死を望むのかしら。
辛いことがあっても、逃げてはダメよ。
人生は、生きる価値があるわ」
ラモンは、真っ向から反論した。
「君は、僕を説得に来たのか?
批判はよせ。
君が来た本当の理由を言ってやろう。
君は挫折感に満ちた詰まらぬ女で、人生に意義を見出すためにここへ……」
ラモンが言い終える前に、ロサは泣きながら部屋から逃げ出した。
ロサが出て行った後、ラモンは静かに呟いた。
「逃げられる君は、幸せだ」

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その晩、ロサはラジオを通してラモンに語り掛けた。
「謝りたいの。批判して悪かったわ。許してね、ラモン」
ロサは、ラモンに向けて『黒い影』という音楽をラジオに流した。

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テレビの影響は絶大だ。
ラモンの訴えは、尊厳死を巡る世論を喚起していた。
弁護士フリアは、その世論を武器に法廷で戦う腹積りだ。
準備のため、フリアは農場に泊り込んでラモンから詳しい生い立ちを聞き出した。
裁判が来れば、裁判長に根掘り葉掘り訊かれる。
ラモンの生き様、思想、信念、覚悟。
予め、掘り下げて聴いておく必要がある。

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フリアの問掛けに、ラモンは答えた。
ラモンは、かつて船乗りだった。
船員として世界中を旅して回る、好奇心旺盛な青年だった。
そんなラモンの運命を変えたのは26年前だ。
遊泳中のラモンは、入江に飛び込んだ拍子に首の骨を折った。
すぐに仲間に助けられたが、
それは残酷な時間の始まりでもあった。
手足が動かせなくなったラモンは、以来26年も寝たきりの生活だ。
船乗りの時代は、当然のように恋をした。
だが、寝たきりになれば人を愛する資格はない。
今のラモンにとって、生きるということは愛から遠ざかることでもあった。

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フリアは、兄嫁マヌエラにラモンが死を願うことをどう思うか訊いてみた。
マヌエラは、淡々と答えた。
「ラモンの意志だから」
誰よりも献身的にラモンの世話をして来たマヌエラには、
その苦悩が痛い程分かるのだ。
マヌエラは、「見せたい物がある」とフリアに紙の束を差し出した。
それは、寝たきりのラモンが口にペンを咥えて書き綴った詩であった。

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フリアが詩を読んでいる間、ラモンはうたた寝をしていた。
もし、立ち上がることが出来たら。
もし、空を飛べたら。
海岸を歩くフリアの元まで飛んで行きたい。
ラモンは夢の中で空を飛び、フリアを抱締めていた。
表には出さないが、ラモンはフリアに仄かな恋心を抱いていたのだ。

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ラモンは、気配を感じて夢から覚めた。
丁度、フリアが部屋に入って来たところだ。
フリアは、今読んだラモンの詩を絶賛した。
「どれも全て、素晴らしいわ。出版すべきよ。
裁判にも有利よ。あなたの"声"だから」
ラモンは、詩を褒められても全然喜ばなかった。
「フリア、全て納得してくれてると思っていた。
君が、ここに来た理由は1つ。
僕を助けるためだ。
でも、君は質問ばかりして過去を掘り起こし、
僕の心を掻き乱すだけだ」
ラモンは、タバコを吸いたいとフランに所望した。
別室に取りに行ったフランは、階段に差し掛かったところでガクリと倒れ込んだ。
フリアは、予てから持病を患っていた。
その発作が今起きたのだ。
物音は、ラモンの耳にも届いた。
フリアが倒れたと知ったラモンは、懸命に助けを呼んだ。
「マヌエラ!マヌエラ!……」

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<その2に続く>


テーマ:洋画 - ジャンル:映画

リトル・ミス・サンシャイン3(最終)
<その3>
※ネタバレ注意
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オリーヴ一家は、再びバスを飛ばした。
受付締切は午後3時だ。
急がないと間に合わない。

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車中のオリーヴは、ミスコンを前にして未だ無邪気だった。
病院待合室で拾った視力検査表を手にすると、
ドゥウェイン相手に検査ごっこを始めた。
パイロット志願のドゥウェインは、視力には自信がある。
1.0の検査表もスラスラ解いてみせた。
ところが、色盲検査になると様子が変だ。
バッチリ見えていた筈の検査表が、丸で読めなくなってしまう。
隣に座っていた叔父フランクは、異変を察知した。
「君は色盲のようだ。パイロットは無理かも」
それを聞くと、ドゥウェインの顔色が青ざめた。
ドゥウェインにとって、パイロットの夢は生きる全てだ。
それだけを拠所に無言の行を立て、毎日体を鍛えてきた。
揉事だらけの家庭で悠然としていられたのも、
いつかパイロットになれるという夢があったからだ。
それが無駄と分かった。
打ちひしがれたドゥウェインは、にわかに大暴れを始めた。
車中は大混乱だ。
どう宥めても収まりそうにない。
仕方なく、オリーヴ一家は一旦路肩に停車して、
ドゥウェインの気が鎮まるのを待つことにした。

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バスが停まると、ドゥウェインは空地に飛び出て絶叫した。
「チクショー!」
泣いて悔しがった後、ドゥウェインは慰めに来た母シェリルを怒鳴り付けた。
「二度とあんなバスに乗りたくない。
お前ら皆大嫌いだ。
離婚!破産!自殺!皆揃って負け犬じゃないか!
僕のことは放っておいてくれ。
1人にしてくれ。お願いだ」
禁を破って出たのは、溜まりに溜まった鬱憤だった。
言うだけ言うと、ドゥウェインは背を向けてしゃがみ込んだ。
すっかり絶望している。
リチャードとシェリルの父母も、打つ手なしだ。
一体どうすれば立ち直ってくれるのか。
こうしている間も、ミスコンの時間が刻一刻迫っている。
一同が困り果てていると、オリーヴが1人静かに歩み寄った。
そして、ドゥウェインの肩にそっと手を置いて寄り添った。
困っている時は助け合う。
悲しい時は、一緒に悲しむ。
それが家族だ。
幼いオリーヴも、兄の悲しみを精一杯受け止めているのだ。
塞ぎ込んでいたドゥウェインは、妹の気遣いを知って漸く顔を上げた。
「分かった。行こうか」
ドゥウェインは、オリーヴの前ではいつも優しいお兄さんなのだ。
漸く冷静さを取り戻したドゥウェインは、
暴言を家族に詫びてバスに戻った。
「御免なさい、ついカッとして。
あれは本心じゃないから」

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オリーヴ一家は、再度バスを飛ばした。
もう本当に時間がない。
一方通行も車止めも蹴散らし、バスは走りに走って会場に到着した。
息せき切って受付に駆付けると、
受付係は「もう締切りました」と申請を退けた。
数分遅れただけだ。
リチャードは、杓子定規な受付係に跪いて頼み込んだ。
「お願いです。苦労してここ迄来たんです」
こんな事でオリーヴの夢を潰す訳にいかない。
リチャードは、受付係にしがみついて懇願した。
流石に見兼ねたのか、別の係員が執り成しに入り、
オリーヴの出場は何とか認められるのだった。

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こうして、滑り込みセーフでオリーヴはミスコンに間に合った。
リトル・ミス・サンシャインは、公開審査で選ばれる。
大勢の客が見守る中のステージショーだ。
これから、候補の少女達とステージで特技を披露する予定だ。

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観客席からステージを見守っていた父リチャードと兄ドゥウェインは、
ショーを見て重大な点に気付いた。
オリーヴが、どう見ても場違いなのだ。
他の子がモデル顔負けのメイキャップでめかし込む中、
オリーヴ1人がただの子供だ。
特技審査が始まると、その懸念は更に膨らんだ。
どの子も、訓練された歌曲や曲芸を披露している。
専門の教育を受けたのが明らかだ。
これはいけないと、リチャードとドゥウェインは楽屋に走った。

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オリーヴの出番が迫る中、
リチャード、シェリル、ドゥウェインの3人は、楽屋で話し合った。
オリーヴのダンスは、お爺ちゃんと練習したお遊戯レベルでしかない。
このまま出せば、恥をかかせる。
出場を辞めさせるべきではないか。
リチャードとドゥウェインは、出場取止めを訴えた。
だが、シェリルはそれに反対した。
ミスコンはオリーヴの夢だ。
無理に辞めさせることは出来ない。
出場するかどうかは、オリーヴ本人の意思で決めるべきだ。
シェリルは、出番を前に緊張するオリーヴに改めて確認した。
「嫌なら出なくでもいいのよ。
例え、ここで辞めても皆あなたのことを誇りに思うわ」
それでも、オリーヴの意思は崩れなかった。
係員がやって来ると、決意の表情でステージに出て行くのだった。

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一家は大急ぎで観客席に回った。
丁度、オリーヴがステージに進み出たところだ。
オリーヴは、演目を前に司会者のマイクを要求した。
「振付をしてくれたお爺ちゃんにこのダンスを捧げます」

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いよいよ、ダンスが始まった。
タキシードで決めたオリーヴは、体をくねらせて妙なリズムを取り始めた。
そして、曲に合わせて上着を放り投げてしまった。
これは……ストリップダンスだ。
振付を爺ちゃんに任せたのがいけなかったか。
こりゃいかんと誰もが頭を抱える中、オリーヴのダンスはノリノリで進行している。
一体どうしたものか。
家族は、為す術なくその姿を見守り続けた。

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やがて、客席から野次が飛び始めた。
「引込め、ヘタクソ」
主催者も、カンカンになってリチャードに抗議した。
「娘をステージから降ろすのよ!早く!」
リチャードは悩んだ。
ここでオリーヴを引き摺り降ろしたら、夢を壊してしまう。
だからと言って、このまま放置も出来ない。
一体どうする?
悩んだ末に、リチャードは閃いた。
こうなったらもう……一緒に踊るしか無い。
リチャードはステージに飛び出すと、オリーヴの隣で一心不乱に踊り始めた。

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固唾を呑んで見守っていた他の家族も、事態を察知してステージに駆け上がった。
家族の危機だ。
これはもう……一緒に踊るしか無い。
一家の人々は、取り憑かれたようにステージで踊り始めた。
一体何がどうなっているのか。
客席の人々が唖然とする中、オリーヴ一家のダンスが続く。。
やっとのことでダンスが終ると、客席の中からまばらな拍手が起きた。
一部には受けたようだ。

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こうして、オリーヴ一家はミスコン荒しで警察に逮捕された。
警察署でこってり絞られた後、一家は条件付きで釈放を認められた。
それは、二度とミスコンには出ないことだった。

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警察署を出たオリーヴ一家は、再びバスを発車させた。
例によって、押して飛び乗るを繰り返さないとバスは走らない。
毎度馬鹿みたいだが、一家は晴れやかな気分だった。
優勝は出来なくても、ミスコン出場の夢は果たした。
家族全員で、オリーヴの夢を成し遂げたのだ。
エドウィンの急死というアクシデントはあったが、旅は有意義だった。

そう言えば、生前のエドウィンはミスコン前日オリーヴにこんな事を言っていた。
「負け犬とは、負けるのが怖くて何もしない奴のことだ」と。

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グレッグ・キニア:リトル・ミス・サンシャイン [関西テレビ] 2011年09月03日 26時05時00秒(土曜日)


テーマ:洋画 - ジャンル:映画

リトル・ミス・サンシャイン2
<その2>
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オリーヴ一家は、長距離旅行を再開した。
車中が退屈になると、
父・リチャードが仕事のことを家族に話して聞かせた。
現在取り組んでいるのは、「成功のための9段階プログラム」という自己啓発書だ。
人間には勝ち組と負け組がいる。
勝ち組になるにはどうするか?
諦めず努力すること。
その心構えを纏めたのがこのプログラムだ。
父に感化されたのか、オリーヴはミスコンを夢見て毎日ダンスの練習をしている。
兄・ドゥウェインも、空軍パイロットになるまで無言の行を守り抜いている。
当の父・リチャード自身が、本を売る夢を追い掛けている。
言わば、夢追い人だ。
そんな3人と対照的なのが、母、叔父、祖父の3人だ。
特に叔父・フランク(スティーヴ・カレル)の視点は、冷ややかだった。
フランクは現在療養中だが、元は学者だ。
実業家のリチャードとは価値が合わない。
フランクが失恋から自殺未遂を起こした過去があることも、リチャードの理論では負け組ということになる。
今に本が売れて大儲けだとリチャードが豪語すると、
フランクはついつい皮肉を飛ばして、
車中で口喧嘩を始めてしまうのだった。

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ゴタゴタを抱えたまま、一家のバスはサービスエリアで小休止に入った。
すると、またまた小さな騒動が持ち上がった。
まずは、父・リチャードだ。
仕事の相棒・スタンと電話が繋がると、何故かリチャードは血相を変えて電話に縋り付いた。
誰の目で見ても、仕事に失敗したのが明らかだ。
先程までの強気は何処へやら、電話を終えたリチャードはすっかり不機嫌になってしまった。
本が売れてくれないと、大儲けどころか破産の危機だ。
一家は一体どうなってしまうのか?

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その頃、サービスエリアの売店では別の騒動が持ち上がっていた。
オリーヴの叔父・フランクが、
買い物中にバッタリ元恋人・ジョシュ(ジャスティン・シルトン)と出会してしまったのだ。
と言っても、相手は女ではない。
フランクは同性愛者なので、相手は男だ。
大学講師だったフランクは、かつて教え子のジョシュに恋をした。
その教え子が同僚講師・ラリーと恋仲になったと知った時、
フランクは絶望に駆られて自殺未遂を起こした。
フランクがオリーヴ一家に身を寄せているのは、そんな事情からなのだ。

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フランクはジョシュに挨拶してぎこちなく近況報告をすると、後ろ手にレジの買物を隠した。
実は、エドウィンに頼まれてポルノ雑誌を買いに来たところなのだ。
これを見られると、実にまずい。
しかし、変に隠せば人間の動作は不自然になるものだ。
妙に思ったジョシュは、体越しにレジの買物を覗き込んでしまった。
買物がポルノ雑誌だと見て取ると、
ジョシュはそそくさと店を出て現恋人・ラリーのオープンカーに乗って走り去って行った。
見送りながら、フランクは改めて思った。
今度こそ終りだと。
それも最悪の赤っ恥で終ってしまった。
バスに戻ったフランクは、
投げやりな態度でエドウィンにポルノ雑誌を投げて渡すのだった。

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その晩、オリーヴ一家は気不味い雰囲気のままモーテルに宿泊した。
リチャードは妻・シェリルと一通り夫婦喧嘩を済ませると、
モーテルを飛び出して相棒・スタンの宿泊しているホテルに走った。
スタンに直接話を聞かないと納得出来ない。

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スタンは中々捕まらなかった。
何度携帯に掛けても留守電だ。
ロビーに押し掛けてやっとスタンを捕まえると、リチャードは問題の詳細を問い質した。
すると、スタンは悪びれることもなく言い訳した。
「問題はプログラムじゃない。
君だよ。君は無名だ。だから売れなかった。
売れなきゃそれ迄だ。君も諦めて前へ進め」
スタンにしてみれば、本の売込みはたくさんある仕事の一つに過ぎない。
駄目なら簡単に諦められるだろう。
しかし、リチャードはこれ一つに賭けて来た。
諦めきれる訳がない。
傷心のリチャードは、自分自身に言い聞かせた。
「こんな時のために、あのプログラムがあるんだ」

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翌朝、リチャードは娘のオリーヴに揺り起こされた。
「どうしたんだい?」
「お爺ちゃんが起きない」

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エドウィンは、救急車で病院に担ぎ込まれた。
しかし、時既に遅し。
医師による診断の結果は、就寝中に亡くなっているということだった。
オリーヴ一家は突如家族を喪った悲しみに暮れながら、
これからどうするかと頭を抱えた。

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思えば、ワイルドな半生だった。
誰かれ構わず下ネタを連発し、老人ホームでヘロインを吸って追い出された過去を持つ。
最期まで豪快に決めてくれた。
などと感心している場合ではない。
こんなところで死なれたら、手続きや何やで病院に足止めを食ってしまうのだ。
オリーヴのミスコンは今日開催だ。
待っている訳にはいかない。
こうなったらもう……死体を持ち逃げするしかない。
オリーヴ一家は、職員の隙を見て病室の窓から死体を担ぎ出すと、
バスに乗せてトンズラしてしまうのだった。

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<その3に続く>



















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