色々鑑賞録
古い映画やドラマのあらすじを紹介してます
11 | 2013/12 | 01
S M T W T F S
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31 - - - -

若さま侍捕物帖
大川橋蔵主演の時代劇シリーズ8作目。

将軍お毒味役が変死する事件が発生する。
それを受けて将軍家への納入業者であった造酒屋には取り潰しの処分が下される。
見に覚えのない処分を下された造酒屋の主人は、体を壊して亡くなってしまう。
造酒屋の娘は父の無念を晴らそうと、
この陰謀を仕組んだ一味への復讐を誓っていた。
そこにフラリと謎の若侍が現れ、
事件の黒幕を調べ上げて真相を突き止めるというお話。

前作「紅鶴屋敷」が怪奇描写の多いミステリー映画だったのに対して、
本作は謎解きを頭から放棄した勧善懲悪になっている。
悪役は、時代劇の定番である私腹を肥やす商人とお役人。
ロケの多かった前作に対して、本作はほぼ全編がセット撮影になっていて画作りも対照的。
女優の歌と踊りが随所に入る、東映らしい華やかな仕上がり。

vlcsnap-2013-12-28-11h22m36s239.jpg

若さま侍捕物帖
映画.com
allcinema
若さま侍捕物帖

<作品データ>
脚本:結束信二
監督:佐々木康
公開:昭和35年(1960年)
配給:東映

<出演>
vlcsnap-2013-12-28-11h31m59s244.jpg
若さま:大川橋蔵

vlcsnap-2013-12-28-11h33m02s254.jpg
唐金屋総右衛門:三島雅夫、鈴木妥女:山形勲

vlcsnap-2013-12-28-11h33m14s218.jpg
月美香:藤田佳子

vlcsnap-2013-12-29-12h05m38s43.jpg
奈美:岡田ゆり子

vlcsnap-2013-12-28-11h34m59s245.jpg
遠州屋小吉:本郷秀雄、佐々島俊蔵:千秋実

vlcsnap-2013-12-28-11h41m33s91.jpg
堀田加賀守:坂東好太郎

vlcsnap-2013-12-29-11h43m27s43.jpg
伊勢屋周兵衛:明石潮

vlcsnap-2013-12-29-11h44m17s131.jpg
役人:

vlcsnap-2013-12-29-11h16m52s196.jpg
周兵衛の妻:

vlcsnap-2013-12-28-11h34m14s35.jpg
番頭:

vlcsnap-2013-12-28-11h37m41s75.jpg
お蝶:清川虹子

vlcsnap-2013-12-28-11h44m15s184.jpg
おいと:桜町弘子

vlcsnap-2013-12-28-11h44m55s64.jpg
お澄:花園ひろみ

vlcsnap-2013-12-28-12h14m26s117.jpg
おちか:三田佳子

vlcsnap-2013-12-28-11h56m40s204.jpg
英明院:花柳小菊

vlcsnap-2013-12-29-11h59m49s128.jpg
熊谷民部:戸上城太郎

vlcsnap-2013-12-28-11h55m15s118.jpg
射的場の娘たち:

あらすじ(番組情報より引用)
おとそ気分の松の内、奇怪な事件を小耳に挟んだ若さまは船宿喜撰越をから腰を上げる。
事件というのはーー御用商酒問屋伊勢屋の清酒で毒見役が命を失い、見廻り役もまた、何者かに暗殺され、
その科で実直な伊勢屋の財産は没収、一門は遠島、店は取り潰しされようとしているのだ。

獄門を待たずして伊勢屋も病に伏し絶命する。
目明し小吉と与力佐々島はいくらあせっても、事件の核心は老中堀田加賀守の手中にあり、なす術を知らない。
足にまかせて若さまが調べあげたところでは、
私腹を肥やそうとする小納戸役鈴木妥女の企みが事件の核心と分かり…。

大川橋蔵、三田佳子:「若さま侍捕物帖」 [KBS京都] 2013年12月25日 20時00分00秒(水曜日)

<桜町弘子:関連作品>

テーマ:映画紹介 - ジャンル:映画

若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷
大川橋蔵主演の時代劇シリーズ7作目。

紅鶴屋敷と呼ばれる曰く付きの豪邸を買い取った商人が殺されてしまう。
容疑者となったのはその商人の甥っ子だった。
甥っ子は生前被害者と仲が悪かったというが、殺人は頑として否認する。
丁度その頃、その村に保養に来ていた若侍が、
事件に隠された陰謀を暴いて真犯人を突き止めるというお話。

主役は主役らしく、ヒロインはヒロインらしく、悪役は悪役らしい。
お約束と様式美を追求した王道の東映時代劇。

vlcsnap-2013-12-19-17h50m37s221.jpg

若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷
allcinema
映画.com
紅鶴屋敷 思い出映画館

<作品データ>
脚本:比佐芳武、鷹沢和善
監督:沢島忠
公開:昭和33年(1958年)
配給:東映

<出演>
vlcsnap-2013-12-19-17h52m15s188.jpg
若さま:大川橋蔵

vlcsnap-2013-12-19-17h52m54s61.jpg
お千代:桜町弘子

vlcsnap-2013-12-19-17h53m49s98.jpg
六助:水野浩

vlcsnap-2013-12-19-17h54m25s196.jpg
よだれくりの丁松:岸井明

vlcsnap-2013-12-19-17h56m25s123.jpg
おいと:花園ひろみ

vlcsnap-2013-12-19-17h54m59s37.jpg
与吉:尾上鯉之助

vlcsnap-2013-12-19-17h55m40s183.jpg
覚全和尚:月形龍之介

vlcsnap-2013-12-19-18h01m12s164.jpg
鯉三:東日出雄、十手の甚兵衛:杉狂児

vlcsnap-2013-12-19-17h57m03s248.jpg
越後屋清左衛門:原健策

vlcsnap-2013-12-19-17h57m09s46.jpg
越後屋清吉:片岡栄二郎

vlcsnap-2013-12-19-17h57m41s98.jpg
網元茂兵衛:進藤英太郎

vlcsnap-2013-12-19-17h59m00s135.jpg
糸平:堺駿二

vlcsnap-2013-12-19-18h02m18s85.jpg
佐竹半次郎:河野秋武

vlcsnap-2013-12-19-18h04m06s137.jpg
遠州屋小吉:沢村宗之助

vlcsnap-2013-12-19-18h06m29s19.jpg
お崎:東竜子

vlcsnap-2013-12-19-18h06m19s180.jpg
おとし:金剛麗子

vlcsnap-2013-12-24-20h26m33s24.jpg
勘八:富田仲次郎、猪之助:中野文男 、梅吉:

<劇中の眠るシーン>
vlcsnap-2013-12-19-19h32m58s192.jpg
腕枕

vlcsnap-2013-12-19-19h33m50s175.jpg
箱枕

vlcsnap-2013-12-19-19h34m15s203.jpg
箱枕

vlcsnap-2013-12-19-19h45m44s170.jpg
座布団枕

vlcsnap-2013-12-19-20h03m08s119.jpg
腕枕

<劇中登場の武器>
vlcsnap-2013-12-19-19h59m52s200.jpg
鎖鎌

vlcsnap-2013-12-19-20h00m29s52.jpg
鎖鎌に苦戦中の若さま

あらすじ:(番組情報より引用)
江戸から程遠からぬ海沿いの鄙びた漁師町にある柳橋の舟宿・喜仙の寮に、
この町の年に一度の舟祭りを見物傍々ブラリとやって来た喜仙の娘・おいと(花園ひろみ)と、居候の御存知若さま(大川橋蔵)。
祭りをあて込んで陸続と集まって来た人々の中に、異様な一組がある。
最近紅鶴屋敷を買取って移り住んで来た江戸の豪商越後屋の勘当息子・清吉(片岡栄二郎)と、その仲間の四人連れだ。

この清吉の目的が勘当されたのを仇に伯父の越後屋の当主・清左衛門(原健策 )から
こっそりゆすりを働こうと云うのだから始末が悪い。
そんな頃夜ともなると誰とも知れぬ人影が
紅鶴屋敷の廊下を不気味にきしらせてはいつとなく闇に消えると云う噂がパッとひろがった。

そんな或る日、町はずれの淋しい道に清吉の仲間三人と、
とにかく評判の多かった越後屋清左衛門が無惨な死体となって発見され…。

大川橋蔵、桜町弘子:「若さま侍捕物帖 紅鶴屋敷」 [KBS京都] 2013年12月18日 20時00分00秒(水曜日)

<大川橋蔵:関連作品>

テーマ:邦画 - ジャンル:映画

陸軍中野学校
市川雷蔵主演のスパイ映画。
士官候補生の青年がスパイ養成機関にスカウトされ、
教育を受けているうちに人間性を捨てて本物のスパイに生まれ変わってゆくというお話。
歌舞伎出身の映画俳優は時代劇専門の人が多いが、
雷蔵は現代劇にも挑戦して名作を残している。
本作もその1本。
クールで妖しい色気に溢れた雷蔵が、
普通の青年から冷酷なスパイに変貌してゆく様を見事に表現している。
また、星川清司の脚本はシンプルで無駄がない。
変な遊びを排して、本筋を的確に描写している。
見ていると、自分がスパイ教育されているような気になって来る。
「兵隊やくざ」と同じく、増村保造監督の演出はリアルでありながら活劇に必要なリズムの良さを忘れていない。
荒唐無稽な007やスパイ大作戦とは一味も二味も違う、
日本ならではのスパイ映画に仕上がっている。

vlcsnap-2013-12-16-20h05m35s8.jpg

allcinema
MovieWalker
wikipedia
陸軍中野学校
作品内容~陸軍中野学校
陸軍中野学校:角川映画
陸軍中野学校 - 私的映画の楽しみ方

<作品データ>
脚本:星川清司
監督:増村保造
撮影:小林節雄
公開:昭和41年(1966年)
配給:大映

<出演>
vlcsnap-2013-12-16-21h02m38s174.jpg
三好次郎:市川雷蔵

vlcsnap-2013-12-16-20h46m10s35.jpg
布引雪子:小川真由美

vlcsnap-2013-12-16-20h14m24s170.jpg
草薙中佐:加東大介

vlcsnap-2013-12-16-20h08m39s54.jpg
三好菊乃:村瀬幸子

vlcsnap-2013-12-20-21h24m41s252.jpg
中西:南堂正樹

vlcsnap-2013-12-16-20h27m16s200.jpg
手塚:三夏伸

vlcsnap-2013-12-22-16h45m59s157.jpg
はつ恵:仁木多鶴子

vlcsnap-2013-12-22-17h11m23s35.jpg
中野学校生:

vlcsnap-2013-12-22-16h37m48s50.jpg
ラルフ・ベントリー:ピーター・ウィリアムス

vlcsnap-2013-12-22-18h13m54s183.jpg
オスカー・ダビッドソン:EH・エリック

vlcsnap-2013-12-22-21h33m08s142.jpg
前田大尉:待田京介(パンチ穴)


<ストーリー>
昭和13年(1938年)、
士官学校を卒業して間もない陸軍少尉・三好次郎(市川雷蔵)は、
上層部から呼出を受けて愛国婦人会のバラックに駆け付けた。
バラックには、三好を含めた若き軍人たち18人が集められていた。
何事かと困惑する一同を前に、上官の草薙中佐(加東大介)が訓示を始めた。
それは、驚きの内容だった。

「本日諸君を集めたのは他でもない。
諸君を向こう一ヵ年、スパイとして教育するためだ。
当分の間、ここが諸君の教室でもあり宿舎でもある。
無論、この教育は秘密だ」

一同は面食らった。
集まっているのは、皆将来を嘱望された幹部候補生だ。
エリート中のエリートであり、本来は国家の要職を担う人材だ。
その人材を前に、スパイになれというのだ。
影の存在であるスパイになれば、もう表舞台には立てない。
地位も何もない。
それどころか、家族と生活することすら許されない。
表向きは死んだも同然となり、
国家のために隠密任務を遂行するだけの道具にならねばならないのだ。
草薙中佐は、訓示を続けた。

「日本は今や支那事変に突入し、将来世界を相手に戦うかもしれん。
戦争において、スパイがいかに重要な働きをするかは諸君も知ってる筈だ。
優秀なるスパイ1人は一個師団、2万人の兵力に匹敵する。
諸君18人で十八個師団。
日本陸軍の兵力は一躍二倍になる。
諸君、将来日本が栄えるのも滅びるのも諸君の肩に掛かっている。
日本のため、身を捨ててスパイになってくれ。
この草薙と一緒に働いてくれ」

草薙中佐は18人に熱く訴えた。
草薙中佐が本気で国家の行く末を憂慮しているのは分かる。
そのために何が必要かも分かる。
しかし、これは18人にとって究極の決断であった。
スパイになれば、出世は愚か結婚して家庭を持つことすら許されないのだ。
ただ、一方で若者の好奇心に火が着いていたのも確かだった。
このまま軍人になって戦地に送られるより、
スパイになった方が面白いのではないか。
そんな打算も働いていた。
何より、18人は草薙中佐の情熱に打たれていた。
結局、18人の中から抜けると言い出す者は1人も現れなかった。
その日から、18人は「陸軍中野学校」の一期生としてスパイ教育を受けることになるのだった。

18人の1人・三好次郎は椎名次郎と名を変えた。
バラックで寝泊りする生活が始まり、外部との連絡は一切断たれた。
18人には厳しい訓練が課されていた。
剣道、柔道の練習に明け暮れ、
あらゆる機械の仕組みと取り扱いを覚え、
射撃と暗号解読を身に付け、
政治・経済・外交問題を洋書で勉強する。
娯楽も息抜きも何もない生活だ。
それでも、18人は1年間で1人前のスパイになろうと懸命に努力を重ねた。

それから1ヶ月が経過した。
次郎には恋人がいた。
布引雪子(小川真由美)というタイピストだった。
次郎の母(村瀬幸子)も公認する将来を誓い合った婚約者だった。
雪子は、律儀な次郎が1ヶ月も便り一つ寄越さないことを心配していた。
次郎は一体何処へ行ってしまったのだろう。
雪子は、次郎の所属先である陸軍連隊を訪ねてみた。
陸軍連隊でも、次郎の行方は判らないという。
軍隊の受付は役所も同然だ。
誰に尋ねてもうちでは知らない、ヨソを当ってくれとたらい回しにされる。
このままでは埒が明かない。
雪子は、勤めていた貿易会社に事情を話して退職した。
そして、タイピストとして参謀本部に転職した。
雪子は英文タイプが打てるので、参謀本部でも歓迎の人材なのだ。
雪子は、自らを軍内部に身を置いてまで次郎を探し出そうと必死だった。

そんな中も、中野学校では訓練が続いていた。
厳しい訓練に耐え切れずに、次々脱落者が出ていた。
学校生・中西(南堂正樹)は、精神的に追い詰められて自殺していた。
続いて、学校生・手塚(三夏伸)が憲兵に逮捕されるという騒ぎが起きた。
手塚は、バーのホステス・はつ恵(仁木多鶴子)に入れ揚げていた。
交際費を作ろうと仲間の軍刀を売り捌いて、そこから足が付いてしまったのだ。
次郎たち学校生は、手塚に自殺するよう迫った。
中野学校は秘密の存在だ。
このまま手塚が取調を受けたら何もかも公になってしまう。
仲間を裏切った手塚に選択肢はなかった。
手塚は、学校生に迫られるまま軍刀で自殺するのだった。

一方、次郎の行方を探していた雪子は、
前に勤めていた貿易会社の社長・ラルフ・ベントリー(ピーター・ウィリアムス)を通して、悲しい報せを受け取っていた。
それは次郎が秘密裏に銃殺されたというものだった。
ラルフ社長の言うには、次郎は陸軍上層部を批判して戦争反対を進言していたという。
それに怒った陸軍上層部は、次郎を銃殺してこの事件を隠蔽したというのだった。
ショックで項垂れる雪子に、ラルフ社長が訴えた。

「日本の陸軍は酷すぎます。
将来世界を相手に戦争をして、日本を滅ぼす気です。
日本人の本当の敵は陸軍です。
日本の知識階級の人たちは、みんな英国や米国と手を組んで陸軍と闘う決心をしています。
あなたもその仲間になりませんか?
日本の幸福のために。
殺された婚約者の敵を取るために」

中野学校開校から1年が経過した。
成績優秀な3人が、責任者である草薙中佐に呼び出された。
次郎もその1人だった。
草薙中佐は、3人に卒業試験を命じた。
それは、英国外交電報の暗号コードブックを盗み出すというものだった。
初の実践、本物のスパイ活動だ。

次郎は早速計画を立てた。
狙いは横浜領事館だ。
まず、領事館の関係者全員を調べ上げる。
どんな人物が出入りしているのか。
その中から近づけそうな人間がいないか。
領事館の使用人は全員中国人だ。
買収すると、簡単に情報が漏れて来た。
暗号係の無線技士は、オスカー・ダビッドソン(EH・エリック)という男だった。
酒、女、博打、何にでも手を出す遊び人だ。
この男なら突破口になるに違いない。

次郎は、ダビッドソン行き付けのバーに通った。
何度でも何度でも足を運んだ。
偶然を装ってダビッドソンに近付くためだ。
ダビッドソンは、バーに入るとカウンターでマスターと談笑するのが日課だ。
バーに入った次郎は、ダビッドソンを見ると然りげ無く隣りの席に陣取った。
すると、聞こえるともなく2人の会話が聞こえて来た。

「ダビッドソンさん、大分元気がないようですね」
「このところ負け続けだからね。借金で首が回らない」
「またポーカーですか?いけませんね、博打は。止めなさいよ」
「止められるものなら、とっくに止めてる」

おやおや、根っからのギャンブラーのようだ。
次郎は、思い切ってダビッドソンに話し掛けてみた。

「私は元町に店を出している洋服屋ですが。
どうです、私と一勝負しませんか?
ポーカーならアメリカに居た時に病み付きになりましてね。
いつも相手を探しているんですよ。
あなたさえ良かったら、今夜これから如何ですか?」

次郎が誘うと、ダビッドソンは少し警戒しながらも誘惑に勝てずに乗って来た。
次郎は態と大負けしてやった。
持ち合わせでは間に合わず、少々ツケが出来てしまった。
3日後、次郎は英国領事館のダビッドソンを訪ねてツケを払いに行った。
ダビッドソンは疑り深そうな目で次郎を見ていた。

「原口さん、わざと負けたんでしょう?
あなたの身元を調査したんです。
共産党員の君が何故僕に近付くんです?
この領事館から一体何を探り出したいんです?」

食い付いたな。
スパイとバレたら元も子もない。
次郎は、予め入念な準備をしておいた。
次郎が扮しているのは架空の洋服屋ではない。
実在する原口という洋服屋だ。
原口はアメリカ共産党と取引して、少々汚い商売に手を染めている男だ。
本物の原口は警察に手配して身柄を抑えておき、次郎は今原口に成り代わっているのだ。
次郎はギクッと驚いた振りをして取り繕った。

「とんでもない、反対です。
私はあなたに売りたいんですよ。
英国のためになる情報を。
私の店の客に日本海軍の技術将校が二三人います。
作っている戦艦や戦闘機の話をするんですが、
あなたに教えたらカネになると思いましてね。
勿論儲けは独り占めにはしません。
30%を差し上げます」

次郎はそう言ってダビッドソンに封筒を差し出した。
中身は本物の技術情報だった。

後日、原口洋服店にダビッドソンが訪ねて来た。
表向きは背広を仕立てるためだ。
勿論、実際は更なる情報の買い取りのためだ。
ダビッドソンは、今度は航空母艦の技術情報が欲しいと次郎に要求した。
次郎はダビッドソンに背広を仕立てながら、
隙を見て鍵の型を粘土に写し取った。
ダビッドソンはすっかり騙されていた。
次郎が、自国の情報を売り捌いても金儲けを企む商人だと信じ切っていた。

日曜日になると、ダビッドソンは次郎を領事館に招いた。
休日は人気がない。
情報買い取りの打ち合わせをしつつ、ポーカーも楽しもうという段取りだった。
次郎は、言われるままダビッドソンの部屋でポーカーに興じた。
その間に、次郎の仲間が領事館に忍び込んでいた。
仲間は、金庫に保管されたコードブックを探り当て、
マイクロカメラで中身を全て撮影していた。

こうして、次郎たちはまんまと機密情報を盗み出した。
写真は、草薙中佐から陸軍参謀本部に提出された。
これを受け、陸軍参謀本部は徹夜でコードブック解読を進めた。

翌日、陸軍参謀本部の前田大尉(待田京介)が、
中野学校の草薙中佐を訪ねて来た。
御礼でも言ってくれるのかと思いきや、
前田大尉は、写真を草薙中佐に突き返した。

「この暗号コードブックの写真、全然役に立ちません。
お返しします。
英国側は盗まれたとすぐ知って、全面的に電報用暗号を変えました」

草薙中佐は驚愕した。
すぐさま次郎たちを集めて問い質した。
次郎たちの手際に抜かりはない。
コードブックを盗んだ痕跡など何処にも残していない。
漏れる筈がないのだ。
漏れたとすれば、参謀本部以外にあり得ない。

次郎は、漏洩元を調べるために参謀本部に乗り込んだ。
勿論、参謀本部は否定した。
参謀本部は、軍の中でも最も優秀な将校、下士官が選ばれて登用されている。
民間から起用された職員も、全員身元の確かな人間だ。
次郎は、参謀本部の前田大尉に追い返されてしまった。
帰り際、次郎は暗号班の部屋を覗いてみた。
そこで、意外な人間を見てハッと驚いた。
婚約者の雪子だ。
雪子がタイプを打っている。
貿易会社に勤めていた筈の雪子が、どうして参謀本部にいるのか。

次郎は、雪子を調べた。
調べてみると、何もかも次郎が原因だと判った。
雪子は、行方不明になった次郎を探し出そうと参謀本部に潜り込んだ。
そして、次郎が陸軍に殺されたと吹き込まれ、
復讐のためにスパイ活動に身を投じていた。
コードブックの情報も雪子が漏らしたものだった。
元の勤め先だった貿易会社の社長・ラルフはイギリスのスパイだ。
雪子はラルフ社長に乗せられてしまっていたのだ。

次郎は、草薙中佐に報告を入れた。
草薙中佐は、事情を知って次郎を労ってくれた。
しかし、このまま放置する訳にもいかない。
イギリスのスパイを野放しにすれば、日本の情報は駄々漏れになる。
雪子とラルフ社長は、憲兵に逮捕させねばならない。
とは言え、憲兵に逮捕されたらタダでは済まない。
国を売った雪子は、拷問の末に殺されてしまうだろう。
草薙中佐は、雪子だけでも逃がす方法はないかと思案してくれた。
だが、次郎は草薙中佐の提案を拒否した。
雪子を逃がせば、ラルフ社長にも逃げられてしまうからだ。
草薙中佐は、悩んだ末に次郎に指令を出した。

「椎名、どうせ殺されるならお前がやったらどうだ。
その方が女も幸せだろう。
お前の手で死なせてやれ。
苦痛のない毒薬を用い、自殺に偽装してな。
憲兵隊が逮捕に来る前に、雪子さんを連れ出せ」

これを受けて、次郎は雪子のアパートへ向った。
次郎が訪ねてゆくと、雪子は驚いて出迎えた。
そうだろう。
雪子は、次郎が死んだと聞かされていたのだ。

「次郎さん…生きてたの…
酷い、行方も報せないで。
どんなに探したか」

雪子は泣きながら次郎に縋り付いた。
次郎は、雪子を宥めて外へ連れ出した。
その夜は、1年振りのデートだった。
次郎は、雪子をナイトクラブに連れて行った。
店内に流れる優雅な音楽に合せて、2人でワルツを踊った。
雪子は困惑していた。
1年前の次郎は、ワルツなど踊れる男ではなかった。
どう見ても次郎なのに、身のこなしが別人なのだ。
雪子は事情を知りたがった。
1年間一体何処で何をしていたのか。
次郎は「身の上話は明日にしよう」と返事をはぐらかし続けた。
これは夢ではないか。
雪子は確かめるように次郎の体を抱き締めた。

次郎と雪子は、ホテルに部屋を取った。
二人切りになると、次郎はワインを開けて雪子に勧めた。
「今夜、ここで結婚しよう。
このワインで、形ばかりの三三九度の盃をしよう。
固めの杯だ」
雪子はグラスを渡されると、注がれたワインを一気に飲み干した。
それを見届けて、次郎も自分のワインを飲み干して言った。
「おめでとう」
次郎は、雪子にベッドに入るよう促した。
雪子は照れながらベッドに横になった。
「あなたも、早くあたしの側へ来て」
横になった途端、雪子の意識は朦朧としていた。
目を開けていることも出来ない。
猛烈な睡魔が襲って来た。
雪子はそのままガクリと意識を失った。
幸せな気分のまま、深い深い眠りに落ちていた。
そのまま雪子は動かなくなった。
次郎は、雪子の心臓を確かめてみた。
鼓動は停止していた。
次郎は雪子の遺書を偽造して、ホテルを後にした。
心の底までスパイになっていたのだ。
雪子の死は売国活動を苦にしての自殺として処理された。

数日後、中野学校では次郎たち一期生の卒業式が執り行われた。
草薙中佐は、卒業を労って宴席を設けてくれた。

「この中野学校を開いて1年。
苦しい毎日だったが、どうにかやっと今日卒業式に辿り着いた。
みんな良くやってくれたな」

一期生は、最後の晩を仲間と飲み明かして過ごした。
卒業後、次郎は北京に派遣される予定だ。
他の卒業生たちも世界中に散らばってゆくだろう。
草薙中佐は、雪子を手に掛けた次郎のことを特に気に掛けていた。
そして、日本を発つ前に母に会ってはどうかと次郎に勧めてくれていた。
次郎はそれを断った。
「会いません。母は、一人で生きていける女ですから」
任務のために恋人ですら手に掛けた次郎には、
もはや肉親への執着など残っていなかった。
次郎の覚悟を見て取った草薙中佐は、最後に声を掛けた。
「死ぬな。どんな目に遭っても生きてろよ」

次郎は雪子の手帳を焼き捨て、
3日後に支那大陸へと出発していた。

市川雷蔵、小川真由美:陸軍中野学校 [KBS京都]_アナログ

<陸軍中野学校:関連作品>

テーマ:映画紹介 - ジャンル:映画

兵隊やくざ
勝新太郎、田村高廣主演の軍隊映画。
暴れん坊だが憎めない部下の面倒を見ることになった上官が、
部下を庇って板挟みになるうちに強い絆で結ばれてゆくというお話。
様式美を追求した田中徳三監督の「悪名」と違い、
本作の増村保造監督は実にリアルに世界観を捉えている。
白黒映像に獰猛な迫力があり、
軍隊の描写にも説得力がある。
それでいて戦争映画に在りがちな重苦しい雰囲気になることもなく、
娯楽映画に欠かせない軽快さや開放感を忘れない。
主人公を演じる勝新太郎は、
愛嬌たっぷりでバイタリティ溢れており、嵌り役の名演技を見せる。
部下に振り回されながらも男気を通す上官・田村高廣が、これまた格好いい。
今見ても面白い映画なので、機会があれば是非見て欲しい作品。

vlcsnap-2013-12-14-17h47m29s75.jpg

allcinema
MovieWalker
勝新太郎 兵隊やくざ シリーズ 池田博明
狂い咲きシネマロード『兵隊やくざ』
映画評index

<作品データ>
脚本:菊島隆三
監督:増村保造
撮影:小林節雄
公開:昭和40年(1965年)
配給:大映

<出演>
vlcsnap-2013-12-14-17h54m29s182.jpg
大宮貴三郎:勝新太郎

vlcsnap-2013-12-14-18h04m02s11.jpg
有田上等兵:田村高廣

vlcsnap-2013-12-14-18h10m01s18.jpg
黒金伍長:北城寿太郎

vlcsnap-2013-12-14-18h28m32s122.jpg
音丸:淡路恵子

vlcsnap-2013-12-14-18h14m24s93.jpg
中沢准尉:内田朝雄

vlcsnap-2013-12-14-18h13m52s29.jpg
野木二等兵:森矢雄二

vlcsnap-2013-12-14-18h26m57s205.jpg
憲兵:成田三樹夫

vlcsnap-2013-12-14-18h57m02s71.jpg
石上軍曹:早川雄三

vlcsnap-2013-12-14-19h01m31s203.jpg
みどり:滝瑛子

vlcsnap-2013-12-14-19h08m54s19.jpg
桃中軒梅竜:山茶花究

<ストーリー>
昭和18年(1943年)、満州・孫呉の兵舎に初年兵たちが送り込まれて来た。
これから初年兵たちには、この兵舎に寝泊まりして厳しい訓練が課されることになる。

有田上等兵(田村高廣)は、歩兵教育の受け持ちだ。
この兵舎で暮すようになってもう3年になる。
日本から遠く離れた満州には、楽しいことなんて何もありゃしない。
街から外れた荒れ地にポツンと建てられた粗末な兵舎の中で、
来る日も来る日も訓練に明け暮れている。
早いところ満期を迎えて日本に帰りたかった。
そもそも、有田は軍隊が嫌いだった。
上下関係に縄張り意識と、理不尽ばかりが罷り通る世界なのだ。

有田は上官に呼び出され、新たに補充された初年兵たちの説明を受けた。
今回の初年兵の中には要注意人物がいるらしい。
大宮貴三郎(勝新太郎)という男で、元はヤクザの使い走りだという。
軍隊に入った後も、大宮は揉め事ばかり起こしていた。
そこで、上層部はここ満州で大宮を徹底的に教育しようと送り込んで来たのだ。
有田は軍隊は嫌いだが、責任感は人一倍強い男だ。
任されたことはキッチリやり遂げる。
身柄を預けられた以上、大宮を一人前の兵隊に育て上げると上官に約束した。

初年兵の訓練は厳しいものだ。
重い装備を担いで、荒れ地でみっちりしごかれる。
一通り訓練を終えるとみんなヘトヘトだ。
有田は、初年兵たちを労って入浴を許可した。
大宮はじめ初年兵たちは、熱い湯船に浸かって漸く一息付くのだった。

暫くして、有田に報告が来た。
浴場で大喧嘩が始まったという。
慌てて駆け付けると、初年兵たちが傷だらけで倒れていた。
例の大宮も、顔中にアザを作ってぶっ倒れていた。
兵隊たちが浴場で乱闘になったらしい。
原因を確かめてみると、砲兵の先輩が初年兵たちに言い掛かりを付けたのが切欠だった。
大宮は、仲間を庇って数人の先輩相手に闘っていた。
義侠心に駆られての行動だが、これが軍隊では許されない。
増して、相手は管轄の違う砲兵たちだ。
必ずやり返しに来るだろう。

後日、有田の懸念した通りの出来事が起きた。
砲兵隊の黒金伍長(北城寿太郎)が、
「大宮を出せ」と、兵舎に怒鳴りこんで来たのだ。
理由は、すれ違った時に敬礼をしなかったからだという。
言い掛かりも甚だしい。
追い返しても良かったが、大宮本人は責任を取りたいという。
有田は、大宮に付き添って黒金伍長と話を付けることにした。
事前に、有田は大宮に言い含めておいた。
「大宮、軍隊じゃ無理が通って道理が引っ込む。
何を言われても我慢しろ。
絶対に手出しをするな。
何でもいいから謝ってしまえ」

有田が大宮を連れて行くと、黒金伍長は早速噛み付いた。
「貴様は今日俺に敬礼をしなかった。
砲兵隊の制裁を教えてやる」
大宮の顔にビンタが飛んだ。
続いて、黒金伍長は大宮の腹に鉄拳を叩き込んだ。
1発じゃ終わらない。
10何発も叩き込んで来る。
大宮はその間無抵抗のままだ。
1、2発で終わればそれで済ませるつもりでいたが、
ここまでやられると流石に有田も我慢出来なくなって来た。
有田は、黒金伍長を怒鳴り付けた。
「おい、伍長!
お前軍隊の飯を何年食ってる?
たった2年だ。
俺はこの部隊で4年飯を食ってる。
大宮は歩兵、お前は砲兵だ。
お前は大宮の上官じゃない。
何の権利もない。
とすれば、これは制裁じゃない。
決闘だ。
大宮がお前を殴り返しても、上官を侮辱したことにもならず、
抵抗した訳でもない」
有田が目で合図すると、大宮は許可が降りたと知って黒金伍長に掴み掛かった。
喧嘩は得意中の得意だ。
反撃を許された大宮は、あっという間に黒金伍長をぶちのめしてしまった。
黒金伍長は「助けてくれ」と悲鳴を上げた。
勝負ありと見た有田は、「もういい。止めろ」と大宮を制止した。
有田は大宮に兵舎へ帰るよう命じ、引っ繰り返っていた黒金伍長を助け起こした。
黒金伍長は、大学出の元拳闘選手だ。
初年兵にのされたなんて、誰にも知られたくないだろう。
有田は一応黒金伍長に口止めした後、医務室に担ぎ込んでやるのだった。

小競り合いは何とか片付き、初年兵の着任から3ヶ月が無事に経過した。
兵舎での教育は一通り終了だ。
これからは師団演習が始まる。
これがまたキツイ。
8貫(30kg)の荷物を背負い、3日間で70里余り(300km)を行軍する。
どんなタフな男でも音を上げる強行軍だ。
中でも真っ先に落伍の危機に貧したのが大宮だった。
大宮は喧嘩は強いが、歩くのは大の苦手なのだ。
大宮なりに何とかやり通そうと頑張ってはいるが、
もう限界が来ているのは明らかだった。
行軍中、有田は上官に申し出た。
大宮を連れて近道を抜ける許可を下さい。
夜までには野営地に合流します。
有田はいい加減な提案をする男ではない。
また、落伍者が出たら引率者には責任が問われてしまう。
上官は、有田の提案を呑んで大宮と別ルートを行くことを許可してくれた。
有田は、ヘタる大宮を抱き抱えて荒野を進んだ。
道中、大宮は不思議がって尋ねた。
「上等兵殿は何故自分に親切なんです?」
有田は答えた。
「お前みたいなとんでもない奴は、放っとけないんだ」

有田と大宮は、やっとの思いで野営地に辿り着いた。
休憩を取った後、有田は見晴らしのいい丘に登ってみた。
そこからなら日本が見えるのではないか。
そんな気がした。
早く除隊して日本に帰りたい。
有田が物思いに耽っていると、同じく丘に登って景色を眺めていた下士官が歩み寄ってきた。
黒金だ。
もう伍長ではない。
軍曹に出世していた。
「あの時は親切にして貰ったな。忘れんぞ」
黒金軍曹は、そう言って有田を殴り付けた。
元拳闘選手だけにパンチは強烈だ。
有田は滅多打ちにされてその場に倒れこんだ。
黒金軍曹は有田に命じた。
「大宮って奴に、明日の朝6時ここに来いと言え」

翌朝、傷の癒えない有田が大宮に抱えられて例の丘にやって来た
有田は大宮を止めたが、大宮は会って片を付けると言って聞かなかった。
丘に辿り着くと、黒金軍曹の部下たちが周囲を取り囲んだ。
リンチするつもりで待ち伏せしていたのだ。
大宮は1人連中に立ち向かうが、さすがに多勢に無勢だ。
組み伏せられて、殴る蹴るの暴行が始まった。
絶体絶命だ。
そんな時だった
これを見た歩兵の仲間たちが丘に駆け付けて来た。
有田は、こういうこともあろうかと予め助けを呼んでおいたのだ。
人数で不利になった黒金軍曹の部下たちは、途端に引き下がっていった。
大宮は立ち上がると、黒金軍曹に突進して殴り飛ばした。
黒金軍曹が気絶したのを見届けた大宮は、有田に振り向いて言った。
「上等兵殿、これで貸し借り無しです」

こうして何とか今回の騒ぎは収まったが、
有田の歩兵部隊は上層部に大目玉を食らってしまった。
懲罰として、部隊全体に外出禁止が言い渡された。
休みの日に街に遊びに行くのは、兵隊にとって唯一の娯楽だ。
それを取り上げられたら溜まったものではない。
当然ながら、この懲罰を破って無断外出する者が現れた。
その第1号が、何と騒動の原因になった大宮だった。
大宮が兵舎から無断で抜け出したことを知った有田は、
連れ戻しに街へ向った。
大宮は置屋に転がり込んでいた。
相手をしていたのは、将校専用の女郎・音丸(淡路恵子)だった。
音丸は、一兵卒にも関わらず大宮のことが気に入ったらしいのだ。
恋愛は自由だが、大宮は兵隊だ。
このまま見過ごす訳にはいかない。
有田は何とか大宮を説得して兵舎に連れ戻し、
事を荒立てないよう上官の中沢准尉(内田朝雄)に掛け合ってみた。
「私に免じて許して下さい。
昨夜は私の監督が不行き届きだったんです」
有田が部下思いなのは中沢准尉も判っているが、
ここは他の兵隊の手前不問という訳にはいかなかった。
中沢准尉は有田に命じた。
「お前が大宮に制裁を加えろ。
お前が大宮を打ちのめせば他の兵隊も納得する」

こうなると、立場上やらない訳にはいかない。
有田は大宮を呼び出して言った。
「昨夜の事件で、俺がお前を制裁することになった。
俺は制裁は大嫌いだ。
軍隊に入って3年間、殴られたことはあるが殴ったことは一度もない。
しかし、今日は殴る」
有田がこう言うと、大宮も覚悟して答えた。
「分かりました。お願いします」
有田は、大宮に竹刀を振り下ろした。
しかし、続けて叩くことはどうしても出来なかった。
大宮は憎めない男だ。
それに、有田は人を殴るのが大嫌いなのだ。
「もういい。いいから、帰れ」
有田は、そう言って大宮の前から立ち去っていった。
一人残された大宮は、傍に転がっていたレンガを拾い上げて自分の顔を殴り付けた。
このままでは有田の面目が立たない。
軍規違反の兵隊は、上官にこれでもかと殴られるものだ。
大宮は、自分の顔をレンガで何度も殴り付けて傷だらけにした。
顔が腫れ上がると、大宮は中沢准尉に謝りに行った。
中沢准尉は大宮の顔を見て、それだけ殴られたらもう十分だと納得してくれた。
これで有田の立場は助った。
後になってこれを知った有田は、呆れながら大宮に言った。
「バカだな、お前は」

有田と大宮の間に絆が芽生えようとした頃、
またしても兵隊の脱走が発覚した。
今度の脱走者は野木(森矢雄二)という初年兵だ。
野木は気弱な男だ。
大宮のように、置屋に遊びに行くような度胸はない。
軍隊暮しが辛くて、本気で逃げ出したのだ。
これが外部に知れたらタダでは済まない。
兵隊の逃亡は重罪だ。
憲兵に見つかれば、容赦なく殺されてしまう。
有田は、大事になる前に連れ戻そうと部下を集めて探しに出た。
兵舎の周辺は、何もない荒野が広がっている。
逃げたところで野垂れ死が関の山だ。
捜索に駆り出された大宮は、広がる荒野に向って叫んだ。
「おおい、野木~。野木~。生きておれよ~」
その瞬間、銃声が轟いた。
慌てて銃声の場所へ駆けつけると、
そこで野木は自分の頭を撃ち抜いて死亡しているのだった。

結局、野木の自殺は演習中の事故死ということで片付けられた。
死体の確認に来た憲兵(成田三樹夫)は、応対に出た有田に散々嫌味を言って帰って行った。
有田と大宮は、やり切れない思いだった。
休みの日、2人は置屋に上がり込んで無念の野木を思って杯を傾けた。
項垂れる2人を見て、女郎の音丸は気遣ってウニをツマミに出してくれた。
「可哀想にね。
でも、あたし達にはもっとアレな話が山ほどあるわ。
胸病んて死ぬ日の朝まで客取ってた女の子がいた。
あたしだってどうなるか分かりゃしない。
さ、何もかも忘れて遊びましょうよ。
好きなようにして頂戴。
へそ酒でもいいのよ」
音丸はそう言って布団の上に横になった。
へそ酒とは、名前の通りへそに酒を盛ってそれを舐めるという馬鹿馬鹿しい遊びだ。
有田と大宮はこの遊びに興じているうちに、虚しさ以上に怒りが込み上げて来た。
野木が脱走したのは、元はといえば炊事係に殴られたのが原因だ。
炊事班長の石上軍曹(早川雄三)は、荒くれ者で有名だった。

「野木の敵を取ってやる」
大宮は置屋を飛び出すと、息巻いて兵営の炊事場へ殴り込みに行った。
ところが、石川軍曹は意外にも大宮に寛大だった。
ここに殴り込みに来るなんて大したもんだと、
大宮を持ち上げて酒を振る舞い始めた。
こうなると、大宮も悪い気はしない。
酔っ払って、石川軍曹と談笑になってしまうのだった。

後からこれを知った有田は、炊事場へ乗り込んで大宮を連れ戻した。
人のいい大宮は、石上軍曹に騙されている。
炊事場で揉め事を起こすと役得の多い炊事班長を外される。
石上軍曹は、そう考えて場を収めたに過ぎない。
後から必ず報復に来るだろう。
有田は大宮に注意した。
「このままじゃ済まんぞ。
用心しろよ、大宮。
二度と炊事場には来るな」

有田は、やがて来るだろう報復に備えて手を打ち始めた。
まずは、石川軍曹の弱みを握ることにした。
先日置屋に遊びに行った時に、音丸がウニを出してくれた。
高価なものだ。
軍隊からの横流し品に違いない。
有田は、置屋の女郎・みどり(滝瑛子)に会って話を聞いてみた。
石川軍曹は、みどりを贔屓にしている。
みどりは、石川軍曹の秘密を話してくれた。
有田の睨んだ通り、石川軍曹は軍用食を横流しして荒稼ぎしていた。
決定的な弱みを握って、有田は兵舎に引き返した。
丁度、兵舎では大騒動になっていた。
大宮が炊事班長の部下に袋叩きに遭っていたのだ。
有田は、傍らで成り行きを見守っていた石川軍曹に噛み付いた。
「班長、止めさせろ。
止めさせんとお前、軍法会議に掛るぞ。懲役だ。
貴様、砂糖の横流しをやっとるだろう。
俺は証拠を握っておる。
部隊長に差し出したらタダじゃ済まんぞ。
憲兵隊に引っ張られるのが怖かったら、俺の言うことを聞け。
喧嘩を止めさせろ。止めさせんか」
有田に言われて、石川軍曹は渋々部下たちに止めるよう命じた。
「よし、俺が大宮とやる。
一対一の勝負なら文句あるまい、上等兵」
石川軍曹はそう言い捨てて、大宮と取っ組み合いの喧嘩を始めた。
大宮は喧嘩だけは滅法強い。
相手が大勢ならとにかく、一対一なら負けはしない。
さしもの石川軍曹も、頑丈な大宮には歯が立たなかった。
このままでは勝てないと感じた石川軍曹は、
卑怯にもサーベルを抜いて大宮に斬り掛かった。
「大宮!」
有田は危ないと見て、大宮にサーベルを投げて渡した。
大宮はサーベルの闘いでも負けなかった。
とうとう石川軍曹を捻り伏せ、止めを刺そうとサーベルを振り上げた。
「殺すな!」
有田が叫ぶと、大宮はハッと我に返った。
大宮はヤクザの使い走りをしている時に、人を殺したことがある。
組が身代りが立ててくれたので刑務所には行かずに済んだが、そのことをずっと後悔してきた。
もう人殺しはしたくない。
大宮がそんな身の上話をしたのを、有田は覚えていてくれたのだ。
大宮は、有田にサーベルを返して約束した。
「また助けられましたね。今度は自分が上等兵殿を助けます」

こうした中も、戦局は日に日に悪化していた。
兵隊たちは、南方の戦線へ次々送られていた。
ここ満州の部隊も例外ではない。
有田には、任期満了を目前にして即日招集が掛けられた。
やっと終ると思っていた兵役がまだまだ続くと知って、
有田はがっくり来ていた。
やがて、全部隊に動員令が出た。
いよいよ、前線に送られる。
有田も大宮も、部隊全員だ。

出発を3日後に控えた日のことだった。
大宮は有田に囁いた。
「上等兵殿、やりましょう。脱走です。
上等兵殿も軍隊が嫌いでしょう?
いよいよ上等兵殿を助ける時が来た。
ここ半年も考えた計画です。
やれば必ず成功する」
大宮にこう言われて、有田は怯んだ。
脱走は重罪だ。
軍隊から逃げ出したい気持ちはあったが、失敗すれば確実に殺される。
先に慰問団に紛れて逃げ出した兵隊の1人は、敢え無く憲兵隊に捕まっていた。
答えを渋る有田に、大宮は熱い口調で訴えた。
「考えてるんですか?
考えてる時じゃない。やる時だ。
あんたが嫌でも俺がやる。
無理にでもあんたを引っ張って行く。
上等兵、黙って俺に付いて来い!」
有田は、大宮の力強い説得に漸く頷いた。
「ようし、付いて行こう。
俺もお前と別れたくないんだ」

部隊出発の日は大雪だった。
だからと言って出発が中止になることはない。
部隊全員が汽車に乗せられた。
汽車は、雪の荒野を突き進んでいった。
有田と大宮もこの汽車に乗り込んでいた。
汽車が新京に差し掛かろうというところで、大宮が有田に合図した。
「今です」
有田は大宮と共に席を立った。
仲間の兵隊たちは、皆長い汽車の旅に疲れて眠っていた。
2人は先頭車両の機関車に乗り込むと、運転手に拳銃を突き付けた。
「おい、連結器を外せ」
運転手は、言われるままに連結器を切り離した。
客車は置き去りにされ、機関車だけが雪の荒野を疾走して行った。
2人は軍服を釜に投げ入れて、用意しておいた支那服に着替えた。
「部隊の連中が気が付いて騒ぎ出す頃は、この機関車を放り出して何処かの街の中だ」
大宮はそう言って有田に微笑んだ。
有田は、この大胆不敵な計画にすっかり感心していた。
「大宮、シャバで生きる知恵はお前の方がある。
これからはお前が俺の上官だ。
遠慮無く命令してくれ。
何処にでも行く。何でも聞こう。
全くとんでもない奴だ、お前は」
有田に煽てられた大宮は、照れ笑いを浮かべながら呟いた。
「音丸に見せたかったな、この脱走」
2人を乗せた機関車は、煙を上げながら雪の荒野を疾走していた。

勝新太郎、田村高廣:「兵隊やくざ」 [KBS京都] 2012年02月08日 20時00時00秒(水曜日)

<兵隊やくざ:関連作品>



テーマ:日本映画 - ジャンル:映画

悪名
勝新太郎、田宮二郎主演の大映人気シリーズ第一弾。
お人好しだが義理人情に熱い男が、
女郎の足抜けを手助けしてヤクザと大騒動になるというお話。
華やかな東映ヤクザ映画に比べると地味な内容だが、
何と言っても主演の2人が嵌り役で実に活き活き描かれている。
相手役の女優さんたちも綺麗に華を添えており、大映スタッフによる画作りも実に美しい。
話の筋より、キャラクターの描写で楽しめる作品。

vlcsnap-2013-12-07-11h02m07s236.jpg

allcinema
MovieWalker
映画評index

<作品データ>
脚本:依田義賢
監督:田中徳三
撮影:宮川一夫
公開:昭和36年(1961年)
配給:大映

<出演>
vlcsnap-2013-12-06-21h17m30s53.jpg
朝吉:勝新太郎

vlcsnap-2013-12-06-21h01m11s242.jpg
お千代:中田康子

vlcsnap-2013-12-06-21h20m24s10.jpg
琴糸:水谷良重

vlcsnap-2013-12-06-20h36m27s7.jpg
吉岡組長:山茶花究

vlcsnap-2013-12-07-11h47m23s7.jpg
モートルの貞:田宮二郎

vlcsnap-2013-12-06-20h56m09s46.jpg
お絹:中村玉緒

vlcsnap-2013-12-07-16h24m18s242.jpg
お照:藤原礼子

vlcsnap-2013-12-07-17h26m12s32.jpg
おしげ:阿井美千子

vlcsnap-2013-12-07-17h43m05s179.jpg
シルクハットの親分:永田靖

vlcsnap-2013-12-06-21h17m35s112.jpg
麻生イト:浪花千栄子

<ストーリー>
大阪河内の大百姓の息子・朝吉(勝新太郎)は、仲間と闘鶏に興じるのが何よりの楽しみだった。
と言っても、朝吉たちに闘鶏用の軍鶏を飼う余裕はない。
近所の農家から軍鶏を盗んで、それを闘わせて勝った負けたを賭けるのだ。
これが主人にバレてしまい、朝吉は大目玉を食ってしまった。
朝吉は軍鶏を抱えて農家に謝りに行った。
応対に出て来た婦人・お千代(中田康子)は、
悄気返る朝吉を見て笑って許してくれるのだった。

村祭りの日、朝吉はお千代と再会した。
朝吉が挨拶すると、お千代は朝吉の手を引いて人混みから連れ出した。
人気のない納屋にやって来ると、お千代は干し藁の上に横になった。
朝吉が戸惑っていると、お千代は微笑んで囁いた。
「分かってるくせに」
祭りの日は無礼講だ。
二人きりになれば、することは一つしかない。
朝吉は誘われるままにお千代と恋仲になってゆくのだった。

以来、朝吉は暇を見つけてはお千代に会いに行くようになった。
いつものように茶屋の二階で一時を過ごした後、
お千代は朝吉に告白した。
何と、お千代は人妻だという。
その上、朝吉の子供を身籠ってしまったのだという。
このままでは困るので、一緒に駆け落ちして欲しい。
お千代は猫撫声で朝吉に訴えた。
こうなると乗りかかった船だ。
何処までも行くしかない。
朝吉は乗せられるままに、お千代との駆け落ちに付き合う羽目になるのだった。

朝吉とお千代は、伝手を頼って温泉旅館に住み着くことになった。
お千代は芸者になり、御座敷で客の接待に追われる毎日が始まった。
ところがどうも様子が変だ。
身籠ったと言っていた筈のお千代のお腹がちっとも膨らんで来ないのだ。
騙された。
朝吉は漸くそれに気付くと、温泉旅館を飛び出して行くのだった。

故郷に戻った朝吉は、仲間たちと再会して憂晴らしのために遊郭へと繰り出した。
飲んで騒いで何もかも忘れてしまおう。
御座敷が盛り上がる中、1人浮かない表情の女郎がいた。
気になった朝吉は、女郎に話し掛けてみた。
その女郎の名は、琴糸(水谷良重)といった。
身の上を訊いてみると、父の借金のカタに売られて来たばかりなのだという。
助けてやりたいところだが、朝吉に見受け料が払えるはずもない。
早いところ借金が返せるといいねと、琴糸を慰めるしかなかった。

遊郭で一夜を明かした朝吉は、翌朝仲間に叩き起こされた。
仲間の1人が騒ぎを起こして、近隣一帯を取り仕切る吉岡組が激怒しているという。
朝吉は、仲間の代表として吉岡組の組長に詫びを入れに行った。
吉岡組長(山茶花究)は、臆せず乗り込んで来た朝吉の気っ風が気に入ったらしい。
揉め事はチャラにするから、俺の子分にならないかと誘いを掛けて来た。
朝吉は博打打ちで女好きだが、弱い者いじめをするヤクザは大嫌いだった。
なるつもりはなかったが、誘いを断ると八つ当りで他の子分が殴り飛ばされてしまう。
朝吉は「客人」の名目で吉岡組の誘いを受けることにした。
朝吉の世話係には、吉岡組の舎弟・モートルの貞(田宮二郎)が充てがわれた。

貞は、朝吉が博打打ちだと知ると持て成しだと賭場に案内した。
そこで大勝負を打って小金を作ると、朝吉は遊郭に引き返した。
昨日の女郎・琴糸に会うためだ。
琴糸は、また会いに来てくれたと朝吉の訪問を喜んだ。
もうこんな暮しは嫌だ。
連れて逃げて欲しい。
琴糸はそう言って朝吉に泣付いた。
朝吉は少し前に女に騙されたばかりだ。
にも関わらず、頼られると断れない性分だった。
仕方なく、朝吉は琴糸を連れて遊郭を逃げ出すのだった。

これを知った吉岡組長は狼狽えた。
借金のカタである女郎の足抜けを手伝ったりしたら、
対立する松島一家が黙ってはいない。
吉岡組長は、迎え入れたばかりの朝吉をさっさと追い出してしまった。
これに憤慨したのが貞だった。
少し同行しただけだが、朝吉の男気の良さには惚れ込んでいた。
それに引き換え、吉岡組長の何とだらしないことか。
やばい相手とは衝突したくないと慌てふためく割に、子分には居丈高に威張り散らす。
いい加減愛想を尽かした貞は、吉岡組を飛び出して朝吉に付いて行くことにするのだった。

朝吉と貞は、琴糸を預けておいた家に引き取りに出向いた。
応対に出て来た娘たち・お絹(中村玉緒)とお照(藤原礼子)によると、
琴糸は故郷へ帰って行ったのでもう大丈夫だという。
一応安心した朝吉と貞は、お絹とお照の勤めているというすき焼き屋で打ち上げすることにした。
席上、貞が仁義を切ろうとすると朝吉は嫌がった。
「仲良しの兄弟でええやないか、な?」
朝吉にそう言われて手を握られると、貞の顔が綻んだ。
やっぱり俺の見込んだ通りだ。
貞は増々朝吉に惚れ込んで、一生この人に付いて行こうと心に決めるのだった。

その夜、朝吉はお絹を、貞はお照を連れて旅館に泊まり込んだ。
一風呂浴びた朝吉がお絹に抱き付くと、
お絹は紙と筆を差し出した。
「一冊入れて欲しいわ。そやないと嫌。
あなたを一生の妻にします。書いて」
朝吉が言われるままに筆を入れると、お絹はやっと納得して朝吉と抱き合うのだった。

翌朝、朝吉と貞の元に吉岡組が松島一家に襲われたという報せが入った。
松島一家は琴糸の身柄も抑えて、朝吉を探して息巻いているという。
一連の騒動は、元はと言えば全て朝吉から始まったことだ。
責任を感じた朝吉は、琴糸が売り飛ばされたという瀬戸内海・因島に乗り込むことを決意した。

貞と共に因島にやって来た朝吉は、まずは聞込みして島の勢力関係を調べてみた。
シルクハットの親分(永田靖)と呼ばれる男が、この島の顔役らしい。
こいつと話しが付けば何の問題もないが、そう容易くはいかないだろう。
遊郭から琴糸を連れ出すしかない。
因島は周りを海に囲まれている。
ここから逃げ出すには、舟の手配が必要だ。
増して、女郎を連れて逃げたとなると遊郭を取り仕切るヤクザが大挙して追い掛けて来る。
朝吉は用心のために貞とは別宿を取り、
女将・おしげ(阿井美千子)に頼んで漁師の舟を手配した。
決行の夜、貞は客を装って遊郭に乗り込んで琴糸を連れ出した。
朝吉と合流し、手配しておいた舟に乗り込むと一行は沖に漕ぎだした。
ところが、暫く漕ぎ出したところで逆潮に呑まれて舟は立ち往生になってしまった。
手漕ぎの舟なので、とてもじゃないが本土に辿り着けそうにない。
一行は諦めて島の宿に戻るしかなかった。

間もなく、居所が知れて宿に親分たちが押掛けて来た。
覚悟を決めた朝吉が拳銃を抜くと、宿の大主・麻生イト(浪花千栄子)が一同を諌めた。
宿で刃傷沙汰を起こしたら客が寄り付かなくなってしまう。
イトに啖呵を切られた親分は、ここは譲って引き返すことにした。
朝吉たちの身柄は、当分イトが預かることになった。

朝吉がイトに事情を打ち明けると、
イトは1週間の猶予をやるから話を付けて来なさいと一同を開放した。
最後にイトは念押しした。
「約束に背いたらただ置かないよ。
あたしはね、シルクハットの父ちゃんとはちょっとばかり訳が違う。
子分も2千人からいるんだからね」

こうして朝吉、貞、琴糸の3人は因島を出て大阪に戻った。
例のすき焼き屋に入って、さてどうしたものかと思案に暮れていると、
女給のお絹がやって来て接客を始めた。
お絹は琴糸を見て挨拶した。
「初めてお目に掛かります。
わて、この人の家内のお絹で御座います」
琴糸はギクリとこれに驚いた。
朝吉と一緒になれる。
そう思って今まで付いて来たのだ。
まさか、朝吉に妻がいるなど思ってもみなかった。
琴糸は朝吉と二人になると、途端に泣き出した。
「あんまりです。あんな人がいるなんて。
あたし、何のために苦労して逃げて来たのか判らない。
判りません」
こう言われると、朝吉も返す言葉がなかった。
琴糸が慕ってくれているのは分かっていたが、
お絹という女房がいることはつい言いそびれていた。
朝吉は琴糸を何とか宥めて、東京に出てやり直すよう説得した。
ひとしきり泣いた後、琴糸は漸く吹っ切れたのか駅へと歩いて行った。
朝吉は最後に琴糸に声を掛けた。
「お糸はん、幸せに暮らすんやで。気を強う持ってな」

さて、琴糸を送り出してしまえば朝吉には大仕事が待っている。
因島に戻って、イトに詫びを入れねばならない。
朝吉は、イトとの約束を破って琴糸を逃してしまったのだ。
朝吉はイトに頭を下げて詫びを入れたが、
はいそうですかとこれで納得してくれる筈もなかった。
「それでは約束が違うやないか。
ワシ等の約束事はどういうことか、知ってるだろうな?
この麻生イトに楯突くつもりで戻って来たのか?
女やと思って見縊ったな。
ワシに逆ろうた人間はどういうことになるか、お前はんなら覚悟は出来てる筈や。
さ、ワシについて表へ来い!」
イトは朝吉を海岸へ連れ出した。
「さ、そこへなおれ。
血反吐吐くまでこのステッキを受けるのじゃ」
朝吉が正座すると、イトは朝吉をステッキで殴り付けた。
朝吉は歯を食いしばってそれに耐えた。
殴られても殴られても朝吉は音を上げなかった。
暫く殴り続けた後、イトはステッキをポイと朝吉に投げ捨てた。
「ワシ、お前に負けた。
今にええ男になるやろ。
名も売れる男になるで。
起きられたらな、このステッキに縋って帰れ」
イトはこう言い捨てて海岸から立ち去っていった。
傷だらけになった朝吉は、ステッキをへし折って呟いた。
「これで借りは返したで。
名が売れるか。
そんなもん、どうせ何にもならん悪名やないけ。
ワイは勝ったんやで…ワイは」
朝吉は立ち上がることも出来ず、海岸にひっくり返っていた。
足元には、冷たい波が打ち寄せていた。

勝新太郎、田宮二郎:「悪名」 [KBS京都] 2013年12月04日 20時00分00秒(水曜日)

<勝新太郎:関連作品>

テーマ:日本映画 - ジャンル:映画

純喫茶磯辺
宮迫博之主演のヒューマンコメディ。
高校生の少女が、喫茶店を開業した父親と従業員の恋路を見守るというお話。
作りが丁寧で、地味な内容をじっくり楽しめる。
長回しを多用した独特の間があるので、2時間弱の長尺を退屈せずに見ていられる。

vlcsnap-2013-12-02-18h56m07s195.jpg

MovieWalker
allcinema

<作品データ>
脚本・監督:吉田恵輔
公開:2008年

<出演>
vlcsnap-2013-12-02-19h11m00s173.jpg
磯辺裕次郎:宮迫博之

vlcsnap-2013-12-02-18h59m55s183.jpg
磯辺咲子:仲里依紗

vlcsnap-2013-12-02-19h26m15s107.jpg
菅原素子:麻生久美子

vlcsnap-2013-12-02-19h06m39s127.jpg
麦子:濱田マリ

vlcsnap-2013-12-02-19h13m11s190.jpg
江頭:近藤春菜

vlcsnap-2013-12-02-19h24m05s87.jpg
柴田:斉藤洋介

vlcsnap-2013-12-02-19h24m34s110.jpg
本郷:ミッキー・カーチス

vlcsnap-2013-12-02-19h25m00s130.jpg
小沢:ダンカン

vlcsnap-2013-12-02-19h26m30s6.jpg
安田:和田聰宏

vlcsnap-2013-12-02-19h20m42s92.jpg
咲子の級友:

<ストーリー>
女子高生・磯辺咲子(仲里依紗)は、父・磯辺裕次郎(宮迫博之)と団地で2人暮しをしている。
母は、数年前に離婚して家から出て行ってしまった。
咲子は現在母に代って父の身の回りの世話や家事をこなし、平凡な高校生活を送っている。

そんなある日、入院中だった祖父が急死したという連絡が入った。
祖父は結構な額の遺産を残してくれたらしい。
相続した父・磯辺は、それ迄勤めていた水道工事会社をあっさり退職して、
商売を始めようと喫茶店開業の準備を始めた。
テナントを借り受け、室内を改装し、飲食店営業の資格を取り、
バイトの従業員も雇って、瞬く間に喫茶店がオープンした。

「純喫茶磯辺」と名付けられたその店が、今日から新たな城だ。
とは言え、磯辺は喫茶店経営のことなど丸で判らない素人だ。
やっとコーヒーが入れられる程度の腕前で、
時々入って来る客の接客に慌てふためく毎日が始まった。
咲子はそんな父に頼まれて、仕方なく店を手伝うのだった。

開業から暫く経った頃、店に美人の客・菅原素子(麻生久美子)が入って来た。
やもめ暮しの磯辺は、素子に一目惚れしたらしい。
店の携帯ストラップを手渡して御機嫌を取り始めた。
帰り際、名残惜しそうに見つめる磯辺を振り返って素子は突然切り出した。
「ここって、バイトの募集とかしてないですか?」

素子がバイト志望だったことが判ると、磯辺は渡りに船とこれを快諾した。
元いた従業員・江頭(近藤春菜)は、もっと時給のいいバイトがあると口実を付けて追い出してしまった。
すっかり素子にデレデレの磯辺に、娘の咲子はヤキモキさせられるのだった。

喫茶店経営は回転率が命だ。
開業から数日経過したというのに、店には中々客が入らない。
咲子と素子は、磯辺に命じられて駅前でビラ配りをしてみた。
笑顔でビラを差し出してみても、通行人たちは中々受け取ってくれない。
たまに受け取る人がいても、目の前で捨てられてしまう。
暫く我慢して配り続けていると、咲子の級友たちが声を掛けて来た。
「咲子、どうしたの?」
級友たちに悪気はないのだが、咲子は恥ずかしくて堪らなかった。
時間が来たと言い訳をして、咲子はその場から逃げ出してしまうのだった。

ビラ配りでは埒が明かない。
そこで、磯辺の提案で従業員に制服を採用することが決まった。
ミニスカートの派手なコスチュームだ。
咲子は絶対嫌と拒否したが、素子はあっさりこれを受け入れて客引きと接客を始めた。
これが思わぬ大当りだ。
閑古鳥の鳴いていた店内に、ミニスカ目当ての客たちが次々押掛けてきた。
磯辺、咲子、素子の3人は、大わらわで接客に追われるのだった。

やがて、店に常連客が生まれた。
1人目は、何故か出身地の話題に拘る男・柴田(斉藤洋介)。
2人目は、変に貫禄があるので店長に間違えられる男・本郷(ミッキー・カーチス)。
3人目は、何かと素子に言い寄る男・小沢(ダンカン)。
何れもちょっとした変り者たちだ。
そんな中、また新たな常連客が店に居着いた。
安田(和田聰宏)という物静かな二枚目で、いつも何かの書物をしていた。
気になった咲子は、安田に何を書いてるのか尋ねてみた。
何と、小説を書いているという。
小説家の先生が店の常連になったと、咲子は大喜びだ。
ところが、磯辺は気に入らない様子だ。
コーヒー1杯で何時間も粘る上に、素子とも親しげに会話するので頭に来ていた。
「あいつは絶対ロリコン糞野郎だ」
磯辺は、影で咲子に囁いた。
父の心ない一言に、咲子はそんなことあるもんかと猛反発するのだった。

後日、いつものように安田が店に来たので咲子が接客に出ると、安田が話し掛けて来た。
女子高生を題材にした小説を書いているので、詳しく話が聞きたい。
一度うちに来てくれませんかという誘いだった。
咲子は、少々戸惑いながらもこれを承諾した。

約束の日、咲子は安田のアパートを訪ねて行った
男の1人暮しなので、室内は殺風景だ。
咲子が部屋に通されたところで、電話が鳴り響いた。
安田が出ている間、咲子は何の気なしに本棚を覗いてみた。
どんな本を書いているのだろう。
すると、本棚の中に妙なものが隠されていることに気付いた。
確かめてみると、中身はカメラだった。
慌てて室内を確かめてみると、そこら中に隠しカメラが仕込まれていた。
何かするつもりだ。
危険を察知した咲子は、安田に適当な言い訳をしてアパートから逃げ出した。
危なかった。
父の言っていた通りだ。
最低の男だ。

傷心の咲子は、携帯で父に電話を掛けた。
父は何だか上の空のようだ。
また素子を前に、ポカンと見惚れているのだろう。
咲子は何も言い出せないまま携帯を切った。

翌日、咲子は別居している母・麦子(濱田マリ)のアパートを訪ねて行った。
誰かに話を聞いて欲しかった。
麦子は、スナックのホステスをしながら1人暮しをしている。
母を前にすると、咲子は気不味くて中々言いたいことが言えなかった。
母は自由人だ。
拘束を嫌って気儘に生きている。
咲子は、中々出て来ない自分の言葉を懸命に絞り出して母にぶつけた。
「ねえ、あのさ。
もう一度3人で暮したりって、あれかな。
駄目なのかな」

その夜、咲子は居酒屋に足を伸ばした。
磯辺と素子は、店を閉めた後にここで1杯引っ掛けるのが日課だ。
咲子が店に来たのに気付くと、磯辺は隣の席に咲子を座らせてくれた。
磯辺は素子が元カレに殴られたと聞いて、色々相談に乗っているようだ。
磯辺がトイレに立つと、咲子は素子と二人きりになった。
素子は気を使って咲子に何かと話し掛けて来た。
「咲子ちゃんって、彼氏とか好きな人とかいるの?
よくお店に来る安田さんだっけ、あの小説家の。
あの人のこと結構気に入ってない?
何かいい感じかなと思ったんだけど」
触れられたくないことを触れられて、咲子はぶっきらぼうに答えた。
「はぁ?何よ。何言ってんのよ」
咲子の態度は挑戦的だ。
会話が続かない。
気不味い沈黙が続いた後、咲子が素子に切り出した。
「あのさ、お父さんとさ。何か、あんまいい関係にならないで欲しいんだ」
それを受けて素子が「そんなことないよ」と取り繕うと、咲子は大声で怒鳴り付けた。
「うっせーよ!
あれだ。彼氏がさ。殴る気持ち凄い判る。
素子さんてさ、人の気持ちさ、全然分かんないでしょ」
言われた素子はグサッと来た。
元カレに同じことを言われたことがあったのだ。
暫くして、磯辺が席に戻って来た。
磯辺はまた元のように雑談を開始した。
素子は、それを受けながら突然告白を始めた。
「お客で、小沢さんっているじゃないですか。
あの人と、この間やっちゃいました。
やっちゃったんです。
誘われて、何となく断れなかったっていうか。
駄目だなって思うんですけど。
まあ、ヤリマンなんで」
このあっけらかんとした告白に驚いた磯辺は、二の句が継げなかった。
実はこの日、磯辺は指輪を用意していた。
求婚するつもりだったのだ。
完全に固まった磯辺を前に、素子は終電が近いと言ってそそくさと出て行ってしまうのだった。

翌日、純喫茶磯辺にいつもの営業時間がやって来た。
昨日の告白が堪えたのか、磯辺はずっと口数が少なかった。
そんな店内に、例の小沢がやって来た。
素子が注文を取りに行くと、小沢は素子の手を取ってさすり始めた。
それを見て頭に来た磯辺は、小沢の頭を小突いた。
怒った小沢が立ち上がり、取っ組み合いの大喧嘩が始まった。
店は大混乱だ。
間もなく、通報を受けた警察が駆け付けて磯辺は逮捕された。
連行されてゆく磯辺に、素子が声を掛けた。
「あの、あたしこの店もう辞めますね」
磯辺は放心状態で答えた。
「うん、そうしてくれる?」

こうして素子は店を辞めていった。
元の従業員・江頭が呼び戻されて、喫茶店は営業を再開した。
数日後、咲子は学校からの帰り道に素子に呼び止められた。
これから実家のある北海道に帰ってやり直すという。
咲子は喫茶店に帰ってこれを父に報告した。
父は、ああそうと無関心を装って答えた。

その日、咲子は店のゴミ出しをしながら素子を思った。
素子さんは、毎日重くて汚いゴミ出しをせっせとやってくれてたんだ。
居酒屋で、あんな態度を取らなければ良かったかな。
父と母の復縁を邪魔される気がして、素子さんに酷い八つ当りをしてしまった。
あの時、素子さんは自分を気遣って父に嘘を付いたのかもしれない。
どうして、父と素子さんの仲を応援してあげなかったんだろう。
咲子の心に後悔ばかりが募っていった。

素子さんを引き留めよう。
そう思い立った咲子は、店を飛び出して空港へ走った。
すると、猛スピードの自転車が咲子を追い抜いていった。
父だ。
強がっていた父も、本当は素子さんのことが気になっていたんだ。
咲子は安心して父の自転車を見送った。

結局、父は素子さんには会えなかったらしい。
暫くして父は、汗だくになって店に帰って来た。

一年後、咲子は街でばったり素子に出会した。
素子は大きなお腹を抱えていた。
2人は公園のベンチに腰を下ろすと、互いに近況を報告しあった。
素子は、北海道には帰り損ねて今はJR職員といい仲なんだという。
素子は、咲子に店や父はどうなのかと尋ねた。
店も父も変わりないと言って、咲子はベンチから立ち上がった。
「お腹の中の赤ちゃん、元気に育つといいね」
咲子がそう気遣うと、素子は笑顔で頷いてくれた。

実は、店も父も変わりないというのは大嘘だった。
喫茶店は暫く前に閉店している。
咲子は、久し振りに空きテナントになった喫茶店跡に行ってみた。
窓には板が貼り付けられ、中には椅子や机が転がっている。
見ていると、咲子は何だか泣けてきた。
「こんな恥ずかしいお店、なくなって本当に良かった」
そう思いながらも、懐かしくて寂しくて仕方なかった。
ここに父の店があったんだ。
咲子が物思いに耽っていると、自転車に乗った父が丁度通りがかったらしく咲子に声を掛けた。
「おい、何してるの。お父様ですよ。嘘、泣いてた?」
咲子は慌てて涙を隠した。
さっき素子さんに会ったと父に言い掛けて、咲子は慌てて口を噤んだ。
「何だよ?気になるから言えって」
知りたがる父を差し置いて、咲子は駆け出して行った。
父はいつもの親父ギャグを飛ばしながら、咲子を追い掛けて来るのだった。

宮迫博之、仲里依紗:純喫茶磯辺 [テレビ大阪] 2013年10月31日 25時05時00秒(木曜日)

<仲里依紗:関連作品>

テーマ:日本映画 - ジャンル:映画



プロフィール

rps1979y

Author:rps1979y
※映画・ドラマの粗筋紹介は、
オチまで記してあるので御注意下さい。
管理人への連絡先はこちら

最新記事

カテゴリ

リンク

このブログをリンクに追加する

Amazon検索

楽天検索

楽天で探す
楽天市場

買物履歴

ブログランキング