色々鑑賞録
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父からの手紙
檀れい主演の2時間サスペンス。

小さな料理店を経営する母娘に、11年前に女と蒸発した父から手紙が届く。
身勝手な父からの一通の手紙が、やがて母娘の運命を大きく変えてゆくというお話。

普通のサスペンスを期待するとかなり裏切られる。
一応謎解きもあるが、サスペンスというよりヒューマンドラマの側面が強い作品。
終盤は、出演者の演技が見応えあり。

※2014年3月3日(月)午後1時からテレビ大阪「午後のサスペンス」枠で再放送されます。
以下に一応粗筋は紹介しますが、これから視聴する予定の人は予備知識無しで見て下さい。

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テレビ東京
ぎふチャン
テレビドラマデータベース

<番組データ>
脚本:金子成人
初回放送:2007年12月23日
地上波放送:テレビ東京「水曜ミステリー9」
挿入歌:松任谷由実

<出演>
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阿久津麻美子:壇れい

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阿久津歌子:竹下景子

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阿久津伸吉:大杉漣

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秋山圭一:杉本哲太

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秋山和夫:村田雄浩

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秋山みどり:渡辺梓

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犬塚義明:本田博太郎

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ラーメン屋の親父:梅津栄

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堀越弘子:松本麻希

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ミチヨ:川上藍子

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檀れい(高校生)

<ストーリー>
阿久津麻美子(壇れい)に、29歳の誕生日がやって来た。
今年も、麻美子には父からの手紙が届いた。
中身は、麻美子の幸せを願う父の想いを綴ったありふれたものだ。
こんな手紙が毎年届く。
父・阿久津伸吉(大杉漣)が、女を作って蒸発してからもう11年になる。
毎年欠かさず手紙だけは届くが、以来顔も見たことがない。
今頃一体どうしていることやら。
麻美子は、母・阿久津歌子(竹下景子)にそんな話を振ってみた。
今年の手紙には切手も消印もない。
ポストに直接投函して行ったらしい。
父は、相手の女性と上手くいってないのではないか。
麻美子がそう心配すると、母・歌子は知るもんですかと吐き捨てた。
母の怒りは、今も収まっていない。
身勝手な父が家を出てから、平穏だった麻美子の家庭はすっかり変わってしまった。
一家の大黒柱を失った母娘は、現在小さな料理店を経営して生計を立てている。
元々父が残した店舗に加え、
離婚後送られて来た3000万円の慰謝料が元手になった。
常連客が根付き、こうして何とかやり繰り出来るところまで漕ぎ着ける道程は決して平坦ではなかった。
今日も母娘で厨房に立ち、接客とレジに追われる忙しい生活だ。

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麻美子には、好意を寄せてくれる人が居た。
秋山圭一(杉本哲太)という店の常連客だ。
麻美子も、圭一のことは好きだった。
それとなく、結婚の打診をされたこともある。
しかし、麻美子は中々圭一との結婚には踏み切れずにいた。
仲良しだった夫婦が、一夜にして断絶する。
両親の悲劇を見て以来、男というものにどうしても不信感が拭えなかった。

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後日、麻美子の元に再び父からの手紙が届いた。
誕生日以外に父の手紙が届くのは異例だ。
内容もまた異例であった。
「秋山圭一を信用してはならない。父」
ただ、その一文だけだった。
父は、麻美子と圭一の交際を知っている。
すぐ近くで娘の無事を見守っている。
そして、圭一に警戒心を抱いている。
一体、父は何処に居るのだろう?
何故、圭一が信用出来ないのだろう?
麻美子の疑念は膨らんでいった。

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その朝、麻美子はテレビのニュースに見覚えのある顔が写っているのに気付いた。
元刑事の私立探偵・犬塚義明(本田博太郎)が、変死体で発見されたという報道だった。
この犬塚という男は、麻美子に父の行方を尋ねに来たことがあった。
父とは連絡を取っていないと説明しても、しつこく押し掛けて来た妙な男だ。

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続いて、麻美子の元に今度は現職の刑事が訪ねて来た。
やはり、父の行方を捜しているという。
犬塚の手帳に父の名前が出ていたので、どんな関係だったのか話を訊きたいらしい。
麻美子は、正直に答えた。
父とは連絡を取っていない。
しかし、犬塚には父の行方を尋ねられたことがある。
それを聞くと、刑事は詳しい話が知りたいから後で警察署に来て欲しいと言って帰って行った。

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警察署へ出向いた麻美子は、思わぬ人物と出会した。
交際相手・圭一であった。
圭一も、捜査への協力のために呼び出されたのだという。
要件は、圭一の兄に関することらしい。
麻美子は、圭一の話を聞いて初めて知った。
圭一の兄は、数年前に焼身自殺しているのだ。
麻美子は、改めて自覚した。
恋人のことを何も知らなかったことを。

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それにしても、焼身自殺とは一大事だ。
麻美子は、図書館に手配して当時の新聞記事を取り寄せてみた。
調べてみると、それらしい記事が見つかった。
電器店経営・秋山和夫(村田雄浩)が、
自宅に放火して焼身自殺したという何ともやり切れない事件だ。
麻美子からその話を聞いた母・歌子は、はっと驚いた。
思い当たることがあるという。
未だ離婚する前、父はたまたま出ていた先で阪神淡路大震災に遭遇した。
その時、命を救ってくれた恩人が秋山和夫さんだと父がしきりに感謝していたのを思い出したのだ。
まさか、恋人の兄と父の恩人が同じ人とは。
では、圭一はそのことを知っていたのだろうか?
麻美子との出会いは偶然なのだろうか?

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麻美子は、その事件について知ろうと付近で聞き込みをしてみた。
すると、増々嫌なことが分かって来た。
圭一の兄・和夫が焼身自殺に追い込まれた原因は、
妻・秋山みどり(渡辺梓)と弟・圭一の不貞だというのだ。
圭一さんが、お兄さんの奥さんと?
俄には信じられない話だった。

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麻美子は、圭一に直接問い質してみた。
圭一は、麻美子の父と圭一の兄が10年来の知り合いであることを知っていた。
では、兄の妻・みどりとの不貞は本当なのか?
それに関しては、圭一は強く否定した。
妻・みどりの不倫相手は別にいるという。
兄に頼まれて妻・みどりの素行調査を手伝ったことがあるので、
それだけは間違いない。
相手は、手首に火傷のある男だった。
圭一は、麻美子にそう説明した。
ただ、麻美子の店に足を運ぶようになったのは偶然ではなかった。
理由は、兄・和夫の死の真相を知るためだった。
圭一は、私立探偵・犬塚を通して知った。
兄・和夫を殺したのは、妻・みどりと麻美子の父・伸吉であると。
事件後降りた保険金で、2人は今ものうのうと暮している。
そんな話を、犬塚に吹き込まれたのだ。
そこ迄聞いた麻美子は、圭一の元から複雑な胸中で立ち去った。

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麻美子は、自宅で考えを整理してみた。
手首に火傷のある男。
料理人だった父の特徴と一致する。
まさか、父が圭一の兄・和夫を焼身自殺に見せ掛けて殺したというのか?
和夫の妻・みどりと共謀して。
そして、今度は秘密を嗅ぎ付けた私立探偵・犬塚まで殺したのか?
あり得ない。
麻美子は、頭の中でその考えを打ち消した。
麻美子の知っている父は、誠実で真面目な人だった。
でも…でも…、そんな父が私と母を捨てて女に走った。
どうして?
麻美子は、毎年律儀に届く父の手紙を全部保管していた。
手紙の中の父は、娘への愛情溢れるあの父のままだ。
どうしても、2つの父が重ならない。
一体どういうことなの?

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麻美子は、腹を決めた。
父を捜す。
会って確かめる。
手掛りは、毎年届いた手紙だけだ。
消印は、富山に集中している。
駆け落ち相手が圭一の義姉・みどりだとすれば、
その線から居場所を突き止められるかもしれない。
麻美子は富山に飛んだ。
1つだけ目星がある。
父の手紙の消印には奇妙な点があった。
消印のある街は富山のバラバラの場所だ。
しかし、何故か梅津市だけがない。
ひょっとして、居場所を知られまいと梅津市からの投函を敢えて避けていたのではないか。
だとしたら、父は梅津市に居ることになる。
麻美子は電話帳を辿り、写真を見せて回って聞き込みを繰り返した。
そして、それらしい名前に辿り着いた。
堀田伸吉。
圭一の義姉・みどりの旧姓が堀田だ。
みどりが和夫との籍を抜いて、父と結婚すれば辻褄が合う。

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麻美子は、堀田伸吉の住所に行ってみた。
家の前まで来たところで、麻美子は耳を澄ませて中の様子を伺ってみた。
小さな娘さんがいるらしく、中からは家族団欒の楽しげな声が聞こえて来た。
いきなり押し掛けていったら、この平和な家庭が壊れてしまう。
麻美子は、日を改めることにした。
妻・みどりは、昼間は美容院で働いている。
そのタイミングを見計らって会いに行くか。

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翌日、麻美子は母・歌子に電話を掛けて富山に呼び寄せた。
交際相手・圭一も加わり、3人は堀田家の応接間に通された。
応対するのは、圭一の義姉・みどりとその夫・堀田伸吉であった。
堀田伸吉は、麻美子の知る父ではなかった。
その人物は、圭一の兄・和夫であった。
そう、焼身自殺で亡くなった筈のあの和夫だ。
堀田伸吉こと秋山和夫とその妻・みどりは、麻美子と歌子を前に深々と頭を下げた。
この日が来るのを予期していたようだ。
そして、12年前の真相を打ち明けた。

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阪神淡路大震災の日、和夫は瓦礫に埋もれた一人の男を救出した。
それが阿久津伸吉、つまり麻美子の父であった。
以来、2人の間には命を通した絆が生まれていた。
半年後、和夫の元に再び伸吉が現れた。
伸吉の要件は、ただの御礼ではなかった。
それは、危険な挑戦への協力を求めるためのものだった。
伸吉は、膵臓癌で余命半年を宣告されていた。
そこで、和夫に成り済まして自殺させて欲しい。
ただし、それで降りる保険金は自分の家族にも分けてやって欲しい。
つまり、保険金を目当てにした偽装自殺だ。
当然、和夫は反対した。
それは良くない。
最期まで家族と共にあるべきだ。
和夫は難色を示したが、伸吉はそれに猛然と反論した。
「治る見込みがあるなら別の考えもあります。
でも、私が死ねば家族は住む所も店も失います。
妻の父親に見込まれて婿に入った私には、恩があるんです。
それに、私は恩人であるあなたの家族も救いたいんです」
あなたの家族とは、当時身籠っていた和夫の妻・みどりのことであった。
和夫夫婦は震災の負担で借金漬けとなり、とても子供を産み育てる余裕はなかった。
それを知った伸吉は、保険金を使って両方の家族を救う手を思い付いたのだ。
余命半年の自分の命を犠牲にして。
新しい生命のためにも、この計画を受けて欲しい。
伸吉は、和夫に熱く頼み込んだ。
和夫とみどりの夫婦は、悩みに悩んだ挙句にこの申し出を受けることにした。
2人もまた、追詰められていたのだ。

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決行の夜、、和夫は灯油を被って倉庫に飛び込んだ。
そして、倉庫の中で伸吉と入れ替わった。
和夫が無事逃げおおせたのを確認した伸吉は、
そのまま焼身自殺を敢行して偽装自殺を完成させたのだった。
その後、保険金を受け取った和夫・みどりの夫婦は、富山で身を潜めて伸吉の名前で暮し始めた。
受け取った保険金の半額は、伸吉からの慰謝料の名目で麻美子と歌子に送っていた。
これが真相であった。

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話を聞いた麻美子と歌子は、言葉を失った。
毎年届く父からの手紙は、父が生前書き溜めたものを和夫が投函したものだった。
麻美子が20歳になったらこの手紙、30歳になったらこの手紙、
麻美子が結婚したらこの手紙、子供が出来たらこの手紙、それが延々と続き、
最後は麻美子が50歳になる分まで用意されていた。
では、「圭一を信用するな」という警告の手紙は誰からなのか?
それは、和夫が筆跡を真似て偽造したものだった。
和夫は、お金を送った後も麻美子と歌子の無事を定期的に確認していた。
そんな中、弟・圭一が麻美子に近付いたことで秘密の発覚を恐れたのだ。
私立探偵・犬塚を殺害したのも和夫であった。
犬塚は、私立探偵とは言っても実態は人の弱みを探して金を強請るタカり屋だ。
伸吉の偽装自殺を嗅ぎ付けて脅迫に来たところで、和夫と揉み合いになって殺してしまったのだ。
どうして人殺しまで?
麻美子がそう尋ねると、和夫は答えた。
「私には、法律よりもどんなことよりも阿久津さんとの約束が一番大事だったんです。
秘密を知られてはならない。
残された奥さんとお嬢さんを護り抜くこと。
それが、死んでいった阿久津さんへの私なりの約束だと思っていましたから」

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伸吉の遺骨は、和夫の名義で墓地に埋葬されていた。
麻美子と歌子は、その墓に参って手を合わせた。
11年振りの、思ってもいない再会であった。

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それから暫くが過ぎた。
麻美子と歌子は、和夫が犬塚殺しの容疑で自ら警察に出頭したことを知った。
2人の元には、伸吉が残した手紙が残らず郵送されて来た。
2人は、その封を切って中を確かめてみた。

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麻美子の結婚祝。
『結婚おめでとう。
君ならきっといい奥さんになり、いい家庭を築いていける筈だ』

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麻美子の出産祝。
 『とうとう君も母親か。父さんも感慨無量だ。
お前が産まれた日、父さんは胸の底から喜びが泉のように湧いてきたのを覚えている。
君と人生を一緒に過ごすのかと思うと嬉しくてならなかった。
それなのに、父さんの勝手な理由で家を出てしまい、本当に済まないと思っている。
でも、父さんはいつでも君達と一緒に居る』

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麻美子50歳の誕生日。
『麻美子、50歳の誕生日おめでとう。
父さんは、もう手紙を書くことも出来なくなりました。
これが、最後の手紙になるでしょう。
父さんはあなたと一緒に暮らさなかったけど、とても幸せでした。
こうやって、あなたに手紙を書くことで心が結ばれているからです。
ただ謝らなければならないのは、あなた方を捨てて私が家を出て行ってしまったことです。
きっと、父さんを恨んだことでしょう。
出来ることなら、父さんはあなたや母さんと一緒に過ごしたかった。
何時かの手紙に、父さんには夢がある、一番大事な夢、命を賭けた夢があると書きました。
覚えているでしょうか?
今、そのことを伝えることが出来ます。
父さんの夢は、あなたや母さんの幸せでした。
その夢が実現し、父さんはとても嬉しい。
今、父さんは重い病気です。
父さんはもうすぐこの世からサヨナラするでしょう。
もう来年から、父さんの手紙は届きません。
でも、父さんはきっとあの世から2人の幸せを願い、そして2人を守っていくつもりです。
でも、どうしても2人に会いたくなったら……
麻美子は覚えていますか?
あなたの10歳の誕生日の何日か後、母さんと花見に行きました。
中学に入学した日も、高校に入学した日にも、桜を見に行きました。
舞い落ちる花弁を手にした時のあなたの笑顔を忘れません。
そうだ、父さんは2人に会いたくなったら春を待てばいいのだ。
麻美子の誕生した春を待てば、花弁となって2人に会いにいける。
これが最後の手紙です。さようなら。
父より』

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読み終えた麻美子と歌子は、泣くしかなかった。
「お父さんは、あの時これしか道は無かったの?」
「馬鹿ねえ」
「そうだけど」
「やっぱり生きてて欲しかった」
「この11年、お母さんもあたしも本当は居ないお父さんの蜃気楼見てたのね」
「蜃気楼?」
「お母さん、お父さんはやっぱりあたし達のことを見守っていてくれたのね」
何処迄も不器用で馬鹿な父。
そんな父が、究極の馬鹿で2人を守ろうとしていた。
偽装自殺。
それは間違っていたのかもしれない。
しかし、2人は最早父を責める気にはなれなかった。

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麻美子と歌子は、またいつもの生活に戻った。
小さな料理店は、朝からずっと忙しい。
麻美子は、父が残したレシピを手にして今日も厨房に立つのだった。

檀れい、竹下景子:父からの手紙 [テレビ大阪] 2011年11月18日 13時00時00秒(金曜日)

<原作:小杉健治>


テーマ:テレビドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

共犯
高島礼子主演の2時間サスペンス。

母の愛人を殺害した女が、記憶喪失の男と同居生活を始める。
男は殺人現場の目撃者だった。
女が口封じをするのが先か、男が記憶を取り戻すのが先か。
同居生活を送るうちに、女と男は奇妙な絆で結ばれ葛藤するというお話。

火サス常連脚本家・宇山圭子による、これぞ火サスというダークなサスペンス。
定番メニューをじっくりコトコト煮込んだかのような出来栄え。
軽快さやコメディ色を排した、重たい火サスが好きな人にお勧めの作品。

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日本テレビ:火曜サスペンス劇場
DMMレンタル
テレビドラマデータベース

<番組データ>
脚本:宇山圭子
初回放送:2002年2月12日
番組名:日本テレビ「火曜サスペンス劇場

<出演>
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三橋杏子:高島礼子

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高木良介:石黒賢

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高木理恵:床嶋佳子

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城野:阿知波悟美

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橋本刑事:四方堂亘

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三橋志律子:内田春菊

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谷刑事:鼓太郎

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助手:伊藤葉子

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インタビュアー:胡桃沢ひろこ

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辻警部:益岡徹

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藤原みのり:水野久美

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蓮見慎太郎:平泉成

<ストーリー>
新進気鋭の料理研究家・三橋杏子(高島礼子)は、
ゴミ捨て場に巣食うカラスを見るのが大嫌いだった。
浅ましく残飯を漁る真っ黒なカラス。
その姿を見ていると、丸で自分の悍ましさを見せ付けられている気がした。

杏子は、最近師匠から独立したばかりだ。
師匠・藤原みのり(水野久美)は、杏子の独立に猛反対だった。
今では、口も聞いてくれない。
それでも、杏子は独立した。
新しい夢を追って、自分の可能性に賭けた。
そんな矢先のことだった。
杏子の運命は今、暗転に差し掛ろうとしていた。

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料理研究家である杏子にとって、
テレビのレギュラーを持つことは大事な収入源であった。
当然スポンサーの意向には逆らえない。
その日、杏子はスポンサー専務の呼び出しを受けて別荘を訪問した。
挨拶、それが表向きの口実だった。
この日会う専務・蓮見慎太郎(平泉成)は、杏子にとって因縁の相手だった。
杏子は、母子家庭で育った。
母・三橋志律子(内田春菊)は、数年前に亡くなっている。
生前、母は金持ちの愛人をしていた。
その金持ちというのが、今回呼び出された蓮見専務であった。
別荘は、閑静な海辺にあった。
周囲には人っ子一人居ない。
そんな場所に女が1人で乗り込めば、何を要求されるかは察しが付いていた。
それでも、杏子は別荘に行った。
杏子にも、蓮見専務とは会わねばならない理由があったのだ。

別荘に行くと、杏子は料理を振る舞うと称してキッチンに立った。
案の定、蓮見専務はもう待ち切れないと杏子の体に抱き着いて来た。
その瞬間、杏子は持っていた包丁で蓮見専務を刺し殺した。
この男だけは、どうしても生かしておけない。
ボロ雑巾のように捨てられたボロボロの母の姿が、杏子の脳裏に蘇っていた。
殺害後、杏子は室内の指紋を全て拭き取った。
あたしがここに来たことは、誰も知らない。
誰にも見られてない。
その筈だった。

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翌日、杏子の元に見知らぬ男から電話が掛かって来た。
思わず耳を疑う内容だ。
「三橋杏子、新進気鋭の料理研究家。
スポンサーのお偉いさんを咥えこんで、出世したらサヨナラか?
伊豆の別荘。本宮商事の蓮見のことだよ。
取り敢えず500万。後は出世払いでも相談に乗るよ。
こっちには殺しの証拠があってね。
断ればもっと高く付くことになる」
男は、待ち合わせ場所と時刻を指定すると一方的に電話を切った。
どうして?
何故知ってるの?
この男は一体何者なの?

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杏子は慌ててお金を作った。
そして、指定の喫茶店で男を待った。
あの口調だと、これからもずっとタカられるだろう。
しかし、今の杏子にはどうしようもなかった。
取り敢えず、500万を都合して何とかするしかない。
今の料理研究家の地位を手に入れるまでに、どれだけ苦労したことか。
むざむざ手放す訳にはいかなかった。
1時間経ち、2時間経ち、男は中々現れなかった。
杏子は、相手の顔が分からない。
この男か、それともこの男か。
杏子は、周囲に目を光らせた。
しかし、いつ迄経ってもそれらしき男が現れない。
結局、杏子は閉店時間まで待ち続けたが男は現れず終いだった。

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翌日、杏子の携帯が鳴った。
例の男からだった。
「三橋杏子さんだろ?助けてくれないか?
あんただけが頼りなんだ」
昨日とは打って変わって、妙に弱々しい口調だ。

杏子は、男が待っているという近くの公園に走った。
その男(石黒賢)は、何故か顔に傷を負っていた。
まだ新しい。
訊くと、昨夜チンピラに暴行されて頭を打ったので自分が誰なのか分からないのだという。
ポケットを探ると杏子の名前と電話番号を記したメモが見つかったので、
取り敢えずこうして掛けて来たらしい。
男は、杏子に問掛けた。
「あんた、俺のこと知ってるんだろ?俺の名前、何ていう?」
杏子は、男の所持品を確かめてみた。
持っているのは、鍵と小銭だけだ。
身元に繋がるものは何もない。
鍵は2種類あった。
片方は恐らく自宅、もう片方はコインロッカーらしい。

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取り敢えず、杏子は男を自宅マンションへ連れ帰って説き伏せた。
暫くここで匿ってあげる。
大人しくしているのよ。
そう言って男を安心させると、杏子はロッカーの鍵を手に駅へ走った。
昨夜、あいつが言っていた殺人の証拠。
それがロッカーに隠してあるに違いない。
一刻も早く処分しなければ。
しかし、ロッカーに入っていたのは証拠らしきものではなかった。
男の日用品だけだ。
その中から、男の手帳が見つかった。
高木良介。
それが、この男の名前だ。

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杏子は、早速高木の身元を洗った。
高木はカメラマンだった。
妻・高木理恵(床嶋佳子)とは別居している。
現在はアパートを借りて1人暮しだ。
杏子は、そのアパートに行ってみた。
もう1つの鍵は、やはりこのアパートの鍵だった。
部屋の中には、フィルムと現像器具が散乱していた。
高木の言っていた証拠とは、盗撮写真に違いない。
探せば必ずある筈だ。
プリントに、ネガ。
部屋中を引っ繰り返すと、京子の睨んだ通り盗撮写真が出て来た。
バッチリ撮られている。
外から望遠で、あの別荘を盗撮していたらしい。
杏子は、自分の写っている写真を全て焼き捨てた。
これで大丈夫。
物証は消えた。
後は、高木をどうするかだけだ。
高木が記憶を取り戻す前に、何らかの手を打たねばならない。
別居しているとは言っても、高木には奥さんが居る。
足が付く前に始末しないと。

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高木の身元を洗っているうちに、更に詳しい人物像が浮かび上がってきた。
高木は、かつて期待された雑誌カメラマンだった。
数年前、高木はある男の収賄現場を写真に収めた。
一世一代の大スクープであった。
しかし、写真は公表されることなく闇に葬られた。
誰かが、裏から手を回したのだ。
同時に高木は突如として雑誌社を解雇され、不安定なフリーカメラマンに転向した。
その世紀のスクープ写真とは、当時通産官僚だった蓮見慎太郎を抑えた写真だったらしい。。
そう、杏子が殺害したあの蓮見専務だ。
以来高木は蓮見専務を酷く恨んで、今では転落するままの人生だったという。
カメラマンとは名ばかりの、借金取りから逃げ回るその日暮しだ。
アパートの名義も偽名だった。
記憶喪失の原因は、どうやらその借金取りに暴行されたことのようだ。
杏子は、何だか複雑な気分にさせられていた。
高木も、蓮見専務を恨んでいた。
あたしと同じように。

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杏子は、脅迫相手であるにも関わらず何故か高木のことが憎めなかった。
しかし、杏子自身は日に日に追詰められていた。
その日、杏子のマンションに刑事が訪ねて来た。
その刑事・辻警部(益岡徹)は、杏子に警察手帳を見せて質問した。
金曜日の午後何処に居たか?
杏子は、家に居たと惚けた。
金曜日の午後と言えば、蓮見専務の殺害時間だ。
何とか平静を装って答えたが、生きた心地がしない。
すると、辻警部は妙なことを杏子に尋ねた。
「クルミは、どういう料理に使うんですか?」
クルミと言えば、あの日蓮見専務に出そうとした料理だ。
全部持ち帰って処分した筈だ。
どうして、刑事がそんな事を訊くんだろう。
ひょっとして、あの時何処かに落としたのを見落としたのか。
杏子は、震える声でその場を誤魔化した。
「私のレシピに、クルミは使いません」
それを聞くと、辻警部は御協力ありがとうと言って帰って行った。
もう駄目、バレる。
プロの刑事に嗅ぎ付けられるのは時間の問題だ。

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杏子は、高木をドライブに誘い出した。
ハンドルを握りながら、杏子は思案した。
どうやって殺す?
崖にでも連れて行って、そこから突き落とそうか。
中々決断出来ない杏子は、
いつの間にかかつての生家に車を走らせていた。
みすぼらしい長屋だ。
いい思い出なんて1つもない。
母は、蓮見専務に捨てられた後完全に家事を放棄した。
杏子はいつもお腹を空かせて冷蔵庫の野菜を噛っていた。
丸で残飯を漁るカラスのように。
杏子が料理研究家を志したのはそれが理由だ。
ずっと、美味しい家庭料理に憧れていた。

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結局、杏子は決断出来なかった。
仕方なく、その日はホテルで一泊してお茶を濁すことにした。
杏子と高木は、部屋のテレビを付けて驚愕した。
蓮見専務殺害事件の容疑者・高木良介が、指名手配されたというニュースが流れているのだ。
自分の顔がテレビに出ているのを見て、高木は思わず漏らした。
「俺は、人殺しなのか?」
高木は、杏子のバッグを引っ手繰って中身を調べた。
中から蓮見専務の写真が出て来た。
高木は杏子の肩を揺さぶって問い詰めた。
「この写真、何処で見つけた?俺の部屋か?
さっき部屋に来た男、刑事なんだろ?
どうして庇う?何で警察に突き出さなかったんだ?
俺の部屋に連れて行ってくれ」

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杏子は、高木に請われるまま再び車を走らせた。
高木は誤解している。
蓮見専務を殺したのは自分だと勘違いしている。
殺したのは、あたしなのに。

2人の車は高木のアパート前に辿り着いた。
高木は、杏子を残して1人でアパートに入って行った。
もし、刑事が張り込んでいたらすぐ逮捕される。
だから、俺1人で行くと言い残して。

アパートに入った高木は、放置されていたカメラを手に取った。
その瞬間、高木の頭の中で欠落していたピースが次々組み上がっていた。
カメラ、スクープ、蓮見専務……
かつて敏腕カメラマンだった俺が、こんなに迄落ちぶれた理由。
蓮見専務の収賄写真を抑えた直後、
自宅に押し入った男たちが妻を暴行して、写真もネガも根こそぎ持ち去ってしまった。
あれが切っ掛けだ。
以来夫婦仲も暮しも崩壊し、俺は蓮見専務を恨むだけの人生に落ちていた。
そして、俺はあの日蓮見専務の別荘へ行って……

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杏子は、車中で高木を待った。
中々帰って来ない。
痺れを切らした杏子は、アパートに入ってみた。
高木は、放心状態でその場に立ち尽くしていた。
「思い出した?」
杏子が尋ねると、高木は力無く首を振った。
高木は杏子に振り返って、何故か妙なことを言い出した。
「海が見たいな。あんたと海が見たい」

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杏子の車は、高木の注文通り見晴らしのいい海辺に辿り着いた。
もう、夜が明けていた。
切り立った崖のある、お誂えの場所だ。
高木は、車を降りて自分から崖に歩いて行った。
背中はガラ空きだ。
警戒している様子はない。
杏子は高木の後ろを歩きながら、今か今かとタイミングを見計らっていた。
高木を殺したら、あたしは助かる。
警察は、高木の死を自殺として処理する。
杏子の震える手が、そろそろと高木の背中に伸びていった。
もう少しというところで、杏子の手が止まった。
出来ない。
杏子は、涙声で高木に告白した。
「 あなたじゃない、蓮見を殺したのは。
あなたは、あたしを脅迫しただけ」
すると、高木は静かに杏子に振り返った。
「俺は、蓮見が死ぬのを黙って見てた。
助けを呼ぼうともしないで、奴を見殺しにした」
高木の目を見た杏子は、全てを悟った。
「記憶が戻ってたのね?」

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杏子と高木は、再び車を走らせた。
ハンドルを握るのは、記憶の戻った高木であった。
高木は、車中で杏子に尋ねた。
「どうして背中を押さなかった?
俺は蓮見を恨んでいた。
いつか、蓮見に復讐したかった。だが、何も出来ない。
女としけ込むところを盗み撮りして、恨みを晴らすことしか思い付かない。
そんな男だ。
挙句に、蓮見の財布を盗んであんたからも金を強請ろうとした。
記憶が戻ったらこのザマだ。生きる価値もない。
あんたになら殺されてもいい。そう思ってた」
杏子は、重い口を開いた。
「蓮見は、母の愛人だった。
蓮見は、あたしの体を触りながら……あたしは、母と同じだって。
あんな母と一緒にされた」
杏子は、母のことが嫌いだった。
ずっと憎んできた。
男にだらし無く、挙句の果ては娘に食事を作ることですら放棄したあの母が。
「あたしは、母を憎むことで強くなった。
母が死んだ時だって、涙も出なかったわよ!
あの日、あたしが殺したのは蓮見だけじゃない。母のことだって……」
涙ながらの杏子の告白を、高木は静かに否定した。
「違う。あんた、母親が好きだった。好きでいたかった。
愛されたかったんだ。
ご飯よって呼んで欲しかったんだろ。
笑って欲しかった。
温かい飯、2人で食いたかった。そうだろ?」
高木は、杏子の手を取った。
「この手、マニキュアも付けないで頑張って来たんだろ?
それは嘘じゃない。
料理は……あんたの作る料理は、あんたそのものなんだ」
高木は、杏子にこのままテレビの収録に出るよう勧めた。
高木自身は、警察に出頭するという。
「俺達は、共犯なんだ」

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杏子は、高木を車から降ろした。
そして、1人になると車中から携帯を掛けた。
そのまま、杏子の車は警察署に走り去って行った。

高島礼子、石黒賢:共犯 [テレビ大阪] 2014年01月08日 13時00分00秒(水曜日)

<高島礼子:関連作品>


テーマ:日本テレビ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:23話(最終回)
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23話「輝ける愛の奇跡」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城小百合:大場久美子

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磯崎志乃:奈月ひろ子

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長谷川千草:藤代美奈子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保小夜子:梶芽衣子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
過疎の村で陶芸家への夢を追い掛ける青年・結城司(松村雄基)は、再び新作製作に没頭していた。
司は、師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)に前作を厳しく酷評された。
そのショックは大きく、司は自殺寸前にまで追い込まれていた。
そんな司を救ったのが、心に慕う恋人・水穂薫(南野陽子)からの手紙であった。
今、司は巨大な挫折を乗り越えて不死鳥の如く蘇ろうとしていた。

司は、長谷川の指摘を冷静に思い返してみた。
盲目の司は、色や模様に強烈な渇望があった。
だからこそ、目を引く美しさを誇る色鍋島に拘った。
それが、そもそもの間違いだった。
目が見えないのに色や模様を追い求めるのは、長谷川の指摘通り邪念なのだ。
見えないからこそ拘るべきもの。
それは、自分自身の手だ。
手が覚えている感触、温もり、それを表現するのだ。
司が選ぶべきモチーフは1つしかなかった。
薫だ。
薫を描くこと。
それが、俺の心なのだ。
そう悟った司は、漸く自分の道に開眼した。
そして、寝食を忘れて陶器製作に没頭する毎日を再開したのだった。

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司が薫を描こうとしている。
それを誰より喜んだは、当然ながら薫であった。
薫は、今も「口の利けないおばさん」を装って司を手伝っていた。
無言で黙々と作業を手伝いながら、薫は心の声で司に訴えていた。

『ありがとう。大声で叫び出したい衝動を、薫は必死に抑えていた。
愛されている。
自分がこの人を愛しているように、この人も自分を世界中の誰よりも愛してくれている。
薫は、今その愛を全身で感じ取っていた』

薫は人気のない山に向って大声で叫んでいた。
今は亡き母・マキ水穂を思って。
「ママ、ママ聞いて。私はとうとう本当の恋を掴んだわ。
ママ、ママは愛は奪い取るものだと言ったわね。
でも、私は奪い取ろうとはしなかった。
ただ、愛し抜くことだけに賭けたのよ。
そして、今私は確かな手応えを掴んだわ。
例え、このまま一生言葉を交わすことがなくても、
あの人と私は永遠に1つになったのよ。
ママ、私は幸せです。本当に幸せです。ママ、ママ……」
薫の声は、澄み渡る大空に掻き消されていった。

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その頃、薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)は、
数日前のショッキングな出来事から塞ぎ込む毎日を送っていた。
同棲している恋人・磯崎高志(石橋保)は、
いつ迄も悄気返る恵美子に嫌気が差したのか、このところ中々家に帰って来なかった。
恵美子は、1人アパートで途方に暮れていた。
かくも恵美子を追い込んだ原因とは、
父・久保哲也(若林豪)に浴びせられた冷たい言葉だった。
「未だ居たのか?さっさと東京へ帰れと言った筈だ。
第一、私の体がどうなろうと恵美子とはもう何の関係もない筈だ。
恵美子、お前が家を出て高志君と一緒になった時、私は親子の縁を切ると言った筈だ。
忘れた訳じゃあるまい。
それを、今更私の病気に託けて戻って来ようとしてもそうはいかん。
お前は、もう私の娘ではないのだ。
出て行け。2度と私の前に顔を見せるな!」
入院中の父を看病しようと見舞いに行った日、恵美子はこう言われて病室を追い出された。
幼少期からいつも優しく可愛がってくれた父が、信じられない剣幕だった。
確かに、高志の元へ走った時には父と喧嘩になった。
疎遠になることも覚悟していた。
でも、病に倒れた今の父からここ迄罵倒されるとは思ってもみなかった。
もし、このまま父が亡くなったら私は親の死に目にも会えないの?
恵美子は胸が締め付けられた。
どうしたらいいのか分からない。
この苦しい状況で、親身になって恵美子の相談に乗ってくれる人は1人しか居なかった。

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恵美子は、親友・薫と再会した。
恵美子の話を聞いた薫は、いつもの強気な薫であった。
「恵美子さん、あなた今一番愛している人は誰なの?
高志さん?それともパパ?
いい?今あなたにとって一番大切なことは、何があっても高志さんを愛し抜くことなのよ。
その為にパパと一生会えなくなったとしても、
あなたが取るべき道は高志さんとの愛を貫き通すこと以外にないわ。
迷うのは止めなさい。
あなたが高志さんと幸せな家庭を築くことが、結局は御両親にも……
そうよ、おじ様もそう願ってあなたを追い返したんだわ。
そうよ、そうに違いないわ」
恵美子の目から涙が溢れると、薫のハンカチがそっと拭き取った。
「さあ、もう泣き虫は卒業しなさい。
幸せってことは、きっと自分の賭けた愛を疑わずに生きていくことだわ。
あなたのパパは、きっとそのことをあなたに言いたかったのよ」
薫に励まされた恵美子は、力強く頷いた。
「分かったわ。私今度こそ全てを捨てても高志さんとの愛を貫いて見せるわ」
今日も薫さんに救われた。
恵美子は御礼を言った。
そして、帰り掛けたところでふと薫を振り返った。
この人には、言っておくことがある。
「ねえ、一度だけ言わせて。
ありがとう……お姉さん」
恵美子の言葉を聞いて、薫は笑顔で応えた。
飛び切りの笑顔だった。

『妹よ。薫は心の中でそう呼びかけていた。
同じ父の血を命とし、それぞれの母の愛を糧とし、同じアリエスの星の下に生まれた妹よ。
今、あなたは自分の人生を自分の手でしっかりと切り開いていこうとしている。
幸せに。幸せに。血を分けた愛しい人よ』

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『数日後、薫は母の命日に墓参に訪れた』

薫の母・マキ水穂の墓前に、跪いて祈りを捧げる男が居た。
薫の父・久保であった。
体調が回復して仕事に復帰し、それに伴って墓参りに来たらしい。
薫は、久保に続いて花を供えた。
天国の母に祈る薫を見て、久保は静かに問い掛けて来た。
「君は、口の利けないお手伝いのおばさんとして彼の面倒をみているそうだね。
それで、本当に幸せなのか?
彼は、一生君に気付かないかもしれないんだよ。
それで本当に満足出来るのか?」
薫の心に、迷いは無かった。
「満足です。あの人は、今全てを忘れて陶芸に没頭しています。
その為に私の存在が邪魔なら、私は空気のような存在になってあの人に尽くすしかありません。
私だって、以前はもっと激しく燃え上がる恋に憧れていました。
でも、今は違います。
愛する人の側に居て、黙って尽くしてあげる。
それだけで十分に満足なんです。
私は、今あの人に一番相応しい愛し方をしていると信じています。
だから、私は満足だし最高に幸せです」
薫の曇りなき眼を見た久保は、今の問掛けが愚問であることを悟った。
そんな久保を気遣って、薫は恵美子のことを話して聞かせた。
久保は、先日娘を病室から追い返したと気に病んでいるに違いない。
恵美子さんなら大丈夫。
あなたの気持ちを判っています。
必ず、高志さんと立派な家庭を築いてくれます。
薫がそう言うと、久保は手を握って感謝した。
薫は、最後に一言付け加えた。
「だって、恵美子さんは私のたった1人の妹なんですもの」

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薫が立ち去った後、久保は改めてマキ水穂の墓に語り掛けた。
「マキ、あの子の目を見たか?
恋をして、その恋に全てを打ち込んでいる直向な目だ。
そう、昔の君と同じように。
私のもう1人の娘・恵美子もそうだ。
もう、私達が口出す時じゃない。
私達の愛の結晶である娘達が、またそれぞれの愛を育て始めているんだよ」

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それから暫くが過ぎた。
工房で陶芸に没頭する司の前に、2人の訪問客が現れた。
1人は旧友・高志。
もう1人はかつての師匠・長谷川であった。
高志の訪問目的は、結婚式を挙げるので是非出席して欲しいという招待だった。
そう、恵美子が妊娠したのだ。
司は、絶対出席すると高志を祝福した。

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続く長谷川の訪問目的は、
良質な粘土が手に入ったから御裾分けに来たというのが一応の理由だった。
しかし、本当の理由は司にある決断を促すためであった。
それは、司が別れを決断した薫のことについてであった。
長谷川は、司の胸中を見抜いていた。
愛する人に苦労を掛けたくない。
それが故に、敢えて薫と別れたことを。
長谷川は、それは間違いだと司に諭した。
「薫さんにとって最大の幸福は、愛するお前の側に居てお前のために尽くすことだ。
その為の苦労など、いや、その苦労こそが彼女の喜びなんだ。
人は時として愛する者のために死ぬことさえ、喜びと感ずることが出来る。
それが本当の愛なんだ。
お前は薫さんの為に死ねるか?」
それを受けて、司は自問自答した。
俺は、薫のために死ぬことが出来るか?
その問掛けには、断言出来る。
「死ねます」
人は、愛する人のためなら死をも厭わない。
今の司の心境は、正にその境地に達していた。
長谷川は、死ねると断言した司に最後の言葉を送った。
「だったら、彼女と一緒になれ。
お前にとって、共に生き、共に死ぬことに喜びを感じる人間は、
水穂薫をおいて他にはおらんのだぞ」

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その晩は、司の皿作りの最終工程であった。
色や模様ではない薫そのものを描いた皿が、いよいよ窯焚きに掛けられるのだ。
燃え盛る炎の中に皿を差し入れた後、
司は窯を封印して焼き上がりを待った。
熱が冷めて取り出せるようになるのは、夜明けになってからだ。
司は、窯の前で一夜を明かすつもりでいた。
作業を手伝う薫も、今夜はそれに付き合って夜明かしする覚悟だ。
薫と司は、窯の前に腰を下ろして時を待ち続けた。
いつかのように、熱いコーヒーを啜りながらだった。
"口の利けないおばさん"を装う薫は、心の声で司に語り掛けていた。
「司、あなたとこうしてコーヒーを飲みながら一晩過ごしたことがあったわね。
あの頃の私は、未だ幼くて愛の深さなど知ることもなかったわ。
愛する人の側にこうして黙って座っているだけで、
ただそれだけで安らぎを感じる女になるなんて、想像もしていなかった。
あなたは、今何を考えているの?
焼き物のこと?大介君のこと?それとも、私のことも少しは……」
薫の気持ちを知ってか知らずか、司は星空の話を始めた。
薫の運命の星、アリエスについてだった。
「星、見えますか?今夜もいい天気なんでしょ?
牡羊座は分かりますか?アリエスって言うんだそうですね。
アリエスの星の下に生まれた女性は、不幸に身を投げ激しく生きる。
それがアリエスの運命とか。
でも、俺はそんなことは信じない。
例え、不幸に身を投げても激しく愛を貫く者にはきっと幸せが訪れる。
俺はそう信じたいんです」
口の利けない薫は、手拍子で相槌を打った。
薫は困惑していた。
そして、心の声で問い掛けていた。
「司、あなた一体何を言いたいの?
丸で私が……そう、水穂薫が隣に居るみたいに」

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夜明けが来た。
いよいよ窯開きだ。
窯の入り口を封印していたレンガを外し、2人は中から皿を取り出した。
それは、神秘的な青い光を放つ皿だった。
一目見た薫が、思わず溜息を漏らしそうになる程の会心の作だった。
司は、皿を触って慎重に出来栄えを確かめた。
「これだ。この肌だ。
憧れ続け、心に思き描き続けた、あの滑らかな……お前の肌だ。
薫、薫、お前はここに居る!」
司は、薫の手を取った。
薬品で焼いて誤魔化した筈の、ボロボロの薫の手だ。
薫は、とうとう禁を破った。
「知ってたの、司?」
その問掛けに、司は感極まって頷いた。
「途中から、薄々そうじゃないかと感じていた。
だが、そうまでして俺に尽くしてくれるお前の気持ちを考えると言い出せなかった。
いや、どう言葉を尽くしてもお前の気持ちに報いることが出来ないと思ったんだ。
たった1つだけ俺に残された道は、この手で、この見えない目で、
お前の肌を焼き物に映し替えることだけだった。
そして、今俺は遂に……
ありがとう、薫。長い間、本当にありがとう」
司は、薫の手を愛おしそうに頬に寄せた。
「薫、俺はもうこの手を一生離したくない」
司の目から、涙が溢れていた。
薫も思わず答えた。
「離さないで、司。この手も心も一生離さないで。愛してるわ、司」
薫は、司の胸に飛び込んだ。
擦れ違っていた2人の心は、たった今1つになっていた。
「薫、愛してる。お前を心から愛してる」
薫は、涙が止まらなかった。
「司!」
薫は、力一杯司を抱き締めた。
司も、薫を抱き締め返した。
未だ肌寒い夜明けの中で、2人はいつ迄も熱い抱擁を続けるのだった。

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その日、教会にメンデルスゾーンの結婚行進曲が鳴り響いた。
新たに生まれた夫婦の門出を祝福するために。
挙式を挙げるのは、恵美子と高志の夫婦であった。
ウェディングドレスに身を包んだ恵美子は、誰もが見惚れる美しさであった。
バージンロードで恵美子の手を引くのは、父・久保であった。
久保は、娘の結婚式に駆け付けたのだ。
会場の人々は、拍手を送った。
高志の母・磯崎志乃(奈月ひろ子)、
司の師・長谷川、その娘・長谷川千草(藤代美奈子)、
恵美子の母・久保小夜子(梶芽衣子)、
それに、恵美子の姉・薫と、その恋人の司。
牧師から、恵美子と高志に誓いの文言を詠み上げられた。

「愛とは求めて得られるものではなく、与えてこそ初めてその深さを知ることが出来るのです。
労り合い、励まし合い、慈しみ、高め合ってこそ、愛しているといえるのです。
愛そのものに形はありません。
しかし、姿形の無い愛というものこそ、この世の中で一番確かなものなのです」

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客席でそれを聞いた薫と司は、互いに手を取り合った。
そして、自分達の未来を思い描いた。
満天の星空の下で、純白のドレスに身を包んだ薫と司の姿が瞼に浮かんだ。
私達にも、そんな日が来る。
教会の片隅で、もう1組の夫婦が産声を上げようとしていた。
同じアリエスの星の下に生まれた薫と恵美子の恋は、今満開に咲き誇っているのだ。

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『今、確かな愛が実を結ぼうとしていた。
そして、もう一つ。
激しく燃え、苦しみ、そして、遂に勝ち取った愛があった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第23話) [サンテレビ] 2014年02月18日 15時00分00秒(火曜日)

<大映テレビドラマシリーズ:関連作品>


テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:22話
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22話「愛しながら他人」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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津川敬子:相楽ハル子

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大下直樹:宅麻伸

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長谷川千草:藤代美奈子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保小夜子:梶芽衣子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
水穂薫(南野陽子)が、結城司(松村雄基)の工房に通うようになって、
もう2ヶ月が経過していた。
薫は、依然「口の利けないおばさん」を装って司を手伝う毎日を送っていた。
愛する人が目の前に居ながら、一言も口を利けない。
その苦しみは、薫の神経を擦り減らしていた。
それでも薫は耐えた。
愛する司のために。
そんなある晩のことだった。
作業を終えて帰宅した薫の元に、かつての担任教師・大下直樹(宅麻伸)が訪ねて来た。
薫は少し前に退学届を出して高校は中退している。
一体何の用だろう?
薫が訝しんでいると、大下教師は思い詰めた表情で躙り寄って来た。
「俺は、今夜君を抱く。
教師に有るまじき振る舞いだと言いたいんだろう?
だが、俺は君が結城の為にボロボロになるのを見ておれんのだ。
あの男を忘れさせるために、俺は体面など捨てる。
それ程、君を愛しているんだ。水穂、好きだ」
大下教師は、薫に抱き着くと強引にキスしようと唇を寄せた。
薫は強く抵抗した。
気が付くと、大下教師の唇に噛み付いていた。
「私が愛するのは、司さん1人です。
無茶をすると、私舌を噛んで死にます!」
本気だった。
薫の目からは、涙が流れていた。
女が、死んでも護り抜く一線。
その覚悟を見せた涙であった。
それを見て、漸く大下教師も熱を覚ました。
「水穂、もういい。ヤメだ、ヤメだ。
俺はな、ここへ来るのに一つの覚悟をして来た。
君を俺のものにしよう。
それが出来なければ、潔く今日限り君を諦めようと。
残念だが、俺の負けだ」
大下教師は、サバサバした様子で引き返していった。
薫を巡る恋が、また1つ終わりを告げた瞬間であった。

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少し前、薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)もまた高校を中退していた。
恋人・磯崎高志(石橋保)との同棲が、校規に触れると問題視されたのだ。
恵美子は、迷わず退学を決断した。
高志との愛を貫く。
それが、恵美子の選んだ道であった。
アパートでの慎ましい生活は、決して楽ではなかった。
それでも、恵美子は幸せであった。
愛する人と一緒に居られることが、何よりの喜びなのだ。
そんなある朝のことだった。
恵美子のアパートの電話が鳴った。
受話器を取った恵美子の耳に、母・久保小夜子(梶芽衣子)の緊迫した声が飛び込んで来た。
「恵美子、驚かないで聞いて。パパが倒れたわ。
たった今、出勤なさろうとしたら急に。恵美子、すぐに福島に来て」
父の急を聞いた恵美子は、高志と相談してすぐにアパートを飛び出した。
父は、このところ災難続きだ。
大事でなければいいが。

『この時、恵美子はそれが高志との別れになろうとは予測だに出来なかった』

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恵美子の父・久保哲也(若林豪)は、病院に搬送されて小康を取り戻していた。
恵美子が病室に駆け付けると、久保は気丈に微笑んで見せた。
「大丈夫だ。ここのところ仕事が立て込んだもんで、少し眩暈がしただけだ。
明日は会社に出る。
心配は要らないから、東京へ帰りなさい」

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一旦病室の外に出た恵美子は、母・小夜子から詳しい病状を聞いてみた。
小夜子によると、久保はこのところ2人の娘に翻弄された挙句に仕事でも左遷されて、
酷く心労が重なっているのだという。
それを聞くと、恵美子も強く胸が傷んだ。
父をこんな目に遭わせたのは、全部自分のせいなのだ。
責任を感じる恵美子に、小夜子から耳の痛い言葉が続いた。
「恵美子、あなたに来て貰ったのはパパの心配の原因を無くして欲しいからなの」
「ママ、まさか」
「高志さんと別れて欲しいの。そうすれば、パパの病気は回復するわ」
「嫌よ、そんな」
「恵美子、お願い。そうして。
このままでは、パパは衰弱する一方で命も長くは保証できないって先生はそう仰ってるの。
それでもいいの?
パパの体と、高志さんとどっちが大事なの?恵美子」
深刻に訴える小夜子を前に、恵美子は静かに答えた。
「私、高志さんとは別れないわ。
でも、パパの側に居て看病します」
今は、それしか言えなかった。

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一方、陶芸に生きると決意した司の前にも巨大な壁が立ちはだかっていた。
司の目標は、来る全日本陶芸展に自作を出品することであった。
その作品創りのために、司は朝から晩まで作業に追われていた。
しかし、作業は難航していた。
挑戦しているのは、色鍋島の大皿だ。
成形が実に難しい。
少しでも手元が狂うと、粘土の重みで皿の淵が下がってしまう。
盲目の司には、至難の業であった。
それに加えて、皿に施す花の模様作りとなると最早困難と呼べるものではなかった。
下絵すら碌に書けない司にとって、それは雲を手で掴むが如き不可能への挑戦なのだ。
何度やり直しても、花の形にすらならない。
司は焦っていた。
やはり、無理なのか。
明けない夜明けの中で、司は途方に暮れていた。
絶望という名の重圧と戦っていた。
そして、それを補佐する薫もまた巨大な重圧と戦っていた。

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工房には、司の元妻・津川敬子(相楽ハル子)が時々顔を見せた。
子供に会うため。
それが、表向きの理由だった。
しかし、本当の理由は別にあった。
司とは別れても、敬子の心には薫への憎しみが残っていた。
目の見える敬子は、当然ながら「おばさん」の正体が薫だと知っている。
いつか司に正体をバラしてやる。
それをチラつかせて、薫を苦しめるのが目的だった。
薫は、敬子に土下座して頼み込んでいた。
司の作品が完成するまで、もう少しだけ黙っていて欲しい。
誰かが手伝わないと、司は大仕事をやり遂げることが出来ない。
「あなたも司さんを好きなんでしょ?」
薫の訴えを受けて、敬子は今は思い留まっている状態だ。
それも、何時まで持つか分からない。
薫は、常にそんな不安と戦っているのだ。

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ここのところ、薫はすっかり体調を崩していた。
頭痛と発熱が続き、何をするにも手元が覚束無い。
それでも、薫は歯を食いしばってそれを隠し抜いた。
司には、絶対に正体を気取られてはならない。
自分の気配を殺し、それでいて司の作業を手伝い、赤ん坊の世話にまで気を配る。
精神力だけが、薫の体を突き動かしていた。
そんなある日、薫は司の不在を見計らって点字タイプを打ち始めた。
司への手紙を綴るためだった。
薫の見たところ、司はもはや限界であった。
徒労だけが続く毎日の作業に加えて、
薫の面影とも決別できない苦悩が、司の心をボロボロに蝕んでいた。
司を力付けてあげたい。
その一心で、薫は手紙を打った。
遠く離れた地に居る自分を装って、司への愛をこめて。
『司さん、暫くです。あなたとお別れして2ヶ月になります。
あなたは、今どうしていますか?……』

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打ち終わると、薫は近くの郵便局に出しに行った。
投函しようとポストに手紙を差し出したところで、
突然誰かが薫の手から手紙を引っ手繰ってしまった。
司の元妻・敬子であった。
「考えたわね。自分の正体がバレないようにして、しかも司を励まそうなんて」
薫は、取り返そうと敬子に掴み掛かろうとしてその場に膝を付いた。
もう、立っているのも辛い。
様子がおかしいことに気付いた敬子は、歩み寄って薫の額に手を当てた。
「薫、あんた酷い熱じゃないの。
よくこんな体で動けてたわね。
あたしが言うのは何だけどさ、あんたこんなにまでして司に尽くしたって何もならないのよ。
いい加減に諦めたら?」
薫は、気丈に立ち上がった。
「いいの。私は見返りなんて望んでないわ」
その瞬間、薫は俄雨が降って来たのに気付いた。
いけない、帰らないと。
司は今皿を乾燥しているところだ。
雨に濡らしたら台無しになる。
薫は、ヨレヨレになりながら司の工房へ走った。

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雨の降る中、司は何故か皿を前に放心状態であった。
薫が雨が降っていると伝えても、司は何もしようとしない。
全く打開できない皿作りに絶望し、すっかりやる気を失くしているのだ。
仕方なく、薫は1人で皿の上にビニールシートを掛けていった。
全ての皿に掛け終えると、薫はガクリと倒れ込んだ。
体に力が入らない。
司も漸く薫の異変を察知した。
「おばさん、どうしたんですか?何処か具合が悪いんですか?」
司が歩み寄ってくると、薫は最後の力を振り絞って部屋の中へ駆け込んだ。
そして、戸を閉鎖して司の侵入を阻止した。
触られたら、今度こそ気付かれてしまう。
戸の向うから、司の呼掛けが聞こえて来た。
「おばさん、どうしたんです?開けて下さい。何故開けてくれないんです?
女の部屋に入っちゃいけないって言うんですか?
でも、おばさん病気なんじゃ?
医者を呼びます。駄目だって言うんですか?
じゃ、大丈夫なんですね?分かりました。でも、暫く横になって休んで下さい」
薫は手拍子で何とか返事をした後、言われたように横になった。
この状況でも、咳1つ立てられない。
薫はタオルを口に当てて、懸命に息を殺し続けた。

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その晩、薫は夜泣きの声で目を覚ました。
司があやしているようだが、赤ん坊は中々泣き止まない。

『薫は何とか司を励ましたかった。
だが、声も発せず励ましの手紙も敬子に奪われた今、そんな方法は何一つ無かった』

薫は身を起こすと、ハーモニカを手に取った。
そして、司が好きだった「鈴懸の径」を吹いた。
司が高校時代を思い出すと言っていた曲だ。
息苦しい中で、一生懸命吹いた。
司、頑張るのよ。
苦しくても、投げ出しちゃ駄目。やり遂げるのよ。
あなたなら、きっと出来るから。
そんな思いを込めながら、薫は「鈴懸の径」を吹き続けた。

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『司は蘇った。
その司を見て、薫の熱は嘘のように下がっていった。
薫の心は、司の心と1つであった』

それからも司の苦闘は続いた。
盲目の司が大皿に絵を入れるには、超人的集中力を要求された。
気の遠くなるような失敗を重ね、それでも司は願いを込め続けた。
「鈴懸の径」に励まされた、あの夜のことを思い返しながら。
漸く窯焚きに漕ぎ着けた晩、
司は隣に座る薫に語り掛けた。
「おばさん、俺は昔女の子と2人切りで1つ部屋で過ごしたことがあります。
丁度、こんな風にコーヒーを啜りながら。
その子の名は、薫と言いました。
詰らないことを話してしまって……
でも、いい作品が出来たらおばさんのお陰です。本当ですよ」

『この時、薫は司を愛しつつも別離の日が近付いて来る足音を聞いていた。
薫は、司の作品が立派に出来上がればここを出て行くという敬子との約束を忘れてはいなかったのである』

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『数日後、司は完成した作品を携えて長谷川の家を訪れた。
破門されたとは言え、司が真に批評を請いたい人は長谷川以外になかったからである』

司の皿を目にした長谷川から出た言葉は、
余りにも非情なものであった。

「見事だ。一見な」
「一見……と、仰いますと何処か悪いところでも?」
「司、お前まさかこんな物を作って何か取柄があると自惚れている訳じゃあるまいな。
この作品には、技術的にどうこう言う前に心が無い」
「心が無い?」
「そうだ。これを見ても儂には何一つとして感動が伝わって来ぬ。
目が見えようが見えまいが、どれだけ時間を掛けようが、出来不出来とは関係ない。
これは紛れも無い愚作だ」
「先生……」
「俺は目が見えなくともこれだけ凝った物が作れるのだ。
皆をアッと言わせて陶芸家として売り出したい。
お前の心の底には、そういう俗悪な見てくれの精神が、その癒しい野心が、
このケバケバしい金襴でにモロに現れとる。
恥ずかしげもなく、こんな物を持ってくるとは!」

正に一刀両断であった。
司の苦心の作は、無残なまでに失格の烙印を押された。
やっと完成させた作だけに、司の落胆もまた例えようもなく深いものとなった。

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陶芸は、司の命だった。
それだけに何もかもを投げ打って来た。
その世界での光明が見出だせない司には、最早生きる気力は湧いて来なかった。
その晩、司は赤ん坊の大介に別れを言った後、林の中に足を運んだ。
そして、自分の首にナタの刃を当てた。
頸動脈を切れば、死ねる。
意を決して自分の首を切ろうとしたその瞬間、司の耳に薫の声が響いた。
「司、司、司……」
幻聴なのか?それとも、本当に薫が呼んでるのか?
この一瞬の迷いが、司の生死を分けた。
誰かが物凄い力で腕にしがみついて、司からナタをもぎ取ってしまったのだ。
誰だ?今声が聞こえたということは……
「お前、薫だろ?薫だな?薫、お前のためにも俺を死なせてくれ」
司は相手が誰なのか確かめようと、顔の辺りに手を伸ばしてみた。
すると、別の方角から聞き覚えのある声が飛んだ。
「お待ちよ、司。あんた何やってるのよ。
藪から棒に薫、薫って言うから、おばさん面食らってるじゃないの」
敬子の声だ。
それじゃ、今俺の自殺を食い止めたのは例のおばさんなのか?
混乱する司に、敬子はさっき自宅に届いていたと称して手紙を握らせた。
司は封を切って中身を確かめた。
点字で綴られたその文面は、紛れも無く薫からのものであった。

『司さん、暫くです。あなたとお別れして2ヶ月になります。
あなたは、今どうしていますか?
あなたは、きっと陶芸一筋に打ち込んでいることでしょう。
私は2度とあなたに会うことが出来ませんが、
私の魂は片時も離れずあなたを見つめています。
司さん、苦しいこともあるでしょう。
でも、あなたは1人ではないのです。
あなたをこれ迄支えてくれた、どんなに多くの人が居ることか。
長谷川先生、千草さん、小百合さん、恵美子さん、高志さん、敬子さん、そしてダイちゃん。
その人たちのために、どんな事があっても挫けないで歩み続けて下さい。薫』

司は号泣していた。
そして、手紙を握り締めて震える声で誓った。
「おばさん、間違えて済まなかった。
薫……俺は挫けない」

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司が帰って来なかったあの晩、薫は丁度やって来た敬子と共に司を捜した。
司を愛する女同士、一生懸命捜し回った。
そして司が見つかった時、薫と敬子との間には奇妙な絆が生まれていた。
司には、絶対に薫の正体を知られてはならない。
その思いが、敬子に咄嗟の機転を利かせていた。
敬子は、司を守るため薫の大芝居に付き合ったのだ。

翌日、薫は工房から帰る敬子を見送りに行った。
道すがら、薫と敬子は互いの蟠りが氷解してゆくのを感じていた。
「敬子さん、私を憎んでいた筈なのに」
「ああ、あれはあなたに教えて貰った御礼よ」
「私が何を?」
「人の愛し方よ。自分のことなど考えずに尽くすってことを。
私の負けね。でも、負けたのにいい気持ちよ」
そう言うと、敬子は薫が抱えていた赤ん坊の大介に話し掛けた。
「大介、これからもお母さんに可愛がって貰うのよ」
薫が驚くと、敬子は爽やかな笑顔を見せた。
「この子のお母さんはもうあなたよ。
薫、司さんをいつ迄も支えてあげてね」
「敬子さんも、元気でね」
「じゃ」
敬子は、薫に手を振って山を降りていった。
敬子の後ろ姿を見送りながら、薫は長い葛藤と対立の日々が終ったことを感じていた。

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『そして、司の不屈の挑戦が再び始まった。
輝ける愛と栄光のその日を目指して』

ドラマ アリエスの乙女たち(第22話) [サンテレビ] 2014年02月17日 15時00分00秒(月曜日) (サンテレビ1)

<竹本弘一:関連作品>

テーマ:テレビドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:21話
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21話「悲しき化身」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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団地妻:川田路子、吉田はるみ

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大下直樹:宅麻伸

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来栖順子:佐藤万理

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
不安の一夜が明けた。
陶工見習・結城司(松村雄基)が、山中で消息を絶って丸一日が経過していた。
捜索隊は、遭難した司を捜し求めて前日に引き続き山荘を出発した。
隊を率いる司の師・長谷川欣吾(高橋昌也)には、一つの見当があった。
崖が聳え立つ危険な渓谷。
陶土を採るためなら、そこに行ったに違いない。
良質の粘土が採れる場所なのだ。
周辺を捜し回ってみると、睨んだ通り司の足跡が見つかった。
辿ってみると、山道を踏み外して転落していることが判った。
捜索隊は、谷に降りて司を捜した。
小一時間も捜し回っただろうか。
漸くにして司が見つかった。
切り立った断崖にしがみついたまま、身動きが取れずにいたらしい。
司は隊員によって無事救助され、正に九死に一生を得る結果となった。
この絶体絶命の状況下にあって、司は採取した粘土を手放そうとはしなかった。

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司が生還した。
その報せを聞いた妻・結城敬子(相楽ハル子)は、正直複雑な気持ちだった。
まずは夫の無事の喜ぶ。
そんな気持ちには到底なれなかった。
司は危険を承知で山中に土を採りに行った。
女子高生・水穂薫(南野陽子)のために。
そんなにあの女が大事なの?
命懸けでやり遂げる価値があることなの?
敬子は、もう疲れていた。
司の心から薫を追い出すことに、精魂尽き果てていた。
そこで、敬子は一つの賭けをすることにした。
これに負けたら、潔く身を引こう。

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敬子は、ある覚悟を胸に司のアパートへ行った。
そして、有無を言わさず司に抱き着いた。
「司、薫のことなんか忘れてあたしを抱いて。お願い。
ね、1時間、いえ30分でいいから薫を忘れてよ。
一瞬でいいから、薫を忘れてあたしを抱いて。お願い。
一度でいいの。抱いてくれたら、あたしあんたと別れてあげる。
それが望みなんでしょ?だったら、抱いて」
敬子は懸命に縋り付いた。
しかし、司は敬子の体を引き離してしまった。
「お前を抱くことは出来ない。
例え、お前が俺と別れてくれてもそれだけは出来ない」
完敗だった。
体を張って、女の意地を賭けた。
それでも勝てなかった。
司の心は、一分の隙もなく薫で埋め尽されているのだ。
敬子は力なく呟いた。
「司、もういいわ。別れてあげる。離婚届はいずれ持ってくるわ」
驚く司に、敬子は目に涙を溜めて訴えた。
「でも、これだけは信じて。
あたし、あなたを好きだった。
出来れば、いつ迄も一緒に居たかった」
それだけは、どうしても言いたかった。
いい奥さんじゃなかった。
でも、あたしなりに精一杯あなたを愛していました。
敬子は溢れる涙を拭きながら、やっぱり負け惜しみを漏らしていた。
「司、あたしが居なくなったら薫と一緒になるんでしょ?
あなたは、きっとそうするわ。
でも、それで薫が幸せになれるかしら。
薫は目の不自由なあなたと大介の世話で、クタクタに疲れ果てるに違いないわ。
あたしと同じようにね」
敬子は赤ん坊を抱いて別れを言った。
そして、最後に司の手を両手で力一杯握り締めた。
大きくて、ガッシリした、無骨な男の手だった。
「さよなら」
そこで未練を断ち切ると、敬子はアパートを飛び出した。
終った。
何もかも終った。
あたしの恋が敗れた。

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その夜、司のアパートに師・長谷川がやって来た。
出迎えた司に、長谷川は突然厳しい言葉を浴びせた。
「司、今日限りお前は破門だ。
儂は言った筈だ。
他のことには心を動かさず、焼き物一筋に打ち込めと。
お前は、人のために山の中に土を探しに行く余裕など無い筈だ。
心を遊ばせている証拠だ。
そんな奴は、儂は弟子とは思わん。
悔しかったら、全身全霊を打ち込み焼き物一筋に没頭してみろ。
儂の言いたいのは、それだけだ」
一方的に言い終えると、長谷川はアパートから出て行ってしまった。
何の申開きも許されない、電光石火の破門宣告であった。

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翌日、薫は司に公園へ呼び出された。
薫は期待していた。
今度こそ一緒になれる。
敬子さんには悪いけど、もう誰に気兼ねすることもない。
2人の間には愛しか無いのだから。
そんなウキウキ気分の薫に待っていたのは、司からの意外な通達であった。

「今日限り、2度と俺とは会わないでくれ」
「今、何て言ったの?」
「お前とはもう会いたくない。家にもこれからは来ないでくれ。もし来ても俺は追い返す」
「何故?司、訳を話して。私の事嫌いになったの?」
「好きだ。だが、もっと好きなものがある。焼き物だ」
「焼き物?」
「先生に破門されて目が覚めたんだ。俺はこれからは陶芸だけに打ち込みたい。
何としても、自分で納得出来る焼き物作りに挑戦したいんだ。
だが、物を作るのに女は無用だ。
無用どころか、お前が側に居ると俺はどうしても気が散る。
だから、お前とはこれっきりにしたい」
「私は邪魔だと言うの?」
「そうだ。薫、俺のことを本当に考えてくれるのなら、
俺とこれ以上付き合うなどという詰らない夢を見るのは止めてくれ」
「司……嘘、嘘よ、そんな。
女には分かるのよ、好きな人が言うことが嘘か本当かくらいは」
「薫……」
「司、ひょっとして私に苦労させまいと思ってそんなことを言い出したんじゃないの?」
「薫、以前のお前を思い出せ。エレクトラに乗っていた頃を。あの頃の誇らかなお前に返るんだ」
「私はもう前の私じゃないわ。あなたが変えたのよ。今のあなたは私の命よ」
「薫、もう終りなんだ。二度と口を利くこともない。いいな」
「司、待って。私はあなたが目が見えないことだとか、お金が無いことなんか何とも思っていないわ。
あなたと一緒に人生に立ち向かっていける。ただ、それだけで幸せなのよ。
お願い、司。何とか言って。司……司……」

司はそれ以上何も言わなかった。
引き留める薫を振り切って、スタスタ歩き去ってしまった。
薫はただ困惑していた。
どうして、今になってそんなことを言うの?

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司は、奥多摩の過疎の村に移住した。
そこには、かつて陶芸家が使っていたという廃屋があった。
そこを格安で借り受けた司は、赤ん坊の大介と2人暮しを始めた。
手入れすれば未だまだ使える。
姉・結城小百合(大場久美子)が、時々買出し品を届けに来てくれた。
ただでさえ不便な過疎の村で、目の見えない司にはきつい生活であった。
しかし、ここなら陶芸を続けられる。
静かな環境で、陶芸だけに打ち込める。
それは、司にとって何者にも代え難い財産であった。

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そんなある日、姉・小百合が司の工房に訪ねて来た。
姉の背後に誰か気配を感じる。
誰だろう?
司が気付いたのを見て、姉が説明してくれた。
「司、喜んで。ダイちゃんの世話をして下さるおばさんが見つかったわ。
こちら、野中初江さんと仰るの。
あなたさえ良ければ、明日から仕事場に通って手伝って下さるんですって」
訊くと、福祉団体のボランティアだという。
目の見えない男手一つでは赤ん坊の世話まで手が回らないと、姉が気を利かせてくれたらしい。
「ただ、おばさんは口が利けないの。
おばさん、耳は聞こえるけど昔悪性喉頭炎を患って話が出来ないんですって。
でも、とってもシッカリした方よ。
目の不自由なあなた1人では陶器作りは無理よ。
ダイちゃんの世話も行き届かないし、いつどんな事故が起きるかも分からないでしょ?だから」
尤もな話だ。
姉の好意を無下にするのも気が引ける。
司は、その申し出を受け入れることにした。

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翌日から、野中初江は司の工房に通って作業や赤ん坊の世話を手伝うことになった。
この野中初江とは、実は正体を隠した薫であった。
姉・小百合と示し合せて、薫は司の工房に忍び込むことにしたのだ。
盲目の司は、他の感覚が鋭い。
そのため、薫は気取らぬよう注意して司に接した。
息遣いを殺し、歩き方を変え、絶対に声を立てまいと神経を集中した。
しかし、口が利けないと意思疎通が出来ない。
「はい」なら手拍子一つ、「いいえ」なら手拍子2つ。
最初はそう取り決めてやり取りしていたが、それだとどうしても限界があった。
すると、司は掌に文字を書いてくれと頼んで来た。
それを読み取ることで、もっと細かい内容が伝えられると。

『薫は狼狽した。
薫の指が触れれば、その感触でそれが中年女の肌でないことを、司は気付くやもしれなかったからである』

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その場は、丁度居合わせていた小百合の気転で何とか誤魔化した。
帰宅後、薫は薬品に手を浸して自分の手を焼いた。
肌がボロボロになった。
でも、これならバレない。
触れた感触は、中年女のそれ以外の何者でもないのだ。
薫は、やっと司と会話が交わせるようになった。
指文字で、最小限のやり取りを交わす。
それだけが、今の薫に出来る精一杯であった。

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『司は、一心不乱に陶芸に没頭していた。
その厳しい姿の何処にも、薫を偲ぶ風情は露ほども感じられなかった。
薫は、陶芸家として逞しく生きんとする司の姿勢を理解しつつも、
見捨てられたかのような一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった』

そんな、ある夜のことだった。
薫は、司が電話に手を伸ばすのを見た。
暫く迷った後、司はダイヤルを回し始めた。

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『それは、薫の家の電話番号であった。
司は決して薫を忘れてはいず、恋しさの余りせめて声なりとも聞こうとしたのであろう。
司は、決して薫を忘れてはいなかった。
薫の胸に歓喜が込み上げた。
薫の心は叫んでいた。
私は、ここに居ます。
あなたの薫は、すぐ側に居るのです』

ドラマ アリエスの乙女たち(第21話) [サンテレビ] 2014年02月13日 15時00分00秒(木曜日) (サンテレビ1)

<佐藤万理:関連作品>


テーマ:懐かしいテレビ番組 - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:20話
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20話「召しませ我が命」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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大下直樹:宅麻伸

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長谷川千草:藤代美奈子

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川欣吾:高橋昌也

<ストーリー>
久保夫妻は、福島へ旅立った。
それを見送った娘・久保恵美子(佐倉しおり)と恋人・磯崎高志(石橋保)、
それにもう1人の娘・水穂薫(南野陽子)は、改めて3人で会食した。
恵美子は未だ自分を責めている様子だ。
父を左遷に追いやったのは自分のせいだと。
落ち込む恵美子を見て、薫は再度発破を掛けた。
「恵美子さん、この間も言ったでしょ。
人を愛するってことは大きな犠牲が付き纏うものだって。
あなた方は愛し合って一緒になったんでしょ?
その為にお父さまが辛い立場に立たされたとしても、耐えるしか無いのよ。
周りの人を気にする余り、自分達の愛まで見失っては何もならないわ。
今あなたに出来る最大の親孝行は、
高志さんと立派な家庭を作ってパパとママを安心させることよ。そうでしょ?」
恵美子と高志は、コクンと頷いた。
納得して貰えたか。
してやったりと薫がちょっと笑みを浮かべると、今度は高志が薫に尋ね返した。
「水穂、そう言う君は一体どうなってるんだ?
君は今でも結城を愛している。そうだろ?結城も君を愛している。
なのに、君達は何故一緒になろうとしないんだ?」
問われた薫は、狼狽していた。
友達の恋には強気でも、自分のことにはてんで弱いのが薫だった。
司には奥さんと子供が居るからと言い訳すると、恵美子は反論した。
「おかしいわ。だって、薫さん人を傷付けても貫き通すのが本当の愛だって言ったじゃない。
私達に愛を貫き通せと言うんだったら、あなたにもそうあって欲しいわ」
薫は恵美子の気遣いに感謝しつつ、複雑な気持ちを吐露した。
「ありがとう。あなた方の気持ちはとっても嬉しいわ。
でも、私には私なりの愛し方がある。
司と私は、決して一緒になることはないと思う。
でも、私が一生を賭けて彼を愛し抜くことに変わりはないわ。
それが私の決めた愛の形なのよ」
恵美子は、中々納得してくれなかった。
「それじゃ、一生司さんを遠くから見つめているだけでいいっていうの?」
「それが私の愛よ」
「嘘。そんなの愛なんかじゃないわ」
「何ですって?!」
「だってそうじゃない。
それであなた本当に幸せなの?ただの自己満足じゃない」
「自己満足ですって?!
よくもそんな事が言えるわね。あなたに何が分かるって言うのよ?」
「ええ、判らないわ。
だってこのままじゃ、あなただけじゃなく司さんだって決して幸せだとは思えないわ」
お願い、薫さん。もう一度考え直して。
今司さんを救ってあげられるのはあなたしかいないのよ」

『恵美子と高志の言葉が、鋭く薫の胸に突き刺さっていた。
言われるまでもなく、泥沼の結婚生活に喘いでいる司に誰よりも心を痛めているのは薫自身であった。
自分が司に近付けば、結局司をより以上苦しめることになる。
愛する者の苦悩を知りつつどうすることも出来ない苛立ちが、薫の全身を駆け巡っていた』

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その頃、司の妻・結城敬子(相楽ハル子)も苦悩していた。
夫・結城司(松村雄基)と喧嘩して以来、敬子は実家に身を寄せていた。
別居状態になって、もうどの位になるだろう。
司は謝りに来てくれた。
今まで冷たくして悪かったと言ってくれた。
反省したから帰って来て欲しいと、実家に足を運んでくれた。
両親(平泉成、結城美栄子)からは、いい加減許してあげなさいと言われている。
それでも、敬子は中々帰る気になれなかった。
あの様子なら、司は優しくしてくれるだろう。
でも、それは上辺だけのことだ。
司の心は、今も薫にある。
帰ったら、またあの憂鬱な日々が始まる。
目の前に居る夫が、別の女のことばかり考えている。
それだけは、どうしても嫌だった。
それじゃ、どうすればいいの?
離婚した方がいいの?
でも、そうしたら司は薫に走るに違いない。
あの女に司を奪われる。
それも嫌、絶対に嫌。
敬子は出口のないトンネルで堂々巡りを続けていた。

『もし、薫が自分の立場だったらどうするのだろう?
失明した夫と乳飲み子を抱え、どん底の生活の中で、
それでも変わらぬ愛を貫き通すことが出来るのだろうか?
不意に敬子は、薫の本心を確かめたい衝動に駆られた』

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翌日、敬子は下校する薫を尾行してみた。
薫の足は、司の師である陶工・長谷川欣吾(高橋昌也)の工房へ向った。
陰で会ってたんだ。
2度と会わないって言ってたのに。
「あいつ、やっぱり」
敬子は、歯噛みしながら工房の中を伺った。
薫と長谷川の会話が聞こえて来た。
そこで交わされていたのは、意外な内容だった。
薫は、切々と長谷川にある頼み事をしていたのだ。

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「是非、もう一度陶芸の勉強をさせて頂きたいんです」
「薫さん、あんたは未だ分かっておらんようだな。
あんたがここへ来ることは決して司の為にはならんと」
「それはよく判っています。
ですから私、司さんが居ない時に伺います」
「何だと?」
「先生、私は私自身のために陶器を焼きたいのです。
昨夜、私は今の自分が司のために何が出来るのか考えてみました。
でも、答えはとうとう見つかりませんでした。
いいえ、私が彼にしてあげられることは何も無いという結論に達したんです。
でも、私は司を愛しています。
これだけは、敬子さんにどんなに嫉妬され非難されても永遠に変えようがありません。
だとしたら、今の私に出来ることは、
司が命を懸けて打ち込んでいる陶芸の世界に私自身も身を置くことしかありません。
私は、司の生き甲斐を私自身の生き甲斐として感じたいんです」
「君自身の生き甲斐?」
「そうです。それだけが彼を愛する私に出来るたった一つの道だと思うんです。
お願いします、先生の弟子にして下さい。
彼には、決して近付きません。声も掛けません。気配を感じさせる真似も致しません。
お願いします、私に生き甲斐を与えて下さい」

『敬子の胸に、暗い敗北感が渦巻いていた。
会うこともなく、気配を感じさせることさえないままに、
それでも司を愛し抜こうとする薫の決意の前に、
自分の独り善がりな愛がどれ程虚しいものだったのか、
嫌というほど思い知らされたのだ。
だが、敬子には未だ司を思い切るだけの決心は付いていなかった』

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工房からの帰り道、敬子は自分に言い聞かせた。
「もう一度だけやってみるわ。そうよ、もう一度だけ」
今度こそ、いい奥さんになろう。
敬子はそう決意して、司のアパートに向った。
そして、開口一番義姉・結城小百合(大場久美子)に頭を下げて謝った。
「長い間、留守にしていて済みませんでした。
勝手なことばかりして、本当に済みませんでした」
義姉は、複雑そうな表情を浮かべていた。
だが、追い返そうともしなかった。
招き入れられた敬子は、室内をざっと眺めてみた。
自分が不在の間、義姉はずっと赤ん坊の面倒を見ていてくれたらしい。
敬子は、義姉に促されて久し振りに我が子を抱いてみた。
すると、どういう訳だか赤ん坊は妙に敬子を嫌がった。
代って義姉が抱くと、すぐに安心して大人しくなってしまう。
子供にまで嫌われちゃったのかな。
敬子は、先行きの不安を覚えずにいられなかった。

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その頃、敬子の夫・司は河川敷の草むらに居た。
目は見えなくても、日を感じ、風を感じ、土を感じることが出来た。
ここは、司が子供の頃によく遊んだ場所だ。
物思いに耽っていると、誰かの声が聞こえた。
聞き覚えがある。
「エクボ?その声はエクボじゃないのか?」
司が呼掛けると、恵美子が挨拶を返した。
丁度ここを通り掛かったらしい。
司は恵美子に訊いてみた。
この辺りにどんな花が咲いているのか?
紫とピンクが混ざったようなのが赤詰草で、青い小さな花が露草だよと説明すると、
恵美子は随分詳しいのねと感心しきりだ。
司は、ずっと草花が好きだった。
誰に育てられた訳でもなく、誰にも気付かれずに終ってしまうかもしれない。
それでも一生懸命咲いている。
そんな草花が大好きだった。
草花の生命力や美しさを、自分の陶器に込められないか。
それが、司が今抱くささやかな夢だ。
司は、高志との仲はどうなのか恵美子に尋ねてみた。
恵美子は「ええまあ」とはにかんで答えた。
2人の仲は順調なようだ。
司が安心すると、不意に恵美子が尋ね返した。
「あなたは幸せなの?」
「え?」
「昨日薫さんに会ったわ。薫さんね、今でもあなたのことを……」
そこで話を打ち切ろうと司が立ち上がっても、
恵美子は止めようとしなかった。
「司さん!」
「薫と俺のことは放っとけ。お前は磯崎のことだけを考えていればいい」
「いいえ、私黙って見ていられないの。
だって、あなた達あんなに愛し合っているのに」
「エクボ、世の中にはな、愛し合っていても一緒になれない者だっているんだ」
「違うわ。少なくともあなたと薫さんは一緒になるのを怖がってるのよ」
「怖がってる?」
「そうよ。自分の気持ちに嘘を付いてるんだわ」
「エクボ……」
「違うと言い切れる?
このまま一生会うことがなくても、後悔しないと言い切る自信があるの?」

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司は工房へ出た。
恵美子の問掛けは、ずっと心に伸し掛っていた。
それでも、司にはどうすることも出来なかった。
今出来るのは、ただ陶芸に打ち込むことだけだ。
台の上で土を練り、轆轤を回し、窯で焼き上げる。
単調な毎日が延々と続く。
そんなある日、司は工房に覚えのない湯呑があることに気が付いた。
師・長谷川に尋ねてみると、外国人の新弟子による作だという。
指先で確かめてみると、表面に露草の模様が刻まれていた。
どうして露草を選んだのだろう?
司は、工房の片隅に露草を活けていたことがあった。
それをモチーフに描いたのだろうか。

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母を失って以来、薫はマンションで1人暮しをしていた。
その日、薫は母の位牌の前に出来たての湯呑を供えた。
これは初めての作品だ。
陶工・長谷川の許可を得て、薫は毎日工房に通っていた。
そこで苦心して、やっと焼き上げたのがこの湯呑なのだ。
薫は母が好きだったワインを湯呑に注ぐと、口に含んで味を確かめてみた。
「うん。いける、いける」
妙な取り合わせだけど、ちょっとだけ幸せな気分になれた。
司と同じ工房で、同じように汗して陶芸に打ち込む。
そうすると、司といつでも一緒に居られる気がした。
そんな感慨に耽っていると、突然物凄い剣幕で司の妻・敬子が薫のマンションに怒鳴り込んで来た。
「司は何処?何処に隠したのよ?」
敬子は抱えていた赤ん坊をソファに放り出すと、戸惑う薫を尻目に家探しを始めた。
「司何処よ?居るのは分かってるのよ。出て来なさいよ」
一通り探し回って誰もいないことが分かると、漸く敬子は落ち着きを取り戻した。
一体どういうことなのか事情を訊いてみると、どうも司が家を出た切り帰って来ないらしい。
それで、薫の元にしけ込んだと誤解して乗り込んで来たという訳だ。
そうこうしているうちに、また赤ん坊が泣き出した。
すると、敬子は直ぐ様怒鳴り付けた。
「全く、よく泣く子ね!」
「赤ちゃんに当っても仕方がないでしょ」
「何よ、偉そうに。そんなに可愛いんだったらあげるわよ」
「何ですって?!」
「この子さえ居なければ、あたしはもっと自由になれるのよ。
愛も無いのに、愛し愛される振りをする暮しなんてもう真っ平よ。
私の一生は、こんな子供に縛られるためにあるんじゃないわ!」
言うだけ言うと、敬子は赤ん坊を置いて出て行ってしまった。
仕方なく、薫は鳴き声を上げる赤ん坊を抱えてあやし始めた。

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遅れて、薫のマンションに司の姉・小百合が訪ねて来た。
敬子が赤ん坊を置き去りにしたと知ると、小百合はすっかり呆れ果ててしまった。
「この子を置いたまま?本当に何て人でしょう」
小百合の話で、薫にも更に詳しい事情が呑み込めた。
司は、山中に土を採りに行くと称して出掛けたようだ。
目の見えない体で無謀極まりないが、前に行ったことがあると反対を押し切って出て行ったらしい。
それが待っても待っても帰らないので、こうして家族で大慌てしているのだ。
小百合はふと薫の湯呑に目を留めた。
「その湯呑……薫さん、もしかしてそれ、あなたが作ったんじゃ」
薫も長谷川の工房に通っている。
それを知ると、小百合は全ての謎が解けたと薫に説明した。
「司は知ってたんだわ。
司は目が不自由になってから、今まで以上に鋭い感覚で物事を見分けるようになっていたわ。
そうよ、あの子は例え顔を合わせなくてもあなたの存在に気付いていたに違いないわ。
司は、あなたに最高の土をプレゼントしたいと思ったんじゃないかしら」
「それじゃ、司さんは私のために?」

『薫の心に、激しい後悔の念が噴き上げていた。
もし、司の身に異変が起きたら、その責任は全て自分にあるのだ』

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司が山中で遭難したという報せは、瞬く間に関係者一同に知らされた。
急を聞いた師・長谷川、旧友・高志、それに薫は、司が消息を絶ったという件の山へ駆け付けた。
地元消防団も駆り出された救助隊が組織されると、一同は広大な山中を捜し回った。
「おお~い!何処だ~!結城~!」
無人の山林に、声だけが虚しく轟いた。
しかし、歩きに歩いて捜し回っても司の行方は杳として知れなかった。
何の手掛りも得られぬまま、ただ時間だけが過ぎてゆく。
とうとう、完全に日が落ちてしまった。
二次災害防止のため、その日の捜索は一旦打ち切られた。
救助隊は山小屋に荷物を降ろして暖を取り始めた。
それを尻目に、薫は1人外へ出て夜空を見上げた。
そして、手を合わせて一心不乱に祈りを捧げた。
「神様、司の命をお守り下さい。
もし助けて下さったら、代りに私の命を差上げても悔いはありません。
司、生きていて。司」

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『薫の必死の願いも虚しく、司の命は最早風前の灯火であった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第20話) [サンテレビ] 2014年02月12日 15時00分00秒(水曜日) (サンテレビ1)


<主題歌作曲:林哲司>

テーマ:ドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:19話
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19話「母の遺言」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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大下直樹:宅麻伸

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来栖順子:佐藤万理

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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久保小夜子:梶芽衣子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
深夜、女子高生・水穂薫(南野陽子)は、呼び出しを受けて救急病院に駆け付けた。
母・マキ水穂(野川由美子)が、交通事故に遭ったという報せであった。
手術室の中で、マキ水穂は既に虫の息だった。
医師による懸命の救命措置が続けられていたが、最早手遅れの状態であった。
薫は手術室に押し入って、母の手を握った。
事切れる寸前、マキ水穂は声を絞り出して薫に最期の一言を言い残した。
「薫…司さ…力に…」

『トップデザイナー・マキ水穂の突然の死は各界に大きな衝撃を与えたが、
その死が単なる事故ではなく、実は覚悟の自殺であったことを知る者は少なかった』

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マキ水穂の親族は、遺児・薫だけであった。
その為、マキ水穂の葬儀は薫が喪主となって執り行われた。
マキ水穂と生前付き合いのあったデザイナー協会有志が、
未だ高校生の喪主・薫を補佐する形の葬儀であった。
式場には様々な人々が焼香に訪れた。
マキ水穂の前夫・久保哲也(若林豪)と現妻・久保小夜子(梶芽衣子)。
薫の担任教師・大下直樹(宅麻伸)と同僚教師・来栖順子(佐藤万理)。
陶工見習・結城司(松村雄基)とその妻・結城敬子(相楽ハル子)。
司の姉・結城小百合(大場久美子)に敬子の両親(平泉成、結城美栄子)。
薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)とその恋人・磯崎高志(石橋保)。
弔問客が入れ替わり立ち代わり焼香を済ませてゆく中、
薫はずっと目線を落とし続けた。
そんな中、ただ一度だけ薫は顔を上げた。
司の姿が目に入ったのだ。
司の隣には、妻・敬子が寄り添っていた。
当然そこで、薫は敬子と目が合った。
敬子は目で主張していた。
お前には絶対渡さない。

『様々な思いが式場の中を渦巻いていた。
だが、マキの死の直接の引鉄となった雨宮ジュンヤの姿は遂に現れなかった』

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葬儀の後、薫のマンションに母の前夫・久保が訪ねて来た。
久保は開口一番申し出た。
身寄りのない薫を引き取りたいと。
有難い話だが、薫は理由がないからとそれを断った。
しかし、久保は諦めずに食い下がった。
「理由ならある。君は……君は、私の娘だ。
君のお母さんがハッキリとそう言った。
私も間違いないと思う。
薫、お前は私の血を分けた実の娘なんだ」
出生の秘密。
そのことは、薄々感じてはいた。
それが、とうとう確定した。
ずっと父の面影を追い続けて来た薫にとって、これはああそうですかで済む話ではなかった。
しかし、薫はなおも久保の申し出を断り続けた。
恵美子さんに悪いから。
勿論それもある。
だが、何より重要なのは久保が母の恋人だということだ。
母が全身全霊で愛した人。
その人を前に、薫は今日からよろしくとは言えなかった。
薫は、母の位牌を見つめながら久保に答えた。
「ママは、死ぬまでおじ様のことを愛していたんだと思います。
ママが次々男の人を変えていったのも、おじ様を忘れさせてくれる人を探し求めていたからなんです。
きっと人を愛することに疲れてしまったんだわ。
幾ら愛しても、何処か心に隙間風が吹いていたんじゃないかしら。
ママにとっては、一生に一度の恋を貫き通すには死を選ぶしかなかった。
私、そんな気がしてならないんです」
それを聞いて、久保も心が傷んだ。
マキの愛は判っていた。
だが、それでも応えられない自分が居た。
久保の脳裏に、マキの最期の電話が木霊した。
「薫の恋に、力を貸してあげて下さい。
あの子に、愛しながら別れる辛さだけは味あわせたくない。
それだけは、どうしてもお願いしたくて」
死を決意したマキが、久保に託したもの。
それは、娘の恋の手助けだった。
久保は薫に司とのことを訊いてみた。
「薫、君はどうしても司君のことが忘れられないのか?」
すると、薫は力強く頷いた。
「あの人は私の命です。おじ様の仰りたいことは判っています。
彼にはもう奥さんも子供も居る。丁度、おじ様とママの関係みたいにね。
でも、私はママの残した言葉を決して忘れません。
女として生まれた以上、一生に一度の本当の恋に身も心も焼き尽くしたいんです。
たとえ一生報われなくても、一生かけてあの人を愛し抜くつもりです」

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その日、恵美子のアパートに母・小夜子が訪ねて来た。
恵美子は、もうすっかりここでの生活に馴染んだようだ。
健気に家事を熟す恵美子を見て、小夜子は少しだけ安心した。
改めて、小夜子は恵美子に尋ねてみた。
「どうしても、帰って来る気はないの?」
恵美子は、御免なさいと頭を下げた。
決意は固いようだ。
それじゃ仕方ないと小夜子が立ち上がると、
恵美子は高志に会っていって欲しいと引き留めた。
すると、小夜子は強い口調でこれを断った。
「会いたくありません。会いたくありません。
あなたが高志さんのところに走ったお陰でパパは……」
言い掛けて、小夜子は口を噤んだ。
異変を察知した恵美子は、小夜子を問い詰めた。
「パパがどうかしたの?
ママ、教えて。パパの身に何かあったの?」
これで惚けるのは無理だった。
小夜子は恵美子の問掛けに答えた。
「パパは、来週から福島へ行きます。あたしも一緒に付いて行きます」
恵美子にも、段々事情が呑み込めてきた。
「転勤?どうして?どうしてそんな急に……
私のせいなのね?私とマサヒコさんの結婚が駄目になったから」
父が左遷される。
これは、社長が仲介する縁談を破談にした報復措置だ。
今になって、恵美子は自分が父を巻き添えにしていたことを知った。
声を失う恵美子を見て、小夜子はサバサバした様子で答えた。
「もういいの、その話は。
パパが言ってらしたわ。立派な家庭を作りなさいって。
暫く会えなくなるかもしれないけど、体だけは気をつけるのよ」
娘を慰めると、小夜子はアパートから出て行った。
恵美子の心に、ズシリと重石が伸し掛っていた。

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その夜、薫のマンションに親友・恵美子が訪ねて来た。
相談したいことがあるという。
恵美子の心が揺れる時、真剣に話を聞いて力付けてくれるのはいつも薫だった。
2人は、無二の親友なのだ。
恵美子は自責の念に駆られていた。
父がキャリアを棒に振った。
その原因が自分にあると、恵美子は酷く気に病んでいる様子だ。
「私のせいだわ。みんな私のせいなのよ」
恵美子が苦しさを打ち明けると、薫は平然と同意した。
「そうね。あなたがそのマサヒコさんとか言う人と結婚してたら、こんな事にはならなかったでしょうね」
恵美子が困惑すると、薫は畳み掛けた。
「何よ、その顔は?今更後悔しても、追付く問題じゃないでしょ?
それとも何?高志さんと別れて実家へ戻りたいって言うの?」
「そんな……」
「だったら、どんなに辛くても我慢するしかないでしょ?
いい?人を愛するってことはね、いつだって大きな犠牲が付き纏うものなのよ。
自分を傷付け、他人を傷付け、それでも貫き通すのが本当の恋なのよ。
耐えるのよ。どんなに辛くても自分の心に忠実に高志さんとの愛を貫き通すのよ。ね、恵美子さん?」
薫に発破を掛けられて、恵美子は静かに頷いた。
「ありがとう」
やっと笑顔を見せてくれた。
落ち込む親友を前に、強い自分を演じてみせる。
これが薫流の励ましだった。
胸の仕えを下ろした恵美子は、薫に見送られて帰って行った。
その後姿を見ていると、薫の胸中にも複雑な思いが去来していた。

『この子は、紛れも無く血を分けた自分の妹なのだ。
その妹の恋まで悲劇的な結末を迎えさせてはならない。
そう思い定めた薫であったが、
自らの身を振り返った時再び押し寄せる懊悩をどうすることも出来なかった』

恵美子が帰った後マンションに1人取り残された薫は、母の遺影に問掛けた。
「ママ、私はどうすればいいの?
じっと耐えて、司と敬子さんの行く末を見守るだけが私の愛なの?」

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『薫の足は、再び愛しい人の元へと向っていた。
無償の愛、透明な愛に生き抜こうと決意した薫に、
恵美子への励ましの言葉が、自らの心も揺さぶる結果となって跳ね返って来たのだ。
いっそこのまま一気に司の胸に飛び込み、手に手を取って遠くに行ってしまいたい。
そんな衝動が、薫の胸を突き上げていた』

薫は、工房の外で司を出待ちした。
暫くすると、今日の作業を遂えた司が出て来た。
薫は司から少し距離を取り、その後を尾行して行った。
その日の司は、まっすぐ家に帰らなかった。
妻・敬子の実家に立ち寄っていた。
現在敬子は夫と喧嘩して実家に帰ってしまっている。
恐らく、帰って来るよう説得しているのだろう。
結局、司は1人で家を出て来た。
どうやら、説得は失敗のようだ。
薫は、また司の後をつけて行った。
やがて、司は地下鉄の駅にやって来た。
帰宅ラッシュなので、構内は人混みで溢れ返っている。
覚束無い足取りをハラハラしながら見守っていると、
司は列車に乗り込む寸前に躓いてしまった。
薫は駆け寄って助け起こした。
すると、後ろから駆け込み乗車の人混みが大挙して雪崩れ込んできた。
気が付くと、薫は司と共に列車の中に押し込まれていた。
満員電車の車中、薫は懸命に息を殺した。
すぐ隣に司が居る。
司と手が触れると、すぐに引っ込めた。
やっと駅に辿り着いたところで、司は薫に頭を下げた。
「あの、どなたか知りませんが、ありがとうございました」
親切な通行人。
司にはそう映ったのだろうか。
薫は一言も口を利かないまま、駅を飛び出した。

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薫は、母が埋葬された墓地へと走った。
墓前に辿り着くと、堰を切ったように薫の目から涙が溢れた。
「ママ、許して。私は、やっぱり司を奪うことは出来ません。
敬子さんを傷付け、大介ちゃんから父親を奪い取ることは、私にはどうしても出来ません。
でもママ、これだけは聞いて頂戴。
例え、司と一生結ばれなくても、私の愛だけは貫き通してみせます。
何があろうと、絶対に挫けません。後悔もしません。
私は彼を愛したことを誇りに思い、その誇りを胸に生きていきます。
ママ、そんな私を天国から見ていて下さいね」

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母の墓前で誓いを立てる薫を、物陰から見守っている男がいた。
泣き明かした薫が暫くして立ち去ると、男はフラリと墓前にやって来た。
そして、持っていたワインボトルの封を切って、中身を振り撒いた。
薫の父・久保であった。
久保はボトルを墓前に供えて、天国のマキ水穂に語り掛けた。
「マキ、今の薫の話を聞いたか?
あの子の言う通り、結局司との恋は決して実を結ぶことはないだろう。
だが、それでもあの子は司を愛し抜くに違いない。
そう、あの子が言っていたように誇りをもって。
そして、私はあの子の恋を遠くからじっと見守ってやるつもりだ。
それが、父親として私に出来るたった一つのことだからね」
淡々と語り終えた久保は、最後に墓前祈りを捧げた。
愛していた。
愛し合っていた。
それでも別れる運命になったマキ水穂を想って。
祈り終えた久保は、帰り掛けたところでふとマキの墓を振り返った。
「マキ、素晴らしい娘を残してくれてありがとう」

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上野駅の構内に、発車を告げるベルが鳴り響いた。
その新幹線の車中には、久保と妻・小夜子が乗り込んでいた。
これから、新任地の福島へ発つところだ。
発車直前、久保は小夜子に促されて窓外を見た。
娘・恵美子が高志を伴ってフォームに駆け込んで来たところだった。
恵美子は車両に駆け寄ると、窓越しの久保に懸命に訴えた。
「パパ、御免なさい。御免なさい、パパ。
パパ、私約束するわ。高志さんときっといい家庭を築いてみせます。
だから許して、パパ」
窓越しなので、何を言っているのかは聞こえなかった。
それでも、久保は娘の目を見て静かに頷いた。
幸せになれよ。
久保は無言で娘に語り掛けた。
間もなく、新幹線は静かに発車した。
見る見る恵美子の姿が遠ざかってゆく。
その姿を見つめながら、久保は構内に別の人影が居たことに気付いた。
久保のもう1人の娘・薫であった。

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『母を失い天涯孤独の身となった薫。
両親に去られた恵美子。
アリエスの乙女たちに、なおも多難な前途が待ち受けていた』

ドラマ アリエスの乙女たち(第19話) [サンテレビ] 2014年02月11日 15時00分00秒(火曜日) (サンテレビ1)

<主題歌作詞:阿久悠>

テーマ:ドラマ・映画 - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:18話
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18話「花嫁となる夜」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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雨宮ジュンヤ:深水三章

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長谷川千草:藤代美奈子

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磯崎志乃:奈月ひろ子

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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久保小夜子:梶芽衣子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
女子高生・久保恵美子(佐倉しおり)は、一つの決断を下した。
家を捨てて、身一つで愛する人に飛び込むこと。
それは、恵美子にとって生涯最大とも言える一大決心であった。
この日、恵美子は恋人・磯崎高志(石橋保)の北海道出張に同行した。
そして、旅館で2人の夜を過ごした。
女として、この人なら悔いはない。
自分を捨てて、身を捧げられる人。
迷い、悩み、考え抜いた末の相手が高志だった。
高志は決して完全な人間ではない。
生真面目であるが故に折れやすく、未だまだ頼りにはならない。
裕福な暮しが約束されている訳でもなければ、喧嘩したことも幻滅したこともある。
それでも、やっぱりこの人。
それが、私の道。
次の朝、恵美子は高志と海で夜明けを見た。
そして、改めて思った。
「この髪も、この肌も、この体を流れる血も、もう全てこの人のものなんだわ」

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その頃、恵美子の親友・水穂薫(南野陽子)は、
陶工見習・結城司(松村雄基)の工房を訪ねていた。
司の師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)の許しを得て以来、
工房で作業を手伝うのが薫の日課だ。
司は今日も早出して、見えない目で燃え盛る窯を見つめていた。
何だか物思いに耽っている様子だ。
何を考えているのだろう?
薫は司に訊いてみた。
司は苦しい胸の内を打ち明けた。
昨日の夜、司は妻・結城敬子(相楽ハル子)と大喧嘩になっていた。
ここ暫く、敬子は毎日のように癇癪を起こしている。
慣れない子育て、盲目の夫、先行きの見通せない生活、同居する義姉。
思い通りにならない結婚生活に苛立ち、気が付くと子供に怒鳴り散らしている。
司がそれを咎めると、また泥沼の夫婦喧嘩が始まる。
その繰り返しだ。
どうしてこうなったのか。
その原因を考えてみると、全ては司本人のいい加減な生き方にあると自覚せざるを得なかった。
愛とは何か。
愛の齎すものは何か。
司は何も考えて来なかった。
「俺は、元々いい加減な気持ちで敬子を抱いていた。
先のことなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。
お前に接近した時もそうだった。
そして、漸く真剣にお前を愛している自分に気付いた時にはもう遅かった。
そうなんだよ、敬子との地獄のような結婚生活に陥ったのも、
あんたをこんな辛い目に遭わせているのも、この目が見えなくなってしまったのも、何もかも自業自得だ。
天罰なんだよ、これは」

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工房での作業を終えた後、薫は司の師匠・長谷川に呼び出された。
薫を応接間に通すと、開口一番長谷川は工房への出入り禁止を言い渡した。
許可を取ったのにどうして?
薫が戸惑うと、長谷川は噛んで含めるように諭した。
「考えてもみたまえ。
如何に全てを忘れて陶芸に打ち込もうとしても、
愛する者の声をその耳元で聞き、その息遣いに触れていては、どんな者でも決して無心にはなれない。
このままでは、司は君に頼り、甘え、結局己を見失ってしまうだろう。
その時こそ、あの男は本当に地獄に堕ちてしまうのだ。
分かってくれるかね?
あの男の心を本当に救えるのは、残念ながら君ではない。陶芸だ。
焼き物を作り続けることだけが、正に司の生きる証なんだ」

目の見えない司を助けてあげたい。
薫は、ただその一念で作業を手伝っていた。
それが、本人のためにならない。
司を惑わす邪念になる。
これは意外な指摘だった。
でも、考えてみれば長谷川の言葉は尤もだった。
四六時中恋人が側に寄り添っていて、どうして陶芸だけに打ち込めよう。
陶芸で成功出来なければ、司の道は開けない。
それを邪魔するなら、愛があろうと身を引くべきだ。
薫は長谷川の言を受け入れることにした。

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『愛するが故に、愛する者に生きる証を与える為に、
その前から姿を消さねばならぬこともある。
出来得ることならば、司の意識の中からさえも自分の存在を消し去らねばならない。
その為には、まず自分がそうあらねばならないのだ。
見ることも、感じることさえ出来なくなる程の透明な世界に身を置きながら、
尚且つ失うことのない愛。
薫は、今そんな透明の愛の中に自らを沈めようと決心をしたのだ』

薫は、最後に一目だけ司を見た。
そして、意を決して工房から飛び出した。
もう会わない。
そう決めた。
司を愛している。
だからこそ、心を鬼にして決断した。
そうすることが司のためだから。
でも、私は一生司を愛し続ける。
それが、私の生きる証だから。

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その日、恵美子と高志は北海道から帰京した。
恵美子は、家へは帰らなかった。
その足で高志のアパートに行くと、高志の母・磯崎志乃(奈月ひろ子)の前で両手を付いた。
「勝手なことをして申し訳御座いません。でも、私真剣です。
決して浮ついた気持ちじゃありません。
これから一生懸命高志さんとお義母さんのために尽くしますから、
どうかここへ置いて下さい。お願いします」
志乃は穏やかに答えた。
「手をお上げなさい、恵美子さん。
人は見掛けによらないって言うけど、あなたも随分思い切ったことをなさったものね。
恵美子さん、あたしはあなたがこういう形で高志のところに来るのを、
決していいことだと思っている訳じゃありませんよ。
でも、あなたが高志のことを真剣に愛して下さっているのはよく解ってるし、
御両親の反対を押し切ってまで、高志のために尽くそうとして下さる気持ちは嬉しいと思います。
でも、結婚生活はただ愛し合っているだけでは成り立ちません。
今は高志も一介のサラリーマンですし、生活は決して楽ではありません。
お嬢様育ちのあなたに、耐えていけるかしら?」
志乃に問われた恵美子は、間髪入れずに即答した。
「耐えます。どんなに苦しくても、高志さんと一緒ならきっと耐えてみせます」
恵美子の目は本物だった。
これがどれだけ覚悟の要ることか、志乃は女としてすぐ理解出来た。
恵美子は、これ迄にも何度もアパートに来てくれた。
病身だった志乃の世話をするため、献身的に通い詰めていた。
今度は、身一つで相手の家に転がり込む。
中々出来ることではない。
この子なら大丈夫。
息子を任せても、支えて一緒に生きていってくれる。
それが判った以上、志乃には母としてやらねばならぬことがあった。
それは、自分の身を引くことだ。
高志も恵美子も義理堅い。
このままここに居ると、2人の重荷になってしまう。

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志乃は、部屋の片隅に荷物を纏めた。
「何をするつもりなのか」と高志が尋ねると、志乃は「ちょっと旅行に出る」と嘯いた。
実は、住み込みの働き口を見つけてある。
保育園の手伝いだ。
高志と恵美子が驚くのを尻目に、志乃は「午後3時の切符を取ってある」とアパートを飛び出した。
戸惑う高志と恵美子に見送られ、志乃は東京駅を旅立った。
プラットフォームから列車が出発する直前、志乃は恵美子に最後のお願いをした。
「高志のこと、くれぐれもお願いね」

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志乃を見送った恵美子と高志は、アパートに帰って来たところで恵美子の父・久保哲也(若林豪)と出会した。
久保は、娘を待っていたのだ。
恵美子は久保と近くの公園に行くと、2人でじっくり話し合った。
もう、家には帰りません。
このまま高志さんと一緒になります。
高志さんを愛したことは、絶対に間違っていません。
恵美子は、父を前に覚悟の程を訴えた。
「私は、もう高志さんの妻です」
そう断言する恵美子の顔に、久保の知っている少女の面影はなかった。
あるのは、信念に裏打ちされた女の顔だった。
いよいよ、娘と別れる時が来た。
それを悟った久保は、恵美子に最後の言葉を送った。
「恵美子、お前は本当にあの恵美子なのか?
生まれたばかりのお前は、本当に愛らしい天使のような赤ん坊だった。
その愛らしさは、お前が成長していくにつれて消えるどころか増々光り輝いて来るように見えた。
お前は私の宝だった。
お前が生まれてからの私の人生は、お前のその愛らしさを護り抜くことに全てを賭けたと言っても過言ではない。
そのお前が……
あれ程愛し信じ切っていたお前から、これ程手厳しい裏切りを受けようとは思わなかった。
もういい、よく判った。
お前は、今日限り私の娘ではない。
2度と帰って来ることは許さん。
2度と親の顔を見ようとは思うな」
久保は、恵美子の前から立ち去った。
後ろを振り返ろうとはしなかった。
恵美子もまた、引き留めようとはしなかった。

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その晩、薫はガラスの割れる音を聞いてリビングに飛び出した。
母・マキ水穂(野川由美子)が、ワイングラスを叩き割った音だった。
どうやら、マキ水穂は恋人と破局して荒れ狂っているらしい。
薫が慰めると、マキ水穂は薫の体を抱き締めた。
「薫、ママね、今だから言うけど、本当はずっと哲也さんのことを愛していたの。
あの人と別れた後も、ずっと愛し続けていたわ。
これ迄何人もの男と付き合って来たのも、その苦しさから逃れるためだったの」
マキ水穂はそこで自分の話を打ち切ると、薫と司がどうなっているのか尋ねた。
薫は何も答えられなかった。
上手くいってないと察したマキ水穂は、今度は逆に薫を慰めた。
「駄目よ、諦めちゃ。
一度愛した以上は、どんなことがあっても貫き通さなきゃ。
でなきゃ、ママみたいに一生後悔を背負って生きていくことになるわ。
人を愛するってことには、大きな犠牲は付いて回るものよ。
自分を傷付け、他人を傷付け、それでも貫き通すのが本当の恋なのよ。
ママね、薫にあたしと同じ失敗だけは繰り返させたくないの。
どんなに傷付いてもいい。
地獄の底を這い回ってもいい。
女に生まれた以上、一生に一度の本当の恋に身を焼き尽くして欲しいのよ。
あたしも、今度だけはこの恋をあたしなりに全うしてみせるわ」

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同じ夜、司の妻・敬子は実家に帰って両親(平泉成、結城美栄子)に離婚の相談をしていた。
赤ん坊を放り出して来たので、今頃義姉・結城小百合(大場久美子)が怒っていることだろう。
新婚早々何を言うと面食らう両親に、敬子は昼間起きたショッキングな出来事を打ち明けた。
その日、敬子は司の身辺がおかしいと感じて工房を訪ねた。
案の定、また薫と鉢合わせになった。
問い質すと、ここのところ毎日司を手伝っていたという。
怒った敬子が手を挙げようとした瞬間、薫は敬子に以外な言葉を浴びせた。
「敬子さん、あなた本当にあの人の妻なの?
妻だったら、愛しているのなら、何故もっとあの人の力になってあげようとしないのよ。
あなたのしているのは、あの人を苦しめることばかりじゃない。
敬子さん、これが最後のお願いよ。
もし今でも、少しでも彼のことを愛しているのだったら、これ以上苦しめるのは止めて。
あの人にとって一番大切なのは、陶芸に打ち込める環境をこれ以上乱されないことだわ。
それを作ってあげるのが、妻であるあなたの努めなのよ」
胸に突き刺さる言葉だった。
妻の努め。
それは、敬子がこれ迄考えたことのないことだった。
妻だから幸せにして欲しい。
妻だから愛して欲しい。
今まで、夫に求めてばかりだった。
どうして、夫のために何かしてあげようと考えられなかったのだろう。
両親を前に、敬子はおいおい泣き崩れていた。
「カッとなったわ。本気で張り倒してやろうと思った。
でも、あいつの言う通りなのよ。
あたしは、司の何の役にも立ってない。
あたしがして来たことと言えば、司を苦しめることだけだったのよ。
だからと言って、あたしと別れた後司と薫が一緒になることを考えると、とても我慢出来ない。
ねえ、教えて。あたし、どうすればいいの?」

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深夜、久保家の電話が鳴った。
就寝中だった久保が出てみると、思い詰めた口調の女の声が聞こえた。
久保の前妻・マキ水穂であった。
「薫はあなたの娘です。薫はあなたの娘に間違いありません。
あなたに一つだけお願いがあります。
薫の恋に力を貸してあげて下さい。
今更父親として名乗ってくれとは申しません。
ただ、あの子に愛しながら別れる辛さだけは味あわせたくない。
それだけは、どうしてもお願いしたくて」
一方的に言い終えると、マキ水穂は電話を切った。

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その少し後、やはり就寝中だった薫は電話が鳴って飛び起きた。
それは、母・マキ水穂が交通事故に遭ったという報せであった。

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『その時、薫は母が身をもって壮烈な愛の形を示してくれたことを知ったのである』

ドラマ アリエスの乙女たち(第18話) [サンテレビ] 2014年02月10日 15時00分00秒(月曜日) (サンテレビ1)

<平泉成:関連作品>


テーマ:テレビなんでも - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:17話
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17話「私の名は不倫少女」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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椎名義照:内田稔、椎名夫人:谷口香

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椎名マサヒコ:井上倫宏

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徳永マミ:城源寺くるみ

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刑事:小山武宏、高品剛

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保小夜子:梶芽衣子

<ストーリー>
『薫は、失明した司のために陰ながら尽くし続けていた。
だが敬子は薫への憎しみを滾らせ、恐るべき策略を企んだのである。
それは、薫を我が子大介の誘拐犯に仕立て上げることであった。
薫には、身の潔白を証立てることも出来た。
だが、そうなれば逆に敬子は逮捕され子供はその母を失う。
司の嘆きと衝撃はいかばかりか。
薫は、敢えて自分を犠牲にする決意をしたのであった。
司への愛に殉じて』

女子高生・水穂薫(南野陽子)は、赤ん坊誘拐の容疑で逮捕された。
警察署に連行されて刑事の取り調べを受ける段になって、
薫は肝心なことに気づいた。
動機の方は敬子を逆恨みしたと答えれば済むが、
具体的な犯行を問われると何も答えられないのだ。
何せ見に覚えのないことなので、
何処でどうやって誘拐したことになっているのかがサッパリ分からない。
場所は公園の何処なのか?
その時赤ん坊はどうしていたのか?
ここで適当な作り話をすると、刑事にバレてしまう。
だからと言って犯行を否認する訳にもいかない。
薫は「覚えていない」「多分そうだった」「記憶違いだった」と、
あやふやな答えでその場凌ぎするしかなくなっていた。
調書を取る刑事たちも、次第に薫の様子がおかしいことに気付き始めた。

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赤ん坊の父・結城司(松村雄基)も、この事件が全く納得出来ないでいる1人だった。
薫が赤ん坊を誘拐したところで何の得もない。
そもそも、薫はこんな幼稚な嫌がらせをする人間ではない。
こういうことをするとすれば、疑いたくはないが妻・結城敬子(相楽ハル子)だ。
刑事に心当たりを訊かれた時に、敬子は真っ先に薫の名前を出した。
今朝も、薫が逮捕された新聞記事を読んで妙に御機嫌だ。
まさか、自分の子を使って狂言誘拐を仕組んだとは考えたくないが……
司は疑念を抱えたまま、工房で陶器製作に追われた。
今日製作しているのは、百人一首が書かれた湯呑茶碗だ。
目の見えない司を補佐して、師匠の娘・長谷川千草(藤代美奈子)が和歌を詠み上げてくれた。
「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」
水の流れが岩に遮られて離れ離れになっても又会えるように、
私達もいつかはきっと結ばれる、いや結ばれてみせる。
そんな意味の恋歌だ。
司は思った。
俺と薫も、その歌のように結ばれる日が来るのだろうか。

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薫の取り調べはなおも続いていた。
そんな中、薫の房に司からの差し入れが届いた。
百人一首のカルタであった。
その中に、一枚だけ和紙に包まれた札があった。
薫はそれを詠み上げてみた。
「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」
司が何を言おうとしているのか、薫は留置所の中で思いを馳せた。

『その歌に込められているのは、永遠なる愛の誓いであった。
司は今薫の側に近々と居た。
司のためならどんな苦難にも耐え抜ける。
薫はその決意を新たにしていた』

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工房から帰宅した司は、思い切って敬子を問い詰めた。
誘拐事件は、お前が仕組んだんじゃないのか?
そう問掛けると、敬子は「妻を信じられないのか」と怒り出した。
しかし、どう考えても敬子の態度がおかしい。
司は、懸命に説得を重ねた。
「敬子、悲しいが疑わざるを得ないんだ。
俺と一緒に警察に行こう。そして、本当のことを話してくれ。
お前が考えるほど警察は甘くない。
お前が出頭しないでも、警察は恐らく誘拐事件当日のお前のアリバイを調べ上げる。
そうすれば、何もかも明らかになるんだぞ」
敬子は、中々首を縦に振らなかった。
「あたしは平気。幾らでも調べればいいんだわ」
いい加減焦れて来た司は、敬子をベビーベッドの前に連れて行った。
「これだけ言っても、未だ分からないのか。
来い。大介の目を見ろ。お前を信じ切ってる目だ。
目が見えない俺にもよく分かる。
敬子、お前は母親としてこの目に嘘がつけるのか?
敬子、俺は何とかお前を愛そうと努力して来たつもりだ。
お前が正直であってくれなければ、俺もお前を愛せなくなる。
だから頼む、敬子」
司に肩を揺すられ、子供の前に立たされた敬子は、とうとうその場に泣き崩れた。
答えはもう明らかだ。
「やっぱりお前が……」

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敬子は、司に付き添われて警察に出頭した。
そして、誘拐事件の詳細を洗い浚いぶち撒けた。
刑事に叱責され、敬子は泣いて謝り通した。

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その頃、薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)は、
預かり知らぬ間に進行する縁談に翻弄されていた。
母・久保小夜子(梶芽衣子)によって仕掛けられたこの縁談は、
相手方も大乗り気であれよあれよという間に進行していた。
その日、恵美子は相手方である椎名夫妻(内田稔、谷口香)の屋敷に招待され、
もう決めてくれとその場で決断を迫られていた。
恵美子は、後一日だけ待って欲しいと何とか返事を先延ばしにした。

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その晩、恵美子は恋人・磯崎高志(石橋保)に会いに行った。
例によって、高志はカラオケ店で女を侍らせて遊び呆けていた。
意を決して恵美子の父に結婚を申し込んだのに、けんもほろろに退けられた。
それどころか、肝心の恵美子に家を捨てる覚悟がない。
高志にしてみれば、これで腐るなという方が無理な相談だった。
恵美子は何とか高志を捕まえて、懸命に説得した。

「私このままだと婚約させられてしまうの」
「婚約?ああ、あのマサヒコとかいう男とか」
「明日中に返事をしなきゃなんないのよ」
「俺にどうしろって言うんだ?」
「パパとママにもう一度会って欲しいの」
「冗談じゃない。君の御両親にはあそこまで蔑まれたんだ。
この上また頭を下げて恵美子さんを下さいなんて言えるか」
「それでも、そうして欲しいの」
「君も俺のことなど忘れて、とっととそのマサヒコとかいう奴と結婚しろ」
その方が俺もせいせいする。
俺は明日から東北に出張だ。
もし、君が本当に俺を好きなら一緒に来い」
「え?」
「俺に付いて来れるかって訊いてるんだ」
「私……」
「出来ないよな。君に家が捨てられる訳がない。
文句があったらそのお嬢さん面を止めろ!」

高志はそこで押し問答を打ち切ると、
女を連れてホテルに入って行った。
恵美子は、泣きながらその後姿を見送った。

『恵美子はマサヒコと婚約する決心は付かず、高志にも突き放され、
絶望の海を漂っていた』

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『その翌朝、敬子は釈放された。
警察は敬子が未成年でもあり、子供である大介の将来を慮り、
検察当局と図って起訴猶予とし、事件を不問に付したのである』

司は、釈放された敬子を連れて薫の自宅を訪問した。
そして、頭を下げて詫びを入れた。
「薫、済まん。
今度の事件は俺が敬子への労りが足りないから起きたことだ。許してくれ」
司は、敬子にも謝るよう促した。
ところが、敬子はまたいつものふてぶてしい態度に戻っていた。
「私は詫びるなんて真っ平よ。
薫、あんたあたしに恩を売ったつもりでしょうけど、いい気にならないでよね。
あたしはあんたを今でも呪い続けてるんだから」
こいつは……この期に及んで未だ開き直るか。
とうとう司の堪忍袋の緒が切れた
「敬子、俺にも覚悟があるぞ。俺は、お前と別れる。
俺も辛抱してきたがもう我慢出来ん。敬子、別れてくれ。
気の合わない俺と暮すのはお前だって不幸だ。
大介は俺が引き取って育てる。お互い別れた方が一番いい」
最後通告を突付けても、敬子は全く悪びれる様子はなかった。
「司、あんたあたしと別れて薫と一緒になりたいんでしょ?
だけど、そうはいかないわ。
あたしはどんな事があっても籍は抜かないわよ。
あたしにも覚悟があるってことよ。
あんた達がどんなに好き合ったところで、意地でも結婚なんかさせてやるもんか。
いいわね、薫。司と一緒の墓に入るのはあんたじゃないわよ。このあたしよ!」
言うだけ言うと、敬子は家を飛び出して行った。
司は、暗澹たる気持ちだった。
吸い尽くされる。
一生敬子に蝕まれる。
司は、慰めようとする薫を振り切って家を出て行った。

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『司は、底無し沼の如き深い絶望に叩き込まれていた。
籍を抜かないという敬子の宣言は、地獄の如き結婚生活が続くことを意味していたからである。
司は、その重苦しい思いに耐え難かった』

やり切れない司は、気が付くと工房の中で大暴れしていた。
作り終えた茶碗を、次から次へと叩き割っていた。
心配になって後を付けてきた薫は、慌てて司を制止した。
物音を聞いて、師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)が血相を変えて飛び出して来た。
「何だ、この騒ぎは?
バカモン、陶器に八当りをする奴など弟子とは思わん。
今日限り出て行け!」
やっと司が冷静になると、長谷川は薫に向き直った。
「あんたが水穂薫さんか。
幾ら司を好きかもしれんが、儂は不倫の恋などは好かん」
「不倫?」
「違うとでも言えるのかね?
とにかくあんたさえ居なければ、司は焼き物一筋に打ち込めていたことは確かだ」
「申し訳ありません。でも、私は敬子さんから司さんを奪おうとしたことはありません。
私はいつも心で司さんと一緒に居たいだけなんです。
先生、私に焼き物を教えて下さい」
「何?こんな時に焼き物志願とはな」
「私、もっと司さんの気持ちになりたいんです。喜びも悲しみも共にして」
「あんたの狙いはそれだけではあるまい」
「はい、先生の指導はとても厳しいと聞いています。
私がもしその厳しさに耐え抜けたら、司さんにも焼き物を続けさせてあげて下さい」
「良かろう。少しだけなら教えよう」

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薫は、長谷川の指示で「土練り」に挑戦した。
「土練り」とは、文字通り台の上で粘土を適度な硬さに練り上げる作業だ。

『薫は、粘土に初めて触れて驚愕していた。
土が全く思い通りに動かないのである。
しかも、コツが分からぬ薫は全体力を振り絞らねばならない。
それは、留置所で体力を消耗していた薫にとって過酷な重労働であった。
1時間、2時間、土練りは際限なく続いていた。
薫は、ただ司に陶芸を続けさせたい。その気力だけで自分を支えていた。
そして、4時間後』

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フラフラの状態で土練りを続けていた薫が、とうとうその場に倒れ込んだ。
司が助け起こすと、作業を見守っていた長谷川がとうとう折れた。
「薫さん、儂はてっきりあんたが途中で音を上げるものだとばかり思っていた。
だが、よくここ迄頑張った。
儂はどうもあんたの事を誤解していたらしい。
これから儂はあんたの司に対する気持ちを、不倫とも邪念とも思わん。
もし、あんたがそんな気持ちだったら司のために倒れるまで頑張れはしなかっただろうからな」
許しが降りた。
司は破門されずに済む。
薫は玉の汗を吹きながら、安堵感に包まれていた。

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この日、上野駅のプラットフォームに恵美子の姿があった。
恵美子は、新幹線に乗り込もうとした高志を発見すると呼び掛けながら駆け寄った。
「高志さん。私も行くわ、あなたの出張先まで。私、家を捨てるわ」
驚いた高志が帰るよう言っても、恵美子は構わず胸に飛び込んだ。
「そんな話はもうしないで。お願い、連れてって。高志さん」

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『望みのない恋。にも関わらず、薫はその恋に命を懸ける決意をしていた。
アリエスの乙女・薫と恵美子の灼熱の恋は、今それぞれに悲しくも激しく燃え上がりつつあったのである』

ドラマ アリエスの乙女たち(第17話) [サンテレビ] 2014年02月05日 15時00分00秒(水曜日)

<百人一首:関連作品>

テーマ:ドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:16話
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16話「檻の中の愛」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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雨宮ジュンヤ:深水三章

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上司:大塚国夫

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椎名マサヒコ:井上倫宏

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徳永マミ:城源寺くるみ

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来栖順子:佐藤万理

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刑事:小山武宏、高品剛

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点字タイプ講師:今村エリ香

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マキ水穂:野川由美子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
『不慮の事故により失明して2ヶ月。
司は倦む事無く陶芸に挑んでいた。
司の生活は、その金銭的窮状を見兼ねた師・長谷川が、
多額ではなかったが給料を支給することにより小康を得ていた。
また、司は点字を学んでいた。
指先一つで文字を読む作業は、司にとって陶芸に劣らず辛い学習であった。
司の目になろうと誓った今、薫もまた点字を学んでいた』

午後7時半、女子高生・水穂薫(南野陽子)は陶工見習・結城司(松村雄基)の工房を訪れた。
司は真っ暗闇の中で一心不乱に轆轤を回していた。
「壁だ。どうにもならねえ」
作業が上手くいかないのか、司はふとそう呟いた。
薫が来たことに気付くと、司は轆轤を回す手を止めた。
「そこに居るのは薫か?」
時間が来たと、司は立ち上がった。
目の見えない司は、作業に入ると時間の感覚が無くなる。
薫の来訪は、その日の作業終了を意味していた。
司は、薫に手を引かれて帰途に就いた。
薫はこうして、毎日司の送り迎えを買って出ているのだった。

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帰り道、司は薫から紅薔薇の香りを嗅ぎ取った。
目が見えなくなったことで、司の嗅覚は研ぎ澄まされていた。
恐らく、薫は自室に紅薔薇を飾っているのだろう。

『紅薔薇。花言葉では、尽きることのない愛と情熱の花。
薫はその花を司の作品である花瓶に飾り、唯一の心の支えとしていたのであった』

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道すがら、薫は「壁」の意味について尋ねてみた。
「壁」とは、司が現在取り組んでいるペルシャ風の鉢のことだった。
「陶芸はな、土ばかり弄っていても駄目なんだ。
本を読んで勉強しなければ」
司と薫は、古書店の前で立ち止まった。
ショーウィンドウに、「ペルシャ陶芸の伝統と技法」という本が陳列してあった。
値札を見ると、35万円もの高額だった。
司は、いつかその本の技能を身に付けたいのだという。
薫は何とかしてやりたかったが、その額だと流石に手が届かなかった。
2人は諦めて、また夜道を歩き出した。

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司をアパートまで送った後、薫は誰かに呼び止められた。
司の妻・結城敬子(相楽ハル子)であった。
敬子は、話があると言って薫を公園に連れ出した。
そこで、敬子は涙ながらに訴えた。
「あたしの身にもなってみて。
あたし、司と一緒になってこの子も産まれて親子3人の幸せが来ると思ってた。
なのに、いつ迄経ってもあなたの影が側にある。
あなたは何一つ非難しなきゃいけないことはしないけど、
堪んないわよ、妻のあたしには。
あたしは司が好きよ。
あなた点字タイプをやってるそうだけど、あたしだって習い始めたわ。司のためにね。
薫、あたし勝手なことばっかり言って司といがみ合って来たけど、
これからはあの人の本当のいい奥さんになるつもりなの。
あなたさえ居なければ、司もいつかあたしに振り向いてくれるわ。
だから、今日限り司に会わないで欲しいの。お願い、お願いします」
敬子は薫に頭を下げた。
確かに、言われてみればその通りだ。
夫の回りにいつ迄も女の影がチラついていては、妻としてはやり切れないだろう。
送り迎えは純粋な善意からしていたことだが、妻のプライドを傷付けていたのは間違いない。
薫は敬子に約束した。
「分かったわ。私出しゃばり過ぎてたかもしれない。
もう司さんには会わない。口も聞かない。約束するわ。
司さんは、あなたがシッカリ支えてあげてね」

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薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)は、
ここ最近毎週のように椎名マサヒコ(井上倫宏)にデートへ誘われていた。
恵美子にとって、これはとても困ることだった。
マサヒコは決して嫌な人ではない。
寧ろいい人で、恵美子も嫌いではなかった。
真剣に好意を寄せてくれているのも分かる。
だから、中々デートが断れなかった。
このままでは、ズルズル結婚の運びになりそうで不安になって来た。
後日、恵美子は恋人・磯崎高志(石橋保)を呼び出し、
父に会って今すぐ結婚の許可を取って欲しいと訴えた。
「だって、このままだと私いずれマサヒコさんと結婚させられてしまうと思うの。
もし、正式に話があったらマサヒコさんは社長さんの甥だし、
パパも立場上断り切れないと思うの」

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恵美子の切実な頼みを受けて、高志は久保家を訪問した。
恵美子の父・久保哲也(若林豪)に応接間へ通されると、高志は開口一番申し込んだ。
「不躾ですが、言わせて頂きます。
恵美子さんを僕に下さい。僕達結婚したいんです。お願いします」
それを受け、久保は子供を諭すように高志の申し出を切り崩していった。。
「高志君、恵美子は今椎名マサヒコという青年と交際を進めている。
いや、家内と私でそうさせている。
君も好青年だが、マサヒコ君もいい男だ。
正直言って、親としては迷っている。
だから訊きたい。君には人には無い何があると言えるのかな?」
高志は即答した。
「愛情です。恵美子さんへの愛です」
久保は、お話にならないとこれを退けた。
「愛?美しい言葉だが、これ程移ろいやすいものは無い。
何の保証にもなりゃしない。
私は実業界で生きてきた人間だから、俗っぽいと笑われるのは承知だが、
未だお金の方がアテになるよ」
高志は食い下がった。
「でも、お金や財産だって移ろいやすいことに変わりはありません」
久保の舌鋒はなおも続いた。
「それは理屈だ。いざ結婚となれば現実的条件を無視する訳にはいかない」
高志はすっかり冷静さを失い、ムキになって反論していた。
「二言目には現実現実って言うから、大人は駄目なんじゃないですか?
要するに僕達の結婚には反対なんですね?」
すると、久保は同席していた恵美子に向き直った。
「反対するもしないも、君たちの年齢に達すれば結婚は法律で認められている。
だからどうしようと自由だ。
だが恵美子、その場合は私はお前との縁を切る」
久保が睨み付けると、恵美子は押し黙ってしまった。
「それだけの決心が付かないということか。話は終わりだ」
そこで話を打ち切ると、久保は席を立った。
久保は見破っていた。
恵美子は親思いだ。
両親と絶縁してまで高志と添い遂げる度胸はない。
2人の意思を分断してしまえば、もう勝負は有りだ。
生き馬の目を抜く実業界で厳しい生存競争を勝ち抜いてきた久保にとって、
2人をやり込めるなど赤子の手を捻るも同然だった。
結局、高志は恵美子とも喧嘩になって帰って行ってしまった。
2階から高志の後ろ姿を見送りながら、久保は若き日の自分を思い返した。
身分の違う恋。
それは、久保と前妻・マキ水穂との間柄そのものだった。
「恵美子、お前はどちらを選ぶ?」

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薫は、敬子との約束を守っていた。
あれ以来、司とは連絡を取っていない。
それでも、目の見えない司を放っておく訳にはいかなかった。
そこで、薫は人混みの多い駅で毎日司を見守ることにした。
これならバレない。
決して声は掛けない。
ただ見守るだけ。
無事さえ確かめたら、直ぐ様立ち去る。
そう決めていた。
今日も雨の中、司は駅にやって来た。
薫が安心して引き返そうとすると、司の声が轟いた。
「泥棒!誰か捕まえてくれ」
慌ててその場に駆けつけると、3人組のチンピラが司から鞄を引っ手繰って逃げ出したところだった。
杖を失った司は、右も左も分からず立ち往生している。
どうしよう。
助けてあげたいけど、敬子さんとの約束は破れない。
薫は、通行人を装って無言で司に杖を握らせた。
司は「ありがとう」と礼を言って、雨の中を歩いて行った。
何とかしてあげたい。
司の後ろ姿を見送りながら、薫は込み上げる思いを懸命に抑え付けた。

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薫は、ここ数日アルバイトで小金を貯め込んでいた。
最後に一つだけ、司にしてあげたいことがある。
欲しがっていたペルシャ陶芸の本をプレゼントすること。
やっと5万円が貯まったところだ。
母・マキ水穂(野川由美子)が帰国すると、薫は残る30万を借りて例の本を購入した。
そして、不眠不休でその点訳に取り掛った。
司は目が見えない。
本を読むには点訳する必要がある。
一日も早く、読ませてあげたい。
薫は慣れない手付きで、懸命に点字タイプを打ち続けた。

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一方、恵美子と高志の恋路は暗礁に乗り上げていた。
久保に退けられた求婚は、高志の心に深い傷を残していた。
久保家との身分の差を、まざまざと見せ付けられたのだ。
やるせない高志は、恵美子を思いながらも誘惑に負けていた。
その日、仕事終りの高志は同僚OL・徳永マミ(城源寺くるみ)と居酒屋でウサを晴らした。
そして、帰り道でマミに求められるまま口付けに応じた。
この光景は、丁度高志を迎えに来ていた恵美子に目撃されていた。

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その夜、恵美子は薫の家を訪ねた。
薫は点字タイプを中断して、恵美子の相談に乗ってやった。
恵美子は、先ほど目撃した高志のキスを打ち明けた。
「高志さんって人が分からなくなったわ。
高校の頃はヌード写真にさえ目を背けていた純情なあの人が、
今は平気であんな女の人と」
憤慨する恵美子に、薫は一つ一つ言って聞かせた。
「愛する人が居ても仕事や他の悩みでふっと心が揺らぐことはあるものよ。
特に男の人はね」
恵美子の怒りは、中々収まらなかった。
「薫さんは人事だからそう言えるのよ。私許せない」
薫は、恵美子を見透かして諭した。
「じゃあなた、高志さんと別れられる?出来ないんでしょ?
だったら、目を瞑ってでもガムシャラに高志さんを信じることよ。
信じるって馬鹿みたいだけど、それだけが男の人の心に不滅の勇気と希望の火を灯せるのよ。
恵美子さん、あなたに今必要なのは高志さんを非難することじゃなくて、
こういう時こそ高志さんを力付けて共に歩むことじゃないの?
結ばれるその日まで」
報われぬ愛を貫く薫に言われると、確かな説得力があった。
恵美子は、やっと納得した。
「ありがとう、薫さん。私何があっても高志さんを信じ抜くわ」
薫は、また点字タイプに戻った。
明らかに睡眠不足なので、頭はフラフラだった。
「少し休んだ方がいいのではないか」と恵美子が声を掛けても、
薫は「大丈夫」と打つのを止めようとしなかった。

『司への直向な愛。
それを正に身をもって示している薫の姿に、
恵美子は限りない励ましと感動を覚えていた』

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数日後、薫の不眠不休の作業が終了した。
薫は喫茶店に敬子を呼出し、点訳した「ペルシャ陶芸の伝統と技法」を手渡した。
薫が司に渡して欲しいと言うと、敬子は疑惑の眼で薫を睨み付けた。
敬子は、薫がこれを口実にまた司に近付こうとしているのではないかと疑っていた。
そんな敬子に、薫は意外な提案を出した。
「この点訳は、あなたがした事にして渡して欲しいの。
点字なら、普通の字と違って誰がした仕事だか判らないわ。
私はそれでいいのよ。
小百合さんにも、あなたがした点訳だってことにして貰うわ」
一応納得した敬子は、漸く薫の提案を了承した。
「それなら……」

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後日、司は点訳されたペルシャ陶芸本を受け取った。
妻・敬子の手からであった。
受け取った司は、飛び上がらんばかりに感激した。
「この資料さえあれば作品も捗るぞ。
敬子、ありがとう。ありがとう」
司は敬子の手を握り締めた。
まさか、敬子がここ迄してくれるとは思ってもいなかった。
敬子は陶芸を嫌っている。
司はそう思い込んでいた自分の不明を恥じた。

『敬子の心境は複雑であった。
司の感謝は、正に薫に捧げられるべきものであったからである』

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その日から、司はまた一心不乱に陶芸に打ち込んだ。
点字本を頼りに、新しい作品を生み出そうと懸命に頑張り続けた。
土を捏ね、轆轤を回し、分からないことがあれば点字本で調べる。
そんなある日、司は点字本の間に何か異物が紛れ込んでいることに気付いた。
何だろう?
手に取って匂いを嗅いだ瞬間、司は全てを悟った。
紅薔薇の花弁だ。
ということは……

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数日後、薫は学校から出て来たところで司にバッタリ出会した。
どうしてこんな所に居るんだろう。
驚いた薫は、つい声を上げてしまった。
当然司に勘付かれてしまった。
これはいけないと薫が立ち去ろうとすると、司は懸命に呼び止めた。
「待ってくれ。これだけは見て欲しい」
司は手に桐箱を抱えていた。
開けてみると、中から青いペルシャ鉢が出て来た。
「綺麗」
感嘆する薫に、司は微笑んだ。
「あんたには真っ先に見て欲しくてな。
あんたでなければならない。
あんたがあの本を点訳してくれなければ、これだけの物は出来ない。
敬子ではない。どうもおかしいと思っていた」
見破られた。
薫が慌てて誤魔化そうとすると、司は薫の手を握り締めた。
「もう隠さないでくれ。俺には分かってるんだ。
あんたの指は何故こんなに腫れ上がってるんだ?
タイプを打ち続けたからだろう?
薫、何も礼は出来ないが心から言わせてくれ。
……ありがとう」
良かった。
喜んでくれた。
司の役に立てた。
薫の目から、涙が溢れた。

『薫は、これまでの辛苦が一気に吹き払われた思いがした。
何も要らなかった。司の愛さえあれば』

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その日、帰宅した薫は、玄関に赤ん坊が放置されているのに気が付いた。
「ダイちゃん?!だけど、何でこんな所に。
そっか、敬子さん私に預かって欲しくて置いてったのね。
それなら一言位言ってってくれたらいいのに」
薫は赤ん坊を抱えて自宅に入り、オムツの替えを探した。
以前預かったことがあるので、赤ん坊の扱いには慣れているのだ。
着替えさせて、さあ両親に返そうと玄関を出たところで、
薫の前に敬子が立ち塞がった。
「やっぱりです。やっぱりこの人が犯人です」
敬子は、薫から赤ん坊をひったくった。
一体どういうことだろう?
敬子は、後ろに刑事を従えていた。
どうやら、赤ん坊の誘拐犯に仕立て上げられたらしい。
でも、何故?
そうか、司に会ったのがバレたんだ。
これは禁を破ったことへの制裁だ。
事情を飲み込んだ薫は、頭を下げて謝った。
「刑事さん、申し訳ありません。私がやりました。
全て敬子さんの言う通りです。
私は、司さんを奪った敬子さんが憎かった。それでダイちゃんを」
薫は、その場で緊急逮捕された。

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『薫には、敬子の策略であることは判っていた。
だが、それを告げれば敬子は逮捕されるであろう。
そうなれば、子供は母と引き離される。
その時の司の衝撃は、いかばかりであろうか。
薫は司のために、敢えて自分を犠牲にする道を選んだのである。
それが薫の愛であった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第16話) [サンテレビ] 2014年02月04日 15時00分00秒(火曜日)

<音楽:菊池俊輔>

テーマ:もう一度見たいドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:15話
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15話「神よ!私に暗闇を」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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椎名義照:内田稔、椎名夫人:谷口香

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椎名マサヒコ:井上倫宏

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大下直樹:宅麻伸

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長谷川千草:藤代美奈子

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鈴木倫子、才神ルミ

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来栖順子:佐藤万理

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保小夜子:梶芽衣子

<ストーリー>
陶工見習・結城司(松村雄基)は、栄えある現代工芸展で新人賞を受賞した。
それは、期待の新人が世に実力を認められた栄光の瞬間であった。
ところが、それが一転地獄に突き落とされようとは神ならぬ司に分かる筈もなかった。

その日、デパート屋上で女子高生・水穂薫(南野陽子)と再会した司は、
目に異常を感じてその場に倒れ込んだ。
「見えない。お前が見えない」
司は狼狽えた。
これ迄にも視界が霞むことはあった。
だが、光そのものが認識出来ないのは初めてだ。
司は怯えていた。
異変を知った薫は、司を連れて直ぐ様病院へ駆け込んだ。
そして下された診断の結果は、余りにも非情な宣告であった。
完全失明。
回復の見込みなし。
医師は、司に盲人用の白い杖を手渡した。
そして、盲学校へ通って盲人として生きる道を模索するよう諭した。
それを聞いた司は、猛然と反論した。
「冗談じゃない。俺は女房子供を食わせなければならないんだ。
呑気に学校になんか行ってる暇はありません」
絶望に打ち拉がれた司は、自宅へ送るという薫を振り切って1人タクシーに乗り込んだ。
「何処でもいい。この金が無くなるまですっ飛ばしてくれ」
有り金全部を運転手に手渡した後、司は新人賞の賞状を破り捨てた。
何もかも消えた。
抱いていた夢も、培ってきた努力も、背負ってきた苦労も。
放心状態のまま、司はタクシーの座席に揺られた。
俺は一体どうすればいい。
俺の家族はどうなる。
これからどうやって生きていけばいい。
何の答えも無かった。
あるのは、延々と続く真っ暗闇だけだ。

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司は、師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)に事の仔細を報告してその場に項垂れた。
分からない。
もう、どうしていいか分からない。
苦悩する司に、長谷川が何かを握らせた。
「これが何か分かるか?」
陶器の手触り、形からして茶碗だ。
ただの茶碗じゃない。
俺が作った茶碗だ。
司がそれに気付くと、長谷川は力強く諭した。
「その通りだ。だが、何故そうだと分かる?
お前は心を込めてそれを作った。
だから、見えなくても指が覚えていた。
人はどう生きるか?
儂はその答えは単純だと思う。
ただ、自分が愛することをまっしぐらに貫けばいい。違うか?
出来るか出来んかはお前次第だ。
やってみないで諦めるのは負け犬だ。
お前はそんな男ではない筈だ」
長谷川は誰よりも厳しく、誰よりも温かい男だった。
師匠の言葉が胸に沁みた司は、暗闇の中で誓った。
陶芸を続ける。
例え目が見えなくても、運命を切り開く。
挑戦し続ける。

『司がこよなく愛するもの。
それは陶芸であり、同時に薫であった。
司は、薫の面影に誓った』

「薫、俺は挫けない」

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翌日から、司は工房の中で一心不乱に轆轤を回し続けた。
指先の感覚だけを頼りに、土の形を整える。
これが、とてつもなく難しい。
皿らしき形に持っていくだけでも至難の業だった。
それでも、師匠・長谷川は容赦なかった。
歪みがあればやり直しを命じ、
道具を手探りで探し当てようとすると場所を覚えておけと叱り飛ばした。
「嫌なら陶芸なんか止めろ。
いや、そんな意気地なしは死んでしまえ!」
敢えて鬼となった長谷川にどやされ、
司は懸命に土を捏ねて何度でも轆轤に向った。
新人賞まで受賞した司の、ゼロどころかマイナスからの挑戦だった。

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女子高生・久保恵美子(佐倉しおり)は、
今日も恋人・磯崎高志(石橋保)に見送られて帰宅した。
恵美子の母・久保小夜子(梶芽衣子)は、それを眉を顰めて見ていた。
どんなに反対しても、恵美子は高志との交際を止めようとしない。
このままでは、2人は親の反対を押し切って本当に結婚してしまう。
それを恐れた小夜子は、夫の上司である社長・椎名義照(内田稔)の屋敷を訪問した。
椎名社長は、前に甥っ子に恵美子を縁付けたいと言っていたことがある。
その話を今すぐ進めて欲しい。
小夜子は、椎名社長にそう頼み込んだ。
椎名社長は少々面食らった様子だ。
確かに、そういう話はしたことがある。
しかし、それはあくまで世間話、社交辞令の一つに過ぎない。
増して、恵美子は未だ高校生だ。
戸惑う椎名社長を前に、小夜子は静かな口調で訴えた。
「私も久保も早く安心したいものですから。馬鹿な親だとお笑い下さい」
どうやら真剣なようだ。
仕事の片腕にしている久保の妻から達ての願いとあっては、これを無下にする訳にもいかない。
椎名社長は小夜子に約束した。
「分かりました。来週の日曜は私も空いてます」

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『数日後、恵美子と小夜子は椎名夫妻にゴルフに招待された』

恵美子はゴルフをするのは初めてだった。
クラブを振り回してもボールに当てることすら出来ない。
ちょっとムクれていると、椎名社長は恵美子に甥っ子・椎名マサヒコ(井上倫宏)を紹介した。
この青年が、ゴルフを教えてくれるという。
椎名社長はそう言って、またコースを回ると立ち去っていった。
椎名夫人と小夜子も、それを追い掛けて行った。
恵美子は、マサヒコと2人切りにされた。
これが意図的に仕組まれていたということは、恵美子にも薄々感じられることだった。

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翌日、恵美子は高志と会った際についその話をしてしまった。
すると、高志は猛烈に怒りだした。
「君がゴルフを楽しんでいた頃、僕は何をしていたと思う?
日曜出勤で、お客さんの前でヘイコラヘイコラさ。
痛い程よく分かったよ。
君と僕とではどうにも住んでる世界が違う。
やっぱり身分ってあるんだよな。
僕は社長さんの甥と比べられてるんだ。
恵美子さん、いっそその男と結婚しろよ。
その方が君の幸せさ」

『高志は、恵美子を愛する余り思わず感情が暴発した。
だが、その言葉は恵美子に深い傷を与えた』

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司の前途は多難だった。
やっとモノに成りかけた陶芸が振り出しどころかマイナスに戻り、
家では日常生活ですらままならない。
司が鍋をひっくり返すと、妻・結城敬子(相楽ハル子)が吐き捨てた。
「また?しょうが無いわね。ったく、赤ん坊が2人居るみたいなもんだわ。
あなたと結婚して、子供が産まれて、あたしは今一番幸せな筈なのよ。
それがどう?
収入の道は途絶える。なのに、あなたは陶芸三昧。
あたし程不幸な女があって?」
詰る敬子に、司は詫びた。
家族を養うことが出来ない。
男にとって、これ程の屈辱はなかった。
何とかしたい。
しかし、死に物狂いで打ち込んだところで陶芸の道は余りに程遠い。
家族の生活は、ギリギリまで追い詰められていた。
自責の念に駆られる司に、敬子は最後の追い打ちを掛けた。
「司、大介が可愛くないの?」

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翌日、司は福祉事務所を訪ねた。
担当者に相談すると、生活保護の申請が出来るという。
ただ、それには幾つかの条件があった。
電話を売り払い、家賃の安い風呂無しアパートに引っ越すこと。
陶芸を断念して、マッサージ等の全盲者に必要な仕事を身に着けること。
どれも厳しい条件だった。
赤ん坊は毎日風呂に入れないと病気になってしまう。
それに、陶芸だけはどうしても諦めきれなかった。
結局、司は申請を断念した。

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司は、旧友・高志に借金を申し込んだ。
高志とは、高校時代喧嘩ばかりした仲だ。
その上、今の高志自身決して楽な暮しではない。
頼るのは心苦しかったが、司に出来ることは他に何も残っていなかった。
そんな司の心情を汲んで、高志は快く金を貸してくれた。
司は礼を言った後、苦しい胸の内を明かした。
「俺は後悔している。結婚したことをだ。
金もない、愛情もない、おまけに何も見えない。
そんな生活がどんな地獄だか、お前に分かるか?」
何時に無い弱気な発言をする司を前に、高志は気遣って励ました。
「結城、愚痴なんてお前らしくないぞ。
お前には子供が、そして陶芸があるじゃないか。頑張ってくれ」
司も高志を思い遣って答えた。
「磯崎、お前は俺と違って何があってもエクボとの恋を貫けよ」

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その頃、司を想う薫は東奔西走していた。
工房で轆轤に向う司を毎日見守った。
そして、盲導犬の手配が出来ないかと協会を訪ね、
少しでも役に立とうと点字の勉強も始めた。
その日の午後、薫は司のアパートを訪ねた。
司の不在を見越して、妻・敬子と話をするためだった。
「敬子さん、何も言わずこれを使って頂戴」
薫は現金を差し出した。
薫に作れる精一杯の額だった。
すると、敬子は薫を張り飛ばした。
「優越感に満ちた慈善ね。
でも、あなたあたしの奴隷になるって言ったわよね。
貢物は受け取っとくわ。礼は言わないわよ」
態度だけはふてぶてしかったが、結局現金は受け取った。
やはり生活が苦しいのだ。
聞くと、働きに出ようにも保育園の手配が付かないのだという。
泣き喚く赤ん坊を抱えながら、敬子は薫に毒づいた。
「それとも何?あなたがこの子を預かってくれるとでも言うの?
あたしの奴隷ならそれ位のことしたらどう?」
勢いに任せて言っただけの言葉だが、薫は真顔で返答した。
「いいわ。私で良ければ昼間だけでも預かるわ。
でも、その代わりあなたが司さんをしっかり支えてあげてね」

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こうして、敬子はスーパーのパートに出ることになった。
その間、薫は赤ん坊を抱えて学校に通った。
そのまま授業を受けようとすると、当然ながら追い出されてしまった。
仕方なく、薫は校庭の片隅で赤ん坊の世話をした。
「さあ、これでサッパリした。
いい子ね、大介君は。
お腹も空いてるのね。
ごめんなさいね。このママ、おっぱいが出ないのよ。
今、作ってあげますからね」
薫がせっせと哺乳瓶を用意するのを見て、
担任教師・大下直樹(宅麻伸)は呆れて言った。
「水穂、君がしていることは不毛の愛だ。
君は結城の子供の世話をすることで、
結城を偲んで自己満足に浸っているに過ぎん。
そんな事をしても何もなりはしない。
それでもいいと言うのか?
君はやはり俺と結婚するべきだ」
薫は構わず、哺乳瓶を赤ん坊の口に充てがった。
何故か飲もうとしない。
大下教師は、赤ん坊の異変に気付いて額に手を当てた。
「おい、熱っぽいんじゃないか?」

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赤ん坊の急を聞いて、司は慌てて自宅に帰った。
同居している姉・結城小百合(大場久美子)によると、大事には至らなかったという。
まずは一安心だ。
司は姉に聞いて初めて知った。
まさか、薫が赤ん坊を預かってくれていたとは。
遅れて、敬子が帰って来た。
仕事に行っていたのではない。
たまには息抜きがしたいと、遊びに行っていたのだ。
敬子が謝ると、司は静かに答えた。
「詫びるのは俺の方だ。
俺の身勝手のためにお前にも苦労を掛けて」
司は敬子を抱き寄せた。
しかし、何故かすぐ体を離した。
敬子は憤慨して詰った。
「司、あたしが抱けないのね。
あたしは貧乏だけなら辛抱するわよ。
どうにも我慢出来ないのは、あなたがその見えない目の奥底でも、
ずっと薫の姿を見続けていることよ」
図星だった。
居た堪れなくなった司は、家を飛び出した。

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と言っても、司は目が見えない。
外へ出たところですぐ何かに躓いてしまった。
すると、誰かが助け起こしてくれた。
「薫か?」
心配して見に来てくれたようだ。

『司は辛かった。薫の愛が辛かった。
何一つ報いてやれぬ愛ならば、いっそ断ち切るべきだ』

司は、敢えて薫に冷たい言葉を浴びせた。
「薫、俺や敬子のところにもう来るな。
お前俺に同情してくれてるようだが、もうたくさんだ。
愛だのヘチマだの言ったところで、目の見えるお前に俺の身になれる訳がない。
無駄な同情など豚にやってくれ」
言い捨てて、司は夜の街へ手探りで出て行った。

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薫は追い掛けようとしなかった。
代わりに、ポーチから針を取り出した。
「私も何も見えなくなれば、司と同じになれる」
意を決して自分の目を突き刺そうとしたその時、誰かの手が薫から針をもぎ取った。
司の姉・小百合だった。
「薫さん、いつも針を持っているのは女としてとてもいい心掛けよね。
でも、針は物を繕うために使うものでしょ。
あなたに繕って貰いたいのは、司の心」

『この時、薫は決意したのである。
司に同情するよりも、身を捨てて司の目になろうと』

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薫は司を追い掛けた。
発見した司は、チンピラに絡まれて殴り飛ばされたところだった。
薫は司を助け起こして言った。
「司、明日一日私と付き合って。あなたに見て欲しいものがあるの」

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翌日、薫は司を連れて盲学校へやって来た。
そこで、司は初めて盲人の世界を知った。
盲学校の生徒たちは、皆懸命だった。
中でも衝撃的だったのは、目の見えない生徒の作った粘土細工だった。
手に取って驚く司に、教師が説明してくれた。
「始めっからそんなに上手く出来る訳じゃありません。
でも、子供たちは生きたい生きたいって願いを込めて何度も作ります。
すると、子供たちは言い出します。
指が目になった。色まで見えるようだって」
これを受けて、司は自問自答した。
「指が目になった。俺にもそこ迄出来るだろうか」
薫は司の手を取ると、自分の顔を触らせてやった。
「出来るわよ。あなたなら出来るわよ。私が指で見えるでしょ?」
指先から感触が伝わってきた。
温かな、優しさに満ちた、それは正に薫であった。
「見える。お前の顔がハッキリ見える。
薫、俺はもう一度やってみる」

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『その日から、司は白い杖をつきだした。
自分が盲人であることを受け入れ、そこから出発し直そうと決意したのである。
直向に陶芸に賭ける司の再度の挑戦が始まった。
薫の愛に支えられ。
だが、2人にとって夜明けは未だ遠かった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第15話) [サンテレビ] 2014年02月03日 15時00分00秒(月曜日)

<大原清秀:関連作品>

テーマ:テレビドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:14話
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14話「恐ろしい宣告」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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長谷川千草:藤代美奈子

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結城小百合:大場久美子

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大下直樹:宅麻伸

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久保小夜子:梶芽衣子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
陶工見習・結城司(松村雄基)は、
窯焚き中の爆発事故に巻き込まれて病院に担ぎ込まれた。
幸い命に別状はなかったが、
診察の結果角膜が熱損傷していることが判明した。
疲労が蓄積していたこともあり、
司は医師から絶対安静を告げられた。
目に包帯を巻かれた状態で自宅療養に入った司は、
暗闇の中で様々な思案に暮れた。
このまま目が見えなくなるのではないか。
不安の中で司の心に浮かんだのは、
不本意なまま破局した女子高生・水穂薫(南野陽子)であった。
薫が見えなくなること。
それが何よりも恐ろしかった。

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数日後、司の目の包帯が医師によって取り外された。
司は祈りながら目を開けてみた。
見える。
ちゃんと見える。
司は、ほっと胸を撫で下ろした。
その日は、司の妻・結城敬子(相楽ハル子)の退院日でもあった。
司は、生まれたばかりの息子・大介と敬子を伴って病院を出た。
車に乗り込もうとした時、司は視線を感じて傍らを見やった。
そこには、薫が立っていた。
司と目が合うと、薫はプイと立ち去っていった。
後ろ姿を見送りながら、司は追い掛けたいという衝動を懸命に堪えた。
薫は悲しげだった。
全身が涙で一杯だった。
その姿が、司の心に強烈に焼き付いた。
光を取り戻した時に、一番見たいと思っていた。
その女性の余りに痛々しい姿だった。

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病院前で司を目撃した薫は、無人のマンションに帰った。
そして、思い切り泣いた。
どんなに愛しても、司には奥さんと子供がいる。
幸せいっぱいの家族がある。
なのに、私には何も無い。
こんな時に慰めてくれる家族がいない。
「ママ、何処へ行ってしまったのよ。ママ……」

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その夜、薫は親友・久保恵美子(佐倉しおり)の家に電話を掛けた。
もう一人でも大丈夫だから、マンションに帰ったという連絡だった。
薫が身を寄せていた久保家では、それを巡って夫婦喧嘩が勃発していた。
持ち物を届けに行こうという恵美子の父・久保哲也(若林豪)に、
母・久保小夜子(梶芽衣子)が反対したのが切っ掛けだった。
刺々しい小夜子の態度に、久保はとうとう爆発した。

「何でそんなにあの子を嫌うんだ?」
「好きになれという方が無理ですわ。
あなたにとってあの子は血を分けた我が子かもしれませんけど、
あたしにとっては赤の他人です。
例え違うとしても、あなたはあの子に別れた奥さんの面影を見てらっしゃるわ。
あたしにはそれが耐えられないんです」
「小夜子、何度言ったら分かるんだ。
マキと別れたのは遠い昔の話だ。今じゃ赤の他人に過ぎない。
なのにどうしてそんなに過去に拘るんだ。
見っともないヤキモチもいい加減にしろ」
「ヤキモチ?ええ、あたしはあなたとマキさんの過去に嫉妬してます。
でも、それがそんなに愚かしい事でしょうか?」
「愚かだ。例え過去を消し去ることが不可能でも、今の私の妻はお前だ。
それで十分じゃないか」
「妻という言葉は、それだけで一番愛されているという証拠にはならないわ」

言い争う両親の姿をオロオロしながら見守っていた娘・恵美子は、
居た堪れなくなってその場から逃げ出した。

『初めて見た母の一面であった。
愛する人に愛されない苦しみ、悩み、そして嫉妬を剥き出しにした女の顔がそこにあった』

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『そして、ここにも満たされぬ愛に苛立つ女が居た』

司の妻・敬子は、アパートで1人赤ん坊の世話に追われていた。
赤ん坊は、中々泣き止んでくれない。
何をどうしたらいいのか、サッパリ分からない。
そもそも、敬子は本当は子供なんか産みたくなかった。
司を薫から奪い取るため、結婚するために産んだに過ぎない。
そのせいか、自分の子なのに可愛いという感情が中々持てずにいた。
子供を産んだ時、敬子は勝ったと思った。
これで司は自分のものだと思った。
なのに、やっぱり司の心は薫に奪われたままだ。
危険だから止めて欲しいと頼んでも、司は工房に通うのを止めようとしない。
幸せな筈の夫婦生活が、ちっとも思うようにならない。
敬子はやりようのない怒りに駆られて、赤ん坊を怒鳴り付けていた。
「うるっさいわね、もう。いつ迄泣いてるのよ!」
丁度その時、司の姉・結城小百合(大場久美子)が帰宅した。
小百合は立ち往生する敬子を尻目に、手際良く赤ん坊のオムツを替えた。
お陰で、やっと赤ん坊は泣き止んでくれた。
敬子は思わず漏らした。
「こんな暮し、丸で地獄だわ」
その一言に、聞き捨てならぬと小百合が噛み付いた。
「地獄?どういう意味よ、それ?ここの生活がそんなに嫌なの?
愛する人と結婚出来て、子供が産めて、それがどうして地獄なのよ?」
敬子は言い返した。
「地獄です。幾ら子供が出来ても、幾ら結婚出来ても、
結局あたしは形だけの妻なんです。悔しい。悔しい」
自分のことばかりで、丸で母親の自覚がない。
癪に障った小百合は、敬子を叱り飛ばした。
「贅沢言うんじゃないわよ。
愛してもいないのに無理矢理責任を取らされ、結婚にまで追い込まれた司の方がもっと悔しい筈よ。
愛されなくてもいい、妻にさえなれたらそれでいいって、強引に司に結婚を迫ったのはあなたよ。
今更形だけの妻は嫌だって悔しがるのはおかしいじゃない」
すると、敬子は負けじと反論した。
「お義姉さん、あたしが憎いんですね。
そうでしょ?大事な弟を奪ったあたしが憎いんでしょ。
それとも自分が愛する人と結婚出来なかったから、ヤキモチ妬いてる訳?」
敬子は口喧嘩だけは達者だった。
義姉をやり込めると、ちょっとだけスッと出来た。

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だからと言って、それが何の解決になるでもない。
結局、家に居辛くなるだけだった。
敬子は、赤ん坊を抱えて外へ出た。
そして、わざと道路の真ん中に立ってみた。
このまま死んじゃった方が楽なのかな。
そんな気持ちで佇んでいると、タクシーが目の前で急停止した。
「馬鹿野郎、死にてえのか」
運転手に怒鳴られて、敬子は道路脇に身を避けた。
また赤ん坊が泣き出した。
嫌になる。
すると、敬子の只ならぬ様子を見た乗客が心配して降りて来てくれた。
清楚な中年女性だった。
敬子は、中年女性に連れられて近くの公園のベンチに腰を下ろした。
中年女性は、慣れた様子で赤ん坊をあやしてくれた。
この人にも子供が居るんだ。
訊いてみると、18歳の娘が居るという。
敬子と同じ歳だ。
中年女性は敬子を励ました。
「初めはね、あたしも随分戸惑ったものよ。
でも大丈夫。時期に慣れてくるわよ」
中年女性は、大きな鞄を抱えていた。
旅行に行く途中だったらしい。
あたしにもいつかそんな日が来るといいな。
夫と子供と一緒に。
敬子がそう漏らすと、中年女性は笑顔を見せた。
「すぐにそうなるわよ。
それ迄御主人と力を併せて一生懸命大介ちゃんを育てることね。
尤も、その頃には2人目3人目が出来てるのかな。頑張るのよ」
簡単な会話を交わした後、敬子は御礼を言ってその中年女性と別れた。
初めて会った見ず知らずの中年女性が、ちょっとだけ気遣ってくれた。
敬子は、それがとても嬉しかった。
それだけで、とても気が楽になった。

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敬子が帰っていくのを見送った中年女性は、またタクシーを捕まえて走り去った。
そして、自宅に帰り着くと机の上にあった書置を破り捨てた。
敬子がたまたま会ったその中年女性は、恵美子の母・小夜子であった。
あの時、小夜子は夫婦喧嘩が原因で家を飛び出して来たところだった。
それが、敬子との偶然の出会いによって心境が変化して思い留まることにしたのだ。
若い母親もああやって頑張っている。
自分だって家族が居る。
投げ出しちゃいけない。
小夜子もまた、行きずりの敬子と話したことで救われていたのだ。

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それから暫くが過ぎた。
その日、デパートでは現代工芸展という名工の腕を競う催しが開かれていた。
そこに、一際目を引く真紅の壺が出品されていた。
美しさと憂いを帯び、荒削りながらも人の心を捉える魅力を湛えた壺だった。
会場客は誰もが目を奪われた。
審査員は、迷わず賞を送った。
「新人賞 結城司」
そう、それは司の手によるものであった。
事故から復帰した司は、また工房に通って制作に没頭する毎日を送っていた。
建設現場での重労働と並行しての過酷な毎日だった。
司は、その壺に一つの思いを込めていた。
退院したあの日、司は見てしまった。
憂いを帯びた薫の瞳を。
誰よりも悲しげな薫の後ろ姿を。
司の目は、またいつ悪くなるかもしれなかった。
時々目に痛みが走り、視界が霞んだ。
だからこそ、どうしても残しておきたかった。
薫への思いを。
まだ見えるうちに、薫への愛を形にしておきたかった。
何度も失敗を繰り返して、それでも諦めずに焼き上げた。
師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)も絶賛する会心の出来だ。
その壺は、司の熱い情熱が生んだ渾身の一作なのだ。

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大仕事をやり終えた司は、デパート屋上の遊園地に腰を下ろした。
子供たちが無邪気に遊び回っていた。
そこに、薫が現れた。
見に来てくれたんだ。
司が駆け寄ろうと立ち上がった瞬間、視界から薫が消えた。
いや、視界そのものが消えた。

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『陶芸家としての輝ける第一歩を踏み出したその日はまた、
結城司に失明の宣告が下された日であった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第14話) [サンテレビ] 2014年01月30日 15時00分00秒(木曜日)

<長野洋:関連作品>

テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ



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