色々鑑賞録
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海を飛ぶ夢3(最終)
<その1>
<その2>

※ネタバレ注意。

<その3>
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翌日、ラモンは安定剤から目を覚ました。
眠っている間に、ロサから繰り返し電話が掛かって来たという。
ラモンは、ロサを部屋に呼んで用件を尋ねた。
すると、ロサは何時に無く神妙な表情で一大決心を打ち明けた。

「私は判ったのよ。やっと理解したの。
あなたが言ったこと。
"本当に愛するのは、死なせてくれる人"
私の心は決まったわ。
愛してる。
手を貸して欲しい?私は本気よ。
手を貸して欲しい?」

フリアとの連絡が絶たれたラモンにとって、
それは意外な申し出であった。

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ラモンは、兄夫婦に"旅立ち"を告げた。
予てから尊厳死に反対だったラモンの兄・ホセ(セルソ・ブハッロ)は、
ホセの部屋へ来て激しく詰った。
「そうはさせん!」
勿論、それで引くラモンではない。
理屈に強いラモンは、ホセに反論した。
「どうするつもりだ?
ベッドに縛り付けるか?
病院みたいに、睡眠薬を山盛りか?
兄貴には止めさせない。
無知とエセ宗教心で、僕を奴隷にするな」
いつもの調子で抗弁するラモンに、
ホセは声を震わせて激昂した。
「俺はお前の奴隷じゃないのか?
お前のために海を捨て、こんな農場をやる俺の気持ちは?
お前の世話だけをする為に!
俺も女房も息子も、皆お前の奴隷だ!」
言うだけ言うと、ホセは泣きながら部屋を出て行った。
止めても、止められない。
口で否定しつつも、ホセはそんなことは分っていたのだ。

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一方、兄嫁・マヌエラは何も言わなかった。
ホセの気持ちも、ラモンの気持ちも、どちらも良く分かる。
だからこそ、何も言わずに通した。

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昼過ぎ、兄夫婦の息子・ハビエル(タマル・ノヴァス)が帰宅した。
ラモンから見れば、甥っ子にあたる。
ラモンはハビエルを部屋に呼んで、先日届いた著書の一節を読み上げるよう頼んだ。
ハビエルは、ピンと来ない様子でその文面を読み上げた。

「息子よ、生まれて来ぬことを謝ろう。
でも、それは私の過ちではなく、恐れおののくバラのせいだ。
共に遊べぬことを謝ろう。
もし私が去った後で生まれたら、私の愛を忘れないで。
お前の母に口づけを。
私を恨まずに。憎しみは醜い」
「意味は?」
「生まれなかった叔父さんの息子への詩で、その子に語りかけている。
"許してくれ"と」
「そうだ。その下に何て書いてある?」
「ハビエルに」
「どうだ?」
「何が?」
「何も感じないか?」
「息子じゃない」
「勿論だ。でも、理由があるからお前に詩を捧げた」
「息子じゃないよ」
「学校で何を習ってる?もういい、行け」

ラモンは、ムッとした様子でハビエルを部屋から追い出した。
字面は理解出来ても、
詩に込められた思いは伝わらなかったらしい。
この時、ハビエルは未だラモンの旅立ちを聞かされていなかったのだ。

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その夜、「尊厳死の会」代表・ジェネの携帯が鳴った。
ラモンからだ。

「明日、旅立つことにした。
君はこの事から完全に手を引いてくれ。
これでお別れだ。もう連絡はしない。
君の安全のためだ」

「そう、分かったわ。
でも、一つだけ言わせて。
ラモン、もう一度よく考えて。
無理にやらないで。
自分の言葉を実行するためや、
世の中や私たちの組織のために、自分を追い込んだりしないで。
聞いてる、ラモン?」

ジェネが縋り付くよう訴えると、ラモンは突き放したように答えた。

「君も皆と同じだね、ジェネ」
「ごめんなさい、ラモン」
「さよなら、ジェネ」
「いい旅路を祈るわ、心の友……」

ジェネは、涙ぐみながら携帯を切った。
もう誰に求められない。

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旅立ちの朝が来た。
ラモンは、家族に見守られながら車に載せられた。
兄夫婦のホセとマヌエラ、それに甥っ子のハビエルだ。
ハビエルは、「詩を理解したよ」とラモンを抱き締めた。
やがて、車が出た。
ハビエルは、追い切れなくなるまで車を追いかけ続けた。

ラモンは、ハビエルに教えることは教えたつもりだ。
年老いた祖父を大事にすること。
ハビエルを息子同然に愛し、思いを託していたこと。
いつか、分かってくれるだろう。

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ラモンを載せた車は、ロサの待つホテルに到着した。
そのホテルからは、海がとてもよく見える。
ラモンとロサは部屋を取り、夕日を眺めながら語り合った。

「ラモン、死後の人生があるなら、私に"しるし"を送って」
「しるし?」
「何でもいいの。幽霊は平気よ。いつでも、どこでも、待ってるから」
「分かった、約束する。
でも、君だからハッキリ言うけど、死んだ後には何も無いよ。
生まれる前のように、無の世界だ。
確信は無いけど、予感がするんだ。
忘れないで。僕は君の夢の中に居る。
夜は君のベッドに横たわり、愛し合おう。
今から約束しておくよ。
ありがとう、ロサ。心から感謝している」

ロサは、ラモンに唇を寄せたところで思い留まり、
額にキスをした。

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ラモンは、ビデオカメラに向かって語り始めた。
部屋に1人だ。
他に誰も居ない。
顔の横には、ストローを差したコップが置かれていた。
カメラもコップも、誰が設置したのかは分からない。

「ご覧のように水の入ったグラスがあり、適量の青酸カリが含まれています。
それを飲めば、命が絶たれます。
私は貴重なる肉体を放棄します。
生きることは"権利"の筈ですが、私には"義務"でした。
この辛い状況に耐え続けました。
28年4ヶ月と数日もの間です。
思い起こしても、私の人生に楽しいことなど有りませんでした。
意志に反し、ただ時が流れただけです。
ほぼ全生涯です。
でも、状況は変わります。
いつの日か、時と人々の良心によって判断が下るでしょう。
私の死の願いが、正当なものか間違っているか」

ラモンは、首を伸ばしてコップの水をストローで飲み干した。
間もなく、ラモンの意識は混濁を始めた。

「体が熱い。もうすぐだ」

薄れゆく意識の中で、ラモンは海に飛び込んだあの日の夢を見た。

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ラモンが亡くなって暫くが経過した。
「尊厳死の会」代表・ジェネは、療養中のフリアを尋ねた。
フリアは海の見える別荘で、夫と静かに暮らしていた。
病状は進行し、今では話が通じないこともある。
ジェネは、夫の許可を取ってフリアと2人になった。
挨拶すると、フリアは穏やかな笑顔で答えた。
ジェネのことが理解出来ているらしい。
ジェネは少し安心して、ラモンからの手紙を手渡した。
すると、フリアはキョトンとした表情でジェネに尋ねた。

「ラモンって?」
「ラモンよ。あなたのお友達。私が紹介したの。覚えてる?」
「あなたが?」
「そうよ」

フリアは、ラモンを覚えていなかった。
手紙の内容を理解することは、もはや不可能であろう。
そんなフリアに、ラモンはどんな手紙を残したのだろうか。

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『裡なる海へ、裡なる海へ、無重力の奥底へ、
夢が眠る場所で、
2つの魂は、1つの願いを叶える。
2人の眼差しが、静かに幾重にも重なる。
深く、もっと奥深く。
肉体を超えて遥か彼方へ。
でも私は目覚め、ひたすら死を願い、
私の唇は永遠にあなたの髪を彷徨う』

ハビエル・バルデム:「海を飛ぶ夢」 [ABCテレビ] 2011年03月05日 25時30時00秒(土曜日)


テーマ:洋画 - ジャンル:映画

海を飛ぶ夢2
<その1>

<その2>
フリアは病院に担ぎ込まれ、意識を取り戻した。
フリアの持病は「脳血管性痴呆」という。
宣告は2年前だ。
日に日に体が衰え、知能を失ってゆく難病である。
完治する見込みは無い。
フリアは、病床に「尊厳死の会」代表・ジェネを呼んで伝えた。
自分も「尊厳死の会」に入りたいと。
ジェネはよく考えるよう諭して、ラモンからの手紙を手渡した。
フリアには夫が居る。
しかし、死を望む気持ちを判ってくれと言っても理解はしてくれないだろう。
一体、誰ならこの気持ちを判ってくれるだろう。
フリアは、複雑な心境でラモンの手紙に目を通した。

『親愛なるフリア、
"僕の裁判に興味を持つ弁護士"と聞き、僕はすぐに判った。
"この弁護士も病に苦しんでいる"と。
同じ状況にある者だけが、僕の"地獄"を理解してくれる』

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フリアとラモンは、文通で互いの近況を報告した。

ラモンの部屋には、様々な人がやって来る。
寝たきり前から付き合いのある友人も多い。
最近は、工場勤めのロサがよくやって来る。
苦しい胸の内を誰かに聞いて欲しいのだろう。
ラモンの世話をしたいとお節介を焼くので、時に兄嫁マヌエラと小競り合いになる。

一方のフリアは、夫に支えられてリハビリの毎日だ。
足が弱って中々歩けない。
弁護士活動は、もう無理だろう。
だが、ラモンとの交流はこれからも続けるつもりだ。
いつか、ラモンの本を出版したい。
フリアは、ラモンにそんな返事を出した。

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フリア不在の中、「尊厳死の会」の尽力で裁判の手続きが始まった。
ラモンの訴えは、多くの議論を生んだ。
中には、痛烈な批判者もいた。
その急先鋒が、同じ四肢麻痺のフランシスコ神父(ホセ・マリア・ポウ)だ。
フランシスコ神父は、テレビを通じてこう批判した。

「ラモンは死を願っている。
だが、これはラモンの叫びではないのか。
自分に注目してくれと、世の中に訴えているのだ。
彼の家族や周りの人間に、愛情が足りないのだろう。
ラモンが求めているのは、愛情だ。
是非彼に会い、人生は生きるに値するということを判らせたい」

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その夜、ロサが泣きながらラモンの家にやって来た。
勤めていた工場が閉鎖されて、この先どうやって食べていけばいいか分からないという。
ラモンは、途方に暮れるロサを慰めた。
「今の君は、勇敢で強い女だ。
おまけに、寛大で美人。
惚れない男は馬鹿だ」
励まされたロサは、ラモンのためなら何でもしたいと手を握った。
何でも。
そう来ると、ラモンの頼み事は一つだ。
「怖がるな。
計画したのは2年前。誰も罪に問われない。
協力してくれる友人はいるが、もう1人勇敢な人間が必要だ」
何の話か気付いたロサは、慌てて協力を拒否した。
「いいえ、違うわ。看病したいの。
死ぬ手伝いじゃない」

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後日、ラモンの家にフランシスコ神父がやって来た。
テレビで言っていた通り、ラモンを説得するためだ。
フランシスコ神父が教義に照らした命の大切さを説くと、
ラモンは徹底的に反論した。
寝たきりで26年、尊厳死について考えに考えた。
理屈では負けない。
さすがのフランシスコ神父も、ラモンの抗弁には打つ手無しだ。
処置無しと見たフランシスコ神父は、
せめて家族だけでもと説得を始めた。
「彼を生きる気にさせ、教えてやるのだ。
人生は手足を動かし、走り回ったりボールを蹴るだけではない。
人生はもっと深い。
遥かに意味がある。私を信じ給え」
すると、今度は兄嫁マヌエラが反論した。

「あなたがテレビで言ったことは、一生忘れません。
"ラモンの家族に愛情が足りない"だなんて。
義弟は愛情に包まれて暮らしています。
私は長いこと世話をして、息子のように愛してます。
誰が正しいのか判りません。
命は私達のものではなく、神に帰属するのかどうか。
でも、1つだけ判ります。
あなたは、やかましいわ」

結局、フランシスコ神父は誰も説得出来ずに帰っていくのだった。

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数カ月後、弁護士・フリアが退院した。
足に後遺症が残って車椅子状態だが、体調そのものは回復した。
フリアは再びラモンの家に泊り込み、詩の清書を手伝った。
2人は、互いに共感していた。
同じ尊厳死を望む者同士、絆以上の何かがあった。
詩の清書を遂えた夜、フリアはラモンにそっと口付けをした。

「一緒に旅立ちましょう」
「いつ?」
「本の準備は済んだわ。
私はバルセロナへ行き、出版社を見つける。
本を出すのよ。
見本を持って戻ってくるから、その日にしましょう」

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裁判の日が来た。
ラモンは、法廷に出廷した。
寝たきりになって以来家から出ていないラモンにとって、
これは28年振りの外出だった。
傍聴席には、ロサが駆け付けていた。
裁判は粛々と進められ、忽ちに結審した。
最後まで、ラモンに発言の機会は認められなかった。

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閉廷後、ラモンはロサと話し合った。
ロサは度々ラモンの家へやって来て、身の回りの世話を買って出る。
どうしてかと尋ねると、ラモンを愛しているからと言う。
ラモンは、そんなロサに困惑していた。

「どこが愛なんだ?僕の意に反しているのに。
いいか。
僕を本当に愛するのは、死なせてくれる人だ。
それが愛だよ、ロサ。それが愛だ」

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裁判の結果は、ラモンの予想通りだった。
ラモンの心情は察するが、
自殺を幇助した人間は罪に問われるという。
尊厳死は認められなかった。

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暫くして、ラモンの家に著書が届いた。
フリアが持って来る筈が、何故か郵便だ。
著書には、フリアからの手紙が添えられていた。
一緒に死のう。
そう約束をした筈が、フリアはギリギリになって翻意したのだ。

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その日の深夜、兄嫁マヌエラはラモンの嗚咽を聞いて飛び起きた。
ラモンが何かを訴えている。
マヌエラが部屋に駆け付けると、ラモンは泣きながら叫んだ。

「何故、何故だ。
何故皆のように自分の人生に満足出来ない?
何故僕は死にたい?
何故なんだ?
何故……何故僕は死を望む?」

マヌエラは、ラモンを宥めて安定剤を飲ませた。
混濁する意識の中で、ラモンは何度も見た例の夢を見た。
海を飛ぶ夢を。

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<その3に続く>




















テーマ:洋画 - ジャンル:映画



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