アリエスの乙女たち:19話

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19話「母の遺言」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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大下直樹:宅麻伸

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来栖順子:佐藤万理

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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久保小夜子:梶芽衣子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
深夜、女子高生・水穂薫(南野陽子)は、呼び出しを受けて救急病院に駆け付けた。
母・マキ水穂(野川由美子)が、交通事故に遭ったという報せであった。
手術室の中で、マキ水穂は既に虫の息だった。
医師による懸命の救命措置が続けられていたが、最早手遅れの状態であった。
薫は手術室に押し入って、母の手を握った。
事切れる寸前、マキ水穂は声を絞り出して薫に最期の一言を言い残した。
「薫…司さ…力に…」

『トップデザイナー・マキ水穂の突然の死は各界に大きな衝撃を与えたが、
その死が単なる事故ではなく、実は覚悟の自殺であったことを知る者は少なかった』

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マキ水穂の親族は、遺児・薫だけであった。
その為、マキ水穂の葬儀は薫が喪主となって執り行われた。
マキ水穂と生前付き合いのあったデザイナー協会有志が、
未だ高校生の喪主・薫を補佐する形の葬儀であった。
式場には様々な人々が焼香に訪れた。
マキ水穂の前夫・久保哲也(若林豪)と現妻・久保小夜子(梶芽衣子)。
薫の担任教師・大下直樹(宅麻伸)と同僚教師・来栖順子(佐藤万理)。
陶工見習・結城司(松村雄基)とその妻・結城敬子(相楽ハル子)。
司の姉・結城小百合(大場久美子)に敬子の両親(平泉成、結城美栄子)。
薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)とその恋人・磯崎高志(石橋保)。
弔問客が入れ替わり立ち代わり焼香を済ませてゆく中、
薫はずっと目線を落とし続けた。
そんな中、ただ一度だけ薫は顔を上げた。
司の姿が目に入ったのだ。
司の隣には、妻・敬子が寄り添っていた。
当然そこで、薫は敬子と目が合った。
敬子は目で主張していた。
お前には絶対渡さない。

『様々な思いが式場の中を渦巻いていた。
だが、マキの死の直接の引鉄となった雨宮ジュンヤの姿は遂に現れなかった』

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葬儀の後、薫のマンションに母の前夫・久保が訪ねて来た。
久保は開口一番申し出た。
身寄りのない薫を引き取りたいと。
有難い話だが、薫は理由がないからとそれを断った。
しかし、久保は諦めずに食い下がった。
「理由ならある。君は……君は、私の娘だ。
君のお母さんがハッキリとそう言った。
私も間違いないと思う。
薫、お前は私の血を分けた実の娘なんだ」
出生の秘密。
そのことは、薄々感じてはいた。
それが、とうとう確定した。
ずっと父の面影を追い続けて来た薫にとって、これはああそうですかで済む話ではなかった。
しかし、薫はなおも久保の申し出を断り続けた。
恵美子さんに悪いから。
勿論それもある。
だが、何より重要なのは久保が母の恋人だということだ。
母が全身全霊で愛した人。
その人を前に、薫は今日からよろしくとは言えなかった。
薫は、母の位牌を見つめながら久保に答えた。
「ママは、死ぬまでおじ様のことを愛していたんだと思います。
ママが次々男の人を変えていったのも、おじ様を忘れさせてくれる人を探し求めていたからなんです。
きっと人を愛することに疲れてしまったんだわ。
幾ら愛しても、何処か心に隙間風が吹いていたんじゃないかしら。
ママにとっては、一生に一度の恋を貫き通すには死を選ぶしかなかった。
私、そんな気がしてならないんです」
それを聞いて、久保も心が傷んだ。
マキの愛は判っていた。
だが、それでも応えられない自分が居た。
久保の脳裏に、マキの最期の電話が木霊した。
「薫の恋に、力を貸してあげて下さい。
あの子に、愛しながら別れる辛さだけは味あわせたくない。
それだけは、どうしてもお願いしたくて」
死を決意したマキが、久保に託したもの。
それは、娘の恋の手助けだった。
久保は薫に司とのことを訊いてみた。
「薫、君はどうしても司君のことが忘れられないのか?」
すると、薫は力強く頷いた。
「あの人は私の命です。おじ様の仰りたいことは判っています。
彼にはもう奥さんも子供も居る。丁度、おじ様とママの関係みたいにね。
でも、私はママの残した言葉を決して忘れません。
女として生まれた以上、一生に一度の本当の恋に身も心も焼き尽くしたいんです。
たとえ一生報われなくても、一生かけてあの人を愛し抜くつもりです」

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その日、恵美子のアパートに母・小夜子が訪ねて来た。
恵美子は、もうすっかりここでの生活に馴染んだようだ。
健気に家事を熟す恵美子を見て、小夜子は少しだけ安心した。
改めて、小夜子は恵美子に尋ねてみた。
「どうしても、帰って来る気はないの?」
恵美子は、御免なさいと頭を下げた。
決意は固いようだ。
それじゃ仕方ないと小夜子が立ち上がると、
恵美子は高志に会っていって欲しいと引き留めた。
すると、小夜子は強い口調でこれを断った。
「会いたくありません。会いたくありません。
あなたが高志さんのところに走ったお陰でパパは……」
言い掛けて、小夜子は口を噤んだ。
異変を察知した恵美子は、小夜子を問い詰めた。
「パパがどうかしたの?
ママ、教えて。パパの身に何かあったの?」
これで惚けるのは無理だった。
小夜子は恵美子の問掛けに答えた。
「パパは、来週から福島へ行きます。あたしも一緒に付いて行きます」
恵美子にも、段々事情が呑み込めてきた。
「転勤?どうして?どうしてそんな急に……
私のせいなのね?私とマサヒコさんの結婚が駄目になったから」
父が左遷される。
これは、社長が仲介する縁談を破談にした報復措置だ。
今になって、恵美子は自分が父を巻き添えにしていたことを知った。
声を失う恵美子を見て、小夜子はサバサバした様子で答えた。
「もういいの、その話は。
パパが言ってらしたわ。立派な家庭を作りなさいって。
暫く会えなくなるかもしれないけど、体だけは気をつけるのよ」
娘を慰めると、小夜子はアパートから出て行った。
恵美子の心に、ズシリと重石が伸し掛っていた。

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その夜、薫のマンションに親友・恵美子が訪ねて来た。
相談したいことがあるという。
恵美子の心が揺れる時、真剣に話を聞いて力付けてくれるのはいつも薫だった。
2人は、無二の親友なのだ。
恵美子は自責の念に駆られていた。
父がキャリアを棒に振った。
その原因が自分にあると、恵美子は酷く気に病んでいる様子だ。
「私のせいだわ。みんな私のせいなのよ」
恵美子が苦しさを打ち明けると、薫は平然と同意した。
「そうね。あなたがそのマサヒコさんとか言う人と結婚してたら、こんな事にはならなかったでしょうね」
恵美子が困惑すると、薫は畳み掛けた。
「何よ、その顔は?今更後悔しても、追付く問題じゃないでしょ?
それとも何?高志さんと別れて実家へ戻りたいって言うの?」
「そんな……」
「だったら、どんなに辛くても我慢するしかないでしょ?
いい?人を愛するってことはね、いつだって大きな犠牲が付き纏うものなのよ。
自分を傷付け、他人を傷付け、それでも貫き通すのが本当の恋なのよ。
耐えるのよ。どんなに辛くても自分の心に忠実に高志さんとの愛を貫き通すのよ。ね、恵美子さん?」
薫に発破を掛けられて、恵美子は静かに頷いた。
「ありがとう」
やっと笑顔を見せてくれた。
落ち込む親友を前に、強い自分を演じてみせる。
これが薫流の励ましだった。
胸の仕えを下ろした恵美子は、薫に見送られて帰って行った。
その後姿を見ていると、薫の胸中にも複雑な思いが去来していた。

『この子は、紛れも無く血を分けた自分の妹なのだ。
その妹の恋まで悲劇的な結末を迎えさせてはならない。
そう思い定めた薫であったが、
自らの身を振り返った時再び押し寄せる懊悩をどうすることも出来なかった』

恵美子が帰った後マンションに1人取り残された薫は、母の遺影に問掛けた。
「ママ、私はどうすればいいの?
じっと耐えて、司と敬子さんの行く末を見守るだけが私の愛なの?」

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『薫の足は、再び愛しい人の元へと向っていた。
無償の愛、透明な愛に生き抜こうと決意した薫に、
恵美子への励ましの言葉が、自らの心も揺さぶる結果となって跳ね返って来たのだ。
いっそこのまま一気に司の胸に飛び込み、手に手を取って遠くに行ってしまいたい。
そんな衝動が、薫の胸を突き上げていた』

薫は、工房の外で司を出待ちした。
暫くすると、今日の作業を遂えた司が出て来た。
薫は司から少し距離を取り、その後を尾行して行った。
その日の司は、まっすぐ家に帰らなかった。
妻・敬子の実家に立ち寄っていた。
現在敬子は夫と喧嘩して実家に帰ってしまっている。
恐らく、帰って来るよう説得しているのだろう。
結局、司は1人で家を出て来た。
どうやら、説得は失敗のようだ。
薫は、また司の後をつけて行った。
やがて、司は地下鉄の駅にやって来た。
帰宅ラッシュなので、構内は人混みで溢れ返っている。
覚束無い足取りをハラハラしながら見守っていると、
司は列車に乗り込む寸前に躓いてしまった。
薫は駆け寄って助け起こした。
すると、後ろから駆け込み乗車の人混みが大挙して雪崩れ込んできた。
気が付くと、薫は司と共に列車の中に押し込まれていた。
満員電車の車中、薫は懸命に息を殺した。
すぐ隣に司が居る。
司と手が触れると、すぐに引っ込めた。
やっと駅に辿り着いたところで、司は薫に頭を下げた。
「あの、どなたか知りませんが、ありがとうございました」
親切な通行人。
司にはそう映ったのだろうか。
薫は一言も口を利かないまま、駅を飛び出した。

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薫は、母が埋葬された墓地へと走った。
墓前に辿り着くと、堰を切ったように薫の目から涙が溢れた。
「ママ、許して。私は、やっぱり司を奪うことは出来ません。
敬子さんを傷付け、大介ちゃんから父親を奪い取ることは、私にはどうしても出来ません。
でもママ、これだけは聞いて頂戴。
例え、司と一生結ばれなくても、私の愛だけは貫き通してみせます。
何があろうと、絶対に挫けません。後悔もしません。
私は彼を愛したことを誇りに思い、その誇りを胸に生きていきます。
ママ、そんな私を天国から見ていて下さいね」

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母の墓前で誓いを立てる薫を、物陰から見守っている男がいた。
泣き明かした薫が暫くして立ち去ると、男はフラリと墓前にやって来た。
そして、持っていたワインボトルの封を切って、中身を振り撒いた。
薫の父・久保であった。
久保はボトルを墓前に供えて、天国のマキ水穂に語り掛けた。
「マキ、今の薫の話を聞いたか?
あの子の言う通り、結局司との恋は決して実を結ぶことはないだろう。
だが、それでもあの子は司を愛し抜くに違いない。
そう、あの子が言っていたように誇りをもって。
そして、私はあの子の恋を遠くからじっと見守ってやるつもりだ。
それが、父親として私に出来るたった一つのことだからね」
淡々と語り終えた久保は、最後に墓前祈りを捧げた。
愛していた。
愛し合っていた。
それでも別れる運命になったマキ水穂を想って。
祈り終えた久保は、帰り掛けたところでふとマキの墓を振り返った。
「マキ、素晴らしい娘を残してくれてありがとう」

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上野駅の構内に、発車を告げるベルが鳴り響いた。
その新幹線の車中には、久保と妻・小夜子が乗り込んでいた。
これから、新任地の福島へ発つところだ。
発車直前、久保は小夜子に促されて窓外を見た。
娘・恵美子が高志を伴ってフォームに駆け込んで来たところだった。
恵美子は車両に駆け寄ると、窓越しの久保に懸命に訴えた。
「パパ、御免なさい。御免なさい、パパ。
パパ、私約束するわ。高志さんときっといい家庭を築いてみせます。
だから許して、パパ」
窓越しなので、何を言っているのかは聞こえなかった。
それでも、久保は娘の目を見て静かに頷いた。
幸せになれよ。
久保は無言で娘に語り掛けた。
間もなく、新幹線は静かに発車した。
見る見る恵美子の姿が遠ざかってゆく。
その姿を見つめながら、久保は構内に別の人影が居たことに気付いた。
久保のもう1人の娘・薫であった。

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『母を失い天涯孤独の身となった薫。
両親に去られた恵美子。
アリエスの乙女たちに、なおも多難な前途が待ち受けていた』

ドラマ アリエスの乙女たち(第19話) [サンテレビ] 2014年02月11日 15時00分00秒(火曜日) (サンテレビ1)

<主題歌作詞:阿久悠>
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