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大映ドラマ各話リンク
※大映ドラマの各話タイトルが探しにくいという連絡を頂きました。
以下リンクを追加しておきます。
青い文字をクリックすると新しい窓で開きます。

<大映ドラマ・スタッフ>
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「ヤヌスの鏡」脚本:江連卓

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「アリエスの乙女たち」脚本:長野洋

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「ヤヌスの鏡」「アリエスの乙女たち」監督:土屋統吾郎

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「ヤヌスの鏡」「アリエスの乙女たち」監督:岡本弘



『ヤヌスの鏡』全18話

1話「遅すぎた!私が消える」
2話「少女に何が起こったか?」
3話「嵐呼ぶ悪の化身」
4話「昼は恋人、夜は敵」
5話「慕い続けた人の名は…」
6話「納戸の中の秘密」
7話「あれが噂のBカップル」
8話「悪魔が初めて恐怖する」
9話「花嫁姿で笑う魔少女」
10話「少女が知った恐ろしい秘密」
11話「ダイヤの秘密」
12話「今夜魔少女の復讐が始まる」
13話「聖少女と魔少女の闘い」
14話「変身はパトカーの中で」
15話「悪魔の棲む館」
16話「私が勝ったと叫ぶ魔少女」
17話「私の敵は祖母」
18話「輝ける合体」



『アリエスの乙女たち』全23話

1話「魔性の瞳」
2話「これが愛?」
3話「二人だけの夜」
4話「恋のスクランブル」
5話「親たちの秘密」
6話「恐ろしい破局」
7話「真昼の決闘」
8話「男の決着」
9話「愛なき妊娠」
10話「たった一人の結婚式」
11話「私の全て捧げます」
12話「私は愛人?」
13話「陰の女」
14話「恐ろしい宣告」
15話「神よ!私に暗闇を」
16話「檻の中の愛」
17話「私の名は不倫少女」
18話「花嫁となる夜」
19話「母の遺言」
20話「召しませ我が命」
21話「悲しき化身」
22話「愛しながら他人」
23話「輝ける愛の奇跡」

<大映テレビドラマ:関連作品>

テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:23話(最終回)
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23話「輝ける愛の奇跡」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城小百合:大場久美子

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磯崎志乃:奈月ひろ子

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長谷川千草:藤代美奈子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保小夜子:梶芽衣子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
過疎の村で陶芸家への夢を追い掛ける青年・結城司(松村雄基)は、再び新作製作に没頭していた。
司は、師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)に前作を厳しく酷評された。
そのショックは大きく、司は自殺寸前にまで追い込まれていた。
そんな司を救ったのが、心に慕う恋人・水穂薫(南野陽子)からの手紙であった。
今、司は巨大な挫折を乗り越えて不死鳥の如く蘇ろうとしていた。

司は、長谷川の指摘を冷静に思い返してみた。
盲目の司は、色や模様に強烈な渇望があった。
だからこそ、目を引く美しさを誇る色鍋島に拘った。
それが、そもそもの間違いだった。
目が見えないのに色や模様を追い求めるのは、長谷川の指摘通り邪念なのだ。
見えないからこそ拘るべきもの。
それは、自分自身の手だ。
手が覚えている感触、温もり、それを表現するのだ。
司が選ぶべきモチーフは1つしかなかった。
薫だ。
薫を描くこと。
それが、俺の心なのだ。
そう悟った司は、漸く自分の道に開眼した。
そして、寝食を忘れて陶器製作に没頭する毎日を再開したのだった。

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司が薫を描こうとしている。
それを誰より喜んだは、当然ながら薫であった。
薫は、今も「口の利けないおばさん」を装って司を手伝っていた。
無言で黙々と作業を手伝いながら、薫は心の声で司に訴えていた。

『ありがとう。大声で叫び出したい衝動を、薫は必死に抑えていた。
愛されている。
自分がこの人を愛しているように、この人も自分を世界中の誰よりも愛してくれている。
薫は、今その愛を全身で感じ取っていた』

薫は人気のない山に向って大声で叫んでいた。
今は亡き母・マキ水穂を思って。
「ママ、ママ聞いて。私はとうとう本当の恋を掴んだわ。
ママ、ママは愛は奪い取るものだと言ったわね。
でも、私は奪い取ろうとはしなかった。
ただ、愛し抜くことだけに賭けたのよ。
そして、今私は確かな手応えを掴んだわ。
例え、このまま一生言葉を交わすことがなくても、
あの人と私は永遠に1つになったのよ。
ママ、私は幸せです。本当に幸せです。ママ、ママ……」
薫の声は、澄み渡る大空に掻き消されていった。

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その頃、薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)は、
数日前のショッキングな出来事から塞ぎ込む毎日を送っていた。
同棲している恋人・磯崎高志(石橋保)は、
いつ迄も悄気返る恵美子に嫌気が差したのか、このところ中々家に帰って来なかった。
恵美子は、1人アパートで途方に暮れていた。
かくも恵美子を追い込んだ原因とは、
父・久保哲也(若林豪)に浴びせられた冷たい言葉だった。
「未だ居たのか?さっさと東京へ帰れと言った筈だ。
第一、私の体がどうなろうと恵美子とはもう何の関係もない筈だ。
恵美子、お前が家を出て高志君と一緒になった時、私は親子の縁を切ると言った筈だ。
忘れた訳じゃあるまい。
それを、今更私の病気に託けて戻って来ようとしてもそうはいかん。
お前は、もう私の娘ではないのだ。
出て行け。2度と私の前に顔を見せるな!」
入院中の父を看病しようと見舞いに行った日、恵美子はこう言われて病室を追い出された。
幼少期からいつも優しく可愛がってくれた父が、信じられない剣幕だった。
確かに、高志の元へ走った時には父と喧嘩になった。
疎遠になることも覚悟していた。
でも、病に倒れた今の父からここ迄罵倒されるとは思ってもみなかった。
もし、このまま父が亡くなったら私は親の死に目にも会えないの?
恵美子は胸が締め付けられた。
どうしたらいいのか分からない。
この苦しい状況で、親身になって恵美子の相談に乗ってくれる人は1人しか居なかった。

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恵美子は、親友・薫と再会した。
恵美子の話を聞いた薫は、いつもの強気な薫であった。
「恵美子さん、あなた今一番愛している人は誰なの?
高志さん?それともパパ?
いい?今あなたにとって一番大切なことは、何があっても高志さんを愛し抜くことなのよ。
その為にパパと一生会えなくなったとしても、
あなたが取るべき道は高志さんとの愛を貫き通すこと以外にないわ。
迷うのは止めなさい。
あなたが高志さんと幸せな家庭を築くことが、結局は御両親にも……
そうよ、おじ様もそう願ってあなたを追い返したんだわ。
そうよ、そうに違いないわ」
恵美子の目から涙が溢れると、薫のハンカチがそっと拭き取った。
「さあ、もう泣き虫は卒業しなさい。
幸せってことは、きっと自分の賭けた愛を疑わずに生きていくことだわ。
あなたのパパは、きっとそのことをあなたに言いたかったのよ」
薫に励まされた恵美子は、力強く頷いた。
「分かったわ。私今度こそ全てを捨てても高志さんとの愛を貫いて見せるわ」
今日も薫さんに救われた。
恵美子は御礼を言った。
そして、帰り掛けたところでふと薫を振り返った。
この人には、言っておくことがある。
「ねえ、一度だけ言わせて。
ありがとう……お姉さん」
恵美子の言葉を聞いて、薫は笑顔で応えた。
飛び切りの笑顔だった。

『妹よ。薫は心の中でそう呼びかけていた。
同じ父の血を命とし、それぞれの母の愛を糧とし、同じアリエスの星の下に生まれた妹よ。
今、あなたは自分の人生を自分の手でしっかりと切り開いていこうとしている。
幸せに。幸せに。血を分けた愛しい人よ』

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『数日後、薫は母の命日に墓参に訪れた』

薫の母・マキ水穂の墓前に、跪いて祈りを捧げる男が居た。
薫の父・久保であった。
体調が回復して仕事に復帰し、それに伴って墓参りに来たらしい。
薫は、久保に続いて花を供えた。
天国の母に祈る薫を見て、久保は静かに問い掛けて来た。
「君は、口の利けないお手伝いのおばさんとして彼の面倒をみているそうだね。
それで、本当に幸せなのか?
彼は、一生君に気付かないかもしれないんだよ。
それで本当に満足出来るのか?」
薫の心に、迷いは無かった。
「満足です。あの人は、今全てを忘れて陶芸に没頭しています。
その為に私の存在が邪魔なら、私は空気のような存在になってあの人に尽くすしかありません。
私だって、以前はもっと激しく燃え上がる恋に憧れていました。
でも、今は違います。
愛する人の側に居て、黙って尽くしてあげる。
それだけで十分に満足なんです。
私は、今あの人に一番相応しい愛し方をしていると信じています。
だから、私は満足だし最高に幸せです」
薫の曇りなき眼を見た久保は、今の問掛けが愚問であることを悟った。
そんな久保を気遣って、薫は恵美子のことを話して聞かせた。
久保は、先日娘を病室から追い返したと気に病んでいるに違いない。
恵美子さんなら大丈夫。
あなたの気持ちを判っています。
必ず、高志さんと立派な家庭を築いてくれます。
薫がそう言うと、久保は手を握って感謝した。
薫は、最後に一言付け加えた。
「だって、恵美子さんは私のたった1人の妹なんですもの」

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薫が立ち去った後、久保は改めてマキ水穂の墓に語り掛けた。
「マキ、あの子の目を見たか?
恋をして、その恋に全てを打ち込んでいる直向な目だ。
そう、昔の君と同じように。
私のもう1人の娘・恵美子もそうだ。
もう、私達が口出す時じゃない。
私達の愛の結晶である娘達が、またそれぞれの愛を育て始めているんだよ」

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それから暫くが過ぎた。
工房で陶芸に没頭する司の前に、2人の訪問客が現れた。
1人は旧友・高志。
もう1人はかつての師匠・長谷川であった。
高志の訪問目的は、結婚式を挙げるので是非出席して欲しいという招待だった。
そう、恵美子が妊娠したのだ。
司は、絶対出席すると高志を祝福した。

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続く長谷川の訪問目的は、
良質な粘土が手に入ったから御裾分けに来たというのが一応の理由だった。
しかし、本当の理由は司にある決断を促すためであった。
それは、司が別れを決断した薫のことについてであった。
長谷川は、司の胸中を見抜いていた。
愛する人に苦労を掛けたくない。
それが故に、敢えて薫と別れたことを。
長谷川は、それは間違いだと司に諭した。
「薫さんにとって最大の幸福は、愛するお前の側に居てお前のために尽くすことだ。
その為の苦労など、いや、その苦労こそが彼女の喜びなんだ。
人は時として愛する者のために死ぬことさえ、喜びと感ずることが出来る。
それが本当の愛なんだ。
お前は薫さんの為に死ねるか?」
それを受けて、司は自問自答した。
俺は、薫のために死ぬことが出来るか?
その問掛けには、断言出来る。
「死ねます」
人は、愛する人のためなら死をも厭わない。
今の司の心境は、正にその境地に達していた。
長谷川は、死ねると断言した司に最後の言葉を送った。
「だったら、彼女と一緒になれ。
お前にとって、共に生き、共に死ぬことに喜びを感じる人間は、
水穂薫をおいて他にはおらんのだぞ」

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その晩は、司の皿作りの最終工程であった。
色や模様ではない薫そのものを描いた皿が、いよいよ窯焚きに掛けられるのだ。
燃え盛る炎の中に皿を差し入れた後、
司は窯を封印して焼き上がりを待った。
熱が冷めて取り出せるようになるのは、夜明けになってからだ。
司は、窯の前で一夜を明かすつもりでいた。
作業を手伝う薫も、今夜はそれに付き合って夜明かしする覚悟だ。
薫と司は、窯の前に腰を下ろして時を待ち続けた。
いつかのように、熱いコーヒーを啜りながらだった。
"口の利けないおばさん"を装う薫は、心の声で司に語り掛けていた。
「司、あなたとこうしてコーヒーを飲みながら一晩過ごしたことがあったわね。
あの頃の私は、未だ幼くて愛の深さなど知ることもなかったわ。
愛する人の側にこうして黙って座っているだけで、
ただそれだけで安らぎを感じる女になるなんて、想像もしていなかった。
あなたは、今何を考えているの?
焼き物のこと?大介君のこと?それとも、私のことも少しは……」
薫の気持ちを知ってか知らずか、司は星空の話を始めた。
薫の運命の星、アリエスについてだった。
「星、見えますか?今夜もいい天気なんでしょ?
牡羊座は分かりますか?アリエスって言うんだそうですね。
アリエスの星の下に生まれた女性は、不幸に身を投げ激しく生きる。
それがアリエスの運命とか。
でも、俺はそんなことは信じない。
例え、不幸に身を投げても激しく愛を貫く者にはきっと幸せが訪れる。
俺はそう信じたいんです」
口の利けない薫は、手拍子で相槌を打った。
薫は困惑していた。
そして、心の声で問い掛けていた。
「司、あなた一体何を言いたいの?
丸で私が……そう、水穂薫が隣に居るみたいに」

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夜明けが来た。
いよいよ窯開きだ。
窯の入り口を封印していたレンガを外し、2人は中から皿を取り出した。
それは、神秘的な青い光を放つ皿だった。
一目見た薫が、思わず溜息を漏らしそうになる程の会心の作だった。
司は、皿を触って慎重に出来栄えを確かめた。
「これだ。この肌だ。
憧れ続け、心に思き描き続けた、あの滑らかな……お前の肌だ。
薫、薫、お前はここに居る!」
司は、薫の手を取った。
薬品で焼いて誤魔化した筈の、ボロボロの薫の手だ。
薫は、とうとう禁を破った。
「知ってたの、司?」
その問掛けに、司は感極まって頷いた。
「途中から、薄々そうじゃないかと感じていた。
だが、そうまでして俺に尽くしてくれるお前の気持ちを考えると言い出せなかった。
いや、どう言葉を尽くしてもお前の気持ちに報いることが出来ないと思ったんだ。
たった1つだけ俺に残された道は、この手で、この見えない目で、
お前の肌を焼き物に映し替えることだけだった。
そして、今俺は遂に……
ありがとう、薫。長い間、本当にありがとう」
司は、薫の手を愛おしそうに頬に寄せた。
「薫、俺はもうこの手を一生離したくない」
司の目から、涙が溢れていた。
薫も思わず答えた。
「離さないで、司。この手も心も一生離さないで。愛してるわ、司」
薫は、司の胸に飛び込んだ。
擦れ違っていた2人の心は、たった今1つになっていた。
「薫、愛してる。お前を心から愛してる」
薫は、涙が止まらなかった。
「司!」
薫は、力一杯司を抱き締めた。
司も、薫を抱き締め返した。
未だ肌寒い夜明けの中で、2人はいつ迄も熱い抱擁を続けるのだった。

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その日、教会にメンデルスゾーンの結婚行進曲が鳴り響いた。
新たに生まれた夫婦の門出を祝福するために。
挙式を挙げるのは、恵美子と高志の夫婦であった。
ウェディングドレスに身を包んだ恵美子は、誰もが見惚れる美しさであった。
バージンロードで恵美子の手を引くのは、父・久保であった。
久保は、娘の結婚式に駆け付けたのだ。
会場の人々は、拍手を送った。
高志の母・磯崎志乃(奈月ひろ子)、
司の師・長谷川、その娘・長谷川千草(藤代美奈子)、
恵美子の母・久保小夜子(梶芽衣子)、
それに、恵美子の姉・薫と、その恋人の司。
牧師から、恵美子と高志に誓いの文言を詠み上げられた。

「愛とは求めて得られるものではなく、与えてこそ初めてその深さを知ることが出来るのです。
労り合い、励まし合い、慈しみ、高め合ってこそ、愛しているといえるのです。
愛そのものに形はありません。
しかし、姿形の無い愛というものこそ、この世の中で一番確かなものなのです」

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客席でそれを聞いた薫と司は、互いに手を取り合った。
そして、自分達の未来を思い描いた。
満天の星空の下で、純白のドレスに身を包んだ薫と司の姿が瞼に浮かんだ。
私達にも、そんな日が来る。
教会の片隅で、もう1組の夫婦が産声を上げようとしていた。
同じアリエスの星の下に生まれた薫と恵美子の恋は、今満開に咲き誇っているのだ。

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『今、確かな愛が実を結ぼうとしていた。
そして、もう一つ。
激しく燃え、苦しみ、そして、遂に勝ち取った愛があった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第23話) [サンテレビ] 2014年02月18日 15時00分00秒(火曜日)

<大映テレビドラマシリーズ:関連作品>


テーマ:懐かしドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:22話
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22話「愛しながら他人」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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津川敬子:相楽ハル子

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大下直樹:宅麻伸

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長谷川千草:藤代美奈子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保小夜子:梶芽衣子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
水穂薫(南野陽子)が、結城司(松村雄基)の工房に通うようになって、
もう2ヶ月が経過していた。
薫は、依然「口の利けないおばさん」を装って司を手伝う毎日を送っていた。
愛する人が目の前に居ながら、一言も口を利けない。
その苦しみは、薫の神経を擦り減らしていた。
それでも薫は耐えた。
愛する司のために。
そんなある晩のことだった。
作業を終えて帰宅した薫の元に、かつての担任教師・大下直樹(宅麻伸)が訪ねて来た。
薫は少し前に退学届を出して高校は中退している。
一体何の用だろう?
薫が訝しんでいると、大下教師は思い詰めた表情で躙り寄って来た。
「俺は、今夜君を抱く。
教師に有るまじき振る舞いだと言いたいんだろう?
だが、俺は君が結城の為にボロボロになるのを見ておれんのだ。
あの男を忘れさせるために、俺は体面など捨てる。
それ程、君を愛しているんだ。水穂、好きだ」
大下教師は、薫に抱き着くと強引にキスしようと唇を寄せた。
薫は強く抵抗した。
気が付くと、大下教師の唇に噛み付いていた。
「私が愛するのは、司さん1人です。
無茶をすると、私舌を噛んで死にます!」
本気だった。
薫の目からは、涙が流れていた。
女が、死んでも護り抜く一線。
その覚悟を見せた涙であった。
それを見て、漸く大下教師も熱を覚ました。
「水穂、もういい。ヤメだ、ヤメだ。
俺はな、ここへ来るのに一つの覚悟をして来た。
君を俺のものにしよう。
それが出来なければ、潔く今日限り君を諦めようと。
残念だが、俺の負けだ」
大下教師は、サバサバした様子で引き返していった。
薫を巡る恋が、また1つ終わりを告げた瞬間であった。

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少し前、薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)もまた高校を中退していた。
恋人・磯崎高志(石橋保)との同棲が、校規に触れると問題視されたのだ。
恵美子は、迷わず退学を決断した。
高志との愛を貫く。
それが、恵美子の選んだ道であった。
アパートでの慎ましい生活は、決して楽ではなかった。
それでも、恵美子は幸せであった。
愛する人と一緒に居られることが、何よりの喜びなのだ。
そんなある朝のことだった。
恵美子のアパートの電話が鳴った。
受話器を取った恵美子の耳に、母・久保小夜子(梶芽衣子)の緊迫した声が飛び込んで来た。
「恵美子、驚かないで聞いて。パパが倒れたわ。
たった今、出勤なさろうとしたら急に。恵美子、すぐに福島に来て」
父の急を聞いた恵美子は、高志と相談してすぐにアパートを飛び出した。
父は、このところ災難続きだ。
大事でなければいいが。

『この時、恵美子はそれが高志との別れになろうとは予測だに出来なかった』

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恵美子の父・久保哲也(若林豪)は、病院に搬送されて小康を取り戻していた。
恵美子が病室に駆け付けると、久保は気丈に微笑んで見せた。
「大丈夫だ。ここのところ仕事が立て込んだもんで、少し眩暈がしただけだ。
明日は会社に出る。
心配は要らないから、東京へ帰りなさい」

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一旦病室の外に出た恵美子は、母・小夜子から詳しい病状を聞いてみた。
小夜子によると、久保はこのところ2人の娘に翻弄された挙句に仕事でも左遷されて、
酷く心労が重なっているのだという。
それを聞くと、恵美子も強く胸が傷んだ。
父をこんな目に遭わせたのは、全部自分のせいなのだ。
責任を感じる恵美子に、小夜子から耳の痛い言葉が続いた。
「恵美子、あなたに来て貰ったのはパパの心配の原因を無くして欲しいからなの」
「ママ、まさか」
「高志さんと別れて欲しいの。そうすれば、パパの病気は回復するわ」
「嫌よ、そんな」
「恵美子、お願い。そうして。
このままでは、パパは衰弱する一方で命も長くは保証できないって先生はそう仰ってるの。
それでもいいの?
パパの体と、高志さんとどっちが大事なの?恵美子」
深刻に訴える小夜子を前に、恵美子は静かに答えた。
「私、高志さんとは別れないわ。
でも、パパの側に居て看病します」
今は、それしか言えなかった。

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一方、陶芸に生きると決意した司の前にも巨大な壁が立ちはだかっていた。
司の目標は、来る全日本陶芸展に自作を出品することであった。
その作品創りのために、司は朝から晩まで作業に追われていた。
しかし、作業は難航していた。
挑戦しているのは、色鍋島の大皿だ。
成形が実に難しい。
少しでも手元が狂うと、粘土の重みで皿の淵が下がってしまう。
盲目の司には、至難の業であった。
それに加えて、皿に施す花の模様作りとなると最早困難と呼べるものではなかった。
下絵すら碌に書けない司にとって、それは雲を手で掴むが如き不可能への挑戦なのだ。
何度やり直しても、花の形にすらならない。
司は焦っていた。
やはり、無理なのか。
明けない夜明けの中で、司は途方に暮れていた。
絶望という名の重圧と戦っていた。
そして、それを補佐する薫もまた巨大な重圧と戦っていた。

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工房には、司の元妻・津川敬子(相楽ハル子)が時々顔を見せた。
子供に会うため。
それが、表向きの理由だった。
しかし、本当の理由は別にあった。
司とは別れても、敬子の心には薫への憎しみが残っていた。
目の見える敬子は、当然ながら「おばさん」の正体が薫だと知っている。
いつか司に正体をバラしてやる。
それをチラつかせて、薫を苦しめるのが目的だった。
薫は、敬子に土下座して頼み込んでいた。
司の作品が完成するまで、もう少しだけ黙っていて欲しい。
誰かが手伝わないと、司は大仕事をやり遂げることが出来ない。
「あなたも司さんを好きなんでしょ?」
薫の訴えを受けて、敬子は今は思い留まっている状態だ。
それも、何時まで持つか分からない。
薫は、常にそんな不安と戦っているのだ。

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ここのところ、薫はすっかり体調を崩していた。
頭痛と発熱が続き、何をするにも手元が覚束無い。
それでも、薫は歯を食いしばってそれを隠し抜いた。
司には、絶対に正体を気取られてはならない。
自分の気配を殺し、それでいて司の作業を手伝い、赤ん坊の世話にまで気を配る。
精神力だけが、薫の体を突き動かしていた。
そんなある日、薫は司の不在を見計らって点字タイプを打ち始めた。
司への手紙を綴るためだった。
薫の見たところ、司はもはや限界であった。
徒労だけが続く毎日の作業に加えて、
薫の面影とも決別できない苦悩が、司の心をボロボロに蝕んでいた。
司を力付けてあげたい。
その一心で、薫は手紙を打った。
遠く離れた地に居る自分を装って、司への愛をこめて。
『司さん、暫くです。あなたとお別れして2ヶ月になります。
あなたは、今どうしていますか?……』

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打ち終わると、薫は近くの郵便局に出しに行った。
投函しようとポストに手紙を差し出したところで、
突然誰かが薫の手から手紙を引っ手繰ってしまった。
司の元妻・敬子であった。
「考えたわね。自分の正体がバレないようにして、しかも司を励まそうなんて」
薫は、取り返そうと敬子に掴み掛かろうとしてその場に膝を付いた。
もう、立っているのも辛い。
様子がおかしいことに気付いた敬子は、歩み寄って薫の額に手を当てた。
「薫、あんた酷い熱じゃないの。
よくこんな体で動けてたわね。
あたしが言うのは何だけどさ、あんたこんなにまでして司に尽くしたって何もならないのよ。
いい加減に諦めたら?」
薫は、気丈に立ち上がった。
「いいの。私は見返りなんて望んでないわ」
その瞬間、薫は俄雨が降って来たのに気付いた。
いけない、帰らないと。
司は今皿を乾燥しているところだ。
雨に濡らしたら台無しになる。
薫は、ヨレヨレになりながら司の工房へ走った。

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雨の降る中、司は何故か皿を前に放心状態であった。
薫が雨が降っていると伝えても、司は何もしようとしない。
全く打開できない皿作りに絶望し、すっかりやる気を失くしているのだ。
仕方なく、薫は1人で皿の上にビニールシートを掛けていった。
全ての皿に掛け終えると、薫はガクリと倒れ込んだ。
体に力が入らない。
司も漸く薫の異変を察知した。
「おばさん、どうしたんですか?何処か具合が悪いんですか?」
司が歩み寄ってくると、薫は最後の力を振り絞って部屋の中へ駆け込んだ。
そして、戸を閉鎖して司の侵入を阻止した。
触られたら、今度こそ気付かれてしまう。
戸の向うから、司の呼掛けが聞こえて来た。
「おばさん、どうしたんです?開けて下さい。何故開けてくれないんです?
女の部屋に入っちゃいけないって言うんですか?
でも、おばさん病気なんじゃ?
医者を呼びます。駄目だって言うんですか?
じゃ、大丈夫なんですね?分かりました。でも、暫く横になって休んで下さい」
薫は手拍子で何とか返事をした後、言われたように横になった。
この状況でも、咳1つ立てられない。
薫はタオルを口に当てて、懸命に息を殺し続けた。

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その晩、薫は夜泣きの声で目を覚ました。
司があやしているようだが、赤ん坊は中々泣き止まない。

『薫は何とか司を励ましたかった。
だが、声も発せず励ましの手紙も敬子に奪われた今、そんな方法は何一つ無かった』

薫は身を起こすと、ハーモニカを手に取った。
そして、司が好きだった「鈴懸の径」を吹いた。
司が高校時代を思い出すと言っていた曲だ。
息苦しい中で、一生懸命吹いた。
司、頑張るのよ。
苦しくても、投げ出しちゃ駄目。やり遂げるのよ。
あなたなら、きっと出来るから。
そんな思いを込めながら、薫は「鈴懸の径」を吹き続けた。

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『司は蘇った。
その司を見て、薫の熱は嘘のように下がっていった。
薫の心は、司の心と1つであった』

それからも司の苦闘は続いた。
盲目の司が大皿に絵を入れるには、超人的集中力を要求された。
気の遠くなるような失敗を重ね、それでも司は願いを込め続けた。
「鈴懸の径」に励まされた、あの夜のことを思い返しながら。
漸く窯焚きに漕ぎ着けた晩、
司は隣に座る薫に語り掛けた。
「おばさん、俺は昔女の子と2人切りで1つ部屋で過ごしたことがあります。
丁度、こんな風にコーヒーを啜りながら。
その子の名は、薫と言いました。
詰らないことを話してしまって……
でも、いい作品が出来たらおばさんのお陰です。本当ですよ」

『この時、薫は司を愛しつつも別離の日が近付いて来る足音を聞いていた。
薫は、司の作品が立派に出来上がればここを出て行くという敬子との約束を忘れてはいなかったのである』

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『数日後、司は完成した作品を携えて長谷川の家を訪れた。
破門されたとは言え、司が真に批評を請いたい人は長谷川以外になかったからである』

司の皿を目にした長谷川から出た言葉は、
余りにも非情なものであった。

「見事だ。一見な」
「一見……と、仰いますと何処か悪いところでも?」
「司、お前まさかこんな物を作って何か取柄があると自惚れている訳じゃあるまいな。
この作品には、技術的にどうこう言う前に心が無い」
「心が無い?」
「そうだ。これを見ても儂には何一つとして感動が伝わって来ぬ。
目が見えようが見えまいが、どれだけ時間を掛けようが、出来不出来とは関係ない。
これは紛れも無い愚作だ」
「先生……」
「俺は目が見えなくともこれだけ凝った物が作れるのだ。
皆をアッと言わせて陶芸家として売り出したい。
お前の心の底には、そういう俗悪な見てくれの精神が、その癒しい野心が、
このケバケバしい金襴でにモロに現れとる。
恥ずかしげもなく、こんな物を持ってくるとは!」

正に一刀両断であった。
司の苦心の作は、無残なまでに失格の烙印を押された。
やっと完成させた作だけに、司の落胆もまた例えようもなく深いものとなった。

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陶芸は、司の命だった。
それだけに何もかもを投げ打って来た。
その世界での光明が見出だせない司には、最早生きる気力は湧いて来なかった。
その晩、司は赤ん坊の大介に別れを言った後、林の中に足を運んだ。
そして、自分の首にナタの刃を当てた。
頸動脈を切れば、死ねる。
意を決して自分の首を切ろうとしたその瞬間、司の耳に薫の声が響いた。
「司、司、司……」
幻聴なのか?それとも、本当に薫が呼んでるのか?
この一瞬の迷いが、司の生死を分けた。
誰かが物凄い力で腕にしがみついて、司からナタをもぎ取ってしまったのだ。
誰だ?今声が聞こえたということは……
「お前、薫だろ?薫だな?薫、お前のためにも俺を死なせてくれ」
司は相手が誰なのか確かめようと、顔の辺りに手を伸ばしてみた。
すると、別の方角から聞き覚えのある声が飛んだ。
「お待ちよ、司。あんた何やってるのよ。
藪から棒に薫、薫って言うから、おばさん面食らってるじゃないの」
敬子の声だ。
それじゃ、今俺の自殺を食い止めたのは例のおばさんなのか?
混乱する司に、敬子はさっき自宅に届いていたと称して手紙を握らせた。
司は封を切って中身を確かめた。
点字で綴られたその文面は、紛れも無く薫からのものであった。

『司さん、暫くです。あなたとお別れして2ヶ月になります。
あなたは、今どうしていますか?
あなたは、きっと陶芸一筋に打ち込んでいることでしょう。
私は2度とあなたに会うことが出来ませんが、
私の魂は片時も離れずあなたを見つめています。
司さん、苦しいこともあるでしょう。
でも、あなたは1人ではないのです。
あなたをこれ迄支えてくれた、どんなに多くの人が居ることか。
長谷川先生、千草さん、小百合さん、恵美子さん、高志さん、敬子さん、そしてダイちゃん。
その人たちのために、どんな事があっても挫けないで歩み続けて下さい。薫』

司は号泣していた。
そして、手紙を握り締めて震える声で誓った。
「おばさん、間違えて済まなかった。
薫……俺は挫けない」

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司が帰って来なかったあの晩、薫は丁度やって来た敬子と共に司を捜した。
司を愛する女同士、一生懸命捜し回った。
そして司が見つかった時、薫と敬子との間には奇妙な絆が生まれていた。
司には、絶対に薫の正体を知られてはならない。
その思いが、敬子に咄嗟の機転を利かせていた。
敬子は、司を守るため薫の大芝居に付き合ったのだ。

翌日、薫は工房から帰る敬子を見送りに行った。
道すがら、薫と敬子は互いの蟠りが氷解してゆくのを感じていた。
「敬子さん、私を憎んでいた筈なのに」
「ああ、あれはあなたに教えて貰った御礼よ」
「私が何を?」
「人の愛し方よ。自分のことなど考えずに尽くすってことを。
私の負けね。でも、負けたのにいい気持ちよ」
そう言うと、敬子は薫が抱えていた赤ん坊の大介に話し掛けた。
「大介、これからもお母さんに可愛がって貰うのよ」
薫が驚くと、敬子は爽やかな笑顔を見せた。
「この子のお母さんはもうあなたよ。
薫、司さんをいつ迄も支えてあげてね」
「敬子さんも、元気でね」
「じゃ」
敬子は、薫に手を振って山を降りていった。
敬子の後ろ姿を見送りながら、薫は長い葛藤と対立の日々が終ったことを感じていた。

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『そして、司の不屈の挑戦が再び始まった。
輝ける愛と栄光のその日を目指して』

ドラマ アリエスの乙女たち(第22話) [サンテレビ] 2014年02月17日 15時00分00秒(月曜日) (サンテレビ1)

<竹本弘一:関連作品>

テーマ:テレビドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:21話
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21話「悲しき化身」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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団地妻:川田路子、吉田はるみ

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大下直樹:宅麻伸

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来栖順子:佐藤万理

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
不安の一夜が明けた。
陶工見習・結城司(松村雄基)が、山中で消息を絶って丸一日が経過していた。
捜索隊は、遭難した司を捜し求めて前日に引き続き山荘を出発した。
隊を率いる司の師・長谷川欣吾(高橋昌也)には、一つの見当があった。
崖が聳え立つ危険な渓谷。
陶土を採るためなら、そこに行ったに違いない。
良質の粘土が採れる場所なのだ。
周辺を捜し回ってみると、睨んだ通り司の足跡が見つかった。
辿ってみると、山道を踏み外して転落していることが判った。
捜索隊は、谷に降りて司を捜した。
小一時間も捜し回っただろうか。
漸くにして司が見つかった。
切り立った断崖にしがみついたまま、身動きが取れずにいたらしい。
司は隊員によって無事救助され、正に九死に一生を得る結果となった。
この絶体絶命の状況下にあって、司は採取した粘土を手放そうとはしなかった。

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司が生還した。
その報せを聞いた妻・結城敬子(相楽ハル子)は、正直複雑な気持ちだった。
まずは夫の無事の喜ぶ。
そんな気持ちには到底なれなかった。
司は危険を承知で山中に土を採りに行った。
女子高生・水穂薫(南野陽子)のために。
そんなにあの女が大事なの?
命懸けでやり遂げる価値があることなの?
敬子は、もう疲れていた。
司の心から薫を追い出すことに、精魂尽き果てていた。
そこで、敬子は一つの賭けをすることにした。
これに負けたら、潔く身を引こう。

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敬子は、ある覚悟を胸に司のアパートへ行った。
そして、有無を言わさず司に抱き着いた。
「司、薫のことなんか忘れてあたしを抱いて。お願い。
ね、1時間、いえ30分でいいから薫を忘れてよ。
一瞬でいいから、薫を忘れてあたしを抱いて。お願い。
一度でいいの。抱いてくれたら、あたしあんたと別れてあげる。
それが望みなんでしょ?だったら、抱いて」
敬子は懸命に縋り付いた。
しかし、司は敬子の体を引き離してしまった。
「お前を抱くことは出来ない。
例え、お前が俺と別れてくれてもそれだけは出来ない」
完敗だった。
体を張って、女の意地を賭けた。
それでも勝てなかった。
司の心は、一分の隙もなく薫で埋め尽されているのだ。
敬子は力なく呟いた。
「司、もういいわ。別れてあげる。離婚届はいずれ持ってくるわ」
驚く司に、敬子は目に涙を溜めて訴えた。
「でも、これだけは信じて。
あたし、あなたを好きだった。
出来れば、いつ迄も一緒に居たかった」
それだけは、どうしても言いたかった。
いい奥さんじゃなかった。
でも、あたしなりに精一杯あなたを愛していました。
敬子は溢れる涙を拭きながら、やっぱり負け惜しみを漏らしていた。
「司、あたしが居なくなったら薫と一緒になるんでしょ?
あなたは、きっとそうするわ。
でも、それで薫が幸せになれるかしら。
薫は目の不自由なあなたと大介の世話で、クタクタに疲れ果てるに違いないわ。
あたしと同じようにね」
敬子は赤ん坊を抱いて別れを言った。
そして、最後に司の手を両手で力一杯握り締めた。
大きくて、ガッシリした、無骨な男の手だった。
「さよなら」
そこで未練を断ち切ると、敬子はアパートを飛び出した。
終った。
何もかも終った。
あたしの恋が敗れた。

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その夜、司のアパートに師・長谷川がやって来た。
出迎えた司に、長谷川は突然厳しい言葉を浴びせた。
「司、今日限りお前は破門だ。
儂は言った筈だ。
他のことには心を動かさず、焼き物一筋に打ち込めと。
お前は、人のために山の中に土を探しに行く余裕など無い筈だ。
心を遊ばせている証拠だ。
そんな奴は、儂は弟子とは思わん。
悔しかったら、全身全霊を打ち込み焼き物一筋に没頭してみろ。
儂の言いたいのは、それだけだ」
一方的に言い終えると、長谷川はアパートから出て行ってしまった。
何の申開きも許されない、電光石火の破門宣告であった。

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翌日、薫は司に公園へ呼び出された。
薫は期待していた。
今度こそ一緒になれる。
敬子さんには悪いけど、もう誰に気兼ねすることもない。
2人の間には愛しか無いのだから。
そんなウキウキ気分の薫に待っていたのは、司からの意外な通達であった。

「今日限り、2度と俺とは会わないでくれ」
「今、何て言ったの?」
「お前とはもう会いたくない。家にもこれからは来ないでくれ。もし来ても俺は追い返す」
「何故?司、訳を話して。私の事嫌いになったの?」
「好きだ。だが、もっと好きなものがある。焼き物だ」
「焼き物?」
「先生に破門されて目が覚めたんだ。俺はこれからは陶芸だけに打ち込みたい。
何としても、自分で納得出来る焼き物作りに挑戦したいんだ。
だが、物を作るのに女は無用だ。
無用どころか、お前が側に居ると俺はどうしても気が散る。
だから、お前とはこれっきりにしたい」
「私は邪魔だと言うの?」
「そうだ。薫、俺のことを本当に考えてくれるのなら、
俺とこれ以上付き合うなどという詰らない夢を見るのは止めてくれ」
「司……嘘、嘘よ、そんな。
女には分かるのよ、好きな人が言うことが嘘か本当かくらいは」
「薫……」
「司、ひょっとして私に苦労させまいと思ってそんなことを言い出したんじゃないの?」
「薫、以前のお前を思い出せ。エレクトラに乗っていた頃を。あの頃の誇らかなお前に返るんだ」
「私はもう前の私じゃないわ。あなたが変えたのよ。今のあなたは私の命よ」
「薫、もう終りなんだ。二度と口を利くこともない。いいな」
「司、待って。私はあなたが目が見えないことだとか、お金が無いことなんか何とも思っていないわ。
あなたと一緒に人生に立ち向かっていける。ただ、それだけで幸せなのよ。
お願い、司。何とか言って。司……司……」

司はそれ以上何も言わなかった。
引き留める薫を振り切って、スタスタ歩き去ってしまった。
薫はただ困惑していた。
どうして、今になってそんなことを言うの?

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司は、奥多摩の過疎の村に移住した。
そこには、かつて陶芸家が使っていたという廃屋があった。
そこを格安で借り受けた司は、赤ん坊の大介と2人暮しを始めた。
手入れすれば未だまだ使える。
姉・結城小百合(大場久美子)が、時々買出し品を届けに来てくれた。
ただでさえ不便な過疎の村で、目の見えない司にはきつい生活であった。
しかし、ここなら陶芸を続けられる。
静かな環境で、陶芸だけに打ち込める。
それは、司にとって何者にも代え難い財産であった。

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そんなある日、姉・小百合が司の工房に訪ねて来た。
姉の背後に誰か気配を感じる。
誰だろう?
司が気付いたのを見て、姉が説明してくれた。
「司、喜んで。ダイちゃんの世話をして下さるおばさんが見つかったわ。
こちら、野中初江さんと仰るの。
あなたさえ良ければ、明日から仕事場に通って手伝って下さるんですって」
訊くと、福祉団体のボランティアだという。
目の見えない男手一つでは赤ん坊の世話まで手が回らないと、姉が気を利かせてくれたらしい。
「ただ、おばさんは口が利けないの。
おばさん、耳は聞こえるけど昔悪性喉頭炎を患って話が出来ないんですって。
でも、とってもシッカリした方よ。
目の不自由なあなた1人では陶器作りは無理よ。
ダイちゃんの世話も行き届かないし、いつどんな事故が起きるかも分からないでしょ?だから」
尤もな話だ。
姉の好意を無下にするのも気が引ける。
司は、その申し出を受け入れることにした。

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翌日から、野中初江は司の工房に通って作業や赤ん坊の世話を手伝うことになった。
この野中初江とは、実は正体を隠した薫であった。
姉・小百合と示し合せて、薫は司の工房に忍び込むことにしたのだ。
盲目の司は、他の感覚が鋭い。
そのため、薫は気取らぬよう注意して司に接した。
息遣いを殺し、歩き方を変え、絶対に声を立てまいと神経を集中した。
しかし、口が利けないと意思疎通が出来ない。
「はい」なら手拍子一つ、「いいえ」なら手拍子2つ。
最初はそう取り決めてやり取りしていたが、それだとどうしても限界があった。
すると、司は掌に文字を書いてくれと頼んで来た。
それを読み取ることで、もっと細かい内容が伝えられると。

『薫は狼狽した。
薫の指が触れれば、その感触でそれが中年女の肌でないことを、司は気付くやもしれなかったからである』

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その場は、丁度居合わせていた小百合の気転で何とか誤魔化した。
帰宅後、薫は薬品に手を浸して自分の手を焼いた。
肌がボロボロになった。
でも、これならバレない。
触れた感触は、中年女のそれ以外の何者でもないのだ。
薫は、やっと司と会話が交わせるようになった。
指文字で、最小限のやり取りを交わす。
それだけが、今の薫に出来る精一杯であった。

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『司は、一心不乱に陶芸に没頭していた。
その厳しい姿の何処にも、薫を偲ぶ風情は露ほども感じられなかった。
薫は、陶芸家として逞しく生きんとする司の姿勢を理解しつつも、
見捨てられたかのような一抹の寂しさを覚えずにはいられなかった』

そんな、ある夜のことだった。
薫は、司が電話に手を伸ばすのを見た。
暫く迷った後、司はダイヤルを回し始めた。

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『それは、薫の家の電話番号であった。
司は決して薫を忘れてはいず、恋しさの余りせめて声なりとも聞こうとしたのであろう。
司は、決して薫を忘れてはいなかった。
薫の胸に歓喜が込み上げた。
薫の心は叫んでいた。
私は、ここに居ます。
あなたの薫は、すぐ側に居るのです』

ドラマ アリエスの乙女たち(第21話) [サンテレビ] 2014年02月13日 15時00分00秒(木曜日) (サンテレビ1)

<佐藤万理:関連作品>


テーマ:懐かしいテレビ番組 - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:20話
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20話「召しませ我が命」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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大下直樹:宅麻伸

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長谷川千草:藤代美奈子

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川欣吾:高橋昌也

<ストーリー>
久保夫妻は、福島へ旅立った。
それを見送った娘・久保恵美子(佐倉しおり)と恋人・磯崎高志(石橋保)、
それにもう1人の娘・水穂薫(南野陽子)は、改めて3人で会食した。
恵美子は未だ自分を責めている様子だ。
父を左遷に追いやったのは自分のせいだと。
落ち込む恵美子を見て、薫は再度発破を掛けた。
「恵美子さん、この間も言ったでしょ。
人を愛するってことは大きな犠牲が付き纏うものだって。
あなた方は愛し合って一緒になったんでしょ?
その為にお父さまが辛い立場に立たされたとしても、耐えるしか無いのよ。
周りの人を気にする余り、自分達の愛まで見失っては何もならないわ。
今あなたに出来る最大の親孝行は、
高志さんと立派な家庭を作ってパパとママを安心させることよ。そうでしょ?」
恵美子と高志は、コクンと頷いた。
納得して貰えたか。
してやったりと薫がちょっと笑みを浮かべると、今度は高志が薫に尋ね返した。
「水穂、そう言う君は一体どうなってるんだ?
君は今でも結城を愛している。そうだろ?結城も君を愛している。
なのに、君達は何故一緒になろうとしないんだ?」
問われた薫は、狼狽していた。
友達の恋には強気でも、自分のことにはてんで弱いのが薫だった。
司には奥さんと子供が居るからと言い訳すると、恵美子は反論した。
「おかしいわ。だって、薫さん人を傷付けても貫き通すのが本当の愛だって言ったじゃない。
私達に愛を貫き通せと言うんだったら、あなたにもそうあって欲しいわ」
薫は恵美子の気遣いに感謝しつつ、複雑な気持ちを吐露した。
「ありがとう。あなた方の気持ちはとっても嬉しいわ。
でも、私には私なりの愛し方がある。
司と私は、決して一緒になることはないと思う。
でも、私が一生を賭けて彼を愛し抜くことに変わりはないわ。
それが私の決めた愛の形なのよ」
恵美子は、中々納得してくれなかった。
「それじゃ、一生司さんを遠くから見つめているだけでいいっていうの?」
「それが私の愛よ」
「嘘。そんなの愛なんかじゃないわ」
「何ですって?!」
「だってそうじゃない。
それであなた本当に幸せなの?ただの自己満足じゃない」
「自己満足ですって?!
よくもそんな事が言えるわね。あなたに何が分かるって言うのよ?」
「ええ、判らないわ。
だってこのままじゃ、あなただけじゃなく司さんだって決して幸せだとは思えないわ」
お願い、薫さん。もう一度考え直して。
今司さんを救ってあげられるのはあなたしかいないのよ」

『恵美子と高志の言葉が、鋭く薫の胸に突き刺さっていた。
言われるまでもなく、泥沼の結婚生活に喘いでいる司に誰よりも心を痛めているのは薫自身であった。
自分が司に近付けば、結局司をより以上苦しめることになる。
愛する者の苦悩を知りつつどうすることも出来ない苛立ちが、薫の全身を駆け巡っていた』

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その頃、司の妻・結城敬子(相楽ハル子)も苦悩していた。
夫・結城司(松村雄基)と喧嘩して以来、敬子は実家に身を寄せていた。
別居状態になって、もうどの位になるだろう。
司は謝りに来てくれた。
今まで冷たくして悪かったと言ってくれた。
反省したから帰って来て欲しいと、実家に足を運んでくれた。
両親(平泉成、結城美栄子)からは、いい加減許してあげなさいと言われている。
それでも、敬子は中々帰る気になれなかった。
あの様子なら、司は優しくしてくれるだろう。
でも、それは上辺だけのことだ。
司の心は、今も薫にある。
帰ったら、またあの憂鬱な日々が始まる。
目の前に居る夫が、別の女のことばかり考えている。
それだけは、どうしても嫌だった。
それじゃ、どうすればいいの?
離婚した方がいいの?
でも、そうしたら司は薫に走るに違いない。
あの女に司を奪われる。
それも嫌、絶対に嫌。
敬子は出口のないトンネルで堂々巡りを続けていた。

『もし、薫が自分の立場だったらどうするのだろう?
失明した夫と乳飲み子を抱え、どん底の生活の中で、
それでも変わらぬ愛を貫き通すことが出来るのだろうか?
不意に敬子は、薫の本心を確かめたい衝動に駆られた』

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翌日、敬子は下校する薫を尾行してみた。
薫の足は、司の師である陶工・長谷川欣吾(高橋昌也)の工房へ向った。
陰で会ってたんだ。
2度と会わないって言ってたのに。
「あいつ、やっぱり」
敬子は、歯噛みしながら工房の中を伺った。
薫と長谷川の会話が聞こえて来た。
そこで交わされていたのは、意外な内容だった。
薫は、切々と長谷川にある頼み事をしていたのだ。

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「是非、もう一度陶芸の勉強をさせて頂きたいんです」
「薫さん、あんたは未だ分かっておらんようだな。
あんたがここへ来ることは決して司の為にはならんと」
「それはよく判っています。
ですから私、司さんが居ない時に伺います」
「何だと?」
「先生、私は私自身のために陶器を焼きたいのです。
昨夜、私は今の自分が司のために何が出来るのか考えてみました。
でも、答えはとうとう見つかりませんでした。
いいえ、私が彼にしてあげられることは何も無いという結論に達したんです。
でも、私は司を愛しています。
これだけは、敬子さんにどんなに嫉妬され非難されても永遠に変えようがありません。
だとしたら、今の私に出来ることは、
司が命を懸けて打ち込んでいる陶芸の世界に私自身も身を置くことしかありません。
私は、司の生き甲斐を私自身の生き甲斐として感じたいんです」
「君自身の生き甲斐?」
「そうです。それだけが彼を愛する私に出来るたった一つの道だと思うんです。
お願いします、先生の弟子にして下さい。
彼には、決して近付きません。声も掛けません。気配を感じさせる真似も致しません。
お願いします、私に生き甲斐を与えて下さい」

『敬子の胸に、暗い敗北感が渦巻いていた。
会うこともなく、気配を感じさせることさえないままに、
それでも司を愛し抜こうとする薫の決意の前に、
自分の独り善がりな愛がどれ程虚しいものだったのか、
嫌というほど思い知らされたのだ。
だが、敬子には未だ司を思い切るだけの決心は付いていなかった』

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工房からの帰り道、敬子は自分に言い聞かせた。
「もう一度だけやってみるわ。そうよ、もう一度だけ」
今度こそ、いい奥さんになろう。
敬子はそう決意して、司のアパートに向った。
そして、開口一番義姉・結城小百合(大場久美子)に頭を下げて謝った。
「長い間、留守にしていて済みませんでした。
勝手なことばかりして、本当に済みませんでした」
義姉は、複雑そうな表情を浮かべていた。
だが、追い返そうともしなかった。
招き入れられた敬子は、室内をざっと眺めてみた。
自分が不在の間、義姉はずっと赤ん坊の面倒を見ていてくれたらしい。
敬子は、義姉に促されて久し振りに我が子を抱いてみた。
すると、どういう訳だか赤ん坊は妙に敬子を嫌がった。
代って義姉が抱くと、すぐに安心して大人しくなってしまう。
子供にまで嫌われちゃったのかな。
敬子は、先行きの不安を覚えずにいられなかった。

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その頃、敬子の夫・司は河川敷の草むらに居た。
目は見えなくても、日を感じ、風を感じ、土を感じることが出来た。
ここは、司が子供の頃によく遊んだ場所だ。
物思いに耽っていると、誰かの声が聞こえた。
聞き覚えがある。
「エクボ?その声はエクボじゃないのか?」
司が呼掛けると、恵美子が挨拶を返した。
丁度ここを通り掛かったらしい。
司は恵美子に訊いてみた。
この辺りにどんな花が咲いているのか?
紫とピンクが混ざったようなのが赤詰草で、青い小さな花が露草だよと説明すると、
恵美子は随分詳しいのねと感心しきりだ。
司は、ずっと草花が好きだった。
誰に育てられた訳でもなく、誰にも気付かれずに終ってしまうかもしれない。
それでも一生懸命咲いている。
そんな草花が大好きだった。
草花の生命力や美しさを、自分の陶器に込められないか。
それが、司が今抱くささやかな夢だ。
司は、高志との仲はどうなのか恵美子に尋ねてみた。
恵美子は「ええまあ」とはにかんで答えた。
2人の仲は順調なようだ。
司が安心すると、不意に恵美子が尋ね返した。
「あなたは幸せなの?」
「え?」
「昨日薫さんに会ったわ。薫さんね、今でもあなたのことを……」
そこで話を打ち切ろうと司が立ち上がっても、
恵美子は止めようとしなかった。
「司さん!」
「薫と俺のことは放っとけ。お前は磯崎のことだけを考えていればいい」
「いいえ、私黙って見ていられないの。
だって、あなた達あんなに愛し合っているのに」
「エクボ、世の中にはな、愛し合っていても一緒になれない者だっているんだ」
「違うわ。少なくともあなたと薫さんは一緒になるのを怖がってるのよ」
「怖がってる?」
「そうよ。自分の気持ちに嘘を付いてるんだわ」
「エクボ……」
「違うと言い切れる?
このまま一生会うことがなくても、後悔しないと言い切る自信があるの?」

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司は工房へ出た。
恵美子の問掛けは、ずっと心に伸し掛っていた。
それでも、司にはどうすることも出来なかった。
今出来るのは、ただ陶芸に打ち込むことだけだ。
台の上で土を練り、轆轤を回し、窯で焼き上げる。
単調な毎日が延々と続く。
そんなある日、司は工房に覚えのない湯呑があることに気が付いた。
師・長谷川に尋ねてみると、外国人の新弟子による作だという。
指先で確かめてみると、表面に露草の模様が刻まれていた。
どうして露草を選んだのだろう?
司は、工房の片隅に露草を活けていたことがあった。
それをモチーフに描いたのだろうか。

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母を失って以来、薫はマンションで1人暮しをしていた。
その日、薫は母の位牌の前に出来たての湯呑を供えた。
これは初めての作品だ。
陶工・長谷川の許可を得て、薫は毎日工房に通っていた。
そこで苦心して、やっと焼き上げたのがこの湯呑なのだ。
薫は母が好きだったワインを湯呑に注ぐと、口に含んで味を確かめてみた。
「うん。いける、いける」
妙な取り合わせだけど、ちょっとだけ幸せな気分になれた。
司と同じ工房で、同じように汗して陶芸に打ち込む。
そうすると、司といつでも一緒に居られる気がした。
そんな感慨に耽っていると、突然物凄い剣幕で司の妻・敬子が薫のマンションに怒鳴り込んで来た。
「司は何処?何処に隠したのよ?」
敬子は抱えていた赤ん坊をソファに放り出すと、戸惑う薫を尻目に家探しを始めた。
「司何処よ?居るのは分かってるのよ。出て来なさいよ」
一通り探し回って誰もいないことが分かると、漸く敬子は落ち着きを取り戻した。
一体どういうことなのか事情を訊いてみると、どうも司が家を出た切り帰って来ないらしい。
それで、薫の元にしけ込んだと誤解して乗り込んで来たという訳だ。
そうこうしているうちに、また赤ん坊が泣き出した。
すると、敬子は直ぐ様怒鳴り付けた。
「全く、よく泣く子ね!」
「赤ちゃんに当っても仕方がないでしょ」
「何よ、偉そうに。そんなに可愛いんだったらあげるわよ」
「何ですって?!」
「この子さえ居なければ、あたしはもっと自由になれるのよ。
愛も無いのに、愛し愛される振りをする暮しなんてもう真っ平よ。
私の一生は、こんな子供に縛られるためにあるんじゃないわ!」
言うだけ言うと、敬子は赤ん坊を置いて出て行ってしまった。
仕方なく、薫は鳴き声を上げる赤ん坊を抱えてあやし始めた。

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遅れて、薫のマンションに司の姉・小百合が訪ねて来た。
敬子が赤ん坊を置き去りにしたと知ると、小百合はすっかり呆れ果ててしまった。
「この子を置いたまま?本当に何て人でしょう」
小百合の話で、薫にも更に詳しい事情が呑み込めた。
司は、山中に土を採りに行くと称して出掛けたようだ。
目の見えない体で無謀極まりないが、前に行ったことがあると反対を押し切って出て行ったらしい。
それが待っても待っても帰らないので、こうして家族で大慌てしているのだ。
小百合はふと薫の湯呑に目を留めた。
「その湯呑……薫さん、もしかしてそれ、あなたが作ったんじゃ」
薫も長谷川の工房に通っている。
それを知ると、小百合は全ての謎が解けたと薫に説明した。
「司は知ってたんだわ。
司は目が不自由になってから、今まで以上に鋭い感覚で物事を見分けるようになっていたわ。
そうよ、あの子は例え顔を合わせなくてもあなたの存在に気付いていたに違いないわ。
司は、あなたに最高の土をプレゼントしたいと思ったんじゃないかしら」
「それじゃ、司さんは私のために?」

『薫の心に、激しい後悔の念が噴き上げていた。
もし、司の身に異変が起きたら、その責任は全て自分にあるのだ』

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司が山中で遭難したという報せは、瞬く間に関係者一同に知らされた。
急を聞いた師・長谷川、旧友・高志、それに薫は、司が消息を絶ったという件の山へ駆け付けた。
地元消防団も駆り出された救助隊が組織されると、一同は広大な山中を捜し回った。
「おお~い!何処だ~!結城~!」
無人の山林に、声だけが虚しく轟いた。
しかし、歩きに歩いて捜し回っても司の行方は杳として知れなかった。
何の手掛りも得られぬまま、ただ時間だけが過ぎてゆく。
とうとう、完全に日が落ちてしまった。
二次災害防止のため、その日の捜索は一旦打ち切られた。
救助隊は山小屋に荷物を降ろして暖を取り始めた。
それを尻目に、薫は1人外へ出て夜空を見上げた。
そして、手を合わせて一心不乱に祈りを捧げた。
「神様、司の命をお守り下さい。
もし助けて下さったら、代りに私の命を差上げても悔いはありません。
司、生きていて。司」

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『薫の必死の願いも虚しく、司の命は最早風前の灯火であった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第20話) [サンテレビ] 2014年02月12日 15時00分00秒(水曜日) (サンテレビ1)


<主題歌作曲:林哲司>

テーマ:ドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ



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