色々鑑賞録
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アリエスの乙女たち:19話
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19話「母の遺言」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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大下直樹:宅麻伸

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来栖順子:佐藤万理

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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久保小夜子:梶芽衣子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
深夜、女子高生・水穂薫(南野陽子)は、呼び出しを受けて救急病院に駆け付けた。
母・マキ水穂(野川由美子)が、交通事故に遭ったという報せであった。
手術室の中で、マキ水穂は既に虫の息だった。
医師による懸命の救命措置が続けられていたが、最早手遅れの状態であった。
薫は手術室に押し入って、母の手を握った。
事切れる寸前、マキ水穂は声を絞り出して薫に最期の一言を言い残した。
「薫…司さ…力に…」

『トップデザイナー・マキ水穂の突然の死は各界に大きな衝撃を与えたが、
その死が単なる事故ではなく、実は覚悟の自殺であったことを知る者は少なかった』

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マキ水穂の親族は、遺児・薫だけであった。
その為、マキ水穂の葬儀は薫が喪主となって執り行われた。
マキ水穂と生前付き合いのあったデザイナー協会有志が、
未だ高校生の喪主・薫を補佐する形の葬儀であった。
式場には様々な人々が焼香に訪れた。
マキ水穂の前夫・久保哲也(若林豪)と現妻・久保小夜子(梶芽衣子)。
薫の担任教師・大下直樹(宅麻伸)と同僚教師・来栖順子(佐藤万理)。
陶工見習・結城司(松村雄基)とその妻・結城敬子(相楽ハル子)。
司の姉・結城小百合(大場久美子)に敬子の両親(平泉成、結城美栄子)。
薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)とその恋人・磯崎高志(石橋保)。
弔問客が入れ替わり立ち代わり焼香を済ませてゆく中、
薫はずっと目線を落とし続けた。
そんな中、ただ一度だけ薫は顔を上げた。
司の姿が目に入ったのだ。
司の隣には、妻・敬子が寄り添っていた。
当然そこで、薫は敬子と目が合った。
敬子は目で主張していた。
お前には絶対渡さない。

『様々な思いが式場の中を渦巻いていた。
だが、マキの死の直接の引鉄となった雨宮ジュンヤの姿は遂に現れなかった』

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葬儀の後、薫のマンションに母の前夫・久保が訪ねて来た。
久保は開口一番申し出た。
身寄りのない薫を引き取りたいと。
有難い話だが、薫は理由がないからとそれを断った。
しかし、久保は諦めずに食い下がった。
「理由ならある。君は……君は、私の娘だ。
君のお母さんがハッキリとそう言った。
私も間違いないと思う。
薫、お前は私の血を分けた実の娘なんだ」
出生の秘密。
そのことは、薄々感じてはいた。
それが、とうとう確定した。
ずっと父の面影を追い続けて来た薫にとって、これはああそうですかで済む話ではなかった。
しかし、薫はなおも久保の申し出を断り続けた。
恵美子さんに悪いから。
勿論それもある。
だが、何より重要なのは久保が母の恋人だということだ。
母が全身全霊で愛した人。
その人を前に、薫は今日からよろしくとは言えなかった。
薫は、母の位牌を見つめながら久保に答えた。
「ママは、死ぬまでおじ様のことを愛していたんだと思います。
ママが次々男の人を変えていったのも、おじ様を忘れさせてくれる人を探し求めていたからなんです。
きっと人を愛することに疲れてしまったんだわ。
幾ら愛しても、何処か心に隙間風が吹いていたんじゃないかしら。
ママにとっては、一生に一度の恋を貫き通すには死を選ぶしかなかった。
私、そんな気がしてならないんです」
それを聞いて、久保も心が傷んだ。
マキの愛は判っていた。
だが、それでも応えられない自分が居た。
久保の脳裏に、マキの最期の電話が木霊した。
「薫の恋に、力を貸してあげて下さい。
あの子に、愛しながら別れる辛さだけは味あわせたくない。
それだけは、どうしてもお願いしたくて」
死を決意したマキが、久保に託したもの。
それは、娘の恋の手助けだった。
久保は薫に司とのことを訊いてみた。
「薫、君はどうしても司君のことが忘れられないのか?」
すると、薫は力強く頷いた。
「あの人は私の命です。おじ様の仰りたいことは判っています。
彼にはもう奥さんも子供も居る。丁度、おじ様とママの関係みたいにね。
でも、私はママの残した言葉を決して忘れません。
女として生まれた以上、一生に一度の本当の恋に身も心も焼き尽くしたいんです。
たとえ一生報われなくても、一生かけてあの人を愛し抜くつもりです」

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その日、恵美子のアパートに母・小夜子が訪ねて来た。
恵美子は、もうすっかりここでの生活に馴染んだようだ。
健気に家事を熟す恵美子を見て、小夜子は少しだけ安心した。
改めて、小夜子は恵美子に尋ねてみた。
「どうしても、帰って来る気はないの?」
恵美子は、御免なさいと頭を下げた。
決意は固いようだ。
それじゃ仕方ないと小夜子が立ち上がると、
恵美子は高志に会っていって欲しいと引き留めた。
すると、小夜子は強い口調でこれを断った。
「会いたくありません。会いたくありません。
あなたが高志さんのところに走ったお陰でパパは……」
言い掛けて、小夜子は口を噤んだ。
異変を察知した恵美子は、小夜子を問い詰めた。
「パパがどうかしたの?
ママ、教えて。パパの身に何かあったの?」
これで惚けるのは無理だった。
小夜子は恵美子の問掛けに答えた。
「パパは、来週から福島へ行きます。あたしも一緒に付いて行きます」
恵美子にも、段々事情が呑み込めてきた。
「転勤?どうして?どうしてそんな急に……
私のせいなのね?私とマサヒコさんの結婚が駄目になったから」
父が左遷される。
これは、社長が仲介する縁談を破談にした報復措置だ。
今になって、恵美子は自分が父を巻き添えにしていたことを知った。
声を失う恵美子を見て、小夜子はサバサバした様子で答えた。
「もういいの、その話は。
パパが言ってらしたわ。立派な家庭を作りなさいって。
暫く会えなくなるかもしれないけど、体だけは気をつけるのよ」
娘を慰めると、小夜子はアパートから出て行った。
恵美子の心に、ズシリと重石が伸し掛っていた。

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その夜、薫のマンションに親友・恵美子が訪ねて来た。
相談したいことがあるという。
恵美子の心が揺れる時、真剣に話を聞いて力付けてくれるのはいつも薫だった。
2人は、無二の親友なのだ。
恵美子は自責の念に駆られていた。
父がキャリアを棒に振った。
その原因が自分にあると、恵美子は酷く気に病んでいる様子だ。
「私のせいだわ。みんな私のせいなのよ」
恵美子が苦しさを打ち明けると、薫は平然と同意した。
「そうね。あなたがそのマサヒコさんとか言う人と結婚してたら、こんな事にはならなかったでしょうね」
恵美子が困惑すると、薫は畳み掛けた。
「何よ、その顔は?今更後悔しても、追付く問題じゃないでしょ?
それとも何?高志さんと別れて実家へ戻りたいって言うの?」
「そんな……」
「だったら、どんなに辛くても我慢するしかないでしょ?
いい?人を愛するってことはね、いつだって大きな犠牲が付き纏うものなのよ。
自分を傷付け、他人を傷付け、それでも貫き通すのが本当の恋なのよ。
耐えるのよ。どんなに辛くても自分の心に忠実に高志さんとの愛を貫き通すのよ。ね、恵美子さん?」
薫に発破を掛けられて、恵美子は静かに頷いた。
「ありがとう」
やっと笑顔を見せてくれた。
落ち込む親友を前に、強い自分を演じてみせる。
これが薫流の励ましだった。
胸の仕えを下ろした恵美子は、薫に見送られて帰って行った。
その後姿を見ていると、薫の胸中にも複雑な思いが去来していた。

『この子は、紛れも無く血を分けた自分の妹なのだ。
その妹の恋まで悲劇的な結末を迎えさせてはならない。
そう思い定めた薫であったが、
自らの身を振り返った時再び押し寄せる懊悩をどうすることも出来なかった』

恵美子が帰った後マンションに1人取り残された薫は、母の遺影に問掛けた。
「ママ、私はどうすればいいの?
じっと耐えて、司と敬子さんの行く末を見守るだけが私の愛なの?」

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『薫の足は、再び愛しい人の元へと向っていた。
無償の愛、透明な愛に生き抜こうと決意した薫に、
恵美子への励ましの言葉が、自らの心も揺さぶる結果となって跳ね返って来たのだ。
いっそこのまま一気に司の胸に飛び込み、手に手を取って遠くに行ってしまいたい。
そんな衝動が、薫の胸を突き上げていた』

薫は、工房の外で司を出待ちした。
暫くすると、今日の作業を遂えた司が出て来た。
薫は司から少し距離を取り、その後を尾行して行った。
その日の司は、まっすぐ家に帰らなかった。
妻・敬子の実家に立ち寄っていた。
現在敬子は夫と喧嘩して実家に帰ってしまっている。
恐らく、帰って来るよう説得しているのだろう。
結局、司は1人で家を出て来た。
どうやら、説得は失敗のようだ。
薫は、また司の後をつけて行った。
やがて、司は地下鉄の駅にやって来た。
帰宅ラッシュなので、構内は人混みで溢れ返っている。
覚束無い足取りをハラハラしながら見守っていると、
司は列車に乗り込む寸前に躓いてしまった。
薫は駆け寄って助け起こした。
すると、後ろから駆け込み乗車の人混みが大挙して雪崩れ込んできた。
気が付くと、薫は司と共に列車の中に押し込まれていた。
満員電車の車中、薫は懸命に息を殺した。
すぐ隣に司が居る。
司と手が触れると、すぐに引っ込めた。
やっと駅に辿り着いたところで、司は薫に頭を下げた。
「あの、どなたか知りませんが、ありがとうございました」
親切な通行人。
司にはそう映ったのだろうか。
薫は一言も口を利かないまま、駅を飛び出した。

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薫は、母が埋葬された墓地へと走った。
墓前に辿り着くと、堰を切ったように薫の目から涙が溢れた。
「ママ、許して。私は、やっぱり司を奪うことは出来ません。
敬子さんを傷付け、大介ちゃんから父親を奪い取ることは、私にはどうしても出来ません。
でもママ、これだけは聞いて頂戴。
例え、司と一生結ばれなくても、私の愛だけは貫き通してみせます。
何があろうと、絶対に挫けません。後悔もしません。
私は彼を愛したことを誇りに思い、その誇りを胸に生きていきます。
ママ、そんな私を天国から見ていて下さいね」

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母の墓前で誓いを立てる薫を、物陰から見守っている男がいた。
泣き明かした薫が暫くして立ち去ると、男はフラリと墓前にやって来た。
そして、持っていたワインボトルの封を切って、中身を振り撒いた。
薫の父・久保であった。
久保はボトルを墓前に供えて、天国のマキ水穂に語り掛けた。
「マキ、今の薫の話を聞いたか?
あの子の言う通り、結局司との恋は決して実を結ぶことはないだろう。
だが、それでもあの子は司を愛し抜くに違いない。
そう、あの子が言っていたように誇りをもって。
そして、私はあの子の恋を遠くからじっと見守ってやるつもりだ。
それが、父親として私に出来るたった一つのことだからね」
淡々と語り終えた久保は、最後に墓前祈りを捧げた。
愛していた。
愛し合っていた。
それでも別れる運命になったマキ水穂を想って。
祈り終えた久保は、帰り掛けたところでふとマキの墓を振り返った。
「マキ、素晴らしい娘を残してくれてありがとう」

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上野駅の構内に、発車を告げるベルが鳴り響いた。
その新幹線の車中には、久保と妻・小夜子が乗り込んでいた。
これから、新任地の福島へ発つところだ。
発車直前、久保は小夜子に促されて窓外を見た。
娘・恵美子が高志を伴ってフォームに駆け込んで来たところだった。
恵美子は車両に駆け寄ると、窓越しの久保に懸命に訴えた。
「パパ、御免なさい。御免なさい、パパ。
パパ、私約束するわ。高志さんときっといい家庭を築いてみせます。
だから許して、パパ」
窓越しなので、何を言っているのかは聞こえなかった。
それでも、久保は娘の目を見て静かに頷いた。
幸せになれよ。
久保は無言で娘に語り掛けた。
間もなく、新幹線は静かに発車した。
見る見る恵美子の姿が遠ざかってゆく。
その姿を見つめながら、久保は構内に別の人影が居たことに気付いた。
久保のもう1人の娘・薫であった。

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『母を失い天涯孤独の身となった薫。
両親に去られた恵美子。
アリエスの乙女たちに、なおも多難な前途が待ち受けていた』

ドラマ アリエスの乙女たち(第19話) [サンテレビ] 2014年02月11日 15時00分00秒(火曜日) (サンテレビ1)

<主題歌作詞:阿久悠>

テーマ:ドラマ・映画 - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:18話
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18話「花嫁となる夜」脚本:長野洋

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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雨宮ジュンヤ:深水三章

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長谷川千草:藤代美奈子

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磯崎志乃:奈月ひろ子

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敬子の両親:平泉成、結城美栄子

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久保小夜子:梶芽衣子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
女子高生・久保恵美子(佐倉しおり)は、一つの決断を下した。
家を捨てて、身一つで愛する人に飛び込むこと。
それは、恵美子にとって生涯最大とも言える一大決心であった。
この日、恵美子は恋人・磯崎高志(石橋保)の北海道出張に同行した。
そして、旅館で2人の夜を過ごした。
女として、この人なら悔いはない。
自分を捨てて、身を捧げられる人。
迷い、悩み、考え抜いた末の相手が高志だった。
高志は決して完全な人間ではない。
生真面目であるが故に折れやすく、未だまだ頼りにはならない。
裕福な暮しが約束されている訳でもなければ、喧嘩したことも幻滅したこともある。
それでも、やっぱりこの人。
それが、私の道。
次の朝、恵美子は高志と海で夜明けを見た。
そして、改めて思った。
「この髪も、この肌も、この体を流れる血も、もう全てこの人のものなんだわ」

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その頃、恵美子の親友・水穂薫(南野陽子)は、
陶工見習・結城司(松村雄基)の工房を訪ねていた。
司の師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)の許しを得て以来、
工房で作業を手伝うのが薫の日課だ。
司は今日も早出して、見えない目で燃え盛る窯を見つめていた。
何だか物思いに耽っている様子だ。
何を考えているのだろう?
薫は司に訊いてみた。
司は苦しい胸の内を打ち明けた。
昨日の夜、司は妻・結城敬子(相楽ハル子)と大喧嘩になっていた。
ここ暫く、敬子は毎日のように癇癪を起こしている。
慣れない子育て、盲目の夫、先行きの見通せない生活、同居する義姉。
思い通りにならない結婚生活に苛立ち、気が付くと子供に怒鳴り散らしている。
司がそれを咎めると、また泥沼の夫婦喧嘩が始まる。
その繰り返しだ。
どうしてこうなったのか。
その原因を考えてみると、全ては司本人のいい加減な生き方にあると自覚せざるを得なかった。
愛とは何か。
愛の齎すものは何か。
司は何も考えて来なかった。
「俺は、元々いい加減な気持ちで敬子を抱いていた。
先のことなんて、これっぽっちも考えたことがなかった。
お前に接近した時もそうだった。
そして、漸く真剣にお前を愛している自分に気付いた時にはもう遅かった。
そうなんだよ、敬子との地獄のような結婚生活に陥ったのも、
あんたをこんな辛い目に遭わせているのも、この目が見えなくなってしまったのも、何もかも自業自得だ。
天罰なんだよ、これは」

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工房での作業を終えた後、薫は司の師匠・長谷川に呼び出された。
薫を応接間に通すと、開口一番長谷川は工房への出入り禁止を言い渡した。
許可を取ったのにどうして?
薫が戸惑うと、長谷川は噛んで含めるように諭した。
「考えてもみたまえ。
如何に全てを忘れて陶芸に打ち込もうとしても、
愛する者の声をその耳元で聞き、その息遣いに触れていては、どんな者でも決して無心にはなれない。
このままでは、司は君に頼り、甘え、結局己を見失ってしまうだろう。
その時こそ、あの男は本当に地獄に堕ちてしまうのだ。
分かってくれるかね?
あの男の心を本当に救えるのは、残念ながら君ではない。陶芸だ。
焼き物を作り続けることだけが、正に司の生きる証なんだ」

目の見えない司を助けてあげたい。
薫は、ただその一念で作業を手伝っていた。
それが、本人のためにならない。
司を惑わす邪念になる。
これは意外な指摘だった。
でも、考えてみれば長谷川の言葉は尤もだった。
四六時中恋人が側に寄り添っていて、どうして陶芸だけに打ち込めよう。
陶芸で成功出来なければ、司の道は開けない。
それを邪魔するなら、愛があろうと身を引くべきだ。
薫は長谷川の言を受け入れることにした。

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『愛するが故に、愛する者に生きる証を与える為に、
その前から姿を消さねばならぬこともある。
出来得ることならば、司の意識の中からさえも自分の存在を消し去らねばならない。
その為には、まず自分がそうあらねばならないのだ。
見ることも、感じることさえ出来なくなる程の透明な世界に身を置きながら、
尚且つ失うことのない愛。
薫は、今そんな透明の愛の中に自らを沈めようと決心をしたのだ』

薫は、最後に一目だけ司を見た。
そして、意を決して工房から飛び出した。
もう会わない。
そう決めた。
司を愛している。
だからこそ、心を鬼にして決断した。
そうすることが司のためだから。
でも、私は一生司を愛し続ける。
それが、私の生きる証だから。

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その日、恵美子と高志は北海道から帰京した。
恵美子は、家へは帰らなかった。
その足で高志のアパートに行くと、高志の母・磯崎志乃(奈月ひろ子)の前で両手を付いた。
「勝手なことをして申し訳御座いません。でも、私真剣です。
決して浮ついた気持ちじゃありません。
これから一生懸命高志さんとお義母さんのために尽くしますから、
どうかここへ置いて下さい。お願いします」
志乃は穏やかに答えた。
「手をお上げなさい、恵美子さん。
人は見掛けによらないって言うけど、あなたも随分思い切ったことをなさったものね。
恵美子さん、あたしはあなたがこういう形で高志のところに来るのを、
決していいことだと思っている訳じゃありませんよ。
でも、あなたが高志のことを真剣に愛して下さっているのはよく解ってるし、
御両親の反対を押し切ってまで、高志のために尽くそうとして下さる気持ちは嬉しいと思います。
でも、結婚生活はただ愛し合っているだけでは成り立ちません。
今は高志も一介のサラリーマンですし、生活は決して楽ではありません。
お嬢様育ちのあなたに、耐えていけるかしら?」
志乃に問われた恵美子は、間髪入れずに即答した。
「耐えます。どんなに苦しくても、高志さんと一緒ならきっと耐えてみせます」
恵美子の目は本物だった。
これがどれだけ覚悟の要ることか、志乃は女としてすぐ理解出来た。
恵美子は、これ迄にも何度もアパートに来てくれた。
病身だった志乃の世話をするため、献身的に通い詰めていた。
今度は、身一つで相手の家に転がり込む。
中々出来ることではない。
この子なら大丈夫。
息子を任せても、支えて一緒に生きていってくれる。
それが判った以上、志乃には母としてやらねばならぬことがあった。
それは、自分の身を引くことだ。
高志も恵美子も義理堅い。
このままここに居ると、2人の重荷になってしまう。

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志乃は、部屋の片隅に荷物を纏めた。
「何をするつもりなのか」と高志が尋ねると、志乃は「ちょっと旅行に出る」と嘯いた。
実は、住み込みの働き口を見つけてある。
保育園の手伝いだ。
高志と恵美子が驚くのを尻目に、志乃は「午後3時の切符を取ってある」とアパートを飛び出した。
戸惑う高志と恵美子に見送られ、志乃は東京駅を旅立った。
プラットフォームから列車が出発する直前、志乃は恵美子に最後のお願いをした。
「高志のこと、くれぐれもお願いね」

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志乃を見送った恵美子と高志は、アパートに帰って来たところで恵美子の父・久保哲也(若林豪)と出会した。
久保は、娘を待っていたのだ。
恵美子は久保と近くの公園に行くと、2人でじっくり話し合った。
もう、家には帰りません。
このまま高志さんと一緒になります。
高志さんを愛したことは、絶対に間違っていません。
恵美子は、父を前に覚悟の程を訴えた。
「私は、もう高志さんの妻です」
そう断言する恵美子の顔に、久保の知っている少女の面影はなかった。
あるのは、信念に裏打ちされた女の顔だった。
いよいよ、娘と別れる時が来た。
それを悟った久保は、恵美子に最後の言葉を送った。
「恵美子、お前は本当にあの恵美子なのか?
生まれたばかりのお前は、本当に愛らしい天使のような赤ん坊だった。
その愛らしさは、お前が成長していくにつれて消えるどころか増々光り輝いて来るように見えた。
お前は私の宝だった。
お前が生まれてからの私の人生は、お前のその愛らしさを護り抜くことに全てを賭けたと言っても過言ではない。
そのお前が……
あれ程愛し信じ切っていたお前から、これ程手厳しい裏切りを受けようとは思わなかった。
もういい、よく判った。
お前は、今日限り私の娘ではない。
2度と帰って来ることは許さん。
2度と親の顔を見ようとは思うな」
久保は、恵美子の前から立ち去った。
後ろを振り返ろうとはしなかった。
恵美子もまた、引き留めようとはしなかった。

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その晩、薫はガラスの割れる音を聞いてリビングに飛び出した。
母・マキ水穂(野川由美子)が、ワイングラスを叩き割った音だった。
どうやら、マキ水穂は恋人と破局して荒れ狂っているらしい。
薫が慰めると、マキ水穂は薫の体を抱き締めた。
「薫、ママね、今だから言うけど、本当はずっと哲也さんのことを愛していたの。
あの人と別れた後も、ずっと愛し続けていたわ。
これ迄何人もの男と付き合って来たのも、その苦しさから逃れるためだったの」
マキ水穂はそこで自分の話を打ち切ると、薫と司がどうなっているのか尋ねた。
薫は何も答えられなかった。
上手くいってないと察したマキ水穂は、今度は逆に薫を慰めた。
「駄目よ、諦めちゃ。
一度愛した以上は、どんなことがあっても貫き通さなきゃ。
でなきゃ、ママみたいに一生後悔を背負って生きていくことになるわ。
人を愛するってことには、大きな犠牲は付いて回るものよ。
自分を傷付け、他人を傷付け、それでも貫き通すのが本当の恋なのよ。
ママね、薫にあたしと同じ失敗だけは繰り返させたくないの。
どんなに傷付いてもいい。
地獄の底を這い回ってもいい。
女に生まれた以上、一生に一度の本当の恋に身を焼き尽くして欲しいのよ。
あたしも、今度だけはこの恋をあたしなりに全うしてみせるわ」

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同じ夜、司の妻・敬子は実家に帰って両親(平泉成、結城美栄子)に離婚の相談をしていた。
赤ん坊を放り出して来たので、今頃義姉・結城小百合(大場久美子)が怒っていることだろう。
新婚早々何を言うと面食らう両親に、敬子は昼間起きたショッキングな出来事を打ち明けた。
その日、敬子は司の身辺がおかしいと感じて工房を訪ねた。
案の定、また薫と鉢合わせになった。
問い質すと、ここのところ毎日司を手伝っていたという。
怒った敬子が手を挙げようとした瞬間、薫は敬子に以外な言葉を浴びせた。
「敬子さん、あなた本当にあの人の妻なの?
妻だったら、愛しているのなら、何故もっとあの人の力になってあげようとしないのよ。
あなたのしているのは、あの人を苦しめることばかりじゃない。
敬子さん、これが最後のお願いよ。
もし今でも、少しでも彼のことを愛しているのだったら、これ以上苦しめるのは止めて。
あの人にとって一番大切なのは、陶芸に打ち込める環境をこれ以上乱されないことだわ。
それを作ってあげるのが、妻であるあなたの努めなのよ」
胸に突き刺さる言葉だった。
妻の努め。
それは、敬子がこれ迄考えたことのないことだった。
妻だから幸せにして欲しい。
妻だから愛して欲しい。
今まで、夫に求めてばかりだった。
どうして、夫のために何かしてあげようと考えられなかったのだろう。
両親を前に、敬子はおいおい泣き崩れていた。
「カッとなったわ。本気で張り倒してやろうと思った。
でも、あいつの言う通りなのよ。
あたしは、司の何の役にも立ってない。
あたしがして来たことと言えば、司を苦しめることだけだったのよ。
だからと言って、あたしと別れた後司と薫が一緒になることを考えると、とても我慢出来ない。
ねえ、教えて。あたし、どうすればいいの?」

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深夜、久保家の電話が鳴った。
就寝中だった久保が出てみると、思い詰めた口調の女の声が聞こえた。
久保の前妻・マキ水穂であった。
「薫はあなたの娘です。薫はあなたの娘に間違いありません。
あなたに一つだけお願いがあります。
薫の恋に力を貸してあげて下さい。
今更父親として名乗ってくれとは申しません。
ただ、あの子に愛しながら別れる辛さだけは味あわせたくない。
それだけは、どうしてもお願いしたくて」
一方的に言い終えると、マキ水穂は電話を切った。

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その少し後、やはり就寝中だった薫は電話が鳴って飛び起きた。
それは、母・マキ水穂が交通事故に遭ったという報せであった。

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『その時、薫は母が身をもって壮烈な愛の形を示してくれたことを知ったのである』

ドラマ アリエスの乙女たち(第18話) [サンテレビ] 2014年02月10日 15時00分00秒(月曜日) (サンテレビ1)

<平泉成:関連作品>


テーマ:テレビなんでも - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:17話
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17話「私の名は不倫少女」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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椎名義照:内田稔、椎名夫人:谷口香

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椎名マサヒコ:井上倫宏

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徳永マミ:城源寺くるみ

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刑事:小山武宏、高品剛

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長谷川欣吾:高橋昌也

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マキ水穂:野川由美子

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久保小夜子:梶芽衣子

<ストーリー>
『薫は、失明した司のために陰ながら尽くし続けていた。
だが敬子は薫への憎しみを滾らせ、恐るべき策略を企んだのである。
それは、薫を我が子大介の誘拐犯に仕立て上げることであった。
薫には、身の潔白を証立てることも出来た。
だが、そうなれば逆に敬子は逮捕され子供はその母を失う。
司の嘆きと衝撃はいかばかりか。
薫は、敢えて自分を犠牲にする決意をしたのであった。
司への愛に殉じて』

女子高生・水穂薫(南野陽子)は、赤ん坊誘拐の容疑で逮捕された。
警察署に連行されて刑事の取り調べを受ける段になって、
薫は肝心なことに気づいた。
動機の方は敬子を逆恨みしたと答えれば済むが、
具体的な犯行を問われると何も答えられないのだ。
何せ見に覚えのないことなので、
何処でどうやって誘拐したことになっているのかがサッパリ分からない。
場所は公園の何処なのか?
その時赤ん坊はどうしていたのか?
ここで適当な作り話をすると、刑事にバレてしまう。
だからと言って犯行を否認する訳にもいかない。
薫は「覚えていない」「多分そうだった」「記憶違いだった」と、
あやふやな答えでその場凌ぎするしかなくなっていた。
調書を取る刑事たちも、次第に薫の様子がおかしいことに気付き始めた。

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赤ん坊の父・結城司(松村雄基)も、この事件が全く納得出来ないでいる1人だった。
薫が赤ん坊を誘拐したところで何の得もない。
そもそも、薫はこんな幼稚な嫌がらせをする人間ではない。
こういうことをするとすれば、疑いたくはないが妻・結城敬子(相楽ハル子)だ。
刑事に心当たりを訊かれた時に、敬子は真っ先に薫の名前を出した。
今朝も、薫が逮捕された新聞記事を読んで妙に御機嫌だ。
まさか、自分の子を使って狂言誘拐を仕組んだとは考えたくないが……
司は疑念を抱えたまま、工房で陶器製作に追われた。
今日製作しているのは、百人一首が書かれた湯呑茶碗だ。
目の見えない司を補佐して、師匠の娘・長谷川千草(藤代美奈子)が和歌を詠み上げてくれた。
「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」
水の流れが岩に遮られて離れ離れになっても又会えるように、
私達もいつかはきっと結ばれる、いや結ばれてみせる。
そんな意味の恋歌だ。
司は思った。
俺と薫も、その歌のように結ばれる日が来るのだろうか。

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薫の取り調べはなおも続いていた。
そんな中、薫の房に司からの差し入れが届いた。
百人一首のカルタであった。
その中に、一枚だけ和紙に包まれた札があった。
薫はそれを詠み上げてみた。
「瀬を早み岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」
司が何を言おうとしているのか、薫は留置所の中で思いを馳せた。

『その歌に込められているのは、永遠なる愛の誓いであった。
司は今薫の側に近々と居た。
司のためならどんな苦難にも耐え抜ける。
薫はその決意を新たにしていた』

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工房から帰宅した司は、思い切って敬子を問い詰めた。
誘拐事件は、お前が仕組んだんじゃないのか?
そう問掛けると、敬子は「妻を信じられないのか」と怒り出した。
しかし、どう考えても敬子の態度がおかしい。
司は、懸命に説得を重ねた。
「敬子、悲しいが疑わざるを得ないんだ。
俺と一緒に警察に行こう。そして、本当のことを話してくれ。
お前が考えるほど警察は甘くない。
お前が出頭しないでも、警察は恐らく誘拐事件当日のお前のアリバイを調べ上げる。
そうすれば、何もかも明らかになるんだぞ」
敬子は、中々首を縦に振らなかった。
「あたしは平気。幾らでも調べればいいんだわ」
いい加減焦れて来た司は、敬子をベビーベッドの前に連れて行った。
「これだけ言っても、未だ分からないのか。
来い。大介の目を見ろ。お前を信じ切ってる目だ。
目が見えない俺にもよく分かる。
敬子、お前は母親としてこの目に嘘がつけるのか?
敬子、俺は何とかお前を愛そうと努力して来たつもりだ。
お前が正直であってくれなければ、俺もお前を愛せなくなる。
だから頼む、敬子」
司に肩を揺すられ、子供の前に立たされた敬子は、とうとうその場に泣き崩れた。
答えはもう明らかだ。
「やっぱりお前が……」

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敬子は、司に付き添われて警察に出頭した。
そして、誘拐事件の詳細を洗い浚いぶち撒けた。
刑事に叱責され、敬子は泣いて謝り通した。

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その頃、薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)は、
預かり知らぬ間に進行する縁談に翻弄されていた。
母・久保小夜子(梶芽衣子)によって仕掛けられたこの縁談は、
相手方も大乗り気であれよあれよという間に進行していた。
その日、恵美子は相手方である椎名夫妻(内田稔、谷口香)の屋敷に招待され、
もう決めてくれとその場で決断を迫られていた。
恵美子は、後一日だけ待って欲しいと何とか返事を先延ばしにした。

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その晩、恵美子は恋人・磯崎高志(石橋保)に会いに行った。
例によって、高志はカラオケ店で女を侍らせて遊び呆けていた。
意を決して恵美子の父に結婚を申し込んだのに、けんもほろろに退けられた。
それどころか、肝心の恵美子に家を捨てる覚悟がない。
高志にしてみれば、これで腐るなという方が無理な相談だった。
恵美子は何とか高志を捕まえて、懸命に説得した。

「私このままだと婚約させられてしまうの」
「婚約?ああ、あのマサヒコとかいう男とか」
「明日中に返事をしなきゃなんないのよ」
「俺にどうしろって言うんだ?」
「パパとママにもう一度会って欲しいの」
「冗談じゃない。君の御両親にはあそこまで蔑まれたんだ。
この上また頭を下げて恵美子さんを下さいなんて言えるか」
「それでも、そうして欲しいの」
「君も俺のことなど忘れて、とっととそのマサヒコとかいう奴と結婚しろ」
その方が俺もせいせいする。
俺は明日から東北に出張だ。
もし、君が本当に俺を好きなら一緒に来い」
「え?」
「俺に付いて来れるかって訊いてるんだ」
「私……」
「出来ないよな。君に家が捨てられる訳がない。
文句があったらそのお嬢さん面を止めろ!」

高志はそこで押し問答を打ち切ると、
女を連れてホテルに入って行った。
恵美子は、泣きながらその後姿を見送った。

『恵美子はマサヒコと婚約する決心は付かず、高志にも突き放され、
絶望の海を漂っていた』

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『その翌朝、敬子は釈放された。
警察は敬子が未成年でもあり、子供である大介の将来を慮り、
検察当局と図って起訴猶予とし、事件を不問に付したのである』

司は、釈放された敬子を連れて薫の自宅を訪問した。
そして、頭を下げて詫びを入れた。
「薫、済まん。
今度の事件は俺が敬子への労りが足りないから起きたことだ。許してくれ」
司は、敬子にも謝るよう促した。
ところが、敬子はまたいつものふてぶてしい態度に戻っていた。
「私は詫びるなんて真っ平よ。
薫、あんたあたしに恩を売ったつもりでしょうけど、いい気にならないでよね。
あたしはあんたを今でも呪い続けてるんだから」
こいつは……この期に及んで未だ開き直るか。
とうとう司の堪忍袋の緒が切れた
「敬子、俺にも覚悟があるぞ。俺は、お前と別れる。
俺も辛抱してきたがもう我慢出来ん。敬子、別れてくれ。
気の合わない俺と暮すのはお前だって不幸だ。
大介は俺が引き取って育てる。お互い別れた方が一番いい」
最後通告を突付けても、敬子は全く悪びれる様子はなかった。
「司、あんたあたしと別れて薫と一緒になりたいんでしょ?
だけど、そうはいかないわ。
あたしはどんな事があっても籍は抜かないわよ。
あたしにも覚悟があるってことよ。
あんた達がどんなに好き合ったところで、意地でも結婚なんかさせてやるもんか。
いいわね、薫。司と一緒の墓に入るのはあんたじゃないわよ。このあたしよ!」
言うだけ言うと、敬子は家を飛び出して行った。
司は、暗澹たる気持ちだった。
吸い尽くされる。
一生敬子に蝕まれる。
司は、慰めようとする薫を振り切って家を出て行った。

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『司は、底無し沼の如き深い絶望に叩き込まれていた。
籍を抜かないという敬子の宣言は、地獄の如き結婚生活が続くことを意味していたからである。
司は、その重苦しい思いに耐え難かった』

やり切れない司は、気が付くと工房の中で大暴れしていた。
作り終えた茶碗を、次から次へと叩き割っていた。
心配になって後を付けてきた薫は、慌てて司を制止した。
物音を聞いて、師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)が血相を変えて飛び出して来た。
「何だ、この騒ぎは?
バカモン、陶器に八当りをする奴など弟子とは思わん。
今日限り出て行け!」
やっと司が冷静になると、長谷川は薫に向き直った。
「あんたが水穂薫さんか。
幾ら司を好きかもしれんが、儂は不倫の恋などは好かん」
「不倫?」
「違うとでも言えるのかね?
とにかくあんたさえ居なければ、司は焼き物一筋に打ち込めていたことは確かだ」
「申し訳ありません。でも、私は敬子さんから司さんを奪おうとしたことはありません。
私はいつも心で司さんと一緒に居たいだけなんです。
先生、私に焼き物を教えて下さい」
「何?こんな時に焼き物志願とはな」
「私、もっと司さんの気持ちになりたいんです。喜びも悲しみも共にして」
「あんたの狙いはそれだけではあるまい」
「はい、先生の指導はとても厳しいと聞いています。
私がもしその厳しさに耐え抜けたら、司さんにも焼き物を続けさせてあげて下さい」
「良かろう。少しだけなら教えよう」

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薫は、長谷川の指示で「土練り」に挑戦した。
「土練り」とは、文字通り台の上で粘土を適度な硬さに練り上げる作業だ。

『薫は、粘土に初めて触れて驚愕していた。
土が全く思い通りに動かないのである。
しかも、コツが分からぬ薫は全体力を振り絞らねばならない。
それは、留置所で体力を消耗していた薫にとって過酷な重労働であった。
1時間、2時間、土練りは際限なく続いていた。
薫は、ただ司に陶芸を続けさせたい。その気力だけで自分を支えていた。
そして、4時間後』

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フラフラの状態で土練りを続けていた薫が、とうとうその場に倒れ込んだ。
司が助け起こすと、作業を見守っていた長谷川がとうとう折れた。
「薫さん、儂はてっきりあんたが途中で音を上げるものだとばかり思っていた。
だが、よくここ迄頑張った。
儂はどうもあんたの事を誤解していたらしい。
これから儂はあんたの司に対する気持ちを、不倫とも邪念とも思わん。
もし、あんたがそんな気持ちだったら司のために倒れるまで頑張れはしなかっただろうからな」
許しが降りた。
司は破門されずに済む。
薫は玉の汗を吹きながら、安堵感に包まれていた。

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この日、上野駅のプラットフォームに恵美子の姿があった。
恵美子は、新幹線に乗り込もうとした高志を発見すると呼び掛けながら駆け寄った。
「高志さん。私も行くわ、あなたの出張先まで。私、家を捨てるわ」
驚いた高志が帰るよう言っても、恵美子は構わず胸に飛び込んだ。
「そんな話はもうしないで。お願い、連れてって。高志さん」

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『望みのない恋。にも関わらず、薫はその恋に命を懸ける決意をしていた。
アリエスの乙女・薫と恵美子の灼熱の恋は、今それぞれに悲しくも激しく燃え上がりつつあったのである』

ドラマ アリエスの乙女たち(第17話) [サンテレビ] 2014年02月05日 15時00分00秒(水曜日)

<百人一首:関連作品>

テーマ:ドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:16話
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16話「檻の中の愛」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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長谷川千草:藤代美奈子

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雨宮ジュンヤ:深水三章

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上司:大塚国夫

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椎名マサヒコ:井上倫宏

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徳永マミ:城源寺くるみ

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来栖順子:佐藤万理

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刑事:小山武宏、高品剛

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点字タイプ講師:今村エリ香

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マキ水穂:野川由美子

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保哲也:若林豪

<ストーリー>
『不慮の事故により失明して2ヶ月。
司は倦む事無く陶芸に挑んでいた。
司の生活は、その金銭的窮状を見兼ねた師・長谷川が、
多額ではなかったが給料を支給することにより小康を得ていた。
また、司は点字を学んでいた。
指先一つで文字を読む作業は、司にとって陶芸に劣らず辛い学習であった。
司の目になろうと誓った今、薫もまた点字を学んでいた』

午後7時半、女子高生・水穂薫(南野陽子)は陶工見習・結城司(松村雄基)の工房を訪れた。
司は真っ暗闇の中で一心不乱に轆轤を回していた。
「壁だ。どうにもならねえ」
作業が上手くいかないのか、司はふとそう呟いた。
薫が来たことに気付くと、司は轆轤を回す手を止めた。
「そこに居るのは薫か?」
時間が来たと、司は立ち上がった。
目の見えない司は、作業に入ると時間の感覚が無くなる。
薫の来訪は、その日の作業終了を意味していた。
司は、薫に手を引かれて帰途に就いた。
薫はこうして、毎日司の送り迎えを買って出ているのだった。

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帰り道、司は薫から紅薔薇の香りを嗅ぎ取った。
目が見えなくなったことで、司の嗅覚は研ぎ澄まされていた。
恐らく、薫は自室に紅薔薇を飾っているのだろう。

『紅薔薇。花言葉では、尽きることのない愛と情熱の花。
薫はその花を司の作品である花瓶に飾り、唯一の心の支えとしていたのであった』

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道すがら、薫は「壁」の意味について尋ねてみた。
「壁」とは、司が現在取り組んでいるペルシャ風の鉢のことだった。
「陶芸はな、土ばかり弄っていても駄目なんだ。
本を読んで勉強しなければ」
司と薫は、古書店の前で立ち止まった。
ショーウィンドウに、「ペルシャ陶芸の伝統と技法」という本が陳列してあった。
値札を見ると、35万円もの高額だった。
司は、いつかその本の技能を身に付けたいのだという。
薫は何とかしてやりたかったが、その額だと流石に手が届かなかった。
2人は諦めて、また夜道を歩き出した。

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司をアパートまで送った後、薫は誰かに呼び止められた。
司の妻・結城敬子(相楽ハル子)であった。
敬子は、話があると言って薫を公園に連れ出した。
そこで、敬子は涙ながらに訴えた。
「あたしの身にもなってみて。
あたし、司と一緒になってこの子も産まれて親子3人の幸せが来ると思ってた。
なのに、いつ迄経ってもあなたの影が側にある。
あなたは何一つ非難しなきゃいけないことはしないけど、
堪んないわよ、妻のあたしには。
あたしは司が好きよ。
あなた点字タイプをやってるそうだけど、あたしだって習い始めたわ。司のためにね。
薫、あたし勝手なことばっかり言って司といがみ合って来たけど、
これからはあの人の本当のいい奥さんになるつもりなの。
あなたさえ居なければ、司もいつかあたしに振り向いてくれるわ。
だから、今日限り司に会わないで欲しいの。お願い、お願いします」
敬子は薫に頭を下げた。
確かに、言われてみればその通りだ。
夫の回りにいつ迄も女の影がチラついていては、妻としてはやり切れないだろう。
送り迎えは純粋な善意からしていたことだが、妻のプライドを傷付けていたのは間違いない。
薫は敬子に約束した。
「分かったわ。私出しゃばり過ぎてたかもしれない。
もう司さんには会わない。口も聞かない。約束するわ。
司さんは、あなたがシッカリ支えてあげてね」

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薫の親友・久保恵美子(佐倉しおり)は、
ここ最近毎週のように椎名マサヒコ(井上倫宏)にデートへ誘われていた。
恵美子にとって、これはとても困ることだった。
マサヒコは決して嫌な人ではない。
寧ろいい人で、恵美子も嫌いではなかった。
真剣に好意を寄せてくれているのも分かる。
だから、中々デートが断れなかった。
このままでは、ズルズル結婚の運びになりそうで不安になって来た。
後日、恵美子は恋人・磯崎高志(石橋保)を呼び出し、
父に会って今すぐ結婚の許可を取って欲しいと訴えた。
「だって、このままだと私いずれマサヒコさんと結婚させられてしまうと思うの。
もし、正式に話があったらマサヒコさんは社長さんの甥だし、
パパも立場上断り切れないと思うの」

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恵美子の切実な頼みを受けて、高志は久保家を訪問した。
恵美子の父・久保哲也(若林豪)に応接間へ通されると、高志は開口一番申し込んだ。
「不躾ですが、言わせて頂きます。
恵美子さんを僕に下さい。僕達結婚したいんです。お願いします」
それを受け、久保は子供を諭すように高志の申し出を切り崩していった。。
「高志君、恵美子は今椎名マサヒコという青年と交際を進めている。
いや、家内と私でそうさせている。
君も好青年だが、マサヒコ君もいい男だ。
正直言って、親としては迷っている。
だから訊きたい。君には人には無い何があると言えるのかな?」
高志は即答した。
「愛情です。恵美子さんへの愛です」
久保は、お話にならないとこれを退けた。
「愛?美しい言葉だが、これ程移ろいやすいものは無い。
何の保証にもなりゃしない。
私は実業界で生きてきた人間だから、俗っぽいと笑われるのは承知だが、
未だお金の方がアテになるよ」
高志は食い下がった。
「でも、お金や財産だって移ろいやすいことに変わりはありません」
久保の舌鋒はなおも続いた。
「それは理屈だ。いざ結婚となれば現実的条件を無視する訳にはいかない」
高志はすっかり冷静さを失い、ムキになって反論していた。
「二言目には現実現実って言うから、大人は駄目なんじゃないですか?
要するに僕達の結婚には反対なんですね?」
すると、久保は同席していた恵美子に向き直った。
「反対するもしないも、君たちの年齢に達すれば結婚は法律で認められている。
だからどうしようと自由だ。
だが恵美子、その場合は私はお前との縁を切る」
久保が睨み付けると、恵美子は押し黙ってしまった。
「それだけの決心が付かないということか。話は終わりだ」
そこで話を打ち切ると、久保は席を立った。
久保は見破っていた。
恵美子は親思いだ。
両親と絶縁してまで高志と添い遂げる度胸はない。
2人の意思を分断してしまえば、もう勝負は有りだ。
生き馬の目を抜く実業界で厳しい生存競争を勝ち抜いてきた久保にとって、
2人をやり込めるなど赤子の手を捻るも同然だった。
結局、高志は恵美子とも喧嘩になって帰って行ってしまった。
2階から高志の後ろ姿を見送りながら、久保は若き日の自分を思い返した。
身分の違う恋。
それは、久保と前妻・マキ水穂との間柄そのものだった。
「恵美子、お前はどちらを選ぶ?」

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薫は、敬子との約束を守っていた。
あれ以来、司とは連絡を取っていない。
それでも、目の見えない司を放っておく訳にはいかなかった。
そこで、薫は人混みの多い駅で毎日司を見守ることにした。
これならバレない。
決して声は掛けない。
ただ見守るだけ。
無事さえ確かめたら、直ぐ様立ち去る。
そう決めていた。
今日も雨の中、司は駅にやって来た。
薫が安心して引き返そうとすると、司の声が轟いた。
「泥棒!誰か捕まえてくれ」
慌ててその場に駆けつけると、3人組のチンピラが司から鞄を引っ手繰って逃げ出したところだった。
杖を失った司は、右も左も分からず立ち往生している。
どうしよう。
助けてあげたいけど、敬子さんとの約束は破れない。
薫は、通行人を装って無言で司に杖を握らせた。
司は「ありがとう」と礼を言って、雨の中を歩いて行った。
何とかしてあげたい。
司の後ろ姿を見送りながら、薫は込み上げる思いを懸命に抑え付けた。

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薫は、ここ数日アルバイトで小金を貯め込んでいた。
最後に一つだけ、司にしてあげたいことがある。
欲しがっていたペルシャ陶芸の本をプレゼントすること。
やっと5万円が貯まったところだ。
母・マキ水穂(野川由美子)が帰国すると、薫は残る30万を借りて例の本を購入した。
そして、不眠不休でその点訳に取り掛った。
司は目が見えない。
本を読むには点訳する必要がある。
一日も早く、読ませてあげたい。
薫は慣れない手付きで、懸命に点字タイプを打ち続けた。

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一方、恵美子と高志の恋路は暗礁に乗り上げていた。
久保に退けられた求婚は、高志の心に深い傷を残していた。
久保家との身分の差を、まざまざと見せ付けられたのだ。
やるせない高志は、恵美子を思いながらも誘惑に負けていた。
その日、仕事終りの高志は同僚OL・徳永マミ(城源寺くるみ)と居酒屋でウサを晴らした。
そして、帰り道でマミに求められるまま口付けに応じた。
この光景は、丁度高志を迎えに来ていた恵美子に目撃されていた。

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その夜、恵美子は薫の家を訪ねた。
薫は点字タイプを中断して、恵美子の相談に乗ってやった。
恵美子は、先ほど目撃した高志のキスを打ち明けた。
「高志さんって人が分からなくなったわ。
高校の頃はヌード写真にさえ目を背けていた純情なあの人が、
今は平気であんな女の人と」
憤慨する恵美子に、薫は一つ一つ言って聞かせた。
「愛する人が居ても仕事や他の悩みでふっと心が揺らぐことはあるものよ。
特に男の人はね」
恵美子の怒りは、中々収まらなかった。
「薫さんは人事だからそう言えるのよ。私許せない」
薫は、恵美子を見透かして諭した。
「じゃあなた、高志さんと別れられる?出来ないんでしょ?
だったら、目を瞑ってでもガムシャラに高志さんを信じることよ。
信じるって馬鹿みたいだけど、それだけが男の人の心に不滅の勇気と希望の火を灯せるのよ。
恵美子さん、あなたに今必要なのは高志さんを非難することじゃなくて、
こういう時こそ高志さんを力付けて共に歩むことじゃないの?
結ばれるその日まで」
報われぬ愛を貫く薫に言われると、確かな説得力があった。
恵美子は、やっと納得した。
「ありがとう、薫さん。私何があっても高志さんを信じ抜くわ」
薫は、また点字タイプに戻った。
明らかに睡眠不足なので、頭はフラフラだった。
「少し休んだ方がいいのではないか」と恵美子が声を掛けても、
薫は「大丈夫」と打つのを止めようとしなかった。

『司への直向な愛。
それを正に身をもって示している薫の姿に、
恵美子は限りない励ましと感動を覚えていた』

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数日後、薫の不眠不休の作業が終了した。
薫は喫茶店に敬子を呼出し、点訳した「ペルシャ陶芸の伝統と技法」を手渡した。
薫が司に渡して欲しいと言うと、敬子は疑惑の眼で薫を睨み付けた。
敬子は、薫がこれを口実にまた司に近付こうとしているのではないかと疑っていた。
そんな敬子に、薫は意外な提案を出した。
「この点訳は、あなたがした事にして渡して欲しいの。
点字なら、普通の字と違って誰がした仕事だか判らないわ。
私はそれでいいのよ。
小百合さんにも、あなたがした点訳だってことにして貰うわ」
一応納得した敬子は、漸く薫の提案を了承した。
「それなら……」

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後日、司は点訳されたペルシャ陶芸本を受け取った。
妻・敬子の手からであった。
受け取った司は、飛び上がらんばかりに感激した。
「この資料さえあれば作品も捗るぞ。
敬子、ありがとう。ありがとう」
司は敬子の手を握り締めた。
まさか、敬子がここ迄してくれるとは思ってもいなかった。
敬子は陶芸を嫌っている。
司はそう思い込んでいた自分の不明を恥じた。

『敬子の心境は複雑であった。
司の感謝は、正に薫に捧げられるべきものであったからである』

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その日から、司はまた一心不乱に陶芸に打ち込んだ。
点字本を頼りに、新しい作品を生み出そうと懸命に頑張り続けた。
土を捏ね、轆轤を回し、分からないことがあれば点字本で調べる。
そんなある日、司は点字本の間に何か異物が紛れ込んでいることに気付いた。
何だろう?
手に取って匂いを嗅いだ瞬間、司は全てを悟った。
紅薔薇の花弁だ。
ということは……

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数日後、薫は学校から出て来たところで司にバッタリ出会した。
どうしてこんな所に居るんだろう。
驚いた薫は、つい声を上げてしまった。
当然司に勘付かれてしまった。
これはいけないと薫が立ち去ろうとすると、司は懸命に呼び止めた。
「待ってくれ。これだけは見て欲しい」
司は手に桐箱を抱えていた。
開けてみると、中から青いペルシャ鉢が出て来た。
「綺麗」
感嘆する薫に、司は微笑んだ。
「あんたには真っ先に見て欲しくてな。
あんたでなければならない。
あんたがあの本を点訳してくれなければ、これだけの物は出来ない。
敬子ではない。どうもおかしいと思っていた」
見破られた。
薫が慌てて誤魔化そうとすると、司は薫の手を握り締めた。
「もう隠さないでくれ。俺には分かってるんだ。
あんたの指は何故こんなに腫れ上がってるんだ?
タイプを打ち続けたからだろう?
薫、何も礼は出来ないが心から言わせてくれ。
……ありがとう」
良かった。
喜んでくれた。
司の役に立てた。
薫の目から、涙が溢れた。

『薫は、これまでの辛苦が一気に吹き払われた思いがした。
何も要らなかった。司の愛さえあれば』

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その日、帰宅した薫は、玄関に赤ん坊が放置されているのに気が付いた。
「ダイちゃん?!だけど、何でこんな所に。
そっか、敬子さん私に預かって欲しくて置いてったのね。
それなら一言位言ってってくれたらいいのに」
薫は赤ん坊を抱えて自宅に入り、オムツの替えを探した。
以前預かったことがあるので、赤ん坊の扱いには慣れているのだ。
着替えさせて、さあ両親に返そうと玄関を出たところで、
薫の前に敬子が立ち塞がった。
「やっぱりです。やっぱりこの人が犯人です」
敬子は、薫から赤ん坊をひったくった。
一体どういうことだろう?
敬子は、後ろに刑事を従えていた。
どうやら、赤ん坊の誘拐犯に仕立て上げられたらしい。
でも、何故?
そうか、司に会ったのがバレたんだ。
これは禁を破ったことへの制裁だ。
事情を飲み込んだ薫は、頭を下げて謝った。
「刑事さん、申し訳ありません。私がやりました。
全て敬子さんの言う通りです。
私は、司さんを奪った敬子さんが憎かった。それでダイちゃんを」
薫は、その場で緊急逮捕された。

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『薫には、敬子の策略であることは判っていた。
だが、それを告げれば敬子は逮捕されるであろう。
そうなれば、子供は母と引き離される。
その時の司の衝撃は、いかばかりであろうか。
薫は司のために、敢えて自分を犠牲にする道を選んだのである。
それが薫の愛であった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第16話) [サンテレビ] 2014年02月04日 15時00分00秒(火曜日)

<音楽:菊池俊輔>

テーマ:もう一度見たいドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ

アリエスの乙女たち:15話
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15話「神よ!私に暗闇を」脚本:大原清秀

<出演>
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水穂薫:南野陽子

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久保恵美子:佐倉しおり

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結城司:松村雄基

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磯崎高志:石橋保

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結城敬子:相楽ハル子

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結城小百合:大場久美子

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椎名義照:内田稔、椎名夫人:谷口香

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椎名マサヒコ:井上倫宏

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大下直樹:宅麻伸

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長谷川千草:藤代美奈子

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鈴木倫子、才神ルミ

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来栖順子:佐藤万理

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長谷川欣吾:高橋昌也

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久保小夜子:梶芽衣子

<ストーリー>
陶工見習・結城司(松村雄基)は、栄えある現代工芸展で新人賞を受賞した。
それは、期待の新人が世に実力を認められた栄光の瞬間であった。
ところが、それが一転地獄に突き落とされようとは神ならぬ司に分かる筈もなかった。

その日、デパート屋上で女子高生・水穂薫(南野陽子)と再会した司は、
目に異常を感じてその場に倒れ込んだ。
「見えない。お前が見えない」
司は狼狽えた。
これ迄にも視界が霞むことはあった。
だが、光そのものが認識出来ないのは初めてだ。
司は怯えていた。
異変を知った薫は、司を連れて直ぐ様病院へ駆け込んだ。
そして下された診断の結果は、余りにも非情な宣告であった。
完全失明。
回復の見込みなし。
医師は、司に盲人用の白い杖を手渡した。
そして、盲学校へ通って盲人として生きる道を模索するよう諭した。
それを聞いた司は、猛然と反論した。
「冗談じゃない。俺は女房子供を食わせなければならないんだ。
呑気に学校になんか行ってる暇はありません」
絶望に打ち拉がれた司は、自宅へ送るという薫を振り切って1人タクシーに乗り込んだ。
「何処でもいい。この金が無くなるまですっ飛ばしてくれ」
有り金全部を運転手に手渡した後、司は新人賞の賞状を破り捨てた。
何もかも消えた。
抱いていた夢も、培ってきた努力も、背負ってきた苦労も。
放心状態のまま、司はタクシーの座席に揺られた。
俺は一体どうすればいい。
俺の家族はどうなる。
これからどうやって生きていけばいい。
何の答えも無かった。
あるのは、延々と続く真っ暗闇だけだ。

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司は、師匠・長谷川欣吾(高橋昌也)に事の仔細を報告してその場に項垂れた。
分からない。
もう、どうしていいか分からない。
苦悩する司に、長谷川が何かを握らせた。
「これが何か分かるか?」
陶器の手触り、形からして茶碗だ。
ただの茶碗じゃない。
俺が作った茶碗だ。
司がそれに気付くと、長谷川は力強く諭した。
「その通りだ。だが、何故そうだと分かる?
お前は心を込めてそれを作った。
だから、見えなくても指が覚えていた。
人はどう生きるか?
儂はその答えは単純だと思う。
ただ、自分が愛することをまっしぐらに貫けばいい。違うか?
出来るか出来んかはお前次第だ。
やってみないで諦めるのは負け犬だ。
お前はそんな男ではない筈だ」
長谷川は誰よりも厳しく、誰よりも温かい男だった。
師匠の言葉が胸に沁みた司は、暗闇の中で誓った。
陶芸を続ける。
例え目が見えなくても、運命を切り開く。
挑戦し続ける。

『司がこよなく愛するもの。
それは陶芸であり、同時に薫であった。
司は、薫の面影に誓った』

「薫、俺は挫けない」

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翌日から、司は工房の中で一心不乱に轆轤を回し続けた。
指先の感覚だけを頼りに、土の形を整える。
これが、とてつもなく難しい。
皿らしき形に持っていくだけでも至難の業だった。
それでも、師匠・長谷川は容赦なかった。
歪みがあればやり直しを命じ、
道具を手探りで探し当てようとすると場所を覚えておけと叱り飛ばした。
「嫌なら陶芸なんか止めろ。
いや、そんな意気地なしは死んでしまえ!」
敢えて鬼となった長谷川にどやされ、
司は懸命に土を捏ねて何度でも轆轤に向った。
新人賞まで受賞した司の、ゼロどころかマイナスからの挑戦だった。

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女子高生・久保恵美子(佐倉しおり)は、
今日も恋人・磯崎高志(石橋保)に見送られて帰宅した。
恵美子の母・久保小夜子(梶芽衣子)は、それを眉を顰めて見ていた。
どんなに反対しても、恵美子は高志との交際を止めようとしない。
このままでは、2人は親の反対を押し切って本当に結婚してしまう。
それを恐れた小夜子は、夫の上司である社長・椎名義照(内田稔)の屋敷を訪問した。
椎名社長は、前に甥っ子に恵美子を縁付けたいと言っていたことがある。
その話を今すぐ進めて欲しい。
小夜子は、椎名社長にそう頼み込んだ。
椎名社長は少々面食らった様子だ。
確かに、そういう話はしたことがある。
しかし、それはあくまで世間話、社交辞令の一つに過ぎない。
増して、恵美子は未だ高校生だ。
戸惑う椎名社長を前に、小夜子は静かな口調で訴えた。
「私も久保も早く安心したいものですから。馬鹿な親だとお笑い下さい」
どうやら真剣なようだ。
仕事の片腕にしている久保の妻から達ての願いとあっては、これを無下にする訳にもいかない。
椎名社長は小夜子に約束した。
「分かりました。来週の日曜は私も空いてます」

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『数日後、恵美子と小夜子は椎名夫妻にゴルフに招待された』

恵美子はゴルフをするのは初めてだった。
クラブを振り回してもボールに当てることすら出来ない。
ちょっとムクれていると、椎名社長は恵美子に甥っ子・椎名マサヒコ(井上倫宏)を紹介した。
この青年が、ゴルフを教えてくれるという。
椎名社長はそう言って、またコースを回ると立ち去っていった。
椎名夫人と小夜子も、それを追い掛けて行った。
恵美子は、マサヒコと2人切りにされた。
これが意図的に仕組まれていたということは、恵美子にも薄々感じられることだった。

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翌日、恵美子は高志と会った際についその話をしてしまった。
すると、高志は猛烈に怒りだした。
「君がゴルフを楽しんでいた頃、僕は何をしていたと思う?
日曜出勤で、お客さんの前でヘイコラヘイコラさ。
痛い程よく分かったよ。
君と僕とではどうにも住んでる世界が違う。
やっぱり身分ってあるんだよな。
僕は社長さんの甥と比べられてるんだ。
恵美子さん、いっそその男と結婚しろよ。
その方が君の幸せさ」

『高志は、恵美子を愛する余り思わず感情が暴発した。
だが、その言葉は恵美子に深い傷を与えた』

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司の前途は多難だった。
やっとモノに成りかけた陶芸が振り出しどころかマイナスに戻り、
家では日常生活ですらままならない。
司が鍋をひっくり返すと、妻・結城敬子(相楽ハル子)が吐き捨てた。
「また?しょうが無いわね。ったく、赤ん坊が2人居るみたいなもんだわ。
あなたと結婚して、子供が産まれて、あたしは今一番幸せな筈なのよ。
それがどう?
収入の道は途絶える。なのに、あなたは陶芸三昧。
あたし程不幸な女があって?」
詰る敬子に、司は詫びた。
家族を養うことが出来ない。
男にとって、これ程の屈辱はなかった。
何とかしたい。
しかし、死に物狂いで打ち込んだところで陶芸の道は余りに程遠い。
家族の生活は、ギリギリまで追い詰められていた。
自責の念に駆られる司に、敬子は最後の追い打ちを掛けた。
「司、大介が可愛くないの?」

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翌日、司は福祉事務所を訪ねた。
担当者に相談すると、生活保護の申請が出来るという。
ただ、それには幾つかの条件があった。
電話を売り払い、家賃の安い風呂無しアパートに引っ越すこと。
陶芸を断念して、マッサージ等の全盲者に必要な仕事を身に着けること。
どれも厳しい条件だった。
赤ん坊は毎日風呂に入れないと病気になってしまう。
それに、陶芸だけはどうしても諦めきれなかった。
結局、司は申請を断念した。

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司は、旧友・高志に借金を申し込んだ。
高志とは、高校時代喧嘩ばかりした仲だ。
その上、今の高志自身決して楽な暮しではない。
頼るのは心苦しかったが、司に出来ることは他に何も残っていなかった。
そんな司の心情を汲んで、高志は快く金を貸してくれた。
司は礼を言った後、苦しい胸の内を明かした。
「俺は後悔している。結婚したことをだ。
金もない、愛情もない、おまけに何も見えない。
そんな生活がどんな地獄だか、お前に分かるか?」
何時に無い弱気な発言をする司を前に、高志は気遣って励ました。
「結城、愚痴なんてお前らしくないぞ。
お前には子供が、そして陶芸があるじゃないか。頑張ってくれ」
司も高志を思い遣って答えた。
「磯崎、お前は俺と違って何があってもエクボとの恋を貫けよ」

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その頃、司を想う薫は東奔西走していた。
工房で轆轤に向う司を毎日見守った。
そして、盲導犬の手配が出来ないかと協会を訪ね、
少しでも役に立とうと点字の勉強も始めた。
その日の午後、薫は司のアパートを訪ねた。
司の不在を見越して、妻・敬子と話をするためだった。
「敬子さん、何も言わずこれを使って頂戴」
薫は現金を差し出した。
薫に作れる精一杯の額だった。
すると、敬子は薫を張り飛ばした。
「優越感に満ちた慈善ね。
でも、あなたあたしの奴隷になるって言ったわよね。
貢物は受け取っとくわ。礼は言わないわよ」
態度だけはふてぶてしかったが、結局現金は受け取った。
やはり生活が苦しいのだ。
聞くと、働きに出ようにも保育園の手配が付かないのだという。
泣き喚く赤ん坊を抱えながら、敬子は薫に毒づいた。
「それとも何?あなたがこの子を預かってくれるとでも言うの?
あたしの奴隷ならそれ位のことしたらどう?」
勢いに任せて言っただけの言葉だが、薫は真顔で返答した。
「いいわ。私で良ければ昼間だけでも預かるわ。
でも、その代わりあなたが司さんをしっかり支えてあげてね」

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こうして、敬子はスーパーのパートに出ることになった。
その間、薫は赤ん坊を抱えて学校に通った。
そのまま授業を受けようとすると、当然ながら追い出されてしまった。
仕方なく、薫は校庭の片隅で赤ん坊の世話をした。
「さあ、これでサッパリした。
いい子ね、大介君は。
お腹も空いてるのね。
ごめんなさいね。このママ、おっぱいが出ないのよ。
今、作ってあげますからね」
薫がせっせと哺乳瓶を用意するのを見て、
担任教師・大下直樹(宅麻伸)は呆れて言った。
「水穂、君がしていることは不毛の愛だ。
君は結城の子供の世話をすることで、
結城を偲んで自己満足に浸っているに過ぎん。
そんな事をしても何もなりはしない。
それでもいいと言うのか?
君はやはり俺と結婚するべきだ」
薫は構わず、哺乳瓶を赤ん坊の口に充てがった。
何故か飲もうとしない。
大下教師は、赤ん坊の異変に気付いて額に手を当てた。
「おい、熱っぽいんじゃないか?」

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赤ん坊の急を聞いて、司は慌てて自宅に帰った。
同居している姉・結城小百合(大場久美子)によると、大事には至らなかったという。
まずは一安心だ。
司は姉に聞いて初めて知った。
まさか、薫が赤ん坊を預かってくれていたとは。
遅れて、敬子が帰って来た。
仕事に行っていたのではない。
たまには息抜きがしたいと、遊びに行っていたのだ。
敬子が謝ると、司は静かに答えた。
「詫びるのは俺の方だ。
俺の身勝手のためにお前にも苦労を掛けて」
司は敬子を抱き寄せた。
しかし、何故かすぐ体を離した。
敬子は憤慨して詰った。
「司、あたしが抱けないのね。
あたしは貧乏だけなら辛抱するわよ。
どうにも我慢出来ないのは、あなたがその見えない目の奥底でも、
ずっと薫の姿を見続けていることよ」
図星だった。
居た堪れなくなった司は、家を飛び出した。

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と言っても、司は目が見えない。
外へ出たところですぐ何かに躓いてしまった。
すると、誰かが助け起こしてくれた。
「薫か?」
心配して見に来てくれたようだ。

『司は辛かった。薫の愛が辛かった。
何一つ報いてやれぬ愛ならば、いっそ断ち切るべきだ』

司は、敢えて薫に冷たい言葉を浴びせた。
「薫、俺や敬子のところにもう来るな。
お前俺に同情してくれてるようだが、もうたくさんだ。
愛だのヘチマだの言ったところで、目の見えるお前に俺の身になれる訳がない。
無駄な同情など豚にやってくれ」
言い捨てて、司は夜の街へ手探りで出て行った。

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薫は追い掛けようとしなかった。
代わりに、ポーチから針を取り出した。
「私も何も見えなくなれば、司と同じになれる」
意を決して自分の目を突き刺そうとしたその時、誰かの手が薫から針をもぎ取った。
司の姉・小百合だった。
「薫さん、いつも針を持っているのは女としてとてもいい心掛けよね。
でも、針は物を繕うために使うものでしょ。
あなたに繕って貰いたいのは、司の心」

『この時、薫は決意したのである。
司に同情するよりも、身を捨てて司の目になろうと』

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薫は司を追い掛けた。
発見した司は、チンピラに絡まれて殴り飛ばされたところだった。
薫は司を助け起こして言った。
「司、明日一日私と付き合って。あなたに見て欲しいものがあるの」

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翌日、薫は司を連れて盲学校へやって来た。
そこで、司は初めて盲人の世界を知った。
盲学校の生徒たちは、皆懸命だった。
中でも衝撃的だったのは、目の見えない生徒の作った粘土細工だった。
手に取って驚く司に、教師が説明してくれた。
「始めっからそんなに上手く出来る訳じゃありません。
でも、子供たちは生きたい生きたいって願いを込めて何度も作ります。
すると、子供たちは言い出します。
指が目になった。色まで見えるようだって」
これを受けて、司は自問自答した。
「指が目になった。俺にもそこ迄出来るだろうか」
薫は司の手を取ると、自分の顔を触らせてやった。
「出来るわよ。あなたなら出来るわよ。私が指で見えるでしょ?」
指先から感触が伝わってきた。
温かな、優しさに満ちた、それは正に薫であった。
「見える。お前の顔がハッキリ見える。
薫、俺はもう一度やってみる」

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『その日から、司は白い杖をつきだした。
自分が盲人であることを受け入れ、そこから出発し直そうと決意したのである。
直向に陶芸に賭ける司の再度の挑戦が始まった。
薫の愛に支えられ。
だが、2人にとって夜明けは未だ遠かった』

ドラマ アリエスの乙女たち(第15話) [サンテレビ] 2014年02月03日 15時00分00秒(月曜日)

<大原清秀:関連作品>

テーマ:テレビドラマ - ジャンル:テレビ・ラジオ



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